「急性腎不全(急性腎障害)」とは?症状・原因についても解説!
更新日:2023/02/28
昔に比べて平均寿命・健康寿命ともに延びている現代ですが、それでも予期せず病気にはかかってしまうものです。
しかし、仮に病気にかかってしまっても、早期発見による迅速かつ適切な治療によって悪化を防げる場合があります。
そういった病気の中から今回焦点をあてて解説するのは急性腎不全です。
具体的な症状や予防法についても触れていくので、体調や体質的に不安のある方は参考にしてください。
監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
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大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期・総合医療センター外科後期臨床研修医、大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、大手前病院救急科医長。上場企業産業医。日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医など。著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など。
目次 -INDEX-
急性腎不全(急性腎障害)の特徴
急性腎不全はどのような病気ですか?
- 急性腎不全とは急性腎障害ともよばれ、腎機能が急激に低下する病気です。
- 正常な腎臓は主に、余計な水分や毒素などの老廃物を尿として排泄します。この働きが、血圧の上昇を抑えたり、体に溜まった水分によるむくみを防いだりして病気から体を守っているのです。
- しかし、急性腎不全によってこれらの腎機能が低下し、体に悪影響が現れるようになります。
具体的な症状について教えてください。
- 症状には個人差がありますが、最も多い症状は尿量が少なくなる乏尿と全く出なくなってしまう無尿です。
乏尿あるいは無尿になると水分や老廃物がたまり、高血圧やむくみを引き起こし、さらに症状が進むと尿毒症という状態になります。尿毒症の症状は主に以下の5つです。 - 食欲低下
- 吐き気
- 倦怠感
- 意識障害
- 貧血
- この他にも呼吸がしづらくなったり、味覚に異常をきたしたりと体のあらゆる部分に症状が出ます。
- 自覚症状としてわかりやすいのが乏尿や無尿ですが、まれに尿量が正常であっても急性腎不全になっている場合もあるので注意が必要です。少しでも体に異常を感じたら、医療機関での診察を受けましょう。
どのくらいの期間で症状が悪化するのでしょうか?
- 症状と同様にこちらも個人差があるようですが、急性腎不全の場合は治療によって悪化する前に回復する可能性があります。
- しかしあくまで可能性なので、回復しなかった急性腎不全は悪化し、末期腎不全にまで至る場合もあるようです。
- この末期腎不全になってしまうと心臓にまで悪影響を及ぼすようになり、最悪の場合、命の危険もあるとされています。
慢性化する危険はありますか?
- 前述したように、急性腎不全は治療によって回復が期待できる病気ですが、過半数が完全な回復には至らずに慢性化し、慢性腎臓病になってしまいます。
- 慢性腎臓病は、腎不全になる前段階である腎臓病の症状が慢性化した病気です。慢性腎臓病は悪化すると末期腎不全に至ることがあります。末期腎不全になってしまうと命にかかわってくるので透析治療や腎臓移植が必要です。
- ちなみに急性腎不全の他に慢性腎不全がありますが、慢性腎不全は慢性的な原因による腎不全なので、慢性腎臓病とは別の病気であるとされています。
どのような人がなりやすいでしょうか?
- 急性腎不全は体質的に腎機能が弱い人がなりやすいとされています。
- 自身の腎機能はクレアチニンとeGFRの値によって正常であるかを判断することが可能です。クレアチニンは健康診断などで行われる血液検査で数値を知ることができ、eGFRはクレアチニンの値から計算によって数値を出すことができます。
- 不安な方は健康診断で出た数値をよく確認しておきましょう。
急性腎不全の原因と治療法
急性腎不全は何が原因で起こるのでしょうか?
- 急性腎不全の原因は複数あり、その原因によって以下の3つに分類されます。
- 腎前性
- 腎性
- 腎後性
- 上から順に解説していくと、まず腎前性はケガや下痢を原因とした脱水や出血の影響などによるものです。多くの急性腎不全はこの腎前性であるとされています。
- 次に腎性は主に腎臓の炎症や薬剤の影響によるもので、腎前性の次に多い原因です。
- そして腎後性ですが、これは尿管の閉塞によるものが多く、この腎後性が原因で急性腎不全になる場合は非常にまれであるとされています。このように、急性腎不全は他の病気が原因で発症する場合が多い病気です。
診断はどのように行うのですか?
- 急性腎不全はまず最初に血液や尿・腎臓の検査などを複数行い、その検査結果をもとに腎前性・腎性・腎後性のどれに当てはまるかの診断がされます。診断基準となるのが以下のような急性腎不全の定義です。
- 血清クレアチニン値が48時間以内に0.3mg/dl以上の上昇及び、検査前1週間以内の平均値に比べて1.5倍以上の増加がみられる
- 尿量が0.5ml/kg/時間に減少する症状が6時間続けてみられる
- この基準を見ると、急性腎不全は腎機能の低下の速度に重点をおいた診断がされることがわかります。
急性腎不全の治療法について教えてください。
- 前述したように、急性腎不全の治療法は原因によって変わります。以下が原因別の治療法です。
- 腎前性:輸液や輸血、原因となった病気に適した薬剤の服用
- 腎性:原因となった炎症をステロイドによって鎮める、または薬剤の投与を中止する
- 腎後性:尿管閉塞の治療
- このように、急性腎不全の治療はまず原因となった別の病気の治療から始まります。
原因別に適切な治療を行うことが大切なのですね。
- 急性腎不全は正しい原因の判別によって正しい治療法が導き出されます。3つの原因はそれぞれ異なる治療方法になるため、この原因の判別が大切です。
- 原因となった病気をまず治療しないことには腎不全の治療はできません。
- それぞれの原因に適した治療を行うことが、急性腎不全の早期回復や自然治癒にもつながるので、原因ごとに適切な治療を行うことの重要さがわかります。
急性腎不全にならないために
急性腎不全は完治する病気ですか?
- 急性腎不全は適切な治療を行うことで回復可能な病気ですが、完治する割合は30%であるとされています。
- 60%の人は完治しないまま慢性腎臓病になり、10%の人がそのまま悪化して末期腎不全になってしまうというのが現状です。
- 少しでも完治する可能性を上げるためにも、早期発見および早期治療が重要になります。特に高齢の方はいつの間にか急性腎不全になっている場合があるので注意が必要です。
早期発見のポイントを教えてください。
- 早期発見のために重要なことは、体調に悪影響が出る前に自身の体の異常に気づくことです。急性腎不全は体調の悪さを感じた時点では、すでに重症化している場合が多いとされています。では、どうすれば自身での早期発見ができるのでしょうか?おすすめな方法として以下の2つがあります。
- 日常的な血圧測定
- 定期的な血液検査・尿検査
- 腎前性の急性腎不全では、著しい血圧の低下が見られます。常日頃から自身の血圧の平均値を把握しておくことで異常に気づき、医療機関を受診することで早期での発見と治療が可能です。また非ステロイド性解熱鎮痛剤などの医薬品を服用している人は、健康診断などで定期的な血液検査や尿検査を医療機関にて行うことで、早期発見後迅速な治療を受けることができます。
- 早期発見において、日頃から自身の体の自己管理を行うことが最も重要なポイントです。
急性腎不全の予防法はありますか?
- 高齢の方は、脱水や血圧低下によっていつの間にか急性腎不全を引き起こしている場合があるので、こまめな水分補給と日常的な血圧測定をすることで予防が可能です。
- また、日常的な血圧測定は降圧剤を服用している人も行うことで薬剤による急性腎不全を防ぐことができます。
- 急性腎不全は腎機能の低い人がなりやすい病気です。健康診断などで腎機能が低いと診断された人は、高齢ではなくともこまめな水分補給や塩分制限など、食生活も気にかけることをおすすめします。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
- 腎臓という臓器は、そもそも左右の腰背部に存在するソラマメ型を呈したものであり、左右でそれぞれ150g程度の重量があり、その機能としては体内水分量の調整、必要な電解質やミネラルなどの調整、そして老廃物を尿として排泄する役割を担っています。
- 急性腎不全とは、何らかの理由で腎機能が急激に低下し、体内の水分や老廃物を排泄できなくなる病気です。腎不全には、数日から数週間単位で急に腎機能が低下する急性腎不全、そして数か月から数十年単位で腎機能が少しずつ悪化していく慢性腎不全がありますが、前者における発症メカニズムとしては、腎前性・腎性・腎後性の3種類に分類されます。基本的に、急性腎障害は可逆性で改善する余地があるため、本来の腎機能に改善するために適切な治療が望ましいです。
- 仮に脱水による腎前性腎障害を疑われた際には点滴補液、薬剤性由来の腎性腎障害の場合には被疑薬の中止、尿路結石の存在によって引き起こされた腎後性腎障害のケースでは、結石を取り除く治療が一般的に実践されます。
編集部まとめ
今回は急性腎不全について解説しました。急性腎不全は急速な腎機能の低下が特徴的な病気です。
尿量が減ることで老廃物などがたまり、むくみや高血圧といった症状が現れます。重症化すると意識障害や命にかかわることもあるので適切な早期の治療が大切です。
早期治療のためには早期発見が重要であり、日常的な自己の体調管理を行うことが早期発見につながります。
ここでの解説を機に、日常的な体調チェックや定期的な健康診断を受ける方が増えたら幸いです。
参考文献