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「中皮腫の余命」はどのくらいかご存じですか?治療法についても医師が解説!

 公開日:2025/09/30
「中皮腫の余命」はどのくらいかご存じですか?治療法についても医師が解説!
中皮腫は、アスベスト曝露が主な原因のがんです。 肺や心臓など胸部の臓器や、胃腸・肝臓を包む薄い膜をそれぞれ胸膜、腹膜と呼びます。この膜に存在する中皮という細胞ががんになったものを総称して中皮腫と呼びます。 中皮腫のうち、悪性胸膜中皮腫が約90%、悪性腹膜中皮腫が約10%で、その他ごくまれに心膜や精巣の表面から生じるタイプがあります。 本記事では、最も多い悪性胸膜中皮腫について、余命に関する指標や治療法別の生存率などを詳しく解説します。
福田 滉仁

監修医師
福田 滉仁(医師)

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京都府立医科大学医学部医学科卒業。初期研修修了後、総合病院で呼吸器領域を中心に内科診療に従事し、呼吸器専門医および総合内科専門医を取得。さらに、胸部悪性腫瘍をはじめとする多様ながんの診療経験を積み、がん薬物療法専門医資格も取得している。日本内科学会総合内科専門医、日本呼吸器学会呼吸器専門医、臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医、日本呼吸器気管支鏡学会気管支鏡専門医。

がんにおける余命の代表的な指標

がんにおける余命の代表的な指標 中皮腫に限らず、がんの余命(予後)を示す指標として、生存率・生存期間中央値・全生存期間をよく使います。これらは患者さんのデータを統計に基づいて計算した値で、治療の効果や余命の目安を示す重要な指標です。

生存率

がんと診断されてから、もしくは治療を開始してから一定期間後に生存している確率のことを指します。5年生存率がよく用いられています。

中央生存期間

中央値とは、データを小さい順に並べたとき、ちょうど真ん中に来る値です。生存期間中央値とは、治療を開始してから、治療を受けたある集団のなかで生存している方の割合が丁度半分になるまでの期間をいいます。

全生存期間

全生存期間とは一般的に、診断日や治療開始日から数えて患者さんが亡くなるまでの期間のことを示します。

中皮腫全体の余命

中皮腫全体の余命 中皮腫の予後は診断された病期(ステージ)、組織型、治療法によって大きく左右されます。ここでは、ステージによる違いを解説します。

中皮腫のステージはI期(ステージ1)からIV期(ステージ4)までに分類され、IV期が最も進行した状態です。ステージが進むに連れて予後が悪いことがわかっており、5年生存率はそれぞれ、Ⅰ期25.0%、Ⅱ期22.2%、Ⅲ期5.9%、Ⅳ期6.1%と報告されています。しかし、新しい治療法の登場などによって、最近では徐々に生存率が改善しています。

組織型別|中皮腫の余命

組織型別|中皮腫の余命 中皮腫は、組織の特徴によって上皮型、肉腫型、二相型の3つに分類されます。二相型は、上皮型と肉腫型の両方の特徴を併せ持つタイプです。上皮型は全体の6〜8割を占める最も多い型で、ほかの2つと比較して予後がよいとされます。一方、肉腫型は進行が早く、予後が不良です。

すべての組織型を含む患者さんの、さまざまなステージや治療法を統合したデータによると、生存期間の中央値は上皮型で約14ヶ月、二相型で約9ヶ月、肉腫型では約5ヶ月とされています。

治療法別|中皮腫の余命

治療法別|中皮腫の余命 治療法は、がんの進行度(ステージ)、組織型、患者さんの体力などを総合的に評価したうえで決定されます。治療には、外科治療(手術)、化学療法(抗がん剤治療や免疫療法)、放射線治療があり、いずれか一つを選択する場合もあれば、複数を組み合わせる場合もあります。

日本で行われた悪性胸膜中皮腫の患者さんを対象とした研究によると、手術を受けた患者さんの生存期間中央値は約33ヶ月、手術以外の治療を受けた患者さんでは約14ヶ月、そしていずれの治療も難しく緩和治療のみを受けた患者さんでは約4ヶ月と報告されています。 この結果から、手術を行うことができるステージにある患者さんの予後が良好であることがわかります。

以下では、主な治療法である外科治療と化学療法について詳しく解説します。 ただし、いずれの治療による効果も、進行度によって効果が異なることに注意が必要です。

外科治療(手術)

外科治療では、がんの広がりが胸膜内にとどまり、ほかの臓器への転移がない場合に手術が検討されます。ただし、手術を行うかどうかは、病変の位置や範囲、組織型、そして患者さんの体力や肺機能などを慎重に評価したうえで判断されます。治療効果を高めるため、手術だけではなく、化学療法や放射線治療を組み合わせる集学的治療が行われることもあります。

化学療法

手術が難しいと判断された場合には、化学療法が治療の中心となります。また、先に化学療法を行い、がんの進行を抑えてから外科治療を行う術前化学療法が選ばれる場合もあります。

現在、悪性胸膜中皮腫に対して広く使われている標準的な化学療法の一つは、シスプラチンとペメトレキセドという2種類の抗がん剤を併用する治療法です。この治療は、がんの進行を遅らせ、症状を和らげる効果が期待されており、生存期間中央値は約12ヶ月と報告されています。

さらに、近年では免疫チェックポイント阻害薬と呼ばれる新しい薬剤が中皮腫の治療に用いられるようになりました。ニボルマブとイピリムマブという2種類の免疫療法薬を併用する治療法が、手術が適応とならない患者さんに対する新たな標準治療として認められています。このニボルマブ・イピリムマブ併用療法は、シスプラチン・ペメトレキセド併用療法と比べて、生存期間がより長いことが報告されており、この2つを比較した研究では、生存期間中央値がそれぞれが約18ヶ月と約14ヶ月であったという結果が示されています。

中皮腫で根治が期待できる状態と治療法

中皮腫で根治が期待できる状態と治療法 中皮腫は、発見された時点で広範囲に進行していることが多く、根治することが難しいがんとされています。中皮腫で根治が期待できるのは、がんが胸膜に限局しており、リンパ節やほかの臓器へ転移していない早期の段階に限られます。

根治を目指す治療の中心となるのは手術です。手術には大きく2つの方法があります。ひとつは胸膜肺全摘除術と呼ばれるもので、がんのある側の肺を丸ごと切除し、がんが広がっている胸膜や、必要に応じて横隔膜や心膜も一緒に取り除く大がかりな手術です。もうひとつは胸膜切除/肺剥皮術と呼ばれる方法で、肺を残しながらがんのある胸膜部分をはぎ取る手術です。

ただし、手術単独で中皮腫を完全に治すのは大変難しいとされています。そのため、根治をめざす場合には、手術に加えて抗がん剤による化学療法や放射線療法を組み合わせる集学的治療が行われます。例えば、手術の前に化学療法を行ってがんを小さくしたうえで切除を試みたり、手術後に再発を防ぐ目的で抗がん剤や放射線を追加する治療が行われます。ただし、そのような治療を行っても再発することがあり、治療後も定期的な診察や検査を受けることが大切です。

中皮腫についてよくある質問

ここまで中皮腫を紹介しました。ここでは「中皮腫」についてよくある質問に、メディカルドック監修医がお答えします。

手術後も再発する可能性はありますか?

はい、手術を受けた場合でも、再発する可能性はあります。 悪性胸膜中皮腫は、胸膜の広い範囲に広がりやすい性質を持っており、たとえ手術でがんをすべて取り除いたように見えても、がん細胞が胸腔内に残っていることがあります。そのため、再発のリスクをできるだけ減らすために、手術に加えて抗がん剤や放射線治療を組み合わせる治療を行うことがあります。

手術後に再発した場合、治療法はありますか?

はい、再発した場合にも治療法があります。 再発が見つかった場合には、化学療法や免疫チェックポイント阻害薬など、いわゆる抗がん剤による治療法があります。また、痛みや呼吸困難などの症状があれば、それらを和らげる治療を行うこともできます。

まとめ

まとめ 中皮腫は早期発見が難しく、治療も複雑ですが、組織型やステージに応じた治療を行うことで、生存期間の延長や症状の軽減が期待できます。 近年では免疫療法など新しい治療法も登場し、選択肢が広がっています。 ご自身の状態に合った治療方針を主治医と相談しながら進めていくことが大切です。

関連する病気

1. アスベスト関連疾患
  • 石綿肺
  • びまん性胸膜肥厚
  • 胸膜プラーク
  • 肺癌
2. 中皮腫と似た症状(息苦しさや胸の痛み)を伴う病気
  • 肺炎
  • 胸膜炎
  • 膿胸
  • 肺気腫
  • 気管支喘息

関連する症状

  • 呼吸困難(息切れ)
  • 胸の痛み
  • 持続する咳
  • 体重減少
  • 発熱
  • 身体のだるさ

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