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「乳がんのステージ1でも骨転移」する可能性はあるのか?検査法も医師が解説!

 公開日:2025/10/27
「乳がんのステージ1でも骨転移」する可能性はあるのか?検査法も医師が解説!

乳がんは、早期発見・早期治療によって高い治癒率が期待できるがんの一つです。しかし、ステージ1という早期の段階で診断されたにも関わらず、まれに骨転移を経験するケースがあることをご存知でしょうか。これは、乳がんの特性や、微小な転移の診断時の見逃しなどの要因が絡み合って起こりえます。この記事では、乳がんのステージ分類から、ステージ1と診断された後に骨転移が判明するメカニズム、骨転移の具体的な症状、そしてその検査方法や治療法を詳しく解説します。

石橋 祐貴

監修医師
石橋 祐貴(医師)

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奈良県立医科大学卒業後、東京大学整形外科教室に入局。東京大学医学部附属病院、都立駒込病院、自治医科大学附属さいたま医療センターに勤務し、主に整形外科の腫瘍領域である骨軟部腫瘍および骨転移の診療に従事。日本整形外科学会整形外科専門医、運動器リハビリテーション医、がん治療認定医、認定骨軟部腫瘍医、緩和ケア研修会修了医。

・診療科目
整形外科全般、がん骨転移、骨軟部腫瘍領域、緩和ケア領域など

乳がんのステージ分類

乳がんのステージ分類

乳がんのステージは、がんの進行度を示す指標であり、治療方針を決定するうえで重要です。ステージは、以下の3つの要素を組み合わせて決定されます。1)

  • T(Tumor:腫瘍の大きさ)
    原発巣である乳房内のがんの大きさや、周囲組織への広がりを示します。
  • N(Node:リンパ節転移)
    がん細胞が近くのリンパ節(特に腋窩リンパ節)に転移しているかどうか、転移している場合のリンパ節の数や大きさを示します。
  • M(Metastasis:遠隔転移)
    がん細胞が乳房やリンパ節から離れた臓器(骨、肺、肝臓、脳など)に転移しているかどうかを示します。

これらのTNM分類に基づいて、乳がんはステージ0からステージIVまでの段階に分けられます。

  • ステージ0(非浸潤がん)
    がん細胞が乳管や小葉の中にとどまっており、周囲に浸潤していない状態です。
  • ステージI
    腫瘍が小さく(2cm以下)、リンパ節転移や遠隔転移がない状態です。
  • ステージII
    腫瘍がやや大きいか(2cm超5cm以下)、リンパ節転移があるが遠隔転移がない状態です。
  • ステージIII
    腫瘍がさらに大きいか、広範囲のリンパ節転移がある、または胸壁や皮膚に浸潤しているが、遠隔転移がない状態です。
  • ステージIV
    遠隔転移が確認された状態です。骨、肺、肝臓、脳など、乳房から離れた臓器にがんが転移しています。

乳がんステージ1と診断されたのに骨転移するケースとは

乳がんステージ1と診断されたのに骨転移するケースとは

「ステージ1と診断されたのに骨転移?」と疑問に感じる方もいるかもしれません。ステージ1は遠隔転移がない状態を指すため、矛盾するように思えます。しかし、以下のような理由から、ステージ1と診断された後に骨転移が判明するケースがまれに存在します。

診断時の微小転移の見落とし

乳がんの診断時に、画像検査ではとらえきれないほど微小な骨転移がすでに存在していた可能性があります。特に、転移巣が小さい場合や、骨の構造と重なって見えにくい場合など、通常のCTや骨シンチグラフィでは検出が困難なことがあります。このような微小な転移は潜在性転移と呼ばれ、診断時にはM0(遠隔転移なし)と判断されても、時間が経過するにつれて増殖し、症状を伴う骨転移として顕在化することがあります。2)

がんの生物学的特性

乳がんにはさまざまなサブタイプがあり、その生物学的特性も異なります。例えば、トリプルネガティブ乳がんやHER2陽性乳がんの一部は、進行が速く、転移しやすい傾向があるとされています。3)また、ホルモン受容体陽性乳がんのなかにも、骨への親和性が高いタイプが存在する可能性も指摘されています。

乳がん骨転移の症状

乳がん骨転移の症状

乳がんが骨転移した場合、さまざまな症状が現れる可能性があります。早期に症状に気付き、適切な対応をすることが重要です。3)

骨折

骨転移により骨がもろくなり、本来なら骨折しないような軽い外力や、ときには何もしなくても骨折してしまうことがあります。これを病的骨折と呼びます。病的骨折は、強い痛みを伴い、日常生活に大きな支障をきたします。

痛み

骨転移の一般的な症状です。初期は鈍い痛みや違和感程度ですが、進行すると持続的な強い痛みになることがあります。特に、夜間や安静時に痛みが強くなることが特徴です。

脊椎圧迫によるしびれや麻痺

脊椎(背骨)に骨転移が生じ、がんが脊髄や神経根を圧迫すると、手足のしびれ、感覚の鈍麻、筋力低下、麻痺などの神経症状が現れることがあります。重度になると、排尿・排便障害(膀胱直腸障害)を引き起こすこともあり、緊急の治療を要する場合があります。

高カルシウム血症

骨転移により骨が破壊されると、骨に含まれるカルシウムが血液中に大量に放出され、血液中のカルシウム濃度が異常に高くなり、高カルシウム血症になります。症状としては、倦怠感、脱力感、食欲不振、吐き気、便秘、多尿、口渇などが現れ、重症化すると意識障害や不整脈を引き起こし、命に関わることもあります。

乳がん骨転移の検査方法

乳がん骨転移の検査方法

乳がんの骨転移が疑われる場合や、定期的なスクリーニングのために、さまざまな検査が行われます。

骨シンチグラフィ

骨シンチグラフィは、骨転移のスクリーニングに広く用いられる検査です。放射性医薬品を静脈注射し、それが骨の代謝が活発な部位(骨転移巣など)に集積する様子を画像化します。全身の骨を一度に評価できるため、多発性の骨転移や、症状が出ていない部位の転移を発見するのに有用です。ただし、骨折や炎症など、がん以外の原因でも集積が見られることがあるため、ほかの検査と組み合わせて診断します。

PET検査(PET-CT)

PET検査(陽電子放出断層撮影)は、ブドウ糖に似た放射性薬剤(FDG)を注射し、がん細胞が活発にブドウ糖を取り込む性質を利用して、全身のがん病変を検出する検査です。骨転移だけでなく、ほかの臓器への転移も同時に評価できるため、全身のがんの広がりを把握するのに役立ちます。PET検査は、骨シンチグラフィよりも小さな転移巣を発見できる可能性がありますが、費用が高く、すべての施設で実施できるわけではありません。

画像検査(CT、MRI、X線)

主な画像検査は下記のとおりです。

  • X線検査
  • CT検査(コンピュータ断層撮影)
  • MRI検査(磁気共鳴画像)

X線検査は、骨転移の有無や形態を簡便に確認できますが、小さな病変や骨の重なりがある部位では見逃されることがあります。CT検査では、骨の破壊の程度や、周囲の軟部組織への広がりを詳細に評価できます。特に、病的骨折のリスク評価や、手術の計画に有用です。
MRI検査は骨髄内の病変や、脊髄・神経根への圧迫の有無を評価するのに優れています。神経症状がある場合や、脊椎転移が疑われる場合に特に有用です。

血液検査

血液検査では、骨代謝マーカーや腫瘍マーカーなどを測定し、骨転移の有無や活動性を間接的に評価します。

骨代謝マーカー

骨が破壊される際に放出される物質(例:ALP、TRACP-5b、NTXなど)や、骨が形成される際に放出される物質(例:BAP、PINPなど)を測定することで、骨の代謝状態を把握し、骨転移による骨破壊の程度を推測します。4)

腫瘍マーカー

乳がんの腫瘍マーカー(例:CEA、CA15-3など)の数値が上昇している場合、がんの活動性が高まっている可能性があり、骨転移の存在を示唆することがあります。5)

これらの検査は、患者さんの症状や病歴、これまでの治療経過などを考慮して、主治医が適切に選択・組み合わせて行われます。

乳がんについてよくある質問

ここまで乳がんを紹介しました。ここでは「乳がん」についてよくある質問に、メディカルドック監修医がお答えします。

初期の乳がんも骨に転移することがあるのですか?

はい、まれにですが、初期の乳がん(ステージ1など)と診断された後でも骨転移が判明することがあります。これは、診断時に画像検査ではとらえきれない微小な転移がすでに存在していた場合(潜在性転移)などが考えられます。そのため、ステージが早期であっても、治療後も定期的な経過観察と、体調の変化に注意を払うことが重要です。

乳がん骨転移の治療法を教えてください。

乳がん骨転移の治療は、大きく分けて乳がんそのものに対する全身療法と骨病変に対する局所療法の2本柱で行われます。全身療法としては、ホルモン療法、化学療法(抗がん剤)、分子標的治療、免疫療法などがあり、がんの進行を抑制することを目的とします。
骨病変に対する局所療法としては、痛みの緩和や骨折予防のための放射線治療、骨の安定化や神経圧迫解除のための手術、骨の破壊を抑える骨修飾薬(ビスホスホネート製剤、デノスマブなど)の使用、痛みを和らげるための鎮痛薬などがあります。

骨転移した乳がんの余命はどの程度ですか?

骨転移した乳がん(ステージIV)の余命は、患者さん一人ひとりの状態によって大きく異なり、一概に〇年と断定することはできません。がんのサブタイプ、転移部位の数と広がり、これまでの治療歴と効果、全身状態、治療への反応性など、さまざまな要因が影響します。


まとめ

まとめ

乳がんの骨転移は、ステージ1と診断された後でも起こりえる可能性があり、その症状は痛み、病的骨折、神経症状、高カルシウム血症など多岐にわたります。骨転移の診断には、骨シンチグラフィ、PET検査、CT、MRI、X線検査、血液検査などが用いられます。治療は、乳がんそのものに対する全身療法と、骨病変に対する局所療法を組み合わせることで、がんの進行を抑制し、痛みを緩和し、QOLを維持することを目指します。
骨転移と診断された場合でも、現在の医療では病状をコントロールし、がんと共存しながら生活できる期間が延びています。不安や疑問があれば、主治医や医療チームに積極的に相談し、適切な情報に基づいて治療を進めることが、充実した日々を送るための鍵となります。

関連する病気

  • 骨粗鬆症
  • 多発性骨髄腫
  • 前立腺がん
  • 肺がん

関連する症状

  • 持続する骨の痛み
  • 原因不明の骨折
  • 手足のしびれや麻痺

参考文献

  • 1)日本乳癌学会編:乳癌診療ガイドライン1治療編2022年版第5版.金原出版,2022
  • 3)深田 一平ら: 【骨転移の画像診断】骨転移を伴う乳癌の臨床(解説). 臨床画像 2020; 36: 911-917.
  • 4)柴田 浩行ら: 【骨転移の診療】骨転移の病態と診断(解説). 癌と化学療法 2023; 50: 283-286.

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