「舌がん手術後」に起こりうる「3つの変化」をご存じですか?【医師監修】

舌がんは、一般の方にはあまり聞きなじみのない病気かもしれません。実際にがんのなかでは発症の割合は少なく、早期発見ができれば予後は良好だといわれています。
舌がんに対する治療方法は、手術療法が標準的な治療となります。では実際に、手術をした後はどのような変化が起こるのでしょうか。また、治療後にはどのようなリハビリテーションが行われるのでしょうか。
この記事では舌がんを手術した後における舌の変化や、術後のリハビリテーションについて解説します。舌がんの概要も紹介しているので参考になれば幸いです。

監修医師:
永井 恒志(医師)
平成15年金沢医科大学医学部卒。東京大学医学部附属病院内科研修医を経て東京大学大学院医学系研究科教官時代に大型放射光施設SPring8を利用した多施設共同研究(国立循環器病研究センター、東海大学ほか8研究機関)をリードし、多数の国際医学雑誌に論文を発表した。
特に免疫細胞であるM1マクロファージの画期的な機能の一端を解明した。現在は腫瘍免疫学の理論に基づきがんの根絶を目指してがん免疫療法の開発と臨床応用を手掛けている。
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舌がんとは?
お口の中にできるがん全体を口腔がんといい、舌がんはそのなかでも半数以上を占めます。舌がんとは、その字のとおり、お口の中にある舌にがんができてしまう病気です。舌は前方の舌体と後方の舌根に分けられ、舌がんは主に舌体に発生します。
がんは舌の裏側など見えにくい場所にできることもありますが、基本的には舌の両脇にできることが多く、鏡を使って患部を自分で確認することも可能です。舌がんには、舌に固いしこりができる・ただれる・動かしにくい・しびれがあるなどの症状があります。
さらにがんが進行すると、痛みや出血、口臭が強くなるなどの症状も出現します。早期発見のためにも、このような症状がみられた場合は、できるだけ早く耳鼻咽喉科を受診しましょう。
治療方法は病期に応じて選択されますが、一般的には外科手術が標準治療として行われます。
ただし、患者さんの状態によっては、放射線治療や薬物療法が選択される場合もあります。治療方法は、患者さんの身体の状態や、希望に合わせて主治医と相談して決めることになるでしょう。
舌がんの手術後の変化は?
舌がんの手術の方法や術後の変化は、切除する部位や大きさによって異なります。ここでは、手術後に起こりうる変化を解説します。
手術後の味覚や食感の変化
手術により舌の一部が切除されても、残った舌と咽頭に味覚を感じるセンサーである味蕾が残るため、原則として味覚は保たれるといわれています。
しかし、特定の味覚を感じにくい、あるいは常に特定の味覚を感じるなどの味覚障害が残るケースも報告されています。そのため、注意深く術後の経過を観察することが大切です。
手術後の発音や発声の変化
切除した舌の範囲にもよりますが、手術後は発音や発声が不明瞭になることが多いです。
特に、カ行・タ行・ガ行・タ行などが発音しにくいといわれています。この状態を構音障害と呼びます。術後に構音障害を認めた場合に行われる治療が、発音や発声のリハビリテーションです。
手術後の飲み込みの難化
飲み込みが難しくなる状態は嚥下障害と呼ばれ、術後に発生しやすい障害です。特に高齢者では重篤な嚥下障害のリスクが高まるといわれています。
嚥下障害があると、食事の際にうまく食べ物を食道に送ることができず、誤嚥して肺炎を起こしてしまう可能性もあります。これを誤嚥性肺炎といい、術後早期から注意することが重要です。
舌がん切除術の種類
一口に舌がん切除術といっても、どの部位をどれだけ切除するのかで手術名が変わります。ここからは手術の種類について解説をしていきます。
舌部分切除術
小さいがんに対して行われる外科手術が、舌部分切除術です。がんを完全に切除するために、がんの端からさらに正常な部分を含んだ切除が行われます。この手術は負担が少なく、嚥下機能や発音・発声機能の障害は少ないとされています。
舌半側切除術
舌部分切除術が適用されるがんよりも、大きながんに対して行われる手術が、舌の1/2を切除する舌半側切除術と呼ばれる手術です。舌の半分を超える切除が必要な場合は、切除した部分を修復するために、身体のほかの部分から組織を移植する再建手術が同時に行われます。
その場合には頸部の皮膚切開も必要となり、舌部分切除術よりも嚥下機能などの機能障害が大きくなります。しかし、リハビリテーションを行えば、通常の食事は十分に可能です。
舌亜全摘出術
がんがさらに大きく広がった場合は、広範囲の舌の切除が必要となります。これが舌亜全摘出術で、先述した舌部分切除術や舌半側切除術に比べると、嚥下機能や会話などの機能障害がより問題となりやすいことが特徴です。
この機能障害を軽減するために、切除した部分に舌の再建手術が行われることがあります。
そして、がんの切除や再建手術後に機能障害が出現した場合は、回復のために食事摂取・飲み込み機能や、発音・発声のリハビリテーションを行うことが重要です。
頸部郭清術
頸部郭清術は、舌がんなどの頭頸部のがんが、リンパ節へ転移したときや転移の恐れがあるときに行われる手術です。基本的には、転移のある頸部のリンパ節を周囲の筋肉や血管などとともに、まとめて取り除く方法がとられます。
この頸部郭清術は、できるだけ周辺の血管や神経を残すように手術しますが、がんの状態によってはそれらの組織を残すことができないことがあります。切除される神経で代表的な神経は、肩や首を動かす筋肉を支配する副神経です。
頸部郭清術後ではこの副神経を切除することで起きる、肩が痛い・肩が動かせないなどの後遺症がよく起こります。この場合、痛みを抑えたり、肩を動かすためのリハビリテーションが必要となります。
舌がん切除術後のリハビリテーション
これまでに解説してきた手術の後に、重要となるのがリハビリテーションです。これからは手術後にどのようなリハビリテーションが行われるのかを解説していきます。
飲み込み機能の回復
手術後は、舌で食べ物を喉の方に送る機能が低下するため、誤嚥性肺炎が起こる可能性があります。これを防ぐために行われるリハビリテーションが、舌の運動訓練や舌を使わずに飲み込む動作の練習です。飲み込みの練習は普通の食事から始めるのではなく、とろみをつけたり、少ない量から始めたりして少しずつ量を増やしていきます。
また、舌を使わずに飲み込む方法はすすり飲みといわれ、熱いものをすするような飲み方です。送り込みが難しいときは誤嚥を防ぐために、このような飲み方で飲み込み機能を評価します。
発声・発音の改善
発声や発音の練習は、動かす舌を鏡で見ながら行います。残っている舌のうち、どの部位を動かせば自分が発したい音を出せるか、鏡で確認しながらリハビリテーションを進めていきます。
また、残った舌の範囲が少ないときに使用される器具が、舌接触補助床(Palatal Augmentation Prosthesis; PAP)と呼ばれる装置です。
この装置には、舌と上顎の接触を促して発声や発語を改善する役割があります。また、食べ物の送り込みをスムーズにする役割もあるため、嚥下の練習にも効果的です。
頸部郭清術後の運動障害
頸部郭清術の説明でもお示ししたように、首や肩を支配する神経が切除されると、肩が動かしにくいなどの運動障害が起きます。この運動障害に対しては、リハビリテーションスタッフの指導を受けながら、腕・肩・首の動く範囲を広げるような運動が行われます。
具体的な運動内容は、リハビリテーションスタッフに動かしてもらったり、器具を使用して自分で動かしたりする肩周囲のストレッチ運動や筋力トレーニングです。このような運動は入院中だけではなく、退院後の継続も大切です。
舌がんについてよくある質問
ここまで舌がん手術後の変化・手術・リハビリテーションなどを紹介しました。ここでは術後の食事やリハビリテーションについてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
舌がん手術後に普通の食事ができるようになるまでどれくらいかかりますか?
永井 恒志 医師
病院の方針や手術の種類によりますが、術後1週間程度は食事がとれないこともあります。術後1週間までは鼻から管を通して栄養剤を胃へ流し込んだり、栄養輸液を点滴で投与したりして、身体のなかに栄養を取り込みます。その後から食事は始まりますが、普通の食事ではなくとろみをつけるなど、食べやすいものから始まることがほとんどです。普通の食事を3食摂取できるようになるまで早くて1週間、長い場合は6ヶ月程度かかると報告もされています。
舌がん手術後のリハビリテーションはどのくらいの期間が必要ですか?
永井 恒志 医師
リハビリテーションの期間は、食事が可能となる時期と同様に、手術の種類によって異なります。発話や発声は、リハビリテーションを開始して6ヶ月以内に回復するという報告がある一方で、5年間にわたりリハビリテーションを続けた患者さんの例も報告されています。
編集部まとめ
この記事では舌がん術後の変化や手術の種類、リハビリテーションについて解説しました。手術後に舌がどれくらい残っているかで、舌の機能障害の程度やリハビリテーションの重要性が変わってくることが、おわかりいただけたでしょうか。
舌は食事や会話をするためには、とても重要な器官です。一部でも舌を失うことは生活の質を大きく落とす可能性がありますが、リハビリテーションを根気強く続けることによって、その機能は少しずつ回復をしていきます。
ご自身またはご家族が、舌がんの手術を受ける予定がある方は、医師・看護師・リハビリテーションスタッフの方々を信頼して治療に臨んでいただけますと幸いです。
舌がんと関連する病気
「舌がん」と関連する病気は4個程あります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する病気
- 口腔底がん
- 歯肉がん
- 頬粘膜がん
- 硬口蓋がん
これらのがんは、すべて口腔がんに含まれます。口腔がんのなかでは、舌がんの頻度が多いですが、口腔がんすべて合わせても、がん全体の1~2%しかありません。
舌がんと関連する症状
「舌がん」と関連している、似ている症状は8個程あります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedial DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 舌に固いしこりがある
- ただれる
- 動かしにくい
- しびれがある
- 口内炎が治りにくい
- 痛み、出血
- 口臭が強い
ただの口内炎と思って、早期の発見が遅れる場合もあります。口内炎の治りが悪いと感じた場合は早めに病院を受診しましょう。
参考文献