「心不全で肺に水がたまった場合の余命」はご存知ですか?医師が徹底解説!
心不全で肺に水がたまった場合の余命とは?Medical DOC監修医が心不全で肺に水がたまる原因・肺に水がたまると現れる症状・なりやすい人の特徴・治療法などを解説します。
監修医師:
小鷹 悠二(おだかクリニック)
目次 -INDEX-
「心不全」とは?
心臓は胸の真ん中にある、全身に血液を送り出すポンプの働きをしている臓器です。この心臓の働きが低下し、血液を全身の臓器へ供給する機能が弱ってしまった状態を心不全と呼びます。
心不全で肺に水がたまった場合の余命
心不全状態となると、病態によっては肺に水が溜まってしまう「胸水」が出現することがあります。
心不全は、一度発症してしまうと基本的には進行する病気で、完治することはありません。
さらに、適切な治療を行わないと5年生存率が50%程度とされ、癌のような悪性疾患と同じくらいに予後が悪い病気です。
そのため、昔は「心不全を発症して胸水が出現した=余命が短い」と考えられたことがあったのかと思われますが、現在では様々な心不全の新しい治療薬や、原因となる疾患の治療が進歩したため、予後は改善してきています。
最近の研究では、心不全を発症しても適切な治療を受けることで、心不全発症後の3年以内の死亡率は17%程度まで改善しているとする報告もあります。
そのため、「胸水が出現すると余命がわずか」、ということではなく、適切な治療をすることで心不全状態が改善すれば胸水が消失することも多いです。
ただ、それぞれの患者さんの病状や合併症、年齢、体力等によって予後はまちまちであるため、一概にいうことはできません。
心不全で肺に水がたまる原因
心臓は4つの部屋に分かれており、上の部屋の心房、下の部屋の心室がそれぞれ左右にある構造をしています。全身から戻ってきた血液は右心房に戻ってきて、右心室→肺を経由して左心房に流入し、そこから左心室→大動脈を介して全身に血液が送られていきます。
心不全で肺に水がたまる状態は、左心房や左心室に負荷がかかっている左心不全を起こしてしまったときに出現します。
虚血性心疾患(心筋梗塞や狭心症など)
心臓の筋肉に栄養を送っている冠動脈という血管の流れが悪くなることで、心臓の筋肉が障害を受け動けなくなることで、左心不全を引き起こすことがあります。
特に冠動脈が完全に詰まってしまう急性心筋梗塞では突然の胸痛を契機に、急激に心不全状態となり、呼吸障害なども出現することがあるため、注意が必要です。
突然の胸痛や呼吸困難、息苦しさなどが出現した際には速やかな受診、程度が強ければ救急要請が必要となります。
不整脈
心臓は筋肉に電気刺激が流れることで動いており、通常は一定のリズムで上下の心房と心室が連動して動いています。
その電気刺激に異常が生じ、心臓の脈の速さや規則性に異常が生じる状態が不整脈です。
脈が速くなる頻脈性の不整脈(心房頻拍、発作性上室性頻拍、心室頻拍など)、ゆっくりとなる徐脈性の不整脈(洞不全症候群、房室ブロックなど)、リズムがでたらめになる心房細動といった不整脈が代表的です。
不整脈が突然出現して発症する場合、以前から持続して時間と共に心機能を低下させる場合など様々な経過があります。
それまでない動悸や息切れ、気が遠のく、失神などがある際には速やかな受診が必要です。
心筋症
心臓の筋肉に障害がおこる病気です。
生まれつき異常がある場合や、加齢とともに徐々に出現してくることもあります。
心臓の筋肉が厚くなる・薄くなるといった異常が進行することに伴い、心臓の動きが悪化し、心不全状態となることがあります。
弁膜症
心臓の部屋を仕切っている、弁というフタの異常で生じます。
左心不全を引き起こす病態としては、左心房と左心室の間の僧帽弁、左心室と大動脈の間の大動脈弁の異常が問題となります。
弁の閉まりが悪くなる閉鎖不全症(逆流症)、弁の開きが悪くなる狭窄症などがあります。
心不全で肺に水がたまると現れる症状
心不全を発症し、肺に水が溜まってしまう胸水が生じると現れる症状についても解説していきます。
息切れ
肺に水が溜まってしまうことで酸素の取り込みが低下するため、それまでできていたような動作でも息切れが出現するようになります。
呼吸困難
胸水がさらに増加すると、安静にしていても息苦しくなる呼吸困難症状が出現することもあります。
典型的な症状は、夜寝る時など、体を横にしたときに息苦しさが強くなり、体を起こしている状態では症状が改善する、起坐呼吸があります。
心不全になりやすい人の特徴
心不全は、高血圧や糖尿病などの生活習慣病がある人、元々心臓の病気がある人で生じやすいです。そのため、生活習慣病治療中の人や心疾患がある人では特に注意が必要です。
他にも、喫煙などの生活習慣や、加齢も起こりやすい要因となります。
心不全になりやすい人の特徴
高血圧や脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病がある場合、血管に負担がかかりやすくなり、動脈硬化の進行や心負荷の増加により、虚血性心疾患や不整脈、弁膜症などの様々な心疾患を引き起こしやすくなり、心不全のリスクが高まります。
心臓の疾患がある
心不全は、虚血性心疾患や不整脈、弁膜症など様々な心臓の病気が原因で引き起こされることがあります。
そのため、通院を続けて処方を継続すること、定期的な検査による状態の評価、適切な処方の調整が非常に大切です
これまでなかった胸痛や動悸、息切れなどの症状が出現する場合には、中には命の危険がある疾患の可能性もあるため、早急な受診が必須です
高齢者
基本的には加齢に伴って、高齢になると動脈硬化が進行します。
それに伴って心疾患の発症リスクも高まってしまうため、定期的な健診などによる評価や、通院中の病気がある方は通院を継続することが大切です。
生活習慣がみだれている人
生活習慣病や心疾患は生活習慣と密接にかかわっています。
特に、塩分の過剰摂取やカロリー摂取、喫煙、お酒の飲みすぎ、肥満、運動不足、不規則な生活リズム、過度のストレスなどは生活習慣病や心臓疾患のリスクとなるため、普段の生活も注意する必要があります。
心不全の治療法
心不全の治療は、原因となった病気の治療と、心不全によって生じる病態に対する治療があります。どのような治療が行われるのか、詳しく解説をしていきます。
薬物治療
内服薬や点滴・注射で薬剤による治療を行います。
肺に水がたまる胸水が生じた場合や、全身のむくみなどがある場合には利尿剤を使用することがあります。ほかにも、心機能が低下している場合や血圧が低い場合には強心剤や昇圧剤、心臓を保護する作用がある薬の使用、血圧が高い場合には血圧降下剤というように、それぞれの病態に応じた薬剤を使用します。
呼吸管理
突然心不全を発症した場合や、心不全の症状の程度が強い場合、肺に多量の水が溜まってしまう場合には、呼吸への障害が強まるため、呼吸をサポートする必要が生じ、酸素吸入や、肺に陽圧をかける呼吸器を使用した治療、より重症となると人工呼吸器を装着した高度な治療が行われることがあります。
循環管理
心不全の重症度が高くなり、心機能が大きく低下してしまうと、全身の臓器への血液の供給が低下し、臓器不全を起こしてしまいます。そのため、心臓の機能を補助し、血液の循環をサポートする治療が必要となります。大動脈内バルーンパンピング(IABP)という、血管の中に特殊な風船(バルーン)が付いたカテーテルと呼ばれる管を挿入し、心臓の動きに合わせてバルーンを拡張・収縮させることで心臓の働きをサポートする方法や、心臓の代わりに体外のポンプから酸素化した血液を送り込む人工心肺などの補助循環装置を使用する事もあります。
「心不全で肺に水がたまった場合の余命」についてよくある質問
ここまで心不全で肺に水がたまった場合の余命などを紹介しました。ここでは「心不全で肺に水がたまった場合の余命」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
心不全で肺に水がたまった場合、入院期間はどれくらいですか?
小鷹 悠二 医師
患者さんの年齢や合併症、心不全の原因となる疾患、元の心機能、身体機能など様々な要因によって変わります。
軽度な場合には、経口の利尿剤などの調整を外来で行い、入院しないで治療することもあります。しかし、重症度が高い場合や原因疾患、患者さんの状態によっては入院治療が必要となります。入院期間は、1週間程度で退院できることもありますが、原因疾患や心不全の重症度によってはより長期の入院が必要となり、1か月以上になることもあります。特に高齢者では心不全治療だけでなくリハビリなども必要となることが多く、長期化しやすい傾向があります。
高齢者で心不全を発症した場合、余命はどれくらいですか?
小鷹 悠二 医師
原因となる疾患や、患者さんの状態により様々です。
無治療・適切な治療がされない場合は、5年生存率が50%とする報告もありましたが、近年では適切な治療が行われれば、より長期の生存が期待できるようになり、予後も改善してきています。
編集部まとめ
今回は心不全、特に肺に水がたまるような状態となった時のことについて解説しました。
直接的に予後と結びつくわけではありませんが、心不全が悪化している状態で出現することが多いため、早急に適切な治療を受ける必要があります。
心疾患や生活習慣病の治療歴がある方は、しっかりと通院や定期的な検査を受けることが大切です。
「心不全」と関連する病気
「心不全」と関連する病気は4個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
循環器科の病気
- 虚血性心疾患(急性心筋梗塞、狭心症)
- 不整脈
- 心臓弁膜症
- 心筋症
心不全は、上記のようなさまざまな心臓の病気が原因で引き起こされることがあります。そのため、定期的な検査による状態の評価や適切な処方の調整が重要となります。
「心不全」と関連する症状
「心不全」と関連している、似ている症状は4個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 息切れ、呼吸が苦しい
- 胸痛
- 動悸
- 浮腫、体重増加
肺に水がたまる胸水を伴った心不全では、上記のような症状が挙げられます。