「喉頭がんと咽頭がん」の違いとは? 部位の差や初期症状の違いを解説!【医師監修】

喉頭がんと咽頭がんはできる位置が近いため、その違いが理解しにくい病気です。本記事では喉頭と咽頭の位置や役割、さらにそれぞれに発生するがんの種類と初期症状、診断方法、リスク要因などを詳しく解説しています。喉頭がんと咽頭がんの正確な知識を持つことで、異常を感じた際の適切な対応に役立てていただければ幸いです。

監修医師:
小島 敬史(国立病院機構 栃木医療センター)
目次 -INDEX-
喉頭(こうとう)と咽頭(いんとう)とは?
喉頭と咽頭はのどを構成する2つの部分ですが、その位置と役割には違いがあります。これらの部位と役割を概説します。
喉頭の部位と役割
喉頭はのどぼとけ(首の前に触れる隆起)の位置にある器官で、気管、肺とつながる呼吸の通り道の入口です。そのため、喉頭蓋(こうとうがい)と呼ばれるフタが閉じて、飲食物が気管に入らないように防ぐ役割もあります。また、喉頭には左右一対の声帯があり、呼気により声帯を振動させることで声を出す機能をも担っています。
咽頭の部位と役割
咽頭は鼻の奥から食道の入口まで続く管状の器官です。咽頭は上咽頭(じょういんとう)、中咽頭(ちゅういんとう)、下咽頭(かいんとう)の3つの部位に分けられます。下咽頭は飲食物が通る食道につながっています。喉頭と隣り合っているため、空気は咽頭と喉頭を通り、飲食物は食道へと運ぶ役割があります。
喉頭がんと咽頭がんの違い
喉頭がんと咽頭がんは、発生部位やリスクなどに明確な違いがあります。本章では、喉頭がんと咽頭がんにどのような違いがあるのかを解説します。
喉頭がんの概要と種類
喉頭がんは喉頭に発生するがんです。喉頭は声帯を含む器官のため、この部位にがんができると声に影響が出やすいのが特徴です。喉頭がんは発生する部位によって以下の3種類に分類されます。
声門がん
声帯そのものに発生するがんです。喉頭がんのなかでも頻度が高く、全体の半数以上を占めます。早期から嗄声(させい)が出やすく、早期に発見される傾向があります。
声門上部がん
声帯より上の喉頭(喉頭蓋や仮声帯など)に発生するがんです。声門がんに次いで多いタイプです。初期には声がれが出にくく、のどの違和感や嚥下時の痛みなどが主な症状となります。
声門下部がん
声帯より下の喉頭に発生するがんで、発生頻度は低くまれです。初期症状が乏しく、進行するまで気付かれないことが多いタイプです。
日本では喉頭がんと診断される人は年間約5,500人とされ、患者さんの多くは長年の喫煙習慣のある60歳以上の男性です。喉頭がんはたばことの関係が深く、非喫煙者に発症することはまれです。男女比では男性が約10:1と圧倒的に多く、喫煙本数が多く長期にわたる方(例:20本/日を40年以上など)に発症が集中しています。また過度の飲酒も喉頭がんのリスク要因であり、喫煙と飲酒を両方行う方は特に注意が必要です。
咽頭がんの概要と種類
咽頭がんは咽頭に発生するがんの総称で、発生部位によりさらに3つのタイプに分けられます。咽頭は上から順に上咽頭、中咽頭、下咽頭に区分されるため、それぞれ上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がんと呼ばれます。各部位によって発症頻度や原因、症状に違いがあります。
上咽頭がん
鼻の奥、喉の最上部にできるがんです。日本ではまれながんで、年間に約800人が新たに診断されています。特徴として、EBウイルスの感染が発症に関与する場合がある点が挙げられます。初期症状は自覚しにくく、鼻づまりや鼻血、中耳炎による耳の閉塞感など鼻や耳の症状が出ることがあります。
中咽頭がん
お口の奥(扁桃、舌の付け根、軟口蓋など)の中咽頭に発生するがんです。日本では咽頭がんのなかで多く、年間約4,600人が新たに診断されています。原因として喫煙や多量の飲酒が昔から指摘されていますが、近年ではヒトパピローマウイルス(HPV)感染による中咽頭がんが増えており、約半数を占めています。HPVに関連する中咽頭がんは、飲酒、喫煙とは無関係に発症することが特徴です。中咽頭がんは男性に多いとされています。飲み込みにくさや喉の痛み、血痰、片側の扁桃の腫れ、首のしこりなどで気付くことがあります。
下咽頭がん
喉の一番下、食道の入口にあたる下咽頭にできるがんです。すぐ前に喉頭がある部位のため、がんが進行すると声の通り道を塞いでしまう恐れもあります。日本では年間約4,200人が診断されており、咽頭がんのなかでは中咽頭がんと並んで多いとされています。喫煙と飲酒との関連が特に深く、発症者の多くはヘビースモーカーや大酒家です。患者さんは男性が圧倒的に多く、男女比は約10:1です。下咽頭がんは早期には目立った症状が出にくく、進行してから飲み込みづらさ、喉の痛み、首のしこりなどで気付かれることが多いがんです。
喉頭がん、咽頭がんの初期症状の違い
早期の症状の違いを知っておくことで、異変に気付くきっかけになります。喉頭がんと咽頭がんでは初期症状の現れ方の特徴が異なります。
喉頭がんの初期症状
喉頭がんでは声のかすれ(嗄声)が重要な初期症状となります。特に、声帯に発生する声門がんの場合、がんが小さい早い段階から声がかれ始めることが多く、2週間以上治らない声がれは注意が必要です。実際、喉頭がん患者さんの約60%が声帯にがんができ、初発症状が嗄声である場合が少なくありません。一方、声帯以外にできる喉頭がんでは、初期には声がれが出ないことも多く、のどに何か引っかかったような違和感程度で見過ごされがちです。
咽頭がんの初期症状
咽頭がん(上・中・下咽頭がん)は、部位によって症状が異なりますが、共通して初期には自覚症状の乏しいことが多いです。代表的な初期症状は、喉の違和感、飲み込みづらさ、喉の痛み、そして耳の痛みが挙げられます。耳の痛みは喉の神経痛が耳に放散して起こる関連痛で、特に片側の耳が痛む場合には中咽頭あるいは下咽頭の病変が疑われます。上咽頭がんでは鼻症状や耳が詰まった感じがあります。進行すると耳炎が初期に出ることもあります。また、中咽頭や下咽頭のがんでは喉の症状には気付かず、頸部リンパ節の腫れとして現れる場合もあります。
喉頭がん、咽頭がんについてよくある質問
ここまで喉頭がん、咽頭がんを紹介しました。ここでは「喉頭がん、咽頭がん」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
喉頭がんや咽頭がんはどの診療科目を受診すればよい?
小島 敬史 医師
のどの症状や病気を専門とする耳鼻咽喉科を受診してください。耳鼻咽喉科は頭頸部外科とも呼ばれ、喉頭や咽頭を含む頭頸部のがんの診断、治療を担当する診療科です。声がれや喉の不調が2週間以上続く場合や、首にしこりが触れる場合は、なるべく早く耳鼻咽喉科を受診しましょう。
たばこを吸っている人の発生リスクが高いがんはどちら?
小島 敬史 医師
喫煙は両方の発がんリスクを高めますが、特に喉頭がんとの関係が深いことが知られています。喉頭がん患者さんのほとんどが喫煙者で占められ、非喫煙者で喉頭がんになるケースはまれです。一方、咽頭がんも中咽頭がんや下咽頭がんを中心に喫煙と飲酒との関連が強く、ヘビースモーカーや大酒家では発症リスクが高くなります。下咽頭がんは喉頭がんと同様に喫煙率の高いがんです。ただし、咽頭がんのなかには上咽頭がんのようにウイルスが主因となるタイプもあり、喫煙との関連が低いものもあります。そのためタバコを吸う方や受動喫煙のある方では喉頭がんの方が顕著にリスクが高いですが、喉頭および中、下咽頭いずれも喫煙者は注意が必要です。
喉頭がん、咽頭がんにかかる人は1年間で何人?
小島 敬史 医師
発生数は年によって多少変動しますが、日本における年間の新規患者数は以下のとおりです。
喉頭がん:約5,000人
上咽頭がん:約800人
中咽頭がん:約4,000~5,000人
下咽頭がん:約4,200人
以上を合計すると咽頭がん全体では年間約9,000人前後となり、喉頭がんの約5,000人よりもやや多くの患者数が報告されています。
まとめ
喉頭がんや咽頭がんは、喫煙、飲酒などの生活習慣と密接な関係があり、その症状は多岐にわたります。肺がんなどのがんに比べて患者数は少ないですが、喫煙者やお酒を多く飲まれる方のリスクは高くなるため、初期症状についてよく知っておくと安心です。いつもと違う症状が2週間以上続く場合は放っておかず、その症状が、解説した喉頭がんや咽頭がんの症状に当てはまるなら、耳鼻咽喉科を受診するようにしましょう。この記事が皆さんの早期発見、治療につながれば幸いです。
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