「成人T細胞白血病の原因」は何が考えられる?症状・治療法も解説!【医師監修】
成人T細胞白血病(ATL)は、ウイルス感染が原因で発症する可能性がある稀ながんの一種です。ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-1)によって引き起こされることが多く、特に日本などの一部地域で見られます。
本記事では成人T細胞白血病の原因について以下の点を中心にご紹介します。
- ・成人T細胞白血病とは
- ・成人T細胞白血病の原因
- ・成人T細胞白血病の治療法
成人T細胞白血病について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。ぜひ最後までお読みください。
監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
目次 -INDEX-
成人T細胞白血病とは
成人T細胞白血病(ATL)は、ヒトT細胞白血病ウイルスⅠ型(HTLV-1)の感染が原因で免疫を司るT細胞ががん化し、異常に増殖する血液の病気です。発症するにはHTLV-1に感染していることが必要ですが、感染してもすべてが成人T細胞白血病に進展するわけではありません。ATLは急性型から慢性型まで複数の病型があり、症状や治療法も異なります。日本では九州や沖縄地域での感染が多く、母乳や性交渉を通じて感染が広がることが主な感染経路とされています。
成人T細胞白血病の種類
成人T細胞白血病にはどのような種類があるのでしょうか?
急性型
急性型は、血液中に花びらの形をした異常な核を持つリンパ球が急速に増える特徴があります。リンパ節の腫れや皮疹、肝臓や脾臓の腫大が見られます。消化管や肺にも異常リンパ球が浸潤する場合があります。病気の進行により、感染症や血液中のカルシウム値の上昇が合併することもあります。このような状況では、早急な抗がん剤治療が必要とされます。
リンパ腫型
リンパ腫型は、悪性化したリンパ球が主にリンパ節で増える病型です。血液中に異常細胞は認められませんが、リンパ節の腫れが主な症状として現れます。急性型と同様に症状が急速に進行することがあり、早期の診断と抗がん剤による治療が重要です。治療の選択肢には、病気の進行度や患者さんの状態に応じた化学療法やほかの治療法があります。定期的な検査と治療計画の立案が、治療の成否に大きく影響します。
慢性型
慢性型は、血液中の白血球数が増加し、異常リンパ球が多数見られる病型ですが、増殖は遅く、症状がほとんど現れません。無治療で経過を観察することが多いようです。病気の進行が遅いため、治療の必要性がない場合もありますが、定期的な検査や医師のフォローアップが重要です。進行が速い急性型やリンパ腫型とは異なり、慢性型の場合は病状の進行が緩やかであるため、治療計画は個々の患者さんの状態に応じて慎重に検討されます。
くすぶり型
くすぶり型は、白血球数は正常の範囲内でありながら血液中に異常リンパ球が存在する病型です。皮疹を伴うことがあり、ほかの病型とは異なる特徴を示します。くすぶり型の患者さんでは、病状が安定しており、無治療で長期間経過観察されます。数ヵ月に1回程度の外来受診で医師による経過の評価が行われ、必要に応じて治療計画が調整されることもあります。治療の必要性やタイミングは個別の患者さんの状態に基づいて判断され、患者さんの生活の質を損なわないよう配慮されます。
急性転化型
急性転化型は、慢性型やくすぶり型から急性型やリンパ腫型へ病状が進行する現象を指します。安定していた病態が急速に悪化し、治療が効果を示さなくなることがあります。急性転化が起こるメカニズムや具体的な進行速度については、まだ解明されていない部分もありますが、慢性型では2〜5年程度、くすぶり型ではそれ以上の期間が経過してからの急性転化が見られることが多いとされています。急性転化は、患者さんの病状の進行度合いや個別の生物学的特性によって異なり、治療計画の見直しが急務となります。医師は、早期に適切な抗がん剤治療を開始することで、病気の進行を抑える努力を行います。
成人T細胞白血病の原因
成人T細胞白血病の主な原因は、ヒトT細胞白血病ウイルスⅠ型(HTLV-Ⅰ)の感染です。このウイルスはT細胞に感染し、がん細胞へと変異させます。感染者の中で発症する確率は低く、3〜5%程度ですが、感染後に発症するまでには長い潜伏期間があります。主に高齢者での発症が見られ、若年層での発症は稀です。感染を避けるためには、母子感染対策だけでなく、性行為による感染予防も重要です。また、定期的な健康診断と体調管理も必要です。
成人T細胞白血病の症状
成人T細胞白血病の症状は男女ともに類似しており、主にリンパ節の腫れ(首、わきの下、足の付け根など)、肝臓や脾臓の腫れ、原因不明の皮疹、血中カルシウム値の上昇によるのどの渇きや意識障害、不整脈などが挙げられます。感染後に症状が現れるまでには30〜70年の潜伏期間があり、感染者の約5%が症状を発症するとされています。成人T細胞白血病はATL細胞の異常増殖により、全身のリンパ節や臓器に浸潤し、末期には免疫不全が進み日和見感染症にかかりやすくなる特徴があります。治療には病型により異なっており、化学療法や同種造血幹細胞移植が行われますが、予後は依然として厳しい現実があります。
成人T細胞白血病の治療法
成人T細胞白血病リンパ腫の治療法には、主に化学療法と造血幹細胞移植が用いられます。
化学療法
成人T細胞白血病リンパ腫の治療法として、主に化学療法が用いられます。非ホジキンリンパ腫に有効な複数の抗がん剤を組み合わせた多剤併用化学療法が用いられています。例えば、ビンクリスチン、エンドキサン、アドリアマイシン、メソトレキセート、エトポシドなどが使われ、これらの抗がん剤の併用によって、全体の30〜70%の患者さんで寛解が得られることがあります。
ただし、再発や再燃のリスクが高く、治癒が難しい現実もあります。近年では、モガムリズマブ(商品名:ポテリジオ)などの分子標的薬も、化学療法に組み入れられることがあり、がん細胞のより精確な標的化が可能とされています。しかし、治癒に至る例はまだ少なく、病型や患者さんの状態によって適切な治療法が選択されます。
造血幹細胞移植
成人T細胞白血病リンパ腫の治療法として期待されるのが造血幹細胞移植です。患者さんの体内にドナーから提供された正常な造血幹細胞を移植することで、新たな造血機能を再建するものです。自家移植、同種移植、同系移植という方法があり、同種移植ではHLA型の一致したドナーからの造血幹細胞が使用されます。
近年では、薬剤の強度を落とした試みも行われ、年齢や全身状態に応じた選択肢も増えています。ただし、この治療は体への負担が大きく、前処置の程度や移植後の管理が重要な課題です。
成人T細胞白血病についてよくある質問
ここまで成人T細胞白血病を紹介しました。ここでは成人T細胞白血病についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
成人T細胞白血病はどのように感染しますか?
中路 幸之助(医師)
主な感染経路は、性行為と母子感染です。性行為では、感染者の性液が健康な相手にウイルスを伝播することが主な原因とされています。また、母子感染は主に母乳を通じて行われますが、最近では経胎盤感染の可能性も指摘されています。過去には輸血による感染も問題視されましたが、現在では献血者の抗HTLV-1抗体検査によってほぼ100%の防止が確保されています。
性別による感染率の差や感染のメカニズムについては、さらなる研究が進められていますが、性行為を通じた感染が多いようです。
成人T細胞白血病の予防方法はありますか?
中路 幸之助(医師)
成人T細胞白血病(ATL)や、ほかのHTLV-1関連疾患(HAM、HU/HAU)の特効薬や予防接種は存在しません。HTLV-1の主な感染経路は母子感染や性行為による水平感染であり、母乳を介した感染が重要視されています。母子感染を防ぐためには、妊娠中の定期的な検査や母乳の代替措置が推奨されていますが、予防は難しいのが現実です。
また、ATLの発症リスクに関連して、禁煙でリスクを軽減できる可能性があります。しかし、現時点の明確な予防策は、感染のリスクを避けることや、健康な生活習慣の維持が重要です。今後の研究がさらに進展し、より効果的な予防法が見つかることが期待されています。
まとめ
ここまで成人T細胞白血病の原因についてお伝えしてきました。成人T細胞白血病の要点をまとめると以下のとおりです。
- ・成人T細胞白血病の主な原因は、ヒトT細胞白血病ウイルスⅠ型(HTLV-Ⅰ)の感染による
- ・成人T細胞白血病は感染者のなかで発症する確率は3〜5%程度と低い
- ・ヒトT細胞白血病ウイルスⅠ型(HTLV-1)の主な感染経路は母子感染や性行為による水平感染
成人T細胞白血病と関連する病気
成人T細胞白血病と関連する病気は3個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法などの詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
感染症科や神経内科の病気
- 成人T細胞性白血病(ATL)
- HTLV-1関連脊髄症(HAM)
- HTLV-1関連ぶどう膜炎(HU/HAU)
具体的な症状や治療法については、担当の医師と相談しましょう。
成人T細胞白血病と関連する症状
成人T細胞白血病と関連している、似ている症状は4個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 全身のリンパ節の腫れ
- 皮膚の発疹や腫瘤
- 下痢や便秘
- 頭痛
これらの症状が持続する場合、または新たにあらわれた場合、医師の診察を受けることが大切です。