「気胸」とは?症状・原因・手術・治療方法についても解説【医師が監修】
気胸とは肺から空気が漏れ、肺が潰れてしまう病気です。
呼吸困難や胸の痛みが主な症状ですが、原因が特定されにくいことが多く「自然気胸」と呼ばれます。
特に10代後半から20代前半の「若者」と「高齢者」の男性に起こりやすい病気です。
背が高くやせ型の若者がかかりやすく、高齢者は長年の喫煙による肺気腫や肺がんなどの疾患が原因で起こる場合もあります。
今回は緊急の対応が必要になることも多い気胸について質問にお答えします。
監修医師:
武井 智昭(高座渋谷つばさクリニック)
平成14年慶應義塾大学医学部を卒業。同年4月より慶應義塾大学病院 にて小児科研修。平成16年に立川共済病院、平成17年平塚共済病院(小児科医長)で勤務のかたわら、平成22年北里大学北里研究所病原微生物分子疫学教室にて研究員を兼任。新生児医療・救急医療・障害者医療などの研鑽を積む。平成24年から横浜市内のクリニックの副院長として日々臨床にあたり、内科領域の診療・訪問診療を行う。平成29年2月より横浜市社会事業協会が開設する「なごみクリニック」の院長に就任。令和2年4月より「高座渋谷つばさクリニック」の院長に就任。
日本小児科学会専門医・指導医、日本小児感染症学会認定 インフェクションコントロールドクター(ICD)、臨床研修指導医(日本小児科学会)、抗菌化学療法認定医
医師+(いしぷらす)所属
目次 -INDEX-
気胸の症状と原因
気胸はどのような病気ですか?
- 気胸は何らかの原因で肺から空気が漏れて胸膜と肺の間に溜まってしまい、肺が潰れてしまう病気です。
- 肺が機能しなくなると酸素を取り込むことができなくなります。
- 肺がしぼんでしまい機能しなくなることを「緊張性気胸」と呼び緊急に治療が必要になります。
気胸の症状を教えてください。
- 主な症状は呼吸困難・胸の痛み・咳などです。
- 一刻を争うことも多く、次のような症状があるときには緊急の処置が必要となる場合もあります。
- 呼吸困難
- チアノーゼがある
- 動悸・頻脈
- 胸が痛い・動けない
- 意識レベルがない
- 主に左右どちらかの肺に発症することが多いのですが、まれに両方の肺に同時に発症することがあります。
- 両方同時に発症した場合は、ショック状態を引き起こすこともあるため、一刻も早い治療が必要です。自己診断せず早めに呼吸器内科などに受診してください。
原因不明のこともあると聞きますが…。
- 気胸の発症原因はさまざまで、特に原因がわからないままに発症してしまうことも多いです。明らかな理由もなく発症することで「自然気胸」と呼ばれます。
- 自然気胸にはまったく原因がわからない「特発性自然気胸」と、肺がんや肺気腫などの病気が関わるものの発症理由が不明な「続発性自然気胸」があります。「続発性自然気胸」はもともと肺に何らかの病気を持つ高齢者にみられることが多いです。
- その他、交通事故など外傷により肺が傷つくことで発症する「外傷性気胸」、女性では子宮内膜症が原因で発症する「月経随伴性気胸」などがあります。
喫煙が影響することはありますか?
- 気胸そのものが喫煙によって起こるということは立証されていませんが、発症した人のうち半数以上が喫煙者だというデータがあります。
- このことから気胸を誘因する一因となるのではと考えられます。また長年喫煙している高齢者は肺気腫や肺がんを発症する場合が多いのです。
- この病気が続発性自然気胸につながると考えられています。発症を防ぐためにも煙草は止めるようにしましょう。
気胸の検査と治療方法
受診を検討すべき症状を教えてください。
- 気胸は肺の先端に穴が開き、空気が漏れることで起きる病気です。
- 特に理由がなく突然に起こることが多い「特発性自然気胸」の場合、小さな穴であれば安静にして治まることもあります。
- ただ穴が塞がらずに空気が漏れ続ける場合もあるため、胸の痛みや呼吸がしにくいなどの症状があれば、呼吸器内科や呼吸器外科など呼吸器専門医のいる病院を受診してください。
どのような検査をしますか?
- 気胸が疑われる場合、行われるのは胸部レントゲン・胸部CTでの検査です。
- 通常レントゲン写真で気胸であると診断されますが、より細部の確認のために胸部CT検査が行われる場合もあります。
- また打診では鼓音を確認し、聴診では左右の呼吸音に違いがあるかを確かめます。
気胸の治療方法を知りたいです。
- 治療方法は重症度によって違ってきます。気胸の程度はおおよそ次のように区別されます。
- 軽度気胸(肺尖が鎖骨より上にある)
- 中等度気胸(肺尖が鎖骨より下にある)
- 高度気胸(肺の虚脱が著しい)
- 緊張性気胸(肺の空気が漏れ続けている)
- 「軽度気胸」では安静にした上で外来でレントゲン検査を随時行います。再び穴が開くようなことがなければ、軽度の場合1〜3週間でもとに戻るでしょう。
- 「中等度気胸」や「高度気胸」の場合は、入院して治療を受けることになります。胸腔ドレナージを行い、胸腔の中のものを体外に排出しなければなりません。
- 「緊張性気胸」では血圧が低下しショック状態となる可能性があるため一刻を争う場合が多いです。入院して胸腔ドレナージを行いますが、状況によっては直接胸に注射針を差して陽圧の解除を行います。
- 中等度・高度・緊張性気胸ともに、ドレナージ後管からの空気漏れがなくなれば管を抜き、肺が問題なく膨らめば退院の目安です。
それぞれの重症度によって治療方針がたてられます。
重度の気胸は手術が必要になりますか?
- 重度の場合は手術が必要なことが多く、手術方法は胸腔鏡手術で行われます。中でも多いのは胸腔鏡下肺嚢胞切除術で、気胸のもととなる肺嚢胞や周辺部分を切除する手術です。
- 初回の場合は手術は行われないことが多いのですが、初回であっても緊急な処置が必要な場合には手術が行われます。
- 緊急の処置が必要なのは下記のようなケースです。
- 胸腔ドレナージで持続吸引しても空気漏れが止まらない場合
- 再発性の場合(2回以上生じたとき)
- 左右の肺に同時発症の場合
- 血胸(胸腔内で出血していること)を合併している場合
- その他、全身状態が治療によっても保つことが困難と判断された場合
- 手術は、主にショック状態に陥るなど緊急な場合に行われることが多いです。また、再発を繰り返す可能性があるときには、再発を防ぐために手術を行う場合があります。
- 気胸は若い人に多いのが特徴です。手術を行うことで再発のリスクを下げられる可能性があります。
- 学生の場合は、入試や重要な試験で突然気胸に襲われることがないよう、再発を防ぐために医師から手術を勧められることもあるでしょう。
気胸の予後と予防方法
再発のリスクはありますか?
- 気胸の再発率は高いです。
- 軽度で治療を行わずに改善した場合の再発率は約半数にのぼるといわれています。治療を行った場合でも10%前後の再発率と、再発のリスクは高いのが実情です。
- 特に若い人の中では再発を繰り返す人も多くいます。そのため、再発予防には治療後の行動が重要です。
治療後に気をつけることがあれば教えてください。
- 気胸は再発のリスクもあります。喫煙を契機として発症リスクが高まるため、禁煙を行うことが最も重要です。
- また、胸腔内圧の変化を起こしやすい状況としては、スキューバダイビングや飛行機の搭乗があります。胸腔内圧の変化を伴った状態で気胸を発症すると、緊張性気胸など重症化する可能性があります。
- 気胸発症後で、手術をしていない状況であれば、スキューバダイビングを避ける、治療後の一定期間は飛行機に乗らないなどの対応も必要とされます。
- また日頃から栄養をしっかりと摂ること・規則正しい生活を行うことなども再発予防には大切です。
気胸の予防方法が知りたいです。
- 気胸は突然に起こることの多い病気で特に予防できることは少ないのですが、再発予防とほぼ同様なことに気をつけるようにするとよいでしょう。煙草の吸い過ぎは病気の誘因となる可能性が強いため、予防のためにも禁煙を心がけるようにしてください。
- また若い人ではやせ型の人がかかりやすく、拒食症の人が左右肺を同時発症している例もあることから栄養の偏りにも注意が必要です。
- 気胸の予防としては再発予防と同様に禁煙・規則正しい生活・偏らない食生活が大切なのです。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
- 気胸はある日突然起こる病気です。呼吸困難や胸の痛みがあるときには早めに呼吸器内科や呼吸器外科を受診してください。早急に気胸が見つかり適切な治療を受ければ、入院することなく通常の生活に戻れる可能性があります。
- また、治療後は規則正しい生活を送り、バランスのよい食事を行うことで再発を防ぐようにしましょう。また高齢者は、喫煙による肺気腫や肺がんが気胸へとつながる可能性が高いです。
- もちろん若い人でも煙草が気胸発症の誘因となることもあります。気胸の予防のためには生活習慣をしっかりと見直すことが大切です。
- また、やせ型で思春期から若年の男性に生じやすいこと、女性では月経に随伴して生じることもあるため注意が必要です。
編集部まとめ
10代後半から20代前半の若い人、または高齢者に多いといわれる気胸について質問にお答えしました。
初期段階の軽度気胸では早く治療することで1〜3週間で通常の生活に戻れます。中等度・高度気胸も早めに処置を行うことで完治できる病気です。
ただし、緊張性気胸のように肺から空気が漏れ続けて肺静脈を圧迫してしまうと、呼吸困難となりショック状態に陥る恐ろしい病気でもあります。
気胸を疑うような症状がみられたときには、自己判断せずに早めに受診し、適切な治療を受けてください。
再発率の高い病気といえますが、規則正しい生活とバランスの良い食生活を送ることで再発の予防を心がけましょう。
参考文献