「乳腺線維腺腫」とは?発症しやすい年代や原因・症状についても解説!
更新日:2023/03/27
お風呂で偶然胸に触れたり、乳がんのセルフチェックをしたりしたときに、奇妙なしこりに気がついたことはありませんか。くるくると動く丸い小さな塊です。
しこりを見つけても「これはもしかして乳がんかもしれない」と不安でパニックを起こさないでください。
専門医のチェックを受けると、しこりは乳腺線維腺腫(にゅうせんせんいせんしゅ)のような良性のものだったということも、実は少なくないのです。
今回は良性の胸のしこりの代表格である乳腺線維腺腫(にゅうせんせんいせんしゅ)についてご紹介します。
監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
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大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期・総合医療センター外科後期臨床研修医、大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、大手前病院救急科医長。上場企業産業医。日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医など。著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など。
目次 -INDEX-
乳腺線維腺腫の特徴
乳腺線維腺腫とはどのような病気ですか?
- 乳房に良性のしこりができる病気です。
- 乳腺線維腺腫の特徴は大きくても3cm程度で、乳腺線維腺腫の境目がはっきりしていて、触るとくるくるとよく動くことです。
- 腫瘍は表面が平らで楕円形ですが、まれに5cm以上まで大きくなったり、いくつかの乳腺線維腺腫が集まりぼこぼこした塊になったりします。
- しこりは片側の胸だけにできる場合もあれば、左右両方の胸にできる場合もあります。
どの年齢層に多い病気ですか?
- 思春期を過ぎたばかりの10代後半から20代の女性に多いです。腫瘍は加齢と共にゆっくりと大きくなりますが、30代になると大きくなるのは止まり、40代から50代になると逆に小さくなって次第に目立たなくなる傾向にあります。自然に小さくなって見えなくなることも多いです。
- 腫瘍は加齢と共にゆっくりと大きくなりますが、30代になると大きくなるのは止まり、40代から50代になると逆に小さくなって次第に目立たなくなる傾向にあります。自然に小さくなって見えなくなることも多いです。
どのようなことが原因になりますか?
- 成長に伴い正常な細胞が過剰に増えたこと、すなわち「退形成」が原因です。
- 乳腺線維腺腫は母乳を分泌する腺に生じる「管内型」か、その周りの脂肪組織に生じる「管周囲型」のいずれかのタイプに分かれます。管内型と管周囲型が混在しているタイプもあります。
- 乳腺線維腺腫は思春期を過ぎて発症することが多いです。そのため女性ホルモンであるエストロゲンとプロゲステロンのバランスが関係していると推測されています。
- このしこりは、良性の腫瘍に分類されることが多いですが、厳密には腫瘍というほど病的なものではありません。
どのような症状があるのか教えてください。
- よく動く小さなしこりができる以外、特別な症状はありません。
- 痛みも不快感もその他の症状も一切ありません。しこりの大きさは、前記の通り、ほぼ2〜3cmです。非常にまれですが、5cm程度まで成長する場合もあります。
- さらに巨大になる場合は10cmくらいになることもあるのですが、その場合は乳腺葉状腫瘍など、別の病気も同時に疑うべきでしょう。
乳腺線維腺腫の受診の目安
どのタイミングで受診すれば良いですか?
- 「異常に気がついたタイミング」です。乳腺線維腺腫そのものは特に生命にかかわる病気ではありませんが、「乳腺線維腺腫だから大丈夫」と安易に自己判断してはいけません。なぜなら上記で述べた通り、乳腺線維腺腫は10代から20代に多い症状でしこりも3cm以下の場合がほとんどだからです。
- 似たような症状がある悪性の病気、たとえば初期の乳がんなどを乳腺線維腺腫と間違えている可能性があるので、検査は必要です。特にしこりの大きさが3cm以上ある方や、年齢が40代以上の場合には、検査を受けることを強くおすすめします。
- それに当てはまらない患者さんの場合、それ以外の病気(たとえば乳腺葉状腫瘍や初期の乳がん)が疑われます。
- その一方で、検査を受けて乳腺線維腺腫の診断が確定したら、半年か1年に1回程度定期検診を受けるだけで大丈夫です。
乳がんのしこりとどのような違いがありますか?
- 乳腺線維腺腫のしこりは、乳がんよりしこりの感じがやわらかくて弾力性があることが一般的です。
- そして正常な組織との間の境界線がはっきりと確認できて、ころころと動きます。
- 乳がんの場合は乳腺線維腺腫より硬く、がんが周囲の組織と癒着するためあまり動かない傾向があります。
- しかしいずれにしても、触るだけで乳がんのしこりとはっきり区別をつけることは難しいです。
どのような検査を行いますか?
- 触診と超音波検査でおおかたの診断はつきます。それでも乳腺線維腺腫ではなくて乳腺葉状腫瘍か初期の乳がんができている可能性を完全に否定することはできません。したがって、念のためそれらに加えて細胞診を行います。
- 細胞診の方法には2種類あります。ひとつは乳頭から分泌された液を採集して、その中に含まれている細胞に異常な性質のものがないかどうかを調べる「分泌液細胞診」です。もうひとつはしこりそのものに細い針を付けた注射器を刺して患部の細胞を採集する「穿刺吸引細胞診」です。
- 「穿刺吸引細胞診」では、そうして得られたサンプルに異常なものが含まれていないかどうかを顕微鏡で確認します。なお、乳がん検査のためマンモグラフィーを使うと、石灰化した乳腺線維腺腫が見つかることがありますが、すべて悪性とは限りません。良性の石灰化した乳腺線維腺腫も多いです。
乳腺線維腺腫の治療法
治療法について教えてください。
- 乳腺線維腺腫だと診断が確定した場合には、特別な治療は必要ありません。そのまま放置しておいてかまわない症状です。たとえば乳腺線維腺腫は乳腺葉状腫瘍という別の病気の初期症状と似ています。乳腺葉状腫瘍は10cm以上に大きくなる場合もあります。
- ただし、しこりが次第に大きくなっていくようであったり、すでに大きくなりすぎたりした場合には、手術で乳腺線維腺腫を取り出すこともあります。外観上に問題が生じたり、他の病気の恐れがなかったりするか確認するためです。
- たとえば乳腺線維腺腫は乳腺葉状腫瘍という別の病気の初期症状と似ています。乳腺葉状腫瘍は10cm以上に大きくなる場合もあります。
- 乳腺葉状腫瘍には良性の場合と悪性の場合があるので、万が一悪性だと大変です。そのためしこりの大きさに応じて乳房の部分切除あるいは全体切除を行うことになります。
線維腺腫は消えますか?
- 乳腺線維腺腫は3分の1から3分の2の確率で、自然に小さくなって見つからなくなります。
- 10代から20代のころに見つかった乳腺線維腺腫は、40代から50代になる頃には気にならないほど目立たなくなるのが普通です。
線維腺腫が大きくなることはありますか?
- 乳腺線維腺腫は3cm以上の大きさになることは滅多にありません。しかし10代から20代の若い時期には、乳腺線維腺腫も徐々に大きくなる傾向があります。
- 一般に30代になると乳腺線維腺腫の成長は止まり、40代・50代から閉経期にかけて、次第に小さくなっていきます。
- また妊娠の際に、乳腺線維腺腫も大きくなる場合があります。この場合、出産後授乳が終わるころには再び小さくなるのが普通です。
- 一方しこりが乳腺葉状腫瘍の初期症状である場合、10cm以上まで大きくなることがあります。心配な場合は専門医を訪ねて検査を受け、しこりが乳腺線維腺腫であることを確かめることをおすすめします。
発症した際に注意すべきことについて教えてください。
- 不必要な心配をしないことです。しかしこれまで述べたように、乳腺線維腺腫は次第に大きくなっていく傾向があります。
- ときには、一度切除したはずの乳腺線維腺腫が再発する場合もあります。このようなときに既にご自分が知っている知識をもとにして「いつもの乳腺線維腺腫だから放っておいて大丈夫」と無視をしないようにしてください。
- まれなことかもしれませんが、そのしこりが悪性の乳腺葉状腫瘍や乳がんの初期であることもあります。したがって月1回のセルフチェックと、半年から1年に1回程度の経過観察は忘れないようにしましょう。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
- この疾患は、10~20歳代の若年女性にもみられる、乳房にしこりができる病気であり、乳癌と異なって線維腺腫の場合には腫瘤の境界が明確でよく動くのが特徴の一つと言われています。基本的には、良性腫瘍に分類されます。
- 線維腺腫は数cm以上に大きくなることは稀であり、触診や超音波検査を受けると診断可能です。
- 線維線種の場合には、しこりの大きさが3㎝以下であれば特別治療の必要はなく、定期的に半年から一年に1回程度検診を受けてフォローしてもらいましょう。
- 日常生活で乳房にしこりを感じた方は、ぜひ専門医に相談しましょう。
編集部まとめ
乳腺線維腺腫についてご説明しましたが、胸のしこりがすべて悪性とは限らないことがご理解いただけたでしょうか。
胸のしこりに気がついたら、パニックを起こさずまず専門医に相談しましょう。
専門医のところへいきなり行くのは不安だという方は、まずかかりつけの先生に診てもらい、必要なら専門医へ紹介状を書いてもらうのも良い考えです。
参考文献