「直腸がんの治療法」は何があるかご存知ですか?治療後の生活も医師が解説!

直腸がんは、大腸の最も肛門に近い部分で発生するがんです。大腸がんは日本で最も患者数の多いがんで、日本人では大腸がんはS状結腸と直腸にできやすいことが知られています。本記事では、直腸がんの治療法やステージ(病期)ごとの治療選択、さらに治療後の生活への影響をわかりやすく解説します。

監修医師:
和田 蔵人(わだ内科・胃と腸クリニック)
目次 -INDEX-
直腸がんとは

直腸がんとはいったいどのような病気でしょうか。本章では、直腸がんの概要と、その分類と進行度の特徴を解説します。
直腸がんの概要
直腸がんは大腸(結腸と直腸)のうち、直腸と呼ばれる肛門に近い部分に発生する悪性腫瘍です。大腸がんは多くの場合、大腸内壁の粘膜にできたポリープががん化することで発生し、徐々に腸の壁の深くへ広がっていきます。進行した大腸がんは腸壁の外まで達して近くの膀胱や子宮など近くの臓器に浸潤したり、リンパ節や血流を介して肝臓や肺などほかの臓器に転移することもあります。直腸がんも結腸がんと同様に、ステージ(病期)によって進行度や治療方針が決まります。
ステージ分類と進行度の特徴
大腸がんの進行度は0期からIV期(ステージ0~IV)までの5段階に分類されます。一般的なステージごとの特徴は以下のとおりです。
ステージ0(0期)
がんが大腸のごく表面の粘膜内にとどまっている状態です。早期発見される上皮内がんで、リンパ節転移や遠隔転移はありません。
ステージI(Ⅰ期)
がんが腸壁の筋肉層(固有筋層)までにとどまり、腸の壁の外までは達していない状態です。リンパ節転移も認めません。
ステージII(Ⅱ期)
がんが固有筋層を超えて腸壁の外側に浸潤していますが、リンパ節への転移はない状態です。腸の外側組織や隣の臓器まで広がっている場合も含みます。
ステージIII(Ⅲ期)
腫瘍の大きさや深さに関わらず、周囲のリンパ節への転移がある状態ですが、遠隔臓器への転移はありません。
ステージIV(Ⅳ期)
原発巣の大きさやリンパ節転移の有無に関係なく、肝臓や肺などほかの臓器への遠隔転移を認める状態です。
直腸がんの治療法

直腸がんの治療は、大きく手術や放射線治療、抗がん剤治療(薬物療法)の三つが中心になります。患者さんの病状や体力に応じて、これらを組み合わせて治療方針が決定されます。ここでは各治療法の概要を説明します。
手術
手術は、直腸がんを根治するための基本となる治療法です。手術では腫瘍を含む直腸の一部と、その周囲のリンパ節郭清を行います。最近では開腹によらず腹腔鏡下手術や、さらに発展したロボット支援手術も直腸がんで行われており、身体への負担軽減や術後の早期回復が期待できます。早期の直腸がんならば、内視鏡治療が選択されることもあります。
放射線治療
放射線治療は、エックス線などの高エネルギー放射線を照射してがん細胞を死滅させたり、増殖を抑えたりする治療法です。直腸がんに対する放射線治療は、主に次の2つの目的で行われます。1つは、再発予防や治療効果を高めるために、手術と組み合わせて行う補助的放射線治療です。もう1つは病状が進んで手術が難しい場合や、遠隔転移・再発によって症状が出ている場合に、その症状を和らげる目的で行う緩和的放射線治療があります。
抗がん剤治療
抗がん剤治療(薬物療法)は、手術では取りきれない微小ながんを攻撃したり、全身に広がったがんを抑えるための治療法です。大腸がんに対する薬物療法には、大きく2つの目的があります。1つは、手術で腫瘍を切除できた場合に、再発リスクを減らす目的で行う抗がん剤治療で、補助化学療法(術後補助療法)と呼ばれます。もう1つは、ステージIVなど切除不能進行がんや再発大腸がんの場合、根治手術が難しいため抗がん剤による治療が主体となることがあります。
ステージ別|直腸がんの治療法

以上のような治療手段を、ステージごとにどのように組み合わせるかをご説明します。直腸がんではステージにより治療方針がおおよそ決まっていますが、患者さん一人ひとりの病状によって細かな調整がなされます。
ステージ0〜I
この段階の直腸がんは外科的切除または内視鏡的切除により、多くの場合治癒が期待できます。ステージ0の場合は、大腸内視鏡でのEMR(内視鏡的粘膜切除術)やESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)でがんを取り除くことが可能です。ステージIでは、通常は外科手術で直腸の部分切除とリンパ節郭清を行います。
ステージII〜III
ステージII~III(進行直腸がん)の基本となる治療は手術による腫瘍・リンパ節切除です。ステージIIIや、一部の高リスクのステージIIでは、手術後に術後補助化学療法を追加するのが標準的です。
ステージIV
ステージIVの直腸がんでは、肝臓や肺などへの転移が認められます。ステージIVの治療方針は個々の転移の状態によって変わります。直腸の腫瘍も転移病変も完全に切除できる見込みがある場合には、可能な限り両方の切除を目指します。一方で、転移が広範囲であったり臓器の機能的に切除が困難な場合、あるいは直腸の原発巣自体が切除不能な場合には、薬物療法を中心とした治療に切り替えます。
治療後の生活とリハビリ

直腸がんの治療後、身体にはさまざまな変化が生じることがあります。本章では治療後の代表的な生活上のポイントについて説明します。
ストーマ(人工肛門)が必要なケースと対応法
直腸がんの手術でストーマ(人工肛門)を造設するケースは、主に腫瘍が肛門に近い場所にあり肛門括約筋を残せない場合や、腸の低位吻合(直腸と結腸のつなぎ直し)の保護のため一時的に造設する場合があります。初めてストーマを造設すると聞いたときは驚きや不安を感じるかもしれません。しかし、ストーマを造った方でも適切なセルフケアと道具の工夫で、多くの場合これまでと変わらない日常生活を送れます。
食事・排便コントロールの注意点
直腸がんの手術後は、腸の長さや構造が変わるため排便のリズムに変化が生じることがあります。特に、直腸を部分的またはすべて切除した場合、直腸の便を一時的にためる機能が失われるため、手術前と比べて便意を我慢しにくくなったり、1日に何度も少しずつ排便する状態になることがあります。その際に特に注意したい点が食事です。手術直後は消化管が敏感になっているため、退院直後は消化によいものから徐々に普通の食事に戻していきます。術後1ヶ月程度は、食物繊維の多い食品や脂っこい料理、香辛料の強いもの、アルコールなど腸を強く刺激するものは控えめにし、様子をみながら摂取量を調整するようにしましょう。
仕事復帰や日常生活への影響と支援制度
直腸がんの治療後、体力が回復すれば仕事復帰や日常生活への復帰も十分可能です。復帰までの期間は治療内容によります。内視鏡治療のみであれば数日~1週間程度で社会生活に戻れることもあります。外科手術の場合、入院期間は術式にもよりますが1~2週間程度が一般的で、職種にもよりますが仕事復帰までは術後1〜2ヶ月程度を要することが多いでしょう。重い肉体労働の場合は主治医と相談のうえで復職時期を判断します。抗がん剤治療を行った場合は、副作用が落ち着くタイミングを見計らって勤務に復帰したり、勤務形態を一時的に調整することもあります。
直腸がんの治療についてよくある質問
ここまで直腸がんの治療について紹介しました。ここでは「直腸がんの治療」についてよくある質問に、メディカルドック監修医がお答えします。
大腸がんの手術後に、下痢や便秘などお通じのトラブルが起こりやすくなることはありますか?
はい、手術によって腸の長さや動きが変わる影響で、一時的に排便のリズムが乱れることがあります。腸の一部切除や手術後の癒着により、下痢と便秘が不規則に起きたり、おならが出にくくお腹が張ったりする症状がみられることがあります。しかし多くの場合、手術後1~2ヶ月ほど経つと腸が順応してきて徐々に改善していきます。
直腸がんの治療後、お酒は飲んでもよいですか?
手術や抗がん剤治療が終わって回復してくれば、適量のお酒であれば飲むこと自体が禁止されるわけではありません。ただし、飲酒の可否やタイミングは受けた治療内容や体調によって異なります。抗がん剤治療中や直後は肝臓への負担を考えて禁酒・控酒が望ましい場合もありますし、手術後しばらくは傷の治りを良くするためにも節酒した方がよいでしょう。いずれにしても主治医と相談することをおすすめします。
まとめ

直腸がんは近年の治療法の進歩により適切な治療で治癒も十分期待できる病気です。治療法は手術を中心に、放射線治療や抗がん剤治療を組み合わせて行われ、病気の進行度(ステージ)によって適切な組み合わせが選択されます。多くの患者さんが仕事や家庭に復帰し、以前と変わらない生活を取り戻しています。困ったときは一人で悩まず、周囲のサポートを得ながら前向きに治療と向き合っていきましょう。
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