「食道がん」を発症すると「背中のどこに痛み」を感じるの?初期症状も医師が解説!

食道がんを発症すると背中にどんな痛みを感じる?メディカルドック監修医が背中のどこに痛みを感じるか・初期症状・原因などを解説します。気になる症状がある場合は迷わず病院を受診してください。

監修医師:
齋藤 雄佑(医師)
日本外科学会外科専門医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。
目次 -INDEX-
「食道がん」とは?
食道がんは、食道の粘膜から発生する悪性の腫瘍です。食道は口から胃へと続く管状の臓器で、食べ物や飲み物を胃に運ぶ役割を担っています。食道がんは、発生する部位や細胞の種類によっていくつかのタイプに分けられますが、日本では扁平上皮がんがそのほとんどを占めます。一方、欧米では胃酸の逆流が原因で発生する「腺がん」が多いです。食道がんは、初期の段階では自覚症状がほとんどないため、発見が遅れやすいがんの一つです。しかし、進行すると食べ物の通り道である食道を塞いだり、周囲の重要な臓器(気管、大動脈、心臓など)に影響を及ぼしたりする可能性があり、早期発見・早期治療が非常に重要となります。
食道がんを発症すると背中にどんな痛みを感じる?
食道がんの症状として「背中の痛み」を心配される方がいらっしゃいますが、これは、がんがある程度進行した際に見られることがある症状です。ここでは、その痛みの特徴について詳しく解説します。
持続的で鈍い痛み
食道がんによる背中の痛みは、ぎっくり腰や寝違えのような急性の鋭い痛みとは異なります。多くの場合、「重苦しい」「鈍い」「締め付けられるような」と表現される、持続的な痛みが特徴です。はじめは軽い違和感程度だったものが、時間の経過とともに徐々に痛みが強くなっていく傾向があります。体を動かした時だけ痛むのではなく、安静にしていても痛みが続くことが多いのも、筋肉や骨の痛みとは異なる点です。
食事と関連する痛み
食道は食べ物が通過する臓器であるため、食事の際に痛みが強まることがあります。特に、食べ物を飲み込んだときに、背中や胸の奥に痛みが響くように感じられる場合があります。がんが大きくなり食道を圧迫したり、周囲の組織に広がったりすることで、食べ物が通過する刺激が痛みとして感じられるのです。食事のたびに背中が痛む、という症状が続く場合は注意が必要です。
他の症状を伴うことが多い
食道がんによる背中の痛みは、単独で現れることは比較的稀です。多くの場合、食道がんの他の症状、例えば「食べ物がつかえる感じ(嚥下困難感)」、「胸の痛みや違和感」、「体重の減少」といった症状を伴います。原因不明の背中の痛みに加え、これらの症状が一つでも当てはまる場合は、速やかに医療機関を受診することを強くお勧めします。
食道がんを発症すると背中のどこに痛みを感じる?
食道がんが原因で背中に痛みが出る場合、どのあたりに痛みを感じやすいのでしょうか。痛む場所や受診の目安について解説します。
肩甲骨の間
食道は胸の中心、背骨のすぐ前を通っています。そのため、食道がんが進行し、食道の壁を越えて背中側の組織にまで広がると、痛みを感じる神経を刺激することがあります。特に、胸の真ん中あたりにある「胸部中部食道」にがんができた場合、その背中側にあたる左右の肩甲骨の間あたりに痛みを感じることが多いです。
背中の中央から上部
がんが食道の上部や下部にできた場合でも、関連痛として背中の中央部から上部にかけて痛みが出ることがあります。痛み方は「ズキズキ」「ジンジン」といった表現がされることもあります。背中の痛みの原因は、整形外科的な疾患(椎間板ヘルニアなど)や内臓の他の病気(膵炎、心筋梗塞など)も考えられるため、痛みの部位だけで食道がんと断定することはできません。
背中の痛みが1〜2週間以上続く場合や、徐々に痛みが強くなる場合、そして特に「食べ物のつかえ感」や「体重減少」を伴う場合は、自己判断で様子を見ずに、まずは消化器内科や胃腸科を受診してください。受診の際は、「いつから、背中のどのあたりが、どのように痛むのか」「食事との関係はあるか」「他にどのような症状があるか」を具体的に医師に伝えることが、正確な診断への近道となります。
食道がんを発症すると背中に痛みを感じる原因
がんの浸潤(しんじゅん)
食道がんが背部痛を引き起こす最も大きな原因は、がんが食道の壁を越えて周囲の組織や臓器に広がっていく「浸潤」です。食道のすぐ後ろには背骨(椎骨)があり、その周囲には神経が豊富に存在します。がん細胞が食道の外にまで及び、これらの神経や背骨の膜、あるいは大動脈の外膜といった痛覚を感じる組織に達すると、痛みとして認識されるのです。
リンパ節への転移
食道の周りには、リンパ管が網の目のように張り巡らされており、多数のリンパ節が存在します。がんはこのリンパ管を通って、周囲のリンパ節に転移することが少なくありません。転移によって腫れ上がったリンパ節が、背中側にある神経を圧迫することで、痛みを引き起こすことがあります。特に、気管の分岐部や食道の後方にあるリンパ節が腫れると、背部痛の原因となり得ます。
骨への遠隔転移
さらにがんが進行すると、血液の流れに乗って全身の臓器に転移(遠隔転移)することがあります。食道がんが転移しやすい場所の一つに「骨」があり、特に背骨(椎骨)への転移は、持続的で強い痛みの原因となります。骨転移による痛みは、体を動かしたときや、夜間に強くなる傾向があり、場合によっては骨がもろくなって骨折(病的骨折)を起こすこともあるため注意が必要です。
食道がんを発症し背中の痛みも伴う場合のステージ分類とは?
進行がん(ステージⅡ以上)
がんの進行度は、がんの深さ(T)、リンパ節への転移の有無と範囲(N)、他の臓器への遠隔転移の有無(M)を組み合わせて決定され、多くはステージ0からステージIVの5段階に分類されます。
背中の痛みがある場合、前述したように、がんが食道の壁を越えて周囲の組織に浸潤している(T3以上)、あるいはリンパ節や遠隔臓器に転移している可能性が非常に高いと考えられます。これは、一般的にステージⅡ以上の進行がんに分類される状態です。
この段階になると、治療はより複雑になります。手術だけでなく、化学療法(抗がん剤治療)や放射線治療を組み合わせた「集学的治療」が必要となることがほとんどです。また、背中の痛み以外にも、声がかすれる(反回神経への浸潤)、頑固な咳や血痰(気管や肺への浸潤)、著しい体重減少など、全身に様々な症状が現れることがあります。痛みを和らげるための緩和ケアも、治療の重要な柱となります。
食道がんの前兆となる初期症状
食べ物がつかえる・しみる感じ
食道がんの最も代表的で、最も注意すべき初期症状は、食べ物を飲み込んだときの違和感です。具体的には、「食べ物が胸のあたりでつかえる感じがする」「食べ物がスムーズに胃に落ちていかない感じ」といった嚥下困難感(えんげこんなんかん)です。また、熱いもの、酸っぱいもの、香辛料のきいたものなどを飲み込んだときに、胸がチリチリとしみるような痛みを感じることもあります。これらは、がんによって食道の粘膜が荒れたり、内腔が狭くなったりすることで生じる症状です。
胸の違和感や胸焼け
がんが食道の壁の中で広がることにより、「胸の奥が圧迫されるような感じ」「なんとなく不快な感じ」といった、漠然とした胸部違和感を覚えることがあります。これらの症状は、逆流性食道炎による胸焼けと似ているため、市販の胃薬などで一時的に症状が和らぐこともあり、見過ごされやすい傾向があります。しかし、薬を飲んでも症状がすっきりしない、あるいは繰り返す場合は注意が必要です。
原因不明の咳や声のかすれ
初期症状としては稀ですが、食道の上部、喉に近い部分にがんができると、声帯をコントロールする神経(反回神経)に影響が及び、声がかすれる(嗄声:させい)ことがあります。また、がんが気管に近づくことで刺激となり、原因のはっきりしない咳が続くこともあります。これらの症状が見られた場合も、耳鼻咽喉科や呼吸器内科とあわせて、消化器内科の受診を検討することが重要です。これらの初期症状は非常に軽微なことが多く、「気のせいかな」「疲れているだけかな」と見過ごしてしまいがちです。しかし、これらのサインを見逃さず、症状が続くようであれば、迷わず消化器内科で内視鏡検査(胃カメラ)を受けることが、早期発見につながります。
食道がんの主な原因
喫煙と飲酒
食道がん(特に扁平上皮癌)の二大リスク因子は、喫煙と飲酒です。タバコの煙に含まれる多くの発がん性物質は、食道の粘膜を直接傷つけ、がんの発生を促進します。また、アルコールが体内で分解される際に生じる「アセトアルデヒド」という物質にも強い発がん性があります。特に、お酒を飲むと顔が赤くなるタイプの人は、このアセトアルデヒドを分解する酵素の働きが弱い遺伝的体質であり、食道がんのリスクが非常に高いことが知られています。喫煙と飲酒、両方の習慣がある人は、リスクが相乗的に高まるため、最大限の注意が必要です。
刺激のある飲食物の習慣
お茶やスープなど、熱いものを熱いまま飲む習慣も、食道がんのリスクを高めることが指摘されています。熱いものが食道を通過する際に粘膜に軽いやけど(熱による損傷)を繰り返し引き起こし、その修復過程で遺伝子に異常が生じ、がん化につながると考えられています。また香辛料などの刺激のある食品も同様に炎症の原因となりますので、摂取量には注意をしましょう。
食生活の偏りと逆流性食道炎
野菜や果物の摂取不足といった食生活の偏りも、リスク因子の一つとされています。一方で、近年日本でも増加している食道腺がんの主な原因は、胃酸などが食道へ逆流する「胃食道逆流症(GERD)」や、それによって食道粘膜が胃の粘膜のように変化してしまう「バレット食道」です。肥満や脂肪分の多い食事、食後すぐに横になる習慣などは、胃食道逆流症を悪化させ、腺がんのリスクを高める可能性があります。
「食道がんと背中の痛み」についてよくある質問
ここまで食道がんと背中の痛みの関係性などを紹介しました。ここでは「食道がんと背中の痛み」についてよくある質問に、メディカルドック監修医がお答えします。
食道がんを発症すると体のどこに痛みを感じることが多いのでしょうか?
齋藤 雄佑 医師
食道がんによる痛みは、がんの進行度や発生した場所によって異なります。最も重要なことは、早期の食道がんでは痛みなどの自覚症状はほとんどないということです。がんが進行してくると、まず感じやすいのは胸の奥の痛みです。専門的には「胸骨後部痛」と呼び、胸の真ん中の骨の後ろあたりに、しみるような、あるいは締め付けられるような痛みとして感じられます。これは、食べ物を飲み込んだときに特に感じやすい症状です。さらにがんが食道の壁を越えて周囲に広がると、この記事で詳しく解説したように背中の痛み、特に肩甲骨の間あたりに痛みを感じることがあります。これは、がんが進行している可能性を示す重要なサインです。また、がんが声帯を動かす神経に及ぶと喉の痛みや声のかすれ、気管や肺に及ぶと持続する咳、骨に転移すればその部位の痛み(背骨や腰など)が生じることもあります。痛みの感じ方や場所は様々ですが、いずれにしても何らかの痛みが続く場合は、安易に考えず専門医に相談してください。
編集部まとめ 背中の痛みは食道がんの可能性も。リスクがある人は、早めの受診を!
本記事では、食道がんと背中の痛みの関係について、その特徴、原因、関連するステージ、そして本来注意すべき初期症状などを詳しく解説しました。背中の痛みが続くと、何か悪い病気ではないかと不安になるお気持ちはよく分かります。しかし、背中の痛みの原因の多くは、筋肉や骨格系の問題です。ただし、その中に食道がんのような重大な病気が隠れている可能性もゼロではありません。この記事を読んで、ご自身の症状に少しでも思い当たる点があれば、どうか放置しないでください。特に、喫煙や飲酒の習慣がある方、50歳以上の方は、症状がなくても定期的に内視鏡検査(胃カメラ)を受けることをお勧めします。食道がんは、早期に発見できれば治癒が十分に期待できる病気です。皆様がご自身の体のサインに耳を傾け、適切な医療につながる一助となれば幸いです。
「食道がん」と関連する病気
「食道がん」と関連する病気は7個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからメディカルドックの解説記事をご覧ください。
消化器科の病気
- 胃食道逆流症
- バレット食道
- 胃がん
食道がんは胃や喉、骨といった他の臓器とも関連が強い疾患です。異常を感じたら早めに医療機関を受診してください。
「食道がん」と関連する症状
「食道がん」と関連している、似ている症状は6個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからメディカルドックの解説記事をご覧ください。
上記の症状が見られる方は一度医療機関を受診し、胃カメラなどの精密検査をうけることをおすすめします。

