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「乳がんの放射線治療で生じる副作用」はご存知ですか?【医師監修】

 更新日:2025/09/19
「乳がんの放射線治療で生じる副作用」はご存知ですか?【医師監修】
乳がんの治療において、放射線治療は手術や薬物療法とならんで重要な位置付けとなっています。乳房温存術後の放射線治療は、乳がんの乳房内再発を減少させ、生存率を向上させることも示されています。しかし、放射線治療には副作用もあります。今回の記事では、乳がんに対する放射線治療によって生じる副作用の症状と対処法について解説します。
木村 香菜

監修医師
木村 香菜(医師)

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名古屋大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院や、がんセンターなどで放射線科一般・治療分野で勤務。その後、行政機関で、感染症対策等主査としても勤務。その際には、新型コロナウイルス感染症にも対応。現在は、主に健診クリニックで、人間ドックや健康診断の診察や説明、生活習慣指導を担当している。また放射線治療医として、がん治療にも携わっている。放射線治療専門医、日本医師会認定産業医。

乳がんの放射線治療中、治療後に生じる副作用

乳がんの放射線治療中にみられる頻度が高い副作用を解説します。

皮膚炎

乳がんの放射線治療は、主に乳がんを切除した後、温存された乳房全体に、あるいは乳房を全部摘出した後の胸壁や鎖骨の上の当に高エネルギーのX線を照射します。放射線が皮膚にも当たるため、治療中や治療後すぐに、皮膚炎が発生することが多くみられます。

多くの場合、皮膚が赤くなったり乾燥したりする程度の症状です。まれに、皮膚のかゆみが強くなり軽くこすっただけで出血してしまうような重い症状になる場合もみられます。

倦怠感

放射線治療を開始した時期に、疲れやすい、だるさを感じるなどの倦怠感が現れる患者さんがいます。治療が終了すればこの症状はなくなる場合が多いです。 放射線治療によってダメージを受けた正常細胞が修復する際に多くのエネルギーを必要としているためではないかと考えられています。さらに、放射線治療を受けるために通院するために疲労がたまることも原因として考えられます。

乳がんの放射線治療終了後、数ヶ月以降に生じる副作用

乳がんの放射線治療が終了してから数ヶ月以降に生じる副作用(晩期副作用)は以下のようなものがあります。

放射線肺臓炎

乳房に放射線を照射すると、放射線肺臓炎という肺の炎症が引き起こされることがあります。 放射線肺臓炎では、肺の末端の小さな構造(肺胞)の外にある間質という部分に炎症が引き起こされてしまい、最終的には肺の組織の線維化をきたします。肺気腫やほかの肺の病気がある場合、放射線肺臓炎が発生する可能性が高まります。

多くは、胸部レントゲン写真やCT検査を行った際に画像上で肺炎像が指摘されるのみで、特に症状はありません。しかし、なかには放射線肺臓炎が放射線が照射された範囲(照射野)外まで及ぶケースや、咳や発熱などの症状が現れる方もいます。その場合には治療が必要になることもあります。

器質化肺炎

乳がんの放射線治療の副作用として起こる肺炎として、器質化肺炎というタイプのものもあります。 器質化肺炎は、肺胞からその近くの細気管支にかけて炎症が起こり、炎症が治る過程で正常な肺の組織が壊れ、線維のような組織ができてしまう病気です。原因はさまざまで、感染症や薬剤、放射線肺臓炎などがあります。しかし、発生のメカニズムはまだ明らかになっていない部分もあります。

乳がんの手術後に放射線治療が行われた症例で、器質化肺炎が発生したという報告がいくつかみられます。咳や発熱などの症状がある場合も、無症状の場合もあるとされています。 術後補助療法としてのタモキシフェンなどの内分泌療法が併用される症例が多いともされており、今後さらなる研究が望まれるところです。

腕のリンパ浮腫

乳がんに対する放射線治療の晩期障害として、腕のリンパ浮腫がみられることがあります。これは、手術の際のリンパ節郭清(リンパ節を切除すること)や放射線治療が原因となり、リンパ液がたまり、腕が腫れた状態になることです。

乳房の縮小

放射線治療後には、皮膚や脂肪組織などが萎縮(縮む)することがあります。そのため、放射線を照射した乳房のサイズが変化することもあります。しかし、治療後1年程度経過すれば新たな変化は起こらなくなることが大半です。

乳がんの放射線治療の副作用への治療・対処法

乳がんに対する放射線治療の副作用にはさまざまな種類がありますが、適切に対処することで日常生活への影響を最小限に抑えることができます。

皮膚炎

乳がんの放射線治療による皮膚炎は、ほぼ必発です。そのため、皮膚炎の症状が強くなる前から、治療を受ける部位を清潔にし、刺激を避けるよう心がけるようにしましょう。 放射線治療中は、できればノンワイヤーの下着を使用するようにして、皮膚と衣類のこすれが少なくなるようにするとよいでしょう。放射線治療が進み、皮膚の乾燥が気になるようになってきた場合には、医師が保湿剤を処方します。定期的に、皮膚の保湿をするようにしましょう。

倦怠感

放射線治療中は、過度な運動を避け、疲れやだるさを感じる場合には無理せず休むようにしましょう。また、食事や水分を十分にとるようにしましょう。 体調がよいときには、軽い運動をすることも気分転換になるのでよいでしょう。夜はしっかりと寝るようにしましょう。もし眠れない場合には、医師に相談し、睡眠薬を処方してもらうようにしましょう。

放射線肺臓炎

放射線肺臓炎は、症状がほぼない場合には特に治療は不要です。一方、咳や痰、発熱などの症状があり治療が必要な場合には、プレドニゾロンなどのステロイド治療が行われることもあります。

器質化肺炎

器質化肺炎も、放射線肺臓炎と同様に無症状のケースもみられます。乳がん術後の経過観察で定期的に乳腺外科などの外来受診をする場合がほとんどと思われます。 もし咳や痰、発熱などの症状がある場合には、その旨を主治医に報告することが大切です。必要であれば胸部レントゲン検査などが行われます。

乳がん術後の器質化肺炎は、放射線治療だけでなくほかの薬物治療などの影響である可能性が考えられています。現在までの報告では重症化する症例もみられていません。そのため、基本的には経過観察とし、症状や炎症反応の程度をみながらステロイド治療の適応については判断されることが重要ではないかとされています。

腕のリンパ浮腫

腕のリンパ浮腫に対しては、毎日のスキンケアの徹底、虫刺されや怪我の予防とともに、窮屈な服やアクセサリーや腕に負担がかかる運動を避けることも大切です。

浮腫に対する治療としては、以下のような方法を組み合わせる複合的治療が有効とされています。

  • 弾性着衣(手袋や専用の袖)や弾性包帯による圧迫療法
  • 圧迫療法をしながら運動療法(エクササイズ)
  • 手でリンパドレナージ
  • 尿素が配合された保湿クリームによるスキンケア
これらを2〜4週間のサイクルで実施し、定期的に腕の周囲のサイズを測定します。治療効果がみられたら、スキンケアや日中の弾性スリーブ、運動療法を継続する維持療法を行います。また、標準体重を保つことも大切です。

乳がん放射線治療についてよくある質問

ここまで乳がん放射線治療について紹介しました。ここでは「乳がん放射線治療」についてよくある質問に、メディカルドック監修医がお答えします。

乳がんの放射線治療で副作用がある場合、何科を受診すればよいですか?

木村 香菜医師木村 香菜(医師)

乳がんに対する放射線治療中に副作用が現れた場合には、放射線治療科乳腺外科の主治医にまずは相談するようにしましょう。治療後に副作用が現れた場合も同様ですが、まずは乳腺外科を受診するとよいかと思われます。

乳がんの放射線治療中に気を付けることを教えてください。

木村 香菜医師木村 香菜(医師)

乳がんの放射線治療では、皮膚炎が現れやすいです。そのため、照射を受けている側の胸の皮膚を清潔に保つことや、ゴシゴシこすらないことに注意しましょう。また、放射線治療に限らずがん治療中は疲労を感じやすいこともあります。無理をしないように、しっかりと休息を取りながら生活をするとよいでしょう。咳や痰など、何らかの症状が現れた場合には、主治医に早めに相談するようにしましょう。

乳がんの放射線治療中は他者との接触を避けたほうがよいですか?

木村 香菜医師木村 香菜(医師)

乳がんの放射線治療中でも、特に他者との接触を避ける必要はありません。抗がん剤治療中などで免疫力が低下しているなどの場合を除いては、放射線治療そのもので感染症などにかかりやすくなるリスクは低いと考えられます。もちろん、インフルエンザなどの感染症流行期には、人混みに出るときにはマスクをする、毎日手洗いうがいをしっかりするなどの基本的な対策はするようにしましょう。

まとめ

今回の記事では、乳がんに対する放射線治療による副作用について解説しました。放射線治療による副作用は軽い皮膚炎などが多いですが、なかには晩期の副作用である肺炎など、治療が必要なケースもあります。不安に思うような症状などがあれば、乳腺外科や放射線治療科などの主治医に相談するようにしましょう。

関連する病気

  • 放射線性皮膚炎
  • 食道炎
  • 放射線肺臓炎
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