「甲状腺機能低下症」とは?症状・原因・治療法も解説!【医師監修】
更新日:2023/08/17
最近声がかすれるようになった・むくみがある・元気がでないなどの症状があると甲状腺機能低下症ではないかと不安に思う人がいます。
甲状腺機能低下症は甲状腺ホルモンの不足から起こる病気で、心身にさまざまな症状が現れます。
症状は多岐にわたるので、不安な思いを抱く人は多いのです。
そこで今回は甲状腺機能低下症について質問にお答えしていきましょう。
治療法や予後の注意点などについても解説しているので、参考にしてください。
監修医師:
濵﨑 秀崇(医師)
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東京大学理学部卒業、広島大学医学部卒業。国立国際医療研究センター病院、国府台病院勤務を経て、2017年4月より「濵﨑クリニック」に勤務。糖尿病を専門に、内科疾患および内分泌疾患を幅広く診療。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会専門医、日本医師会認定健康スポーツ医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター、日本体力医学会評議員。
目次 -INDEX-
甲状腺機能低下症の特徴
甲状腺機能低下症はどのような病気ですか?
- 甲状腺の働きが低下することで、甲状腺ホルモンの分泌が少なくなり様々な症状を引き起こす病気です。
- 身体の新陳代謝を活発にする甲状腺ホルモンが少なくなるため、疲労感・倦怠感・むくみ・脱毛などの症状が現れます。甲状腺ホルモンは卵子や子どもの成長に重要な影響を与えるので、不妊や子どもの発達障害を引き起こす可能性もあるのです。
- 甲状腺機能低下症は自覚症状がほとんど無い場合もあり、その場合にはつい放置してしまいがちです。ただ妊娠中の場合、流産や早産につながることもあるので充分な注意が必要になります。
甲状腺機能低下症の原因を教えてください。
- 甲状腺機能低下症は甲状腺機能の低下によって、甲状腺ホルモンが正常に分泌されないことが原因で起こる病気です。甲状腺機能の低下は大きく「原発性甲状腺機能低下症」と「中枢性甲状腺機能低下症」に分けられます。
- 原発性は甲状腺そのものに異常がみられる場合で、中枢性は甲状腺そのものには異常が無く下垂体機能の異常による甲状腺機能の低下をいいます。原発性の甲状腺機能低下症の原因にはどのようなものがあるか挙げてみましょう。
- 橋本病(慢性甲状腺炎)
- 亜急性甲状腺炎
- 無痛性甲状腺炎
- 先天性甲状腺機能低下症
- 異所性甲状腺腫
- 橋本病は中年後の女性に多くみられ、自己免疫疾患を伴ないやすいことが特徴です。亜急性甲状腺炎はウイルス感染によるもの、無痛性甲状腺炎は分娩後の自己免疫異常によるもので、いずれも一時的な甲状腺機能低下といわれています。
- また他に先天性の異常「先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)」「異所性甲状腺腫」も原因となります。次に中枢性甲状腺機能低下症の原因について挙げましょう。
- 下垂体性甲状腺機能低下症
- 視床下部性甲状腺機能低下症
- 脳腫瘍・くも膜下出血後の脳の病気が原因で下垂体に異常が生じることで、甲状腺機能低下症を引き起こすケースもあります。また自己免疫性下垂体炎が原因の場合もあります。
どのような症状がみられますか?
- 甲状腺機能低下症の症状は多岐にわたります。身体的症状と精神的症状がありますが、主な身体的症状は次のようなものです。
- むくみ
- 脱毛
- 寒気
- 体重増加
- 皮膚の乾燥
- 便秘
- 精神的症状には次のようなものが挙げられます。
- 倦怠感
- 抗うつ
- 無気力
- 軽い場合にはほとんど自覚症状が無いのですが、重症化した場合には粘液水腫性昏睡など意識障害を引き起こします。また心不全などの合併症を引き起こすこともあるので注意が必要です。
橋本病との関係について知りたいです。
- 橋本病(慢性甲状腺炎)は30代から40代の女性に発症しやすい病気で、成人女性の7、8人に1人は橋本病の素質を持っているといわれています。
- 発症で甲状腺ホルモンが不足した場合には補うための薬物療法が行われます。ただ補充が必要な場合はあまり多くなく、橋本病であっても甲状腺ホルモンの不足があるのは発症者の4、5人に1人です。
- そのため特に発症に気付かず生活している場合も多いのです。橋本病の人がすべて甲状腺機能低下症を発症するということではありません。
甲状腺機能低下症の診断と治療
病気を疑う症状があれば、何科を受診すればよいですか?
- 甲状腺機能低下症など甲状腺の病気は耳鼻科・内科・内分泌代謝内科・甲状腺科などを受診してください。
- 特に甲状腺機能低下症が疑われる場合には、まず内分泌代謝内科・甲状腺科・耳鼻科を受診されるとよいでしょう。
- 症状によっては一般内科で診察を受けることも間違いではありません。
診断に必要な検査や診断基準が知りたいです。
- 甲状腺機能低下症が疑われる場合、次のような検査が行われます。
- 血液検査
- 超音波検査
- シンチグラフィー
- CT検査
- MRI検査
- 甲状腺ホルモンなどの量を調べるために血液検査が行われ、「FT3」「FT4」「TSH」の数値が確認されます。また血液検査では橋本病の有無を確認するため抗サイログロブリン抗体・抗TPO抗体も測定されるのです。
- 超音波検査は甲状腺の状態を確認するために行われます。シンチグラフィーでは甲状腺に放射線ヨードを取り込ませて、甲状腺刺激ホルモン(TSH)の量を測定します。
- その他必要に応じてCTでの検査、下垂体の異常の有無を確認するためにMRI検査が行われることもあるのです。
- 検査の結果、シンチグラフィーでTSHの量が高い場合、甲状腺機能低下症と診断されます。血液検査で「TSHの数値が髙くFT3・FT4の数値が低い場合」と「TSHが高くFT3・FT4が正常範囲内の場合」の両ケースが甲状腺機能低下症であるとされています。
甲状腺機能低下症の治療方法を教えてください。
- 甲状腺機能低下症と診断されたら、不足している甲状腺ホルモンを補充して治療を行います。治療薬はチラーヂンS・チロナミンの内どちらかを処方されることが多いです。
- 適切な用量用法で服用するなら、妊娠中の方も服用可能となっています。
- 約1ヶ月ほどで症状が軽減することが多いのですが、服用を中止するかどうかは医師の診断を受けて確認してください。自己判断で服用中止は絶対に止めましょう。
甲状腺機能低下症の予後と注意点
甲状腺機能低下症は治りますか?
- 甲状腺機能低下症は完治しにくい病気といわれています。場合によっては継続的治療が必要なこともあるでしょう。ただ経過観察のみという方も多く、悲観的にならないように日常を過ごすことが大切です。
- 薬の服用をきちんと続けることで甲状腺ホルモンは充分にコントロールできます。薬をいつまで服用しなくてはいけないかは個人によって違います。
- 内服を止められる人もいれば経過によっては長く続ける必要のある人もいるのです。完治といえないまでも、病気を改善することは充分に可能です。
予防方法や日常生活における注意点があれば教えてください。
- 甲状腺機能低下症を予防する方法は現在のところ確立していません。妊娠や出産を契機に機能の低下が現れる場合があるので、少しでも異常を感じたなら早めに受診することが大切です。
- またヨード類の摂取しすぎも甲状腺機能低下症になりやすく、ヨード類が足りない場合も同様のため、過剰・過少摂取には注意が必要です。
- 特に昆布類にはヨードが多く含まれます。ですので過剰に摂り過ぎないようにしてください。またうがい薬などにもヨードが含まれていることがあるので気を付けましょう。
妊娠・出産が可能かどうか知りたいです。
- 甲状腺機能低下症と診断されても、甲状腺ホルモンの服用で正常になればもちろん妊娠・出産は可能です。
- ただ甲状腺機能低下症とわからないまま治療を行わずにいると、排卵が行われず妊娠し難い場合もあります。検査して甲状腺機能低下症の疑いはないかをチェックするようにしてください。
- 妊娠中に処方される甲状腺ホルモン剤は、チラーヂンという胎児に悪影響をあたえるという報告のないものなので安心できるでしょう。特に妊娠初期はTSH<2.5となるようにチラーヂンSの内服量を調整して処方されるのでより安心です。
- 妊娠中に甲状腺機能低下症になってしまった場合、まずは甲状腺機能低下症の治療をしっかりと行うことが、母体と胎児の保護につながるのです。
- 最近では、甲状腺ホルモンは妊娠初期の胎児の脳を支えているということがわかってきました。妊娠中の甲状腺ホルモンの補充はお母さんにとっても赤ちゃんにとっても大切なことといえるのです。
最後に、読者へメッセージがあればお願いします。
- 甲状腺機能低下症は、健康な人であっても潜在的に甲状腺機能の低下がみられるほど珍しくない病気です。
- 特に妊娠や出産を契機に機能低下が現れるケースが多いので、もし気になることがあれば早めに検査を受けるようにしてください。
- きちんと治療すれば怖くありませんが、症状が無く気付かないままに重症化して、心不全や意識障害を起こすこともあるので注意しましょう。
編集部まとめ
今回は甲状腺機能低下症に関する質問にお答えしました。
甲状腺機能低下症は甲状腺の働きが低下することで、甲状腺ホルモンの分泌量が少なくなる病気です。
症状が多岐にわたり、なかなか理解してもらえない場合もある病気ですが、きちんと治療することで改善できる病気でもあります。
重症化した場合には心不全などを引き起こす可能性もあるため、気になるときには早めに内分泌代謝内科・甲状腺科・耳鼻科を受診してください。
参考文献