消化管の粘膜下に発生するがん「GISTの生存率」はどれくらい?医師が解説!


監修医師:
和田 蔵人(わだ内科・胃と腸クリニック)
目次 -INDEX-
GISTの治療法
GISTの治療法は大きく分けて、外科治療と内科治療、そして放射線治療があります。本章では、それぞれに分けて解説します。
外科治療(手術)
GISTと診断された場合、基本となる治療は外科的切除(手術)です。ガイドラインでは腫瘍の大きさに関わらず可能な限り手術による完全切除を目指すことが推奨されています。GISTは胃がんや大腸がんに比べて周囲組織への浸潤が少なくリンパ節転移もまれなため、手術では腫瘍を含む患部の消化管を部分的に切除し、周囲の臓器の機能温存に配慮します。また5cm以下の小さな腫瘍であれば、お腹を大きく切らない腹腔鏡下手術が行われることもあります。再発リスクが高いと判定された場合には、再発予防を目的としてイマチニブ(商品名グリベック)という薬を一定期間服用する術後補助療法が行われます。内科治療(薬物療法)
手術で取りきれない場合や、初診時にすでに転移がある場合、あるいは手術後に再発してしまった場合には、分子標的薬と呼ばれる薬による治療が主体となります。従来の抗がん剤はGISTにはほとんど効果がなく標準的に用いられませんが、2000年代以降登場した分子標的薬が劇的な効果を示しました。標的となる遺伝子変異ごとに薬剤が開発されており、GISTでは一次治療としてイマチニブが投与され、高い奏効率を示します。 イマチニブが効かなくなった場合にはスニチニブ(スーテント)、さらに効かなくなった場合にはレゴラフェニブ(スティバーガ)、そして近年日本で承認された新しい薬であるピミテスピブ(リアフパンチ)へと、段階的に薬を切り替えていくのが標準的な治療の流れです。放射線治療
GISTは放射線治療の効果が限定的であるため、基本的には放射線は治療の中心にはなりません。ただし症状緩和の目的で、ごくまれに出血や痛みを和らげるために放射線照射が検討される場合もあります。GISTの5年生存率
GISTの5年生存率は腫瘍の悪性度によって大きく異なります。例えば、手術で完全切除できた超低リスク・低リスクのGISTでは90%以上の患者さんが手術だけで治癒すると期待できます。一方、腫瘍が大きかったり細胞増殖が活発な高リスクGISTでは、5年後に生存している割合はおよそ50%程度と報告されています。実際には個々の症例で差がありますが、高リスクGISTでは手術後に半数ほどの患者さんが再発などで亡くなる可能性があるという意味です。また、手術時点ですでに転移があるような進行したGISTや、手術後に再発したGISTでは、生存率は上述の高リスク例よりさらに低くなります。
分子標的薬導入で変化したGISTの5年生存率
2000年代に入りGISTに対する分子標的薬が登場すると、GISTの生存率は飛躍的に向上しました。特にイマチニブ(グリベック)の登場はGIST治療の転換点となり、それまで有効な治療法がなく長期生存が望めなかった病気が、半数を超える患者さんが5年以上生存できる疾患になりました。実際、分子標的薬導入以前は進行期GIST患者さんの中央値生存期間(生存期間の中央値)が約1年と見込まれていましたが、イマチニブ使用後は4~5年程度まで延長したとの報告があります。ただし、後述するように、再発・進行GISTでは分子標的薬による治療を長い期間続ける必要があり、途中で腫瘍が薬に抵抗性を持って再増殖してくるケースもあるため、すべての患者さんが長期生存できるわけではありません。それでも分子標的薬の登場以前と比べれば、生存率が大幅に向上してきています。
GISTが再発した場合の治療法と生存率
GISTなどの悪性腫瘍は治療が奏効したように見えても、時間が空いて再発する場合があります。本章では、GISTが再発した場合の治療法と生存率を解説します。
GISTが再発した場合の治療法
再発とは、一度治療で腫瘍が見えなくなった後に再び腫瘍が現れることを言います。GISTの場合、主に肝臓への転移や腹膜への転移という形で再発することが多いです。再発してしまったGISTの治療は、手術では根治が難しいため薬物療法(分子標的薬)が中心となります。しかし、残念ながら再発・転移したGISTを現在の薬物療法で完全に治すことは難しく、治療を続けることで腫瘍の進行を抑え、症状をコントロールしながら生活の質を維持していくことが大切です。そのためには効果がある薬をできるだけ休薬せず継続的に服用し、薬の効きを可能な限り長持ちさせる工夫が重要になります。再発したGISTの生存率
再発したGISTは進行がんの状態です。再発・転移GISTの5年生存率は、治療法の進歩によって現在では大きく改善していますが、依然として低めです。最近の報告では、再発・転移GIST患者さんの中央値生存期間が約6年(76ヶ月)に達したとのデータもあります。もちろん個人差があり、薬がよく効いて長期生存できるケースもあれば、残念ながら薬の副作用や耐性の出現により思ったほど延命できないケースもあります。それでも分子標的薬を適切に使うことで、再発後でも5年以上生存できる患者さんが今や半数を超えているのは確かです。実際、分子標的薬による治療を続けながら10年以上生存している例も報告されており、再発してもあきらめずに治療を継続することが重要です。GISTについてよくある質問
ここまでGISTを紹介しました。ここでは「GIST」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
GISTはどのような病気ですか?悪性のがんなのですか?
GISTは、胃や腸の壁の支持組織から発生する腫瘍で、悪性になることが多い病気です。一般的な胃がんや大腸がんは粘膜から発生する上皮性のがんですが、GISTはそれとは異なる種類の腫瘍で、肉腫(サルコーマ)と呼ばれます。大きさや増殖の速さによってリスク分類され、低リスクのものはおとなしい一方、高リスクのものは再発・転移しやすく明らかな悪性腫瘍となります。GISTは全体から見ると発症数が少ない希少がんで、日本人では年間10万人あたり1~2人ほどが発症するとされています。GISTの発生には細胞の遺伝子変異が関与していますが、現在のところ明らかな予防法はわかっていません。早期発見が難しい腫瘍ですが、偶然発見された小さなGISTは手術で治癒できる場合もあります。
GISTの薬物療法(分子標的薬)にはどのような副作用がありますか?
GISTで使用する代表的な分子標的薬(イマチニブ、スニチニブ、レゴラフェニブ、ピミテスピブなど)は、一般的な抗がん剤と比較すると脱毛や強い吐き気といった副作用は少ないものの、さまざまな副作用が生じる可能性があります。主な副作用としては、下痢や吐き気・嘔吐、食欲不振、むくみ、疲労感などが挙げられます。薬によっては皮ふの発疹が出たり、手足の皮ふが荒れること、目の周囲がむくむことなどもあります。副作用の出方は個人差が大きく、すべての副作用が必ず起こるわけではありません。定期的に血液検査や心電図などのチェックを行い、副作用が現れた場合は薬の減量や一時中断、別の薬への変更などで対応します。
まとめ
GISTは消化管に生じる希少ながんであり、かつて進行したGISTは極めて予後不良の病気でした。現在では手術と分子標的薬の併用によって大幅に生存率が改善しました。とはいえ、再発・進行したGISTを完全に治癒させることはいまだ難しく、治療を継続し病気の進行を抑え込むことで少しでも長く生活していくことが目標となります。治療中は副作用との折り合いをつけながらになりますが、現在利用できるお薬は複数あり、効果がなくなっても次の薬に切り替える選択肢があります。患者さんやご家族にとって不安も大きい疾患ですが、主治医とよく相談しながら標準治療を計画的に受けることで、より長く生活できる可能性が高まっています。難治がんではありますが決して希望を失わず、適切な治療とケアを続けていきましょう。
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