「腹膜播種」になると腹部に「どんな痛み」が現れるかご存じですか?医師が解説!

腹膜播種は、がん細胞がお腹の中(腹腔内)に散らばり、内臓を覆う膜(腹膜)に転移した状態です。病状が進行すると、つらい痛みやお腹のハリなどが生じ、日々の生活の質(QOL)に影響することがあります。
この記事では、腹膜播種の痛みを和らげるための具体的な治療法やご自宅での対処法、そして緩和ケアを詳しく解説します。

監修医師:
福田 滉仁(医師)
目次 -INDEX-
腹膜播種の痛みとは

痛みは、腹膜播種によって引き起こされる主な症状です。痛みの性質や強さは、病状や進行度によって異なります。まずは、なぜ痛みが生じるのか、その仕組みと特徴を解説します。
腹膜播種で痛みが生じる理由
腹膜播種は、がん細胞が腹腔内に播種し(散らばり)、腹膜で増殖する状態を指します。腹膜にできた、がん細胞のかたまり(播種巣)が腹膜の炎症や腹水などの原因となり、痛みを引き起こします。
腹水による圧迫
がん細胞から産生される物質によって血管やリンパ管から水分が外に漏れ出すことで、腹腔内に水(腹水)が溜まります。その結果お腹が張って内臓が圧迫され、お腹のハリや腹痛を引き起こします。
腸閉塞(イレウス)
播種した病変が腸を圧迫したり、腸の動きを妨げたりして、食べ物や便が詰まることがあります。腹痛だけではなく、吐き気や嘔吐、発熱、食欲不振などをきたすことがあります。
臓器への浸潤
がんが進行し、播種巣が内臓や筋肉、神経にまで広がること(浸潤)で、痛みを感じることがあります。また、がんによって尿の排泄に必要な尿管や、胆汁の排泄に必要な胆道が狭くなった場合、腹痛だけでなく、発熱や黄疸などさまざまな症状をきたすことがあります。
腹膜播種の痛みの程度
痛みの種類は、発生している場所によって異なります。痛みの種類はチクチクするような軽い痛みや、ズキズキとうずくような鈍い痛み、お腹のハリによる痛み、締めつけられるような強い痛みなどさまざまです。
また、同じ部位の播種であっても痛みの強さには個人差があります。ときには動くことが難しいほどの痛みを感じることもあります。痛みを我慢せず、医師や看護師に相談し、適切な対応をとることが重要です。
腹膜播種の痛みを緩和する治療法

腹膜播種の痛みを和らげるアプローチは、大きく分けて2つあります。一つは痛みの根本原因である、がんそのものに対する治療、もう一つは痛みを取り除く対症療法です。これらは、がんの種類、患者さんの全身状態やがんの進行度、痛みの原因に応じて組み合わせて行います。
腹膜播種の原因となるがんの治療
がん細胞の増殖を抑えて播種巣が小さくなれば、痛みの根本的な軽減につながる可能性があります。治療の中心は全身化学療法であり、がんの種類や患者さんの状態によって適切な方法を選択します。
全身化学療法(抗がん剤治療)
胃がん、膵がん、大腸がん、卵巣がんなど、腹膜播種の原因となるさまざまながんに対する標準的な治療です。点滴や内服によって抗がん剤を投与し、全身に散らばったがん細胞の縮小を目指します。
腫瘍減量手術
手術によって、目に見える腹膜の播種巣を可能な限り切除する方法です。完全な切除が難しい場合でも、腫瘍の量を減らすことで化学療法の治療効果を高めることや症状の緩和が期待できる場合があります。
腹腔内化学療法
腹腔内に直接抗がん剤を投与することで、腹膜の播種巣に高濃度の薬剤を到達させ、効果を高めることを目的とした治療法です。ただし、がんの種類によって適応が異なり、一部の薬剤は保険適用外であることには注意が必要です。
痛みに対する治療
がん自体の治療と並行して、痛みそのものを取り除くための対症療法も積極的に行われます。
薬物療法
腹膜播種による痛みには鎮痛薬が有効です。医療用麻薬であるオピオイドや、NSAIDs(ロキソプロフェンなど)、アセトアミノフェンなどの非オピオイド鎮痛薬を用います。鎮痛薬は、痛みの強さに応じて複数の種類を組み合わせて投与します。
薬物療法以外
神経ブロック
痛みの原因となっている神経の近くに薬剤を注射し、痛みの伝達を遮断する方法です。
放射線治療
痛みの原因となっている特定の播種巣に放射線を照射し、がん細胞を小さくすることで痛みを和らげる治療法です。
腹水に対する治療
腹水によるお腹のハリを伴う痛みに対しては、腹水を減らす治療が有効な手段です。腹水を抜く腹水ドレナージに加えて、利尿薬や腹水濾過濃縮再静法なども行われることがあります。
腹膜播種で痛みが強い場合の自宅での過ごし方

がん自体の治療と並行して、痛みそのものを取り除くための対症療法を積極的に行います。治療を受けながらご自宅で過ごす際に、少しでも痛みを和らげるための工夫があります。主治医や看護師に相談しながら取り入れてください。
主治医に適切な鎮痛薬を処方してもらう
痛みをコントロールするうえで、鎮痛薬を正しく使用することが大切です。毎日定時に鎮痛薬を飲むことで痛みのコントロールが得られやすくなります。また、それでも急に痛みが出てきた場合に備え、頓服薬が処方されることがあります。痛みを我慢せず、頓服薬を適切に使うことが大切です。
痛みが続く場合は、鎮痛薬の量や種類を増やすこともできるため、我慢せず正直に医師に伝え、処方を調整してもらいましょう。
痛みが生じている部分を温める
腹膜播種による痛みが、温めることで改善するかどうかは十分にはわかっていません。ただし一般的に、保温や冷却などによって痛みが改善する可能性はあると考えられています。具体的には、温めたタオルをお腹に当てる、ぬるめのお風呂にゆっくり浸かるなどの方法があります。温めることが逆効果になる可能性もあるため、試す前には主治医や看護師に確認してください。
痛みが起きにくい姿勢をとる
痛みの原因となっている部分への圧迫を避けることで、楽に過ごせる場合があります。クッションや座布団、抱き枕などを上手に使い、身体のいろいろな部分を支えて、ご自身が楽だと感じる姿勢を見つけてみてください。
また、腹水でお腹のハリがある場合は、仰向け以外の姿勢が楽な場合もあります。無理のない範囲で、少しずつ体勢を変えながら、痛みが和らぐ姿勢を探してみてください。
腹膜播種で痛む場合の緩和ケア

緩和ケアは、がんの進行度に関わらず、がんと診断されたときから始める、身体的・精神的なつらさを和らげるためのケアです。痛みだけでなく、不安や気分の落ち込み、療養生活の問題を主治医や看護師に相談し、サポートを受けながら過ごすことが大切です。
緩和ケアが受けられる施設
緩和ケアはさまざまな場所で受けることができます。
一般病院・がん診療連携拠点病院
がんの治療を行う病院では、緩和ケア治療を受けることができます。施設によっては、主治医に加えて、緩和ケアの専門チームや緩和ケア専門の医師が緩和ケアに関わる場合があります。抗がん剤などの治療を行っている場合も、それと並行して痛みの管理や精神的なサポートを行います。
緩和ケア病棟(ホスピス)
積極的ながん治療が難しくなった場合に、症状緩和を中心に過ごすための専門病棟です。穏やかな環境で、専門的なケアを受けながら過ごすことができます。
在宅での緩和ケア
住み慣れた自宅で過ごしたいと希望する方のために、在宅での緩和ケアも選択できます。訪問診療を行う医師や訪問看護師、介護士などが連携し、定期的にご自宅を訪問して痛みの管理や療養上のケアを行います。
このような在宅治療を受ける環境は、がん治療を行っている病院の主治医や看護師、患者サポートセンターなどと相談しながら整えます。
腹膜播種についてよくある質問
ここまで腹膜播種を紹介しました。ここでは「腹膜播種」についてよくある質問に、メディカルドック監修医がお答えします。
腹膜播種の痛みが辛い場合は強い鎮痛薬を処方してもらえますか?
はい、痛みが強い場合はモルヒネなどの強オピオイドを処方します。ただし、痛みの強さに応じて、段階的に鎮痛薬を調整していくことが大切です。痛みを我慢せず、つらい状況を正直に主治医に伝えてください。
腹膜播種の痛みを医師に伝える場合のポイントを教えてください。
- 痛みの強さ、痛む部位、痛むタイミング、痛みが悪くなるきっかけ
- 痛みが原因で、生活のどのような活動が制限されているか
腹膜播種の痛みを我慢できないときはどうすればよいですか?
痛みが強いときは処方されている頓服の鎮静薬を使用してみてください。
ただし、それでも痛みが収まらない場合や、急にこれまでにない激しい痛みが生じた場合は、ためらわずに病院やクリニック、訪問看護ステーションなど、事前に確認しておいた緊急連絡先に電話してください。
まとめ

腹膜播種に伴う痛みはとてもつらい症状ですが、原因に応じた治療法や対処法が存在します。痛みを一人で我慢せず、ご自身の痛みの状態を主治医や看護師に詳しく伝え、相談しながら、適切な治療を行うことが大切です。
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関連する症状
- 腹痛
- 腹部膨満感
- 腹水
- 便秘
- 吐き気・嘔吐
- 食欲不振
- 発熱
- 腸閉塞(イレウス)


