「くも膜下出血」とは?原因や前兆となる症状についても解説!
更新日:2023/03/27
くも膜下出血は脳出血の1種で、発症すると死亡率50%といわれる怖い病気です。処置が遅いと再出血することもあり、後遺障害のリスクもあります。
年齢が高くなるほど発症が多くなり、中年期以降は気を付けなければならない病気の1つです。発症すれば、できるだけ早く病院で処置できるかが明暗を分けます。
できるだけ発症しないように、普段から気を付けて予防することが大切です。ここでは、くも膜下出血の特徴をチェックしていきましょう。
また、診断方法と治療方法、予防方法も併せて紹介します。
監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
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大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期・総合医療センター外科後期臨床研修医、大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、大手前病院救急科医長。上場企業産業医。日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医など。著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など。
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くも膜下出血とは?
くも膜下出血は、頭のどの部分で出血が起こるのですか?
- くも膜下出血はくも膜と軟膜の間にある隙間、くも膜下腔と呼ばれている箇所に起こります。くも膜下出血とは、このくも膜下腔で起こった出血の総称です。
- 人間の脳は3層の膜で覆われており、外側から順に硬膜・くも膜・軟膜です。
- くも膜下腔には脳脊髄液があり、たくさんの太い動脈が通っています。何らかの原因でこの動脈が損傷して起こる出血をくも膜下出血といいます。
原因はなんですか?
- くも膜下出血の原因のほとんどは、脳動脈瘤の破裂です。その割合は約90%といわれています。脳動脈瘤は脳の動脈にできた瘤で、この瘤が破裂してくも膜下出血を起します。
- 脳動脈瘤がなぜできるかは、はっきりとは解明されていません。しかし、脳動脈瘤には先天的なものから、生活習慣病やストレスからくるものまでがあると考えられています。
- その他、脳動静脈奇形や事故などによる頭部の外傷も、原因の1つです。
どのような症状がありますか?
- くも膜下出血の症状には頭痛・嘔吐・意識障害などがあります。特に頭痛は、今まで経験したことのない「ハンマーで殴られたような激しい痛み」が突然起こります。嘔吐やめまいに襲われることも少なくありません。
- これらの症状は、前兆で起こることもあります。激しい痛みが一旦は治まっても、そのあとくも膜下出血を起こす可能性が高いです。
- そのため、激しい頭痛があれば、すぐに病院へ行くことをおすすめします。意識があるうちに病院へ辿り着ければ、生存率は格段に上がるからです。
- 前兆の頭痛がなく、いきなり意識を失うこともあります。いびきをかいて、寝ているように見えることもあります。
頭の中で出血すると聞くと、合併症も心配です……。
- 合併症も心配ですが、初回破裂での死亡率は特に高いです。初回出血後の死亡及び治療対象外となるのはおよそ50%です。
- またくも膜下出血の合併症としては、次の合併症が有名です。 どの合併症をおこしても死亡率が高くなり、脳梗塞や後遺障害を招く原因となります。
- 再出血は、発症から24時間以内におこる事が多く、死亡リスクの高い合併症です。
- 脳血管攣縮が起こると脳血管が細くなり、脳梗塞のリスクがあります。
- 脳脊髄液が溜まることで水頭症を発症します。
- この他に肺炎など、肺機能障害も報告されている合併症です。
くも膜下出血の診断方法・治療法
くも膜下出血の診断はどのような方法で行われるのでしょうか?
- くも膜下出血の診断は、主にCTによって行われます。
- しかし、軽症や発症から時間が経っている場合は、CTでは診断できないこともあります。その場合は、MRIやMRAでの検査が効果的です。
- また、脳脊髄液を調べる腰椎穿刺や脳血管撮影を行うこともあります。
どのような治療を行いますか?
- 破裂が疑われれば可及的に、手術が必要になります。
- くも膜下出血の主な原因となる、脳動脈瘤を再破裂させないための手術は大きく分けて2種類、脳動脈瘤クリッピング術と脳動脈瘤コイル塞栓術です。
- 脳動脈瘤クリッピング術は全身麻酔で開頭します。頭蓋骨を取り外して動脈瘤の付け根の部分をクリップで留める手術です。
- 脳動脈瘤コイル塞栓術は太ももの付け根からカテーテルを挿入して、動脈瘤をプラチナ製コイルで詰めます。
- どちらもくも膜下出血の治療として確立している手術です。患者さんや動脈瘤の状態で、どちらかの治療が選択されます。
くも膜下出血と聞くと、後遺症が残るイメージが強いです。
- くも膜下出血を発症した患者さんの約30%は、後遺症もなく社会復帰ができます。50%の人が死亡し、20%の方に後遺症が残ると報告されています。
- 治療後は回復のためのリハビリテーションが必要です。治療直後は状態が変化しやすく、リハビリの開始には注意しましょう。しかし、脳以外は健康のため、長期にわたる「寝たきり」の状態は避けることが大切です。
- リハビリによって体力を回復・維持できれば、早期の社会復帰が可能になります。
早めにリハビリを始めることが大切なのですね。
- くも膜下出血の治療直後は、水頭症・脳血管攣縮・再出血のリスクがあるため、すぐのリハビリテーションを避ける傾向があります。これは、リハビリよりも生命維持が優先されるための処置です。
- しかし近年、くも膜下出血の発症後4〜7日で、容態が安定している場合はリハビリ開始が安全であると報告されました。
- また、早期にリハビリを開始することで、脳血管攣縮の発症を減少させる可能性が高いとも報告されています。このため最近では、早めにリハビリを始めることが、早い社会復帰に繋がると考えられています。
くも膜下出血を予防するために
くも膜下出血はどれくらいの割合で発症しますか?
- 日本においては、くも膜下出血の発症は年間約3万人です。年齢が高くなるほど発症が多くみられ、50代から発症する方が急増する傾向にあります。特に女性の発症が約7割と報告されています。
- くも膜下出血の最大のリスク因子は高血圧です。この他、喫煙や飲酒も原因と考えられています。
- くも膜下出血の発症は、1年で人口10万人に対し約10~20人ですが、若い方の多い都市部においては、発症の割合は低くなります。
前兆となる症状はあるのでしょうか?
- めまい・嘔吐・視力低下・意識低下などが前兆となる症状です。前兆ですから、一旦は治まりますが、そのあと発症することが多くあります。
- この前兆があったときに、すぐに病院にいけば生存率は格段に高くなります。前兆症状があったときに受診すれば、生存率は約8割です。
- 反対に、受診せずに発症し、意識不明で病院に運び込まれたケースでは、生存率2割以下ともいわれています。
くも膜下出血は予防できますか?
- 一般的に、くも膜下出血は「突然前触れなく起こる」と考えられてきました。しかし、現在は前兆症状も知られており、予防も可能だと考えられています。
- くも膜下出血の2大リスクは高血圧と喫煙です。特に、血圧が高めの方は、普段から血圧に注意して、異常があれば受診するようにしましょう。自分で血圧をコントロールすることが大切です。
- 食事にも気を付け、禁煙をすることも予防に繋がります。血圧の高い方は、定期的にMRIの検査をおすすめします。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
- くも膜下出血は早期治療が明暗を分けます。前兆となる頭痛に襲われたら、迷わずに救急車を呼んでください。一旦頭痛が治まっても、そのままにしておくと最悪の事態を招く恐れがあります。
- 意識が低下したときには、遠慮せずに周囲の人の助けを求めましょう。
- 早期治療ができると、後遺症なしに社会復帰ができる可能性が高まります。
- また、高血圧など不安のある方は、定期的に人間ドックなどで健診を受けることもおすすめです。
編集部まとめ
くも膜下出血について説明しました。「くも膜下出血を起こしたら、助かっても後遺症が残る」と考える方も少なくありません。
しかし、前兆があったときにすぐに病院で受診すれば、生存率は格段に上がります。後遺症もなく、社会復帰できる可能性は大きいです。
先ずは「高血圧の治療をして、食事や禁煙に気を付ける」ことが、予防に繋がります。
参考文献