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「甲状腺がん手術後」に起こりやすい”4つの合併症”とは?療養の注意点も医師が解説!

 公開日:2025/12/21
「甲状腺がん手術後」に起こりやすい”4つの合併症”とは?療養の注意点も医師が解説!

甲状腺がんの治療は、手術が中心です。しかし手術と聞くと、手術後の合併症への不安を感じる方も少なくないでしょう。

甲状腺がんの合併症には特有のものがあり、経験を積んだ医師による手術でも起こる可能性があります。そのため、身を守るには療養の仕方が重要です。

この記事では、甲状腺がんの手術後に考えられる合併症を取り上げます。経過観察や療養のポイントも解説しているので、参考にしてみてください。

久高 将太

監修医師
久高 将太(琉球大学病院内分泌代謝内科)

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琉球大学医学部卒業。琉球大学病院内分泌代謝内科所属。市中病院で初期研修を修了後、予防医学と関連の深い内分泌代謝科を専攻し、琉球大学病院で内科専攻医プログラム修了。今後は公衆衛生学も並行して学び、幅広い視野で予防医学を追求する。日本専門医機構認定内科専門医、日本医師会認定産業医。内分泌代謝・糖尿病内科専門医。

甲状腺がんとは?

甲状腺は喉仏(甲状軟骨)のすぐ下で気管を前から取り囲むように位置する、重さ10〜20gの小さな臓器です。この甲状腺にできた悪性腫瘍を甲状腺がんと呼びます。
甲状腺がんの種類は乳頭がん・濾胞がん・低分化がん・髄様がん・未分化がんに分けられ、一般的に若年の患者さん程予後がよいとされています。
2019年には18,780例が甲状腺がんと診断されており、そのうち女性は13,892例と圧倒的に女性の発症率が高いのが特徴です。

甲状腺がんの手術後の合併症

甲状腺がんの手術に伴う合併症には、ほかの疾患ではみられにくい特有のものがあります。
代表的な4つの合併症を取りあげ、それぞれの特徴を解説します。

反回神経麻痺

反回神経とは、甲状腺の裏側を走る声帯を動かす神経です。甲状腺切除の際に手術野に現れるため、この領域を扱う外科医師は反回神経の位置を十分把握しています。
しかし甲状腺がんが反回神経と癒着していると、剥がす際に神経にダメージを与えてしまい、反回神経麻痺を起こす可能性があります。
神経の働きが悪くなることで声帯の機能が鈍り、嗄声が起こるでしょう。

甲状腺機能低下・副甲状腺機能低下症

甲状腺は脳・骨の成長や新陳代謝を促す働きをもつ甲状腺ホルモンを分泌する、生きるうえで大切な器官です。
甲状腺がんの手術によって甲状腺が小さくなると、自然と産生されるホルモンの量は減ります。その結果、甲状腺機能低下症を発症し、倦怠感や疲労感が生じやすくなるでしょう。
また、血液中カルシウム濃度の維持に重要な副甲状腺ホルモンを分泌する副甲状腺も切除した場合、摘出する副甲状腺の数によって副甲状腺機能低下症を発症する可能性があります。
これにより血中カルシウム濃度の低下やリン濃度の上昇が起こり、手足の筋肉の痙攣や痺れ(テタニー症状)が起こるでしょう。

後出血

手術を終える際にはしっかりと止血をしてから縫合しますが、止血時には認められなかった出血が手術後しばらくしてから現れるケースが稀にあります。これを後出血と呼びます。
重度の後出血では再び全身麻酔をして傷を開き、止血術を行わなければなりません。出血を放置するとショックや感染が引き起こされるため、迅速な対応が必要です。
なお、甲状腺がん手術で後出血の処置が必要となる症例は極めて少ないです。

喉頭浮腫

喉頭浮腫は喉仏に相当する喉頭の内部の粘膜が腫れ、空気の通り道が塞がれることで呼吸が障害される症状です。
術後3~6時間に発症しやすく、頭頸部の静脈還流異常を伴う傾向があります。浮腫が強くなると、息を吸い込んだときに喉頭がヒューと鳴る喘鳴が起こり、呼吸が浅く速くなるのも特徴です。
腫れが急速に進行した場合には、窒息で死亡するリスクもあります。

甲状腺がんの手術後の経過観察

甲状腺がん手術の合併症を予防し適切に対処するためには、手術後の経過観察を十分に行うことが大切です。
以下で経過観察の目的と頻度を解説します。

体調確認・再発の有無の確認が目的

がん手術後の経過観察は、治療後の体調や再発の有無を確認するのが目的です。
甲状腺がんのなかでも乳頭がんと濾胞がんは、10年または20年経過した後に再発する恐れがあるため、長期的な観察が必要となります。主に内視鏡検査・首の触診・画像検査が行われます。
患者さんの身体の状態や処方されているホルモン薬に応じて、検査内容や通院期間は変化するでしょう。

手術後1~2年間の経過観察頻度

手術後1~2年間の通院頻度は、1~3ヵ月ごとです。
がんの再発・転移は治療後3年以内に起こりやすく、特に手術後1~2年間は綿密な観察が必要です。
体調の変化に対処するためにも、医師の指示に従い検査を受けてください。

手術後2~3年間の経過観察頻度

手術後2~3年間は、6ヵ月ごとの通院となるのが一般的です。これ以降は体調に合わせてさらに期間が空き、1年に1回のペースでの通院となるでしょう。
ただし、通院頻度が減っても油断はできない状態のため、決められた経過観察頻度を守って再発・転移のリスクを抑えましょう。

甲状腺がんの手術後の療養の注意点

甲状腺がん手術後は早い段階から通常の生活に戻れるものの、再発や合併症を予防するには療養の仕方に注意する必要があります。
日常生活で気を付けたい3つのポイントを取り上げます。

規則正しい生活・バランスのよい食事

規則正しい生活は、手術後の体調の維持や回復を図るために重要です。
朝起きて日中は普段通り活動し、夜は遅くならないうちに就寝するように心がけましょう。
心身のストレスは体調を悪化させる恐れがあるため、十分な睡眠時間を取ってください。
また、バランスのよい食事を心がけていると胃腸の調子や排泄状態が整っていき、体力が回復していきます。
無理して食べようとはせず、体調やお腹の具合に合わせて食べられるものから食べるようにしましょう。

適度な運動

医師から運動の許可が出てからは、無理のないペースで適度な運動を行うのがおすすめです。
運動は手術や入院期間で落ちた体力を回復させるとともに、よい気分転換にもなります。簡単な家事や家の階段の昇り降りなど、日常的な動きから始めるのが有効です。
張り切りすぎて疲れないように、調子の悪いときにはしっかり休みましょう。

適度な飲酒・禁煙

甲状腺がんに限らず、過度な飲酒と喫煙はがんのリスク因子として知られています。
生存分析において、ハザード比と呼ばれる2つのグループ間でみられる死亡・疾病発生率の比を示す統計学上の指標があります。これは1を基準に1以上ならリスクが高い、1以下ならリスクが低いことを表す指標です。
例えば食道がんの場合、飲酒者は非飲酒者と比べてハザード比2.76、喫煙者は非喫煙者と比べてハザード比2.27という結果が出ています。
一方、甲状腺がんの場合は週に7杯以上の飲酒者はハザード比0.72、喫煙者はハザード比0.68と報告されています。
数値で見ると飲酒・喫煙が甲状腺がんにもたらす影響は大きくはないものの、飲酒・喫煙が合わさるとリスクが上昇しやすいため注意が必要です。
さらに、がん以外の生活習慣病にかかるリスクも避けられません。飲酒は適度に抑え、禁煙をして健康状態を保つよう心がけてください。

甲状腺がんの手術後についてよくある質問

ここまで甲状腺がん手術後の合併症・経過観察・療養などを紹介しました。ここでは「甲状腺がんの手術後」についてよくある質問に、メディカルドック監修医がお答えします。

放射性ヨウ素内用療法を行った場合の日常生活の注意点を教えてください。

放射性ヨウ素内用療法を実施する前後の生活では、ヨウ素を制限した食事を行います。ヨウ素は海藻や魚介類に多く、特に昆布は代表的な食材です。昆布そのものだけでなく、昆布だし入りの調味料や昆布茶も避けてください。商品によっては、ミネラルウォーター・お茶・炭酸飲料・スポーツドリンクなどの飲料製品にも、ヨウ素が含まれている場合があるので気を付けましょう。治療後は、体内から出る放射線量が基準値を下回ってから退院します。しかし、退院後数日間は微量の放射線が出るため、周囲の人への被曝に注意が必要です。一定期間が過ぎると、食事・活動の制限はなくなります。退院後の生活の詳しい注意点は担当医に確認し、指示を守るようにしてください。

手術後に傷跡が気になる場合の対処法を教えてください。

手術による傷跡は、半年程で気にならなくなる患者さんが多いです。とはいえ首元は目立つ場所のため、気になる方もいるでしょう。簡単な対処法は、ハイネックの服を着たりスカーフを巻いたりする方法です。また、アピアランス(外見)ケアとして傷跡のカバーメイクを行うケースもあります。患者さん自身が消極的な気持ちを軽減し、自分らしい生活を取り戻せる方法を選択するとよいでしょう。

編集部まとめ

この記事では、甲状腺がん手術後の合併症に関する情報を解説しました。合併症をすべて避けるのは難しいため、適切な経過観察と療養が大切です。

規則正しく健康的な生活を心がけ、定められた経過観察をきちんと受けてください。そのようにして、充実した生活を取り戻すために医師とともに励みましょう。

甲状腺がんと関連する病気

「甲状腺がん」と関連する病気は1個程あります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからメディカルドックの解説記事をご覧ください。

関連する病気

  • 慢性甲状腺炎

甲状腺がんのリンパ腫は、慢性甲状腺炎(橋本病)から発症します。
慢性甲状腺炎を早期発見することで甲状腺がんを予防できる可能性もあるため、どちらも合わせて注意が必要です。

甲状腺がんと関連する症状

「甲状腺がん」と関連する症状は4個程あります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからメディカルドックの解説記事をご覧ください。

関連する症状

  • 喉の違和感
  • しこり
  • 嗄声
  • 誤嚥

喉の甲状腺に腫瘍が発生する甲状腺がんは、進行すると喉の機能に関わる症状がみられます。
食事や会話の面で支障をきたし、QOL(生活の質)を低下させる恐れがあるため、気になる症状があれば早めの受診をおすすめします。

この記事の監修医師