「多発性筋炎」とは?症状・原因・治療法についても解説!【医師監修】
多発性筋炎とは、筋肉に炎症がおこる病気で国が指定する難病の1つです。筋肉に炎症が起きるだけでなく、力が入らなくなるなどの症状が生じます。
自己免疫疾患の1つであり、乳幼児から老人まで幅広い年代で発症の可能性がある恐ろしい病気です。
本記事では、多発性筋炎とはどのような病気なのかご紹介します。具体的な症状や原因・診断方法・治療方法などを解説するので参考にしてください。
監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
目次 -INDEX-
多発性筋炎の特徴と症状
多発性筋炎の特徴を教えてください。
- 多発性筋炎は筋肉の炎症により、筋肉に力が入りにくくなるなどの特徴があります。
- また、力が入りにくくなるため、疲れやすくなり痛みが伴うことがあります。
- また筋炎と聞くと筋肉の炎症だけのように感じますが、特徴的な皮膚の症状も同時に現れるケースもあるのです。そのため、この場合は皮膚筋炎と呼びます。
膠原病に含まれるのですね。
- 多発性筋炎は、膠原病に含まれます。膠原病には多発性筋炎以外にも関節リウマチ・血管炎・リウマチ熱などが該当します。
- 膠原病とは、1つの病気のことではなく、いくつかの病気のグループを表す病名です。皮膚や内臓の結合組織や血管に炎症や変性を起こし、その結果さまざまな臓器に炎症を引き起こします。
- 多発性筋炎も全身症状を呈する病気であるため、 膠原病に含まれるのです。
どのような症状が現れますか?
- 多発性筋炎を発症すると、代表的な症状としては筋肉に痛みが伴う筋炎が現れます。その場合、力が入りにくくなり疲れやすくなるといった症状がゆっくりと進行します。
- 特に太もも(大腿部)・二の腕(上腕部)・首(頚部)など体幹部に近い箇所の筋肉に起こるケースが多いです。
- ゆっくりと進行するため、多発性筋炎を発症した日を特定しにくいという特徴があります。筋力が低下することでさまざまな箇所に悪影響を及ぼす点も主な症状です。
- 例えば、のどの筋力が低下した場合、しゃべりにくくなったり食べ物や飲み物を飲み込みにくくなったりします。そのため、食べ物を誤嚥しやすくなり、肺炎を起こす可能性があるのです。
- ごくまれに心臓の筋肉も低下し、不整脈や心不全などの症状を起こすケースもあります。また、炎症は筋肉だけでなく皮膚炎を起こす場合もあります。
- 皮膚炎は次のような症状です。
- ヘリオトロープ疹
- ゴットロン徴候
- レイノー現象
- V徴候
- ショール徴候
- ヘリオトロープ疹とは、顔の瞼に赤い発疹が生じてむくんだ症状です。
- ゴットロン徴候とは手の指・肘・膝などが赤くカサカサとなります。
- レイノー現象とは、寒い時期に手足の指先が白くなるような症状です。
- V徴候とは首から胸にかけて紅斑が現れる症状で、ショール徴候とは肩から上背部に紅斑が現れる症状となります。
- これらの皮膚炎は、かゆみを伴うことが多く、初期症状ではかゆみだけの場合もあります。
- さらに多発性筋炎は、筋炎・皮膚炎以外にも全身症状が発生するケースも多いです。代表的な全身症状としては、倦怠感・発熱・食欲不振といった症状が挙げられます。
女性に多い病気なんですね。
- 多発性筋炎は、他の膠原病と同じように、男性よりも女性に発症が多い病気です。日本における発症の統計データによると、女性患者数は男性患者数の3倍となります。
- また、年齢別の発症傾向には、50年代に大きなピークがあり、5歳~9歳の間にも小さなピークがあります。小児期でも発症する傾向があります。
- 多発性筋炎の患者数は現在約2万人といわれており、患者数は年々増加傾向にあるといわれています。
原因と診断方法
多発性筋炎の原因は何でしょうか?
- 多発性筋炎の原因は、自己免疫疾患に伴って免疫機能が正常に機能しないことで発症します。
- 通常、免疫機能や体内に入ってきた病原微生物に対して身を守るために機能する防御システムが存在しますが、膠原病に含まれる多発性筋炎の場合には、体内で筋肉や皮膚に対する抗体が作られているため、自己免疫反応として筋肉や皮膚組織を標的として攻撃してしまうのです。
- しかし、膠原病に含まれる多発性筋炎の場合、体内で筋肉や皮膚に対する抗体が作られてしまっています。そのため、自己免疫機能が筋肉や皮膚を、標的として攻撃してしまっているのです。
- なぜ、免疫機能が体内の組織を攻撃対象にしてしまうのか、その原因はいまだはっきりわかっていません。
- 遺伝的な体質の問題やウイルス・細菌などの感染によって起きているのではないかと考えられています。
初期段階での自覚症状はありますか?
- 初期症状としては、筋炎の場合は痛みや筋力の低下を自覚するところから始まります。日常生活において、次のような症状を感じるケースが多いようです。
- 腕を上げづらい
- 階段の上り下りが大変
- 立ち上がりにくい
- 会話がしにくい
- 食べるとむせやすい
- 主に胴体に近い部分の筋肉や首を曲げる際に、違和感をおぼえる自覚症状が多いです。筋肉痛を自覚しないこともありますが、圧痛を感じることがあります。
- また、関節痛・食欲不振・体重減少などが生じることもあるでしょう。皮膚炎の場合、自覚症状としては各部のかゆみが発生するケースがあります。
- しかし、発症者の全員が筋炎の症状やかゆみなどをおぼえるわけではありません。患者ごとに症状の有無や度合いは異なります。
- 筋炎の自覚症状はほとんどなく皮膚炎のかゆみが発生するケースがあれば、筋炎だけの症状しか現れないケースもあります。
多発性筋炎の診断方法を教えてください。
- 多発性筋炎の主な診断・検査方法は、次のような内容です。
- 筋力検査
- 血液検査
- CT検査
- MRI検査
- 筋力検査では、どの程度筋力が衰えているかを確認します。具体的な内容としては、次のような内容です。
- 身体機能検査
- 徒手筋力検査
- 身体機能検査は日常生活で必要不可欠な食事・移動・排泄などの基本動作を容易に行えるかを確認します。
- 徒手筋力検査は、器具を使わず患者に対してあえて抵抗を与えて筋力を調べる方法です。
- 血液検査では、まず筋組織内にある酵素を確認します。筋炎が起きている場合、組織が破壊されているため、血中の酵素の量が増えています。
- また、筋組織特有のタンパク質や血中のたんぱく質の計測、筋炎特異自己抗体と呼ばれる特定の抗体を計測するなどの方法でも筋炎の有無を確認するのです。
- CT・MRI検査では画像を用いて、各部症状を確認します。多発性筋炎を発症した場合、間質性肺炎を合併しやすいため、胸部や腹部をCT撮影し合併症の有無を確認します。MRIは、磁気を使って広範囲の筋組織の炎症の有無を調べる方法です。
多発性筋炎の予後と治療方法
治療方法を教えてください。
- 基本的な治療方法としては、まず内服ステロイド剤を投与します。症状の進行状況などを診ながら少しずつステロイド剤の量は減らしていきます。
- しかし、重症化している場合や進行が止まらない場合は、大量のステロイド剤を点滴するなどのパルス療法を用いることもあるでしょう。
- ステロイド剤で改善が見られない場合・副作用により投与量を減らしたい場合は、免疫抑制剤や免疫グロブリンの併用を行うケースもあります。
- 免疫抑制剤とは、免疫機能を抑える薬です。免疫グロブリンは免疫を調整する薬です。
- さらに、治療の経過を診ながら、リハビリテーションも同時に行っていきます。著しい筋肉低下を防ぐためです。
- 皮膚炎の症状に対しては、外用薬としてステロイド剤を用いることが多いです。また、その他の合併症を引き起こす場合は、それに応じた治療を進めます。
多発性筋炎は治りますか?
- 多発性筋炎は完治は難しい病気です。しかし、適切な治療を続けていれば、約7割~8割の患者は状態が治まるといわれています。
- 合併症が発症せずに状態が良ければ、ステロイド剤や免疫抑制剤を使用しないで経過観察することも不可能ではありません。
- このような状態になるまでは、早い方であれば約2年ほど移行することも可能です。
日常生活で気をつけることはありますか?
- ステロイド剤や免疫抑制剤を使わなくて良い状態になるまでの過程で、糖尿病や骨粗しょう症などになりやすい患者の場合は、これらの病気にかからないように注意が必要です。
- 特にステロイド剤の効果で、糖尿病の症状が現れることがあります。食生活にも注意を払う必要があるでしょう。
- また、飲み込む力が弱くなっている方は誤嚥の危険もあります。その結果、肺炎に繋がるケースもあるため飲食時にも注意が必要です。
- また、筋炎を治療するとはいっても、全く運動をしてはいけないということではありません。適度な運動を行わないと、筋肉がやせてしまい骨がもろくなる可能性もあります。
- 医師との相談のもと、適切な量の運動を行いましょう。治療後は、合併症の危険もあるため、悪性腫瘍への注意も必要です。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
- 多発性筋炎は、初期症状では運動機能の低下などが見られますが、放置しておくと日常生活に著しく影響を与えるほど悪化する可能性があります。
- 筋炎だけでなく皮膚炎を同時に引き起こすケースや、合併症を起こす可能性もあるため油断できない病気です。
- しかし、適切な治療を行えば、普段の生活と同様のレベルまで回復することは不可能ではありません。万が一、多発性筋炎と同様の症状など違和感を感じるようであれば、医療機関に相談しましょう。
編集部まとめ
多発性筋炎とは、筋肉に炎症がおき、倦怠感や誤嚥など日常生活に大きく影響を与えるほど恐ろしい病気です。
しかし、ステロイド剤や免疫抑制剤など適切な投薬や治療を行うことで、良好な状態にすることは可能です。
合併症などの危険もあるため、治療中・治療後も注意が必要ですが、普段の生活と変わらない状態に戻ることも不可能ではありません。
多発性筋炎の症状や治療方法など正しい情報を把握して、万が一症状があった場合には、医師に相談のもと治療を進めましょう。
参考文献