ヒトの体に存在する臓器の中では最も大きく、 「沈黙の臓器」とも呼ばれる肝臓。この肝臓にできる「がん」は「肝臓がん」と呼ばれます。肝臓がんは、初期の段階では自覚症状がなく、ある程度進行してから症状が現れることが多いのが特徴です。
肝臓がんを早期発見・早期治療するには、定期的に検診を受け、少しでも気になる症状があるときはすぐに受診することが大切です。
今回は、肝臓がんとはどのような病気なのか、症状や原因、治療方法、検査方法などを解説します。
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大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期・総合医療センター外科後期臨床研修医、大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、大手前病院救急科医長。上場企業産業医。日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医など。著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など。
肝臓がんとは
肝臓がんとはどのような病気ですか?
肝臓にできる「がん」が「肝臓がん」と呼ばれます。肝臓がんには大きく分けて
「原発性肝臓がん」と「転移性肝臓がん」の2種類があります。
原発性肝臓がんとは、肝臓から発生したがんを指します。それに対し転移性肝臓がんは、ほかの臓器でできたがんが、肝臓に転移してきたものを指します。
原発性肝臓がんをさらに細分化すると「肝細胞がん」と「胆管細胞がん」に分けられます。肝細胞がんの発症数は胆管細胞がんと比べて圧倒的に多いため、「肝臓がん」=「肝細胞がん」として説明されることが多くなっています。
肝臓がんの症状
肝臓がんの症状を教えてください
肝臓は「沈黙の臓器」といわれており、肝臓がんの発症初期には自覚症状がほとんどないのが特徴です。肝臓がんが進行した場合、腹部のしこりや圧迫感、痛みといった症状を訴える人もいますが、何の症状も認めない場合も多くあります。症状がある場合も、肝臓がんそのものの症状というより、その発生原因である肝炎や肝硬変による以下の症状がほとんどです。
- 食欲不振
- 全身倦怠感
- 黄疸
- 腹部膨満
- 下肢のむくみ
- 貧血
肝臓がんの病状がさらに進行すると、「肝不全」の状態に陥ります。肝不全にまで至ると、以下のような症状が現れます。
- 腹水
- 全身の健康状態の悪化
- 肝性脳症(意識障害、異常行動など)
肝不全とは
肝不全とはどのような状態ですか?
肝不全とは、肝臓のおもな構成細胞である肝細胞の機能異常が進んだ結果、肝臓の機能が失われた状態です。肝不全は肝臓以外の臓器へも多大な影響を及ぼすこともあり、多臓器不全から死に至ることもある、重篤な状態とされています。
肝臓がんの原因
肝臓がんの原因を教えてください
肝細胞がんは、おもに
ウイルス性肝炎、アルコール性肝炎、非アルコール性脂肪性肝疾患といった慢性的な肝臓の炎症が原因とされています。原因としてはウイルス性肝炎が多く、肝細胞がんのうち約80%はC型肝炎、約15%はB型肝炎が原因です。
肝炎ウイルスに長期間感染した状態が続くことで、肝細胞の破壊と再生が繰り返され、やがて肝臓が硬くなり肝硬変に至ります。その過程で、がん細胞を増殖させる働きのある「がん遺伝子」や、本来は細胞のがん化を抑える役割を持つ「がん抑制遺伝子」に変異が生じ、がんが発生するとされています。
B型肝炎
B型肝炎について教えてください
B型肝炎は、血液や体液を介してB型肝炎ウイルスに感染して起こる肝臓の炎症です。B型肝炎ウイルスに感染した時期や感染した際の健康状態によって、一時的な感染で終わる一過性感染と、ほぼ生涯にわたり感染が継続する持続感染に分けられます。持続感染を起こすと、慢性肝炎・肝硬変・肝がんへと進行する場合があります。
B型肝炎の感染経路は、垂直感染と水平感染の2種類に分けられます。垂直感染の原因としては、出生時の母子感染が、水平感染の原因としては性行為や入れ墨、ピアスの穴あけ、不衛生な器具での医療行為が代表的です。
C型肝炎
C型肝炎について教えてください
C型肝炎は、C型肝炎ウイルスに感染することで起こる肝臓の炎症です。C型肝炎ウイルスに感染すると約70%の人が持続感染者となって、慢性肝炎・肝硬変・肝がんへと進行する場合があります。日本では現在、約100万人のC型肝炎ウイルスの感染者がいると考えられています。しかしそのなかには、感染に気づいていない人や、気づいていても継続的な治療を受けていない人も多いのが現状です。
肝臓がんの受診科目
自覚症状があるときは何科を受診すればよいですか?
肝臓がんは自覚症状に乏しく、ある程度進行しないと症状が現れないのが特徴です。そのため、気になる症状がある場合は早めの受診が必要です。 肝臓の病気は、消化器内科が守備範囲となるため、消化器内科を標榜する医療機関を受診しましょう。また、職場などでの健康診断で肝機能の異常を指摘される例があるかもしれません。その場合は、特に症状を感じていなくても受診しておくと安心です。
肝臓がんの検査
肝臓がんを疑われた場合はどのような検査を行いますか?
肝臓がんの診察では、問診や触診といった通常の診察と併せて、血液検査や画像診断などの詳しい検査を行うのが一般的です。
血液検査で肝臓がんが発見できるのでしょうか?
肝臓がんの診断で行われる血液検査としては「腫瘍マーカー」が挙げられます。腫瘍マーカーは、がんの存在によって陽性となり、腫瘍の数や大きさが増していくにつれて数値が上昇します。腫瘍マーカーにはさまざまな種類があり、肝臓がんの場合は「AFP」と「PIVKA-Ⅱ」という2つの腫瘍マーカーを用いるのが一般的です。しかし、腫瘍マーカーが陰性でも肝臓がんが認められることもあり、がんがなくても慢性肝障害によって高値を示す場合もあります。したがって、血液検査だけでは肝臓がんの診断に不十分で、画像診断などの結果と併せて診断する必要があります。
画像診断について詳しく教えてください
肝臓がんの画像診断としては、以下が一般的です。
- 腹部超音波検査
- CT検査
- MRI検査
- 血管造影検査
腹部超音波検査やCT検査、MRI検査では、造影剤を使用することでより精密な検査が可能です。
肝臓がんの性差・年齢差
肝臓がんに性差・年齢差はありますか?
年齢別にみると、肝臓がんの罹患(りかん)率は男性では45歳ごろから増加し始め、70歳代に横ばいとなり、女性では55歳ごろから増加し始めます。罹患率、死亡率ともに男性のほうが高く、女性の約3倍とされています。
女性はかかりにくい病気と考えてよいのでしょうか?
日本におけるがんの部位別死亡割合で、肝臓がんは、男性では肺がん、胃がんに続いて3番目、女性でも胃がん、肺がん、結腸がんに続いて4番目に多くなっています。
肝臓がんによる死亡率は、医療の進歩とともに男女とも減少傾向にあります。しかし、死亡者数は年間3万人を超えており、ここ数年は女性の死亡数が急増している傾向があります。また、罹患率については、男性では減少傾向にあるのに対し、女性では横ばい傾向です。
男性だけでなく、女性も同じように注意が必要な病気といえるでしょう。
肝臓がんの治療方法
肝臓がんと診断されたらどのような治療を行いますか?
がんが肝臓内に留まっている場合には、手術による肝臓切除、肝動脈化学塞栓療法(TACE)、ラジオ波焼灼療法(RFA)が中心です。肝臓以外の臓器にがんが転移している場合、肝臓の状態やがんの進行具合によって、分子標的薬による薬物療法や、肝移植、放射線治療を行う場合もあります。
肝臓がんを患う人の多くは、がんだけでなく肝炎、肝硬変、肝不全といった慢性肝疾患を抱えています。そのため、がんの進行度だけでなく、肝臓の障害の程度も考慮したうえで治療方法が選択されます。
編集部まとめ
肝臓がんは肝臓にできるがんのことです。ウイルス性肝炎、アルコール性肝炎、非アルコール性脂肪性肝疾患といった、肝臓の慢性的な炎症が原因で起こるとされています。
発症初期には自覚症状がなく、ある程度進行してから症状が出るのが特徴です。
肝臓がんを早期発見・早期治療を目指すには、定期的に検診を受け、気になる症状があるときはすぐに消化器内科を受診することが必要です。 また、職場などでの健康診断で肝機能の異常を指摘された場合は、特に症状を感じていなくても受診することが大切です。