「周期性嘔吐症」を発症する原因はご存知ですか?医師が監修!
周期性嘔吐症は、周期的に嘔吐・腹痛・頭痛などを繰り返す病気です。患者さんによって症状はさまざまで、小児だけでなく大人も発症します。
ひどい嘔吐や腹痛などを周期的に繰り返すため、本人も家族も不安になることでしょう。
今回は周期性嘔吐症について質問にお答えしましょう。症状・原因・治療方法も解説しています。
また予防方法もご紹介しているので参考にしてください。
監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
目次 -INDEX-
周期性嘔吐症とは?
周期性嘔吐症とはどんな病気ですか?
- 周期性嘔吐症とは文字通り周期的に嘔吐を繰り返す病気です。嘔吐だけでなく腹痛や頭痛をともなう場合もあり、主に5歳〜10歳の小児が発症しやすい病気です。
- アセトン血性嘔吐症・自家中毒とも呼ばれ小児に多い病気ではありますが、大人になって発症する場合もあります。長い期間繰り返す可能性が高く、また症状や原因も個々により違うためそれぞれに対処しながら検査を進めます。
- 小児の場合は国から小児慢性特定疾患としての医療費助成を受けられるケースもある病気です。大人の場合は発作の前に予兆を感じる方が多く、小児の8割以上が腹痛を訴えるのに比べて大人では約半数と腹痛は特に小児に多い症状といえるでしょう。
周期性嘔吐症の大人・小児それぞれの症状を教えてください。
- 周期性嘔吐症の症状としては嘔吐・腹痛・下痢・頭痛などさまざまで、ひどくなると意識障害や痙攣を起こすこともあります。
- 大人・小児ともにほぼ同様の症状が現れますが、大人の場合、よく似た症状のため自律神経失調症と診断されることもあるのです。また大人・小児とも発作期と間欠期に症状が分かれ、間欠期から発作期そして間欠期という一定の周期で発作が起こると考えられます。
- 間欠期は1期・発作期は2期3期4期と分けられ、1期は無症状・2期予兆・3期発作・4期回復となります。1期から2期3期4期を経てまた1期に戻るのです。このような発作が周期的に起こるのが周期性嘔吐症です。
周期性嘔吐症の大人・小児それぞれの原因は何ですか?
- 周期性嘔吐症の原因を大人と小児それぞれに分けて解説しましょう。大人の周期性嘔吐症の主な原因は下記になります。
- 不規則な生活
- 食事の偏り
- 過度なストレス
- チーズ・チョコレート・アレルギー食品の過剰摂取
- 次に小児の周期性嘔吐症の原因を挙げてみましょう。
- ケトン体の体内増加
- 風邪やウイルス
- 睡眠不足
- ストレス
- 環境の変化
- チーズ・チョコレート・アレルギー食品の過剰摂取
- 大人と小児、どちらにも共通する原因は睡眠不足などの不規則な生活や特定の食品の過剰摂取です。大人も小児も嫌な思いをしたことがトリガーとなり発症するのではないかといわれています。心因的なトリガーとしては小児の場合は嫌な行事への参加・また発作が起こるのでは…という恐怖感が挙げられます。大人の場合、嫌な仕事へのストレスや不安感がトリガーとなり周期性嘔吐症を発症する原因の1つです。また小児の周期性嘔吐症の原因の1つにケトン体の体内増加があります。ケトン体について解説していきましょう。人の身体は糖をエネルギーに変えて動いています。
- 何らかの原因で糖が少なくなったとき、ケトンが肝臓で生成され生命を維持します。ケトン体は人の身体にとって必要不可欠なものなのです。ただ代謝が充分でない小児の小さな身体で増え続けることにより、さまざまな症状が起こるのではないかと考えられます。
周期性嘔吐症と他の病気との見分けはつくのでしょうか?
- 嘔吐や腹痛などの症状は、単発的な症状の場合は周期性嘔吐症ではなく他の病気の可能性があります。その見分け方は難しいですが、周期性嘔吐症の大きな特徴は症状が周期的に現れることです。
- 周期的ではなくはじめて嘔吐や腹痛が続く場合は、別の病気の可能性も含めて医師の診断を仰いでください。周期性嘔吐症との見分けがつけにくく誤診しやすい病気には下記のようなものがあります。
- 食中毒
- 胃腸炎
- 逆流性食道炎
- 摂食障害
- ウイルスによる風邪など
- 周期的に症状が現れる場合にはそれをしっかりとメモするなどして、周期があることを医師に伝えることが大切です。症状が現れてから解消するまでの日にちや嘔吐の回数などを医師に申し出てください。1回あたりの発作の状況を把握することが診断の目安にもなります。そしてそれぞれの症状への対処もしやすくなるのです。
周期性嘔吐症の診断・治療
周期性嘔吐症の診断はどのように行いますか?
- 周期性嘔吐症の診断については判断しにくい点もありますが、下記の診断基準に基づいて診断されます。
- 1.1時間~10日続く嘔吐が周期的に起こり、毎回同様の症状である
- 2.発作中の嘔吐は1時間に4回以上ありその嘔吐の症状が1時間以上続く
- 3.上記1・2が過去に5回以上ある
- 4.発作の間欠期は無症状である
- 5.嘔吐や腹痛が他の病気を要因としていない
- また重軽症度の基準として下記を判断基準としています。
- (軽度):救急・入院がなく年間4回以内の発作
- (中度・重度):救急・入院が頻繁で年間5回以上の発作
- 軽度は日常生活に支障がないと考えられ、中度から重度になると日常生活に支障があると考えられます。
上記診断基準によってもなかなか診断が難しいのが周期性嘔吐症の実情でもあります。
周期性嘔吐症の治療法を教えてください。
- 間欠期と発作期とで周期性嘔吐症の治療方法は違ってきます。間欠期には発作のトリガーとなる事柄を避けることと、比較的頻繁に発作が起きる場合には予防のために下記の薬やサプリメントを処方することもあります。
- 偏頭痛薬(アミトリプチリン・プロプラノロールなど)
- 抗けいれん薬(フェノバルビタール・カルバマゼピンなど)
- サプリメント(コエンザイムQ10・Lカルニチンなど)
- 発作期には症状を抑えるために下記の薬を処方します。また静かな環境で安静にすることも大切です。
- 偏頭痛薬(スマトリプタン)
- 制吐剤(オンダンセトロン)
- 鎮静剤(ロラゼパム・クロルプロマジンなど)
- 鎮痛剤(ケトロラク)
- 頻繁な嘔吐などの場合には輸液点滴が行われることもあります。またカウンセリングや認知行動療法により、発作を上手に抑えることが可能になる場合もあるのです。また漢方薬「半夏厚朴湯」の処方で症状が改善されたケースもあります。
嘔吐発作はどのくらい続きますか?
- 嘔吐発作は1日に数回から数十回平均して1日〜2日、長いときには10日ほど続くこともあります。この発作持続日数については大人と小児で多少の違いが見受けられます。おおよその持続日数は下記になります。
- 大人の平均持続時間(日数):3日~6日
- 大人の平均的頻度:3ヶ月に1回
- 小児の平均持続時間(日数):27時間
- 小児の平均的頻度:1ヶ月に1回
- 小児発症の周期性嘔吐症の場合は、軽度のものなら発症から2年〜5年で自然に治癒する可能性があります。重度のものは成人になっても症状が残る場合や偏頭痛へと移行していくケースもあります。
周期性嘔吐症の予後
周期性嘔吐症は完治するのでしょうか?
- 小児の周期性嘔吐症は大人になるにつれて症状が出なくなり、完治することも多いです。悲観的にならずに原因となるトリガーを避けるようにしましょう。
- 大人の場合は特に発作の起こる前の間欠期に発作が予知できることが多いので、予防することで症状を軽減させることが可能です。
- また詳しく検査することで最終的な診断がくだされ、その病気に適した治療を行うことで根治的な治療が期待できます。
周期性嘔吐症の予防方法が知りたいです。
- 周期性嘔吐症の原因の多くは心因的なものです。原因を踏まえた上で、予防のために気を付けたいことを挙げてみましょう。
- トリガーとなる事柄を避ける
- 規則正しい生活を心掛ける
- バランスの良い食生活を心掛ける
- ストレスを軽減する
- まずは原因となる不安や嫌なことを、できるだけ避けるようにすることが大切です。規則正しい生活やバランスの良い食事は身体や心を健やかにしてくれます。特に小児の場合は少しの気配りで心のバランスを取り戻すことが多く、ストレス緩和にもつながります。
周期性嘔吐症の患者が食事で気をつけることを教えてください。
- 特に食事の制限などはありませんが、トリガーになりやすいチョコレート・チーズ・アレルギーの元となるような食物は控えるようにしましょう。
- 偏った食事は良くありません。バランスの良い食生活が送れるように気を付けてください。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
- 周期性嘔吐症はさまざまな症状が重なり合って現れる病気で、大人も発症しますが特に小児に発症することの多い病気です。
- 小児の場合は発症から2年〜5年ほどで自然に完治する可能性が高いのも特徴です。大人の場合は間欠期から事前に予防することで発作期の症状の辛さを軽減させることが可能になります。
- 発作期は嘔吐や腹痛を繰り返すので気持ちも暗くなりがちですが、必ず好転する病気だと信じて、規則正しくストレスのない生活を送ってください。
編集部まとめ
周期性嘔吐症について解説しました。小児だけでなく大人にも発症する病気ですが、診断のつきにくい病気でもあります。
周期性嘔吐症という名前の通り、周期的に症状が現れるのが大きな特徴です。
受診のときにはあらかじめ症状に周期があることを記録しておき、医師にその旨伝えるようにしましょう。
心理的なカウンセリングや認知行動療法を実践することによって、発作頻度や有意症状の軽減緩和につながる可能性が大きいです。心穏やかに、ストレスのない生活を送るようにしてください。
参考文献