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「腹膜播種はCT検査」では写らない?その理由と検査方法を医師が解説!

 公開日:2025/10/03
「腹膜播種はCT検査」では写らない?その理由と検査方法を医師が解説!
腹膜播種とは、がん細胞が腹膜の表面にまるで種をまいたかのように散らばって広がる状態を指します。CTなどの画像検査で診断を試みますが、すべての病変が画像に映るとは限りません。この記事では、腹膜播種がCTで見つけにくい理由や、補助的に用いられる検査法、そして治療の選択肢を解説します。
木村 香菜

監修医師
木村 香菜(医師)

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名古屋大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院や、がんセンターなどで放射線科一般・治療分野で勤務。その後、行政機関で、感染症対策等主査としても勤務。その際には、新型コロナウイルス感染症にも対応。現在は、主に健診クリニックで、人間ドックや健康診断の診察や説明、生活習慣指導を担当している。また放射線治療医として、がん治療にも携わっている。放射線治療専門医、日本医師会認定産業医。

腹膜播種とCT

腹膜播種とCT 胃や大腸などの消化管にできたがんは、大きくなるにつれて壁の深いところにもおよび、外側の漿膜(しょうまく)を貫きます。そして、臓器の表面やお腹の壁を裏打ちする薄い膜である腹膜にがん細胞が広がっていくように転移します。これが腹膜播種です。まるで、種をまいたようにがん細胞が散らばるような様子から、このように呼ばれています。

CTに写らない腹膜播種

がんのステージがどれくらいなのかを見極めるため、腹腔鏡検査(審査腹腔鏡)を行うことがあります。腹腔鏡検査では、実際に腹腔内部を見て播種病変などがないかどうかを調べ、腹水を採取します。 また、腹水が溜まってしまった患者さんに対し、治療と診断の目的で腹腔穿刺(ふくくうせんし)を施行するケースもみられます。

腹水や腹腔洗浄液を採取して細胞を調べる細胞診の結果、がん細胞が確認された場合、それは顕微鏡レベルの腹膜播種を意味し、CY1と分類されます。 このCY1は、画像検査ではとらえにくく、CTでは病変として描出されない微細な播種です。 また、CTなどの画像検査や、腹腔鏡で明らかな腹膜病変は肉眼的腹膜播種(P1)といいます。しかしながら、まだ腹膜播種が小さかったり、腹膜全体に広がったりするタイプではCTには写らないこともあります。

CTでわかる腹膜播種

播種病変がある程度の大きさになると、CTなどの画像検査でも明瞭な腫瘤として描出されるようになります。ただし、CTによる腹膜播種の検出には限界があり、微小な病変は見逃される可能性があります。 なお、卵巣がんの腹膜播種は、大腸がんと比べてCTで検出される感度が高いとされます。ここでいう感度とは、実際に腹膜播種がある患者さんがCT検査を受けた際に病変が見つかる確率を指します。

また、腹膜播種の進行に伴いがん性腹膜炎に至ると、塊としての病変以外にもCTで異常が指摘できるようになります。 例えば、胃や大腸などを覆う腹膜の一部である大網(たいもう)にびまん性にがん細胞が転移した結果、大網が肥厚し塊のように見えることがあります。これはomental cakeと呼ばれる状態です。さらに、大量の腹水が溜まることもあります。 そのほか、腸管の狭窄(きょうさく;狭くなること)や胆管の狭窄などもみられます。また、尿管の狭窄によって、腎臓の方にまで尿が逆流し、腎盂と呼ばれる部分が拡張した水腎症と呼ばれる状態になることもあります。

腹膜播種がCTに写りにくい理由

腹膜播種がCTに写りにくい理由 腹膜播種の原因となるがんの種類によっては、腹膜播種病変が小さかったり、あるいは広範囲に浸潤したりする様式をとりやすいことがあります。 実際に、胃がんは結節を作ることが少なく、CTなどの画像診断では発見しづらいケースが多いとされています。 また、大腸がんの腹膜播種では、播種結節が0.5cm未満では同定率が11%、5cm以上であれば94%だったとする報告もあります。つまり、病変の大きさによってはCTで検出できない場合もあり、それが腹膜播種がCTに写りにくい理由と考えられます。

腹膜播種を見つけるための検査方法

腹膜播種を見つけるための検査方法 CTをはじめとするさまざまな方法で腹膜播種の有無を調べます。

画像検査

一般的には、造影CT検査や、PET/CT検査、MRI、超音波などの検査が、腹膜播種の検出のために行われています。 造影CT検査は、ヨード造影剤を静脈注射し、CT画像を撮影することで、がんなどの病変や血流の有無などをより詳細に調べることができます。 PET/CTは、PET(Positron Emission Tomography、陽電子放出断層撮影)検査とCT検査を組み合わせたものです。通常は、PET検査にはFDGという放射性フッ素を含むブドウ糖を用います。PET/CT検査では、がん細胞が周囲の正常な細胞よりもブドウ糖を多く消費する性質を肉眼的に描出できるため、がんの診断に役立ちます。

胃がんのように腹膜播種結節を作らないようなタイプのがんの場合には、造影CT検査は推奨されますが、PET/CT検査の精度は高くないことが知られています。PET/CT検査はほかの臓器への転移の評価目的として推奨されています。 一方、膵がんの場合、造影CTよりもPET/CTの方が腹膜播種を見つけやすかったという研究結果もみられます。

血液検査

腹膜播種の診断や、治療後の再発チェックのために腫瘍マーカー検査が行われます。 腫瘍マーカーは、がん細胞が作り出す蛋白質などで、血液検査や尿検査で調べることができます。 例えば、腹膜播種を疑う胃がん症例では、以下のような腫瘍マーカーが高値になることが報告されています。

  • CA19-9
  • CA125
  • CA72-4
  • STN

ただし、腫瘍マーカーはあくまで補助的な診断ツールです。そのため、血液検査だけで腹膜播種を確定できない点には注意が必要です。

腹膜生検

審査腹腔鏡の際に、播種病変と考えられる部分を少量切除し、顕微鏡で調べます。これは生検といわれます。

また、腹膜播種の診断のため、腹腔内に針を刺して腹水を採取する腹腔穿刺(ふくくうせんし)が行われることがあります。 腹腔穿刺の目的としては、腹水の成分やがん細胞の有無を調べることのほか、大量にたまった腹水を抜いて患者さんの症状を和らげることなどがあります。 腹腔穿刺の際などに、エコーでの補助の元、生検が行われるケースもみられるようになってきています。

CTで腹膜播種が見つかった場合の治療法

CTで腹膜播種が見つかった場合の治療法 CTで腹膜播種を疑う病変があり、ほかの検査結果からも総合的に腹膜播種があると判断された場合、基本的には遠隔転移があるとみなされます。 そのため、胃がんや膵がんの場合、全身化学療法が標準的な治療としてすすめられています。 また、日本では保険適用外ですが、腹腔内に直接抗がん剤を注入して治療する腹腔内化学療法が提案される場合もあります。

一方で、大腸がんの場合、大腸に発生したもともとのがん(原発巣)と同時に見つかった腹膜播種病変が近く、一緒に切除できることが想定される場合には、手術が選択されるケースもあります。 また、卵巣がんでは腹膜播種を伴うものは進行がんとみなされますが、手術で可能な限り原発巣と腹膜播種あるいは転移病変を切除することを目指します。

腹膜播種についてよくある質問

ここまで腹膜播種を紹介しました。ここでは「腹膜播種」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。

腹膜播種には自覚症状はありますか?

腹膜播種が進行すると、腸管や尿管が詰まる、腹水が溜まるなどの変化がみられるようになります。結果、腹痛や吐き気、嘔吐、腹部の膨満感、発熱などの自覚症状が現れることもあります。

CTに写らない腹膜播種を見つける方法を教えてください。

腹腔鏡検査などで実際に腹膜の様子を見て調べる検査や、腹水の細胞を顕微鏡で調べる検査などで見つけることが可能な場合があります。

CTで腹膜播種が見つかった場合のステージの目安を教えてください。

腹膜播種は基本的にはがんが遠隔転移した状態なので、ステージとしてはIV相当になります。

まとめ

まとめ 今回の記事では、腹膜播種を調べるための方法について、CT検査をはじめとしてさまざまなものをご紹介しました。特に胃がんなどでは、CT検査では写らない腹膜播種病変も多くみられます。そのため、PET/CTなどの画像検査や、細胞診などの検査も組み合わせ、腹膜播種の診断を行っていきます。

関連する病気

以下のような病気が腹膜播種と関連しています。

  • 胃がん
  • 大腸がん
  • 膵がん
  • 卵巣がん
  • 卵管がん・原発性腹膜がん
  • 腹膜偽粘液腫
  • 尿管がん
  • 腹膜中皮腫

関連する症状

腹膜播種が起こると、以下のような症状が起こる場合があります。

  • 腹部の膨満感
  • 食欲低下
  • 腹痛
  • 吐き気
  • 嘔吐
  • 黄疸
  • 発熱

この記事の監修医師