「表皮水疱症」とは?症状・原因・治療方法も解説!【医師監修】
表皮水疱症とは遺伝子異常が原因で、皮膚に水ぶくれ(水疱)や潰瘍を発症してしまう指定難病です。残念ながら根本的な治療はなく、対症療法が行われます。皮膚と粘膜の保護が重要です。
今回は表皮水疱症の原因や症状、治療法、注意点などについて解説します。
監修医師:
竹内 想(名古屋大学医学部附属病院)
表皮水疱症の概要と原因
表皮水疱症とはどのような疾患ですか?
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最初に皮膚について簡単に解説します。皮膚は表皮と真皮の2層に分かれます。表皮が外側で真皮が内側です。そのうち表皮は、表皮細胞という細胞が連なってできています。表皮のもっとも外側にあるのが角層で、一般的に角質と呼ばれる部分です。
角層はバリアの役割を果たし、ウイルスや細菌などが皮膚から体内に入らないようにしたり、外部からの力から守ってくれたりしています。
一方で真皮は、ゼラチン状の組織です。水分が多く含まれており、皮膚の弾力性をもたらして張力に抵抗してくれます。また、表皮と真皮の間に基底膜という膜があり、表皮と真皮を連結させてくれます。
このように表皮と真皮は、外からの刺激などから身体を守ってくれているのです。
そして表皮と基底膜と真皮、さらに表皮細胞同士は、接着構造分子と呼ばれるノリのようなタンパク質で接着しています。
しかし、この接着構造分子が遺伝子異常により、生まれつき少ない、もしくは消失している場合があります。その場合、接着構造分子が不足しているので、外部から皮膚に加わる力に耐えられません。そのため、本来接着しているはずの表皮が真皮から少しの力で剝がれてしまい、水ぶくれ(水疱)や潰瘍ができてしまうのです。このような状態を表皮水疱症といいます。
表皮水疱症には、4つの病型があります。表皮が切れて水疱ができる「単純型表皮水疱症」、表皮と基底膜が剝がれて水疱ができる「接合部型表皮水疱症」、基底膜と真皮が剝がれる「栄養障害型表皮水疱症」、表皮・基底膜・真皮のどの部位でも水疱ができる「キンドラー症候群」の4つです。
表皮水疱症の症状
表皮水疱症の症状を教えてください。
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表皮水疱症は病型を問わず、大半が生後まもなく皮膚に水疱や潰瘍ができます。症状の程度を決定するのは遺伝子異常の種類です。ほかに治療状況、生活環境や栄養状態も影響します。
水疱や潰瘍によって皮膚のバリアが壊れることで、炎症反応や感染症を繰り返します。皮膚から浸出液が出ると同時にタンパク質も失うため、鉄欠乏性貧血や低栄養を合併してしまいます。
また、病型ごとに合併症も異なります。
単純型表皮水疱症
単純型表皮水疱症の症状を教えてください。
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表皮水疱症の約40%が単純型表皮水疱症です。単純型表皮水疱症のほとんどは、ケラチン5かケラチン14の遺伝子異常とされています。症状が軽い場合は、時間とともに症状も改善します。しかし症状が重い場合は、手のひらや足裏の角質が硬くなって厚みも増すため、歩行障害が起こることもあります。
まれにプレクチン遺伝子異常によるものもありますが、国内では数例しかありません。この場合は、時間とともに筋力低下が起こり、筋ジストロフィー症を合併します。
栄養障害型表皮水疱症
栄養障害型表皮水疱症の症状を教えてください。
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表皮水疱症の約50%がこの栄養障害型表皮水疱症で、もっとも多い病型です。多くの事例で、生後まもなく爪の脱落や変形が起こります。瘢痕形成と呼ばれる、真皮が線維化して硬くなる症状が特徴です。
また、劣性遺伝型と優性遺伝型がありますが、劣性遺伝型の方が症状が重く、優生遺伝型は多くの場合で時間とともに症状が改善します。
劣性遺伝型は、手指や眼瞼の癒着などの症状が起こる場合があります。ほかにも、食道瘢痕や心筋症、糸球体腎炎など、さまざまな合併症に注意しなければいけません。
接合部型表皮水疱症
接合部型表皮水疱症の症状を教えてください。
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表皮水疱症の約10%がこの接合部型表皮水疱症です。異常をきたす遺伝子の種類や症状もさまざまで、17型コラーゲン遺伝子異常は、歯のエナメル質形成不全、皮膚の色素脱失などを生じますが、命にかかわる合併症は起こりません。
一方で、α6インテグリンあるいはβ4インテグリンの遺伝子異常の場合、胃と小腸の結合部位である幽門の閉鎖を合併してしまいます。そのため、食事摂取をするには手術が必須です。
さらにラミニンα3鎖・β3鎖・γ2鎖の遺伝子異常では多くの場合、感染症によって1歳まで生きられません。
キンドラー症候群
キンドラー症候群の症状を教えてください。
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キンドラー症候群は、水疱が手背や足背にできることが特徴です。なんども発症して、ほかの部位にもできたり、皮膚が萎縮したりする場合があります。
また、瘢痕が皮膚や粘膜にできることで、食道や泌尿器、生殖器の狭窄などが起こる可能性があります。
表皮水疱症の受診科目
表皮水疱症が疑われる場合、何科を受診すればいいでしょうか?
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表皮水疱症は多くの場合、生後まもなく症状が現れます。そのため、赤ちゃんの肌に水疱が見られる場合は、すぐに医師に診せましょう。小児科や皮膚科などが考えられます。
まれに成人になるまで認識されないこともありますが、気になる症状がある場合は皮膚科を受診してください。
どちらにせよ、正確な診断や治療方針を決めるには、病型を診断しなければなりません。病型を正確に診断するためには、免疫組織学的検査や電子顕微鏡的検査、遺伝子解析などが必要です。
これらの検査は一般的な皮膚科で行えるものではなく、表皮水疱症の専門医がいる大学病院など、設備が整った病院で検査を行わなければなりません。最初に診察を受けた病院から、表皮水疱症の専門医がいる病院を紹介してもらいましょう。
表皮水疱症の診断
表皮水疱症は、どのように診断されますか?
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表皮水疱症の診断には、皮膚生検、免疫組織学的検査、電子顕微鏡的検査、遺伝子解析などが必要です。また、遺伝子異常が原因なので、家族歴も重要です。家族に表皮水疱症の患者がいた場合は、出生前検査も検討します。
表皮水疱症の性差・年齢差
表皮水疱症に性差や年齢差はありますか?
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表皮水疱症に性差はありません。発症年齢は約90%が1歳未満ですが、成人になるまで認識されないこともまれにあります。
表皮水疱症の治療方法
表皮水疱症の治療方法はありますか?
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表皮水疱症を根本的に治療する方法は、現在ありません。そのため対症療法が行われます。
水疱は、はさみや注射針で穴を開け、内容液を排出したのちにガーゼで保護します。潰瘍ができたところは、軟こうなどを使って保湿します。感染した場合は、抗生剤などを服用します。合併症が起こった場合は、それぞれの専門医と連携しての治療が必要です。
また、病状の進行や、さまざまな合併症のリスクがあるため、定期的な診察が欠かせません。
表皮水疱症の注意点
日常生活を送る上での注意点を教えてください。
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とにかく重要なのは、皮膚の摩擦を減らすことです。赤ちゃんは、特に優しく扱ってください。柔らかい衣類や寝具、涼しい環境を用意しましょう。
摩擦が起こりやすい肘や膝、手足、お尻、肩などは、できるだけワセリンを塗った包帯やガーゼで保護してください。水疱ができた場合は早めに治療することで、潰瘍形成を予防します。
そして栄養管理も必要です。潰瘍から浸出液が出ると同時にタンパク質を失い、鉄欠乏性貧血や低栄養を合併してしまう場合があります。その場合は、医師と相談の上で経口栄養剤を追加します。水分摂取も重要です。
編集部まとめ
表皮水疱症とは、遺伝子異常が原因で起こる指定難病です。表皮と基底膜と真皮、表皮細胞同士を接着する接着構造分子が生まれつき少ない、もしくは消失していると、外部からの力に弱く、皮膚に水疱や潰瘍を発症してしまいます。
表皮水疱症には、単純型表皮水疱症、接合部型表皮水疱症、栄養障害型表皮水疱症、キンドラー症候群、これら4つの病型があります。
ほとんどは生後まもなく発症します。病型を含めた正確な診断には、専門医がいる大学病院などで遺伝子検査をはじめとする専門的な検査が必要です。残念ながら根本的に治療する方法はまだありません。
日常生活では、皮膚の摩擦を減らすことと、栄養管理が特に重要です。合併症のリスクもあるので、定期的に診察を受けましょう。