「二分脊椎」とは?症状・原因・成人してから発症する場合についても解説!
二分脊椎は妊娠6週目の胎児が脊柱管の形成不良によって引き起こされる重い病気です。出生後に早急な手術を有するほど危険性の高いものから、出生時におしりから腰にかけての異常なくぼみ、毛髪組織、色素異常(母斑)により発見される場合まで様々です。
しかし胎児の長い人生に関わる大事な選択が迫られるからこそ、事前に診断方法や検査の仕方など適切な知識を身に着けておかなければなりません。
そこでこの記事では二分脊椎が発症する根本原因を踏まえながら、実際の対処法や日常生活の向き合い方をご紹介します。
監修医師:
武井 智昭(高座渋谷つばさクリニック)
平成14年慶應義塾大学医学部を卒業。同年4月より慶應義塾大学病院 にて小児科研修。平成16年に立川共済病院、平成17年平塚共済病院(小児科医長)で勤務のかたわら、平成22年北里大学北里研究所病原微生物分子疫学教室にて研究員を兼任。新生児医療・救急医療・障害者医療などの研鑽を積む。平成24年から横浜市内のクリニックの副院長として日々臨床にあたり、内科領域の診療・訪問診療を行う。平成29年2月より横浜市社会事業協会が開設する「なごみクリニック」の院長に就任。令和2年4月より「高座渋谷つばさクリニック」の院長に就任。
日本小児科学会専門医・指導医、日本小児感染症学会認定 インフェクションコントロールドクター(ICD)、臨床研修指導医(日本小児科学会)、抗菌化学療法認定医
医師+(いしぷらす)所属
目次 -INDEX-
二分脊椎を発症する原因とリスク
二分脊椎とはどのような病気ですか?
- 二分脊椎は背骨の空洞である脊柱管の形成が先天的に不完全で、脊髄馬尾神経が脊柱管の外に出てきてしまう病気です。一般的には胎児が発症し、腰のあたりに腫瘍が発生する開放性脊髄髄膜瘤と、外傷が見られない脊髄脂肪腫の2つに分かれます。
- 脊髄馬尾神経は腰のあたりに位置し、足の運動能力や排泄機能を司る重要な役割を担います。もし開放性脊髄髄膜瘤であった場合には、出産から24時間以内に神経管の閉鎖手術を行う必要があるほど緊急性の高いものです。
- 二分脊椎が原因で発症する症状は人によって大幅に異なるものの、神経の損傷が激しいと脊髄の他の神経にも影響を及ぼし、合併症に繋がってしまう危険性もあります。無事に手術が成功しても長期のリハビリが必須となるため、長期間慎重に向き合っていくものだと認識しておいてください。
二分脊椎を発症する原因を教えてください。
- 一番の原因は胎児の先天性疾患である「神経管閉鎖障害」です。
- 通常は妊娠6週間を目安に脊椎神経が収納されている神経管が閉鎖されますが、その過程で障害が発生すると脳や神経が正常に機能しなくなります。このとき神経管上部に影響が出ると脳が発達できず欠損する無脳症に、神経管下部の閉鎖が未完全だと二分脊椎が発症する仕組みです。
- 根本的に神経管閉鎖障害が発生する理由としては、遺伝的な欠陥や母体の葉酸欠乏が挙げられます。二分脊椎の発生の原因の1つとして、補酵素である葉酸不足が関与しています。妊娠前から0.4mg/日の葉酸サプリメントの摂取により、発生リスクは約半分に減らせると報告されています。
成人してから発症するケースもあると聞いたのですが…。
- 一般的に胎児が発症する先天的なものが取り上げられますが、過度な運動をきっかけに潜在的な二分脊椎を発症するケースもあります。
- これは激しい回旋運動を伴うラグビーや野球などのスポーツ選手が引き起こしやすいもので、腰に強い負荷がかかった状態が続くと「腰椎分離症」という疲労骨折に繋がります。この症状を一般的な腰痛だと見逃してしまうと次第に脊椎の損傷が激しくなり、二分脊椎を誘発してしまう恐れがあるのです。
二分脊椎が進行した場合にどのようなリスクが考えられますか?
- 二分脊椎は素早く対処しないと、命にも関わる重い合併症を引き起こすリスクが高まります。
- 併発しやすい症状のひとつが排泄機能に支障をきたす「神経因性膀胱」です。高熱や下痢・嘔吐などを引き起こす尿路感染症のリスクが非常に高まり、症状が重いと腎機能の低下まで懸念されます。
- また下肢の運動能力が大幅に低下することが知られています。最悪の場合背骨が曲がったり、下肢変形を起こしたりなど完治が困難な病に見舞われることがあるため、特に胎児には早急に治療を施してください。
- その他にも、脳や脊髄を流れる脳脊髄液を生産する脳室が拡大してしまう「水頭症」や、延髄機能に障害をきたす「キアリ奇形2型」との合併症も心配されます。
二分脊椎の診断と検査
何科を受診したら良いのでしょうか?
- 併発する症状にもよりますが、小児科と整形外科での診察は必須です。脳に障害が見られたら脳神経外科を、排泄障害があるときは泌尿器科を受診するなど、各科を転々とすることが多くなります。
- 一概にはいえないものなので、診断結果を基に専門医からの指示に従うようにしてください。
どのように診断するのですか?
- 二分脊椎の診断は出生前に行うことが一般的です。
- 内容は脊柱や脳の発達度合いを確かめるスクリーニングを基本としつつ、超音波で脳の画像を取得したり、MRIで詳細なデータを取ったりする方法が用いられます。また妊娠初期の段階から経腟エコーを行うため、このタイミングで何らかの異常が見られた場合には精密検査に移行していきます。
- 妊婦は定期的に検査を受けるためちょっとした変化に気が付きやすく、比較的早期発見がしやすい状況といえるでしょう。
二分脊椎の検査方法が知りたいです。
- 出生前の段階で二分脊椎と診断された場合は、羊水や血液検査を用いて症状の度合いを定めます。外傷や奇形の有無に関しては診断で用いた画像を参照できるため、おおよその症状を把握することは可能です。
- 出生後は肉眼での診察を行いながら、CTで患部の範囲や重症度を、MRIで脊髄の詳細な様子を明らかにしていきます。
- これらで取得したデータを基に二分脊椎のレベルを定めていき、治療の方針を固めていくのが一般的な流れです。
二分脊椎の治療と予後
二分脊椎の治療方法を教えてください。
- 最も損傷の激しい開放性脊髄髄膜瘤の場合は、すぐに欠損した皮膚を塞ぐ手術を施します。脊髄から細菌が侵入すると合併症や感染症を引き起こしかねないので、早急に対応しなければならないのです。
- 一方で外傷のない脊髄脂肪腫の場合でも、脊髄が背中側の皮膚まで伸びきった状態なので外科手術が必要です。脊髄を正常な位置へ戻し、本来の神経の働きを促します。
- 潜在的な二分脊椎の治療は骨の損傷がない限り、リハビリや外来で修復していくことになります。
- ただし排泄機能に問題が見られるときは泌尿器科に通うことがあるので、日常生活で異変がないか意識しておきましょう。
二分脊椎は完治するのでしょうか?
- 神経管の閉鎖や皮膚を塞ぐ治療は行えますが、脊髄そのものが損傷・変形していると完治はできません。手術も大規模になるため、塞いだ跡が残ってしまうことも考えられます。
- また下肢の麻痺が重度だとリハビリを行っても正常に戻らないこともあり、確実に治るとは言い切れないのが現実です。
- ただし医療技術やサポーターの性能が上がっており、早期の対応で正常な歩行ができるようになる確立は次第に高まっています。そもそも症状が軽く治療を必要としない人もいるので、完治の見込みがない病気ではありません。
家族が二分脊椎と診断された場合に気をつけることはありますか?
- 潜在性の二分脊椎の場合は生活における制限は特にありません。定期的に整形外科などを受診して回復を目指しましょう。
- しかし胎児が発症したケースでは長期間のリハビリが続くため、前向きに運動を行うような動機付けが非常に大切です。“やってもらうことが当たり前”の習慣が身についてしまうと、乳児期に身に着けたい学習能力が大幅に低下してしまいます。単に運動を促すのではなく、自らが好奇心を持って取り組めるような接し方を心がけてください。
- 神経症状は生後すぐにはみられませんが、1歳以降で下肢運動障害、感覚障害、下肢の変形や左右差、尿が出にくい、便秘が悪化するなどの症状となります。このため、小児科・整形外科・泌尿器科などが共同して診療にあたります。神経症状など生活に支障がなければ、経過観察となります。
- また遺伝的に二分脊椎を繰り返さぬよう、妊娠が想定される場合は早い段階から葉酸を多く含んだ食材を食べるように心がけましょう。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
- 小さな胎児の背中にある異様な腫瘍を見ると誰しもショックを受けますが、親御さんは過度に気を落とさないことが大切です。早期の治療が鍵となる病気なので、精いっぱいの力で生まれてきたお子さんのためにも素早い決断を心がけてください。
- 。専門医師が想定される全てのリスクをお伝えしながら、常に最善で具体的な治療方法を提案します。恐ろしい病気ではありますが、リハビリも決してあきらめずに取り組んでいきましょう。
編集部まとめ
二分脊椎は主に胎児が発症するため、精神的な面でも負担の大きい病気です。
大規模な手術を受けても長期間のリハビリがあることから、心が晴れない日々が続くと考えられます。
しかし重要なのは「前向きに生きられるような好奇心を与え続けること」です。どんな時でも寄り添って、笑顔を絶やさないことを忘れないでください。
現代は治療方法や発症リスクが低減できる取り組みが確立されています。今回の内容を参考に、適切な知識を身に着けておきましょう。
参考文献