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「空腹時の胃痛は胃がん」を疑った方がいい?医師が徹底解説!

 公開日:2025/10/23
「空腹時の胃痛は胃がん」を疑った方がいい?医師が徹底解説!

空腹時の胃痛は胃がんを疑った方がいい?メディカルドック監修医が胃がんを発症すると空腹時に胃痛を感じる原因・初期症状・なりやすい人の特徴・予防法などを解説します。気になる症状がある場合は迷わず病院を受診してください。

齋藤 雄佑

監修医師
齋藤 雄佑(医師)

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日本大学医学部を卒業。消化器外科を専門とし、現在は消化器外科、消化器内科、産業医を中心に診療を行っている。現在は岩切病院、永仁会病院に勤務。
日本外科学会外科専門医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。

「胃がん」とは?

胃がんは、胃の壁の一番内側にある「粘膜」という層の細胞が、何らかの理由でがん細胞に変わり、無秩序に増え続けてしまう病気です。胃の壁は、内側から粘膜、粘膜下層、固有筋層、漿膜下層、漿膜という層構造になっています。がんはまず粘膜で発生し、進行するにつれて外側の層へと深く広がっていく(浸潤する)と考えられています。また、胃の近くにあるリンパ節や、血液の流れに乗って肝臓や肺など他の臓器に転移することも少なくありません。日本では、早期発見・早期治療によって高い確率で治癒が期待できるがんの一つとしても知られています。

空腹時の胃痛は胃がんを疑った方がいい?

「お腹が空くと胃がしくしく痛む」という経験がある方もいらっしゃるかもしれません。このような空腹時の胃痛は、胃がんを直接的に疑う特徴的な症状とは言えない場合が多いです。むしろ、胃酸の分泌が多くなることで胃や十二指腸の粘膜が刺激されて起こる「胃潰瘍」や「十二指腸潰瘍」でよく見られる症状と考えられています。
しかし、胃がんの可能性が全くないわけではありません。胃がんが進行して表面に潰瘍ができると、それが胃酸によって刺激され、空腹時に痛みを感じることもあります。そのため、「空腹時の胃痛はがんではない」と自己判断してしまうのは危険です。特に、市販の胃薬を飲んでも症状が改善しない、痛みが続く、あるいは悪化するといった場合には、消化器内科などの専門医に相談することが非常に重要です。

胃がんを発症すると空腹時に胃痛を感じる原因

胃がんによる潰瘍形成

空腹時に胃痛を感じる原因として、胃がんそのものが直接痛みを引き起こしているというよりは、がんによって生じた二次的な状態が影響している可能性が考えられます。進行した胃がんの表面は、正常な粘膜とは異なり、もろく崩れやすい状態になることがあります。その結果、がんの中心部がえぐれて「潰瘍(かいよう)」という、粘膜が深く傷ついた状態を形成することもあるのです。
空腹時は、食事を消化するための胃酸が胃の中に多く分泌されている状態です。この胃酸が、がんによってできた潰瘍の部分を直接刺激することで、しくしくとした痛みや焼けるような痛みとして感じられることがあります。病気としては胃がんが背景にありますが、症状のメカニズムとしては胃潰瘍に近いと言えるかもしれません。このような症状が出た場合は、すでにがんがある程度進行している可能性も考えられるため、速やかに消化器内科を受診し、胃カメラなどの精密検査を受けることが推奨されます。

がんの増大による胃の機能低下

がんが大きくなること自体が、胃の不調の原因となることがあります。腫瘍が増大すると、胃の正常な運動(食べ物を混ぜたり、十二指腸へ送ったりする動き)が妨げられたり、食べ物の通り道が物理的に狭くなったりします。このため、食後の胃もたれや、すぐに満腹感を得てしまう「早期飽満感」、吐き気といった症状が引き起こされやすくなります。このような胃の機能低下による全般的な不快感が、空腹時の痛みとして感じられる、あるいは痛みを増強させる一因となる可能性も考えられます。

がんの発生部位による胃酸の逆流

胃がんが胃の入り口(噴門部)付近にできた場合、胃と食道を隔てる筋肉の働きを妨げることがあります。この機能が低下すると、胃の内容物、特に強い酸性である胃酸が食道へ逆流しやすくなるため注意が必要です。これにより、胸やけや、胸のあたりが焼けるような痛みが生じることがあります。この不快感を、みぞおちや胃の痛みとして感じることもあり、特に胃が空っぽで胃酸が濃い状態の時に症状が現れやすくなる可能性があります。

胃がんの前兆となる初期症状

胃もたれ

胃がんの初期段階では、自覚症状がほとんどないか、あっても非常に軽い場合が多いとされています。もし症状が現れるとしても、「なんとなく胃の調子が悪い」「食後に胃がもたれる」といった、日常的によく経験するような胃の不快感であることが少なくありません。これらの症状は、胃炎や胃潰瘍など他の病気でもよく見られるため、胃がん特有のサインとは言えません。ご自身で症状を和らげるために市販の胃薬を服用することもあるかと思いますが、それは一時的な対処に過ぎず、根本的な解決にはなりません。もし胃の不快感やみぞおちのあたりの違和感が続くようであれば、安易に考えず、消化器内科など専門の医療機関を受診することが重要です。

胸焼け・曖気

胸やけや、酸っぱい液体が上がってくるような感じ(呑酸)、頻繁に出る曖気(げっぷ)も、胃がんの症状として現れることがあります。これらは、がんが胃の入り口(噴門部)の近くにできた場合に、胃の機能が低下したり、胃酸が食道へ逆流しやすくなったりすることで起こると考えられます。これらは「逆流性食道炎」と非常によく似ている症状です。症状を和らげるために生活習慣として、食後すぐに横にならない、刺激物を避けることなども大切です。また、症状の原因が何であるかを正確に突き止めることが最も重要と言えます。特に、これまで経験したことのないような胸やけやげっぷが続く場合は、一度、精密検査を受けられる医療機関にご相談ください。

悪心・嘔吐

はっきりとした理由がないのに、食欲がわかない状態が続いたり、吐き気や嘔吐を繰り返したりする場合も注意が必要です。がんが大きくなることで、胃の動きが悪くなったり、食べ物の通り道が狭くなったりすることが原因と考えられます。特に、食事の量が変わらないのに、すぐにお腹がいっぱいになる感じ(早期飽満感)がする場合も、胃がんのサインである可能性があります。これらの症状に対するご自身での対処法は、根本的な治療にはつながりません。食事をとることが難しくなると、体力や栄養状態の低下にもつながります。食欲不振や吐き気が続く場合は、我慢せずに早めに消化器内科や内科を受診してください。

黒色便

便が黒っぽく、まるで海苔の佃煮やイカ墨のようになる「黒色便(タール便)」は、食道や胃、十二指腸など、上部消化管からの出血を示唆する重要なサインです。胃がんの表面がもろくなって出血すると、血液が胃酸と反応して黒く変化し、便に混じって排出されることがあります。黒色便が出た場合は、体内で出血が起きている可能性が高いため、緊急性が高い状態と考えられます。すぐにできる処置は特にありませんので、症状に気づいたら、様子を見ずに直ちに医療機関を受診してください。出血が続くと貧血が進行し、めまいや立ちくらみ、動悸といった症状が現れることもあります。

体重減少

ダイエットや運動をしていないにもかかわらず、数ヶ月の間に体重が数キログラム以上減少した場合も、注意が必要です。これは、がん細胞が体の栄養を消費してしまったり、食欲不振や消化吸収の能力が低下したりすることで起こると考えられています。体重減少は、がんが進行している場合に見られることがある症状の一つです。もちろん、他の病気やストレスなどが原因である可能性もありますが、原因不明の体重減少は体からの重要なメッセージと捉えるべきです。このような変化に気づいたら、内科や消化器内科を受診し、医師に相談することをお勧めします。

胃がんになりやすい人の特徴

ヘリコバクター・ピロリ菌の感染者

胃がんの発生に最も強く関連していると考えられているのが、「ヘリコバクター・ピロリ菌」の感染です。ピロリ菌が長期間胃の粘膜にすみつくことで、慢性的な炎症(慢性胃炎)が起こります。この状態が長く続くと、胃の粘膜が薄くやせてしまう「萎縮性胃炎」へと進行し、その一部から胃がんが発生するリスクが高まることがわかっています。
ピロリ菌に感染しているかどうかは、血液検査や呼気検査、便の検査などで調べることができます。もし感染が確認された場合は、抗菌薬などを1週間服用する「除菌治療」を受けることで、将来の胃がんリスクを大幅に下げることが期待できます。

塩分摂取量が多い人

食生活も胃がんのリスクに大きく関わっていると考えられています。特に、塩分の多い食事(塩辛、漬物、干物など)を長期間にわたって摂り続けることは、胃の粘膜を傷つけ、炎症を引き起こすため、胃がんの発生リスクを高めることが指摘されています。一方で、胃がんになりにくい人の特徴は、塩分を控えめにし、野菜や果物を豊富に摂るバランスの取れた食生活を心がけていることです。野菜や果物に含まれるビタミンなどが、胃の粘膜を保護する働きを持つと考えられています。日頃から減塩を意識し、彩り豊かな食事を心がけることが大切です。

喫煙者

喫煙は、肺がんだけでなく胃がんのリスクも高めることが多くの研究で示されています。タバコの煙に含まれる多くの発がん性物質が、唾液と共に飲み込まれたり、血液中に吸収されたりして胃の粘膜に到達し、がん細胞の発生を促すためと考えられています。喫煙者は非喫煙者に比べて、胃がんになるリスクが男性で約2倍、女性でも有意に高くなると報告されているため、注意が必要です。胃がんの予防を考える上で、禁煙は非常に重要な要素です。ご自身の意思だけで禁煙することが難しい場合は、禁煙外来などで専門家のサポートを受けることも有効な選択肢となります。

アルコールの量が多い人

過度な飲酒も、胃がんのリスクを高める要因の一つです。特に、高濃度のアルコールを頻繁に飲む習慣は、直接的に胃の粘膜を傷つけ、炎症を引き起こす可能性があります。また、アルコールそのものにも発がん性があると考えられています。もちろん、適度な飲酒が直ちに問題となるわけではありませんが、日常的に多くのアルコールを摂取する習慣がある方は注意が必要です。休肝日を設ける、飲む量を減らすなど、節度ある飲酒を心がけることが、胃の健康を守ることにつながります。

血縁者に胃がんの方がいる人

胃がんの中には、遺伝的な要因が関与していると考えられるものもあります。ご両親や兄弟姉妹など、血縁の近いご家族に胃がんになった方がいる場合、ご自身も胃がんになるリスクが一般の方より高くなる可能性があるため注意が必要です。これは、遺伝的な体質が似ていることや、同じような生活習慣(食生活など)を送っていることが影響していると考えられます。
ご家族に胃がんの既往歴がある方は、特に注意が必要です。そうでない方よりも若いうちから、そしてより定期的に胃がん検診(胃X線検査や胃内視鏡検査)を受けることが、早期発見のために強く推奨されます。

胃がんの予防法

ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌

胃がんの予防において、現在最も効果的と考えられている方法の一つが、ヘリコバクター・ピロリ菌の検査を受け、陽性であれば除菌治療を行うことです。ピロリ菌の除菌に成功すると、胃の粘膜の炎症が改善し、新たな胃がんが発生するリスクを大きく下げることができると報告されています。除菌治療は、数種類の薬を1週間服用するだけで、成功することが多いです。特に、胃の粘膜の萎縮が進んでいない若い世代のうちに除菌する方が、より高い予防効果が期待できると考えられています。一度もピロリ菌の検査を受けたことがない方は、かかりつけ医や消化器内科で相談してみることをお勧めします。

塩分を控える

日々の食生活を見直すことも、胃がんの予防につながる重要なポイントです。具体的には、塩分の摂取量を控えることが第一に挙げられます。塩辛い食品を好んで食べる方は、少しずつ頻度や量を減らす工夫をしてみましょう。加工食品に含まれる塩分にも注意が必要です。
また、緑黄色野菜や果物を積極的に食事に取り入れることも推奨されています。これらに含まれるビタミンCやβ-カロテンなどには、がんの発生を抑制する効果が期待されています。特定の食品だけを食べるのではなく、様々な食品をバランス良く組み合わせ、彩り豊かな食卓を心がけることが大切です。

禁煙する

禁煙と、節度のある飲酒を心がけることも、胃がんのリスクを減らすために非常に重要です。喫煙は胃がんの確実なリスク要因であり、禁煙することでそのリスクを下げることができます。飲酒に関しても、飲む場合は適量を守り、休肝日を設けるなど、胃に負担をかけすぎないようにしましょう。

これらの生活習慣の改善は、胃がんだけでなく、他の多くのがんや生活習慣病の予防にもつながります。ご自身の健康的な未来のために、今日からできることから始めてみることが大切です。

「空腹時の胃痛と胃がん」についてよくある質問

ここまで空腹時の胃痛と胃がんについて紹介しました。ここでは「空腹時の胃痛と胃がん」についてよくある質問に、メディカルドック監修医がお答えします。

空腹時の胃痛を感じる原因について教えてください。

齋藤 雄佑齋藤 雄佑 医師

空腹時に胃が痛む原因として最も考えられるのは、胃酸の分泌によるものです。お腹が空いているときは、食べ物を消化するために分泌された胃酸が、胃の中に直接とどまりやすくなります。この強い酸が胃の粘膜を刺激することで、痛みを感じることがあります。特に、胃潰瘍や十二指腸潰瘍など、粘膜に傷がある場合は、その部分が強く刺激されるため、痛みが顕著に現れやすいです。
一方で、胃がんが進行して潰瘍を形成した場合にも、同様のメカニズムで痛みが生じる可能性があります。したがって、空腹時の胃痛が続く場合は、単なる胃酸過多と自己判断せず、一度は消化器内科を受診し、原因を正確に調べてもらうことが大切です。

編集部まとめ 空腹時の胃痛がある人はまずは検査を

本記事では、空腹時の胃痛と胃がんの関係性、胃がんの初期症状やなりやすい人の特徴、そして予防法について解説しました。空腹時の胃痛は、胃がんよりも胃潰瘍や十二指腸潰瘍でよく見られる症状ですが、胃がんの可能性を完全に否定することはできません。
胃がんの多くは、初期の段階では自覚症状がほとんどありません。そのため、症状がないうちから定期的に胃がん検診を受けることが、早期発見のためには非常に重要です。また、胃がんの最大のリスク要因であるヘリコバクター・ピロリ菌の検査・除菌や、減塩を中心とした食生活の見直し、禁煙といった予防策を実践することも大切です。
もし、胃の痛みや不快感、胸やけ、食欲不振など、気になる症状が続く場合は、決して自己判断で放置せず、速やかに消化器内科などの専門の医療機関を受診するようにしてください。

「胃がん」と関連する病気

「胃がん」と関連する病気は7個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからメディカルドックの解説記事をご覧ください。

消化器科の病気

胃の不調は様々な病気のサインである可能性があります。症状だけで判断せず、専門医の診断を受けることが重要です

「胃がん」と関連する症状

「胃がん」と関連している、似ている症状は7個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからメディカルドックの解説記事をご覧ください。

関連する症状

  • みぞおちの痛み
  • 胸やけ
  • 食欲不振
  • 黒い便(タール便)
  • 原因不明の体重減少

これらの症状が複数当てはまる、あるいは長期間続く場合は、放置せずに医療機関で医師にご相談ください。

この記事の監修医師