「胃がんの手術後」に発症しやすい症状はご存知ですか?食生活の注意点も解説!
胃がんの手術では、胃の一部またはすべてを摘出することになります。このような場合、胃の機能が低下し、手術前と同じような食事は難しくなります。
そのため、手術後は食事回数や食事の速度などを工夫しながら食事をする必要があるでしょう。
また、胃の切除する部分によって出現しやすい症状も異なるため、切除する部分に合わせて日々の食生活で注意すべきことが変わってきます。
この記事では、胃の手術後に起こりやすい症状と食生活について解説します。
監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
目次 -INDEX-
胃がんとは?
胃は胃の内側から粘膜・粘膜筋板・粘膜下層・固有筋層・漿膜で構成されており、胃がんは胃の表層部に位置する粘膜にできるがんのことを指します。
粘膜にできたがんは徐々に進行し、より深い層へ浸潤していくのが特徴です。粘膜~粘膜下層にとどまっているがんを早期胃がん、固有筋層にまで浸潤してきたがんを進行胃がんといいます。
どこまでがんが浸潤しているかによって、病期が変わってくるのが特徴です。そして病期によって手術が行えるかどうかも変わってきます。
がんの治療では早期発見・早期治療が重要です。早期発見にこぎつけるためには、定期的に検査を行うか異常を感じたらすぐに受診するようにしましょう。
胃がんの手術後に起こりやすい症状は?
胃がんの手術では胃を切除することになるので、胃の機能を失うことにもつながります。胃の術後に起こりうる症状は以下のとおりです。
- ダンピング症候群
- 逆流性食道炎
- 骨粗しょう症
- 貧血
- 体重減少
- 下痢
これらの詳しい症状について、以下で解説します。
ダンピング症候群
ダンピング症候群は食べ物が胃のなかに溜める機能が弱まったことで、食べ物が十分に消化されずに小腸に流れ込むことで起こる症状です。ダンピング症候群のなかでも種類があり、以下の2種類に分類できます。
- 早期ダンピング症候群
- 後期ダンピング症候群
早期ダンピング症候群は食後5~30分に起こるもので、冷や汗・動悸・嘔吐などさまざまな症状が出現します。
後期ダンピング症候群は食後2~3時間で頭痛・発汗・めまいなどの症状が出現します。胃で溜めることができる食事の量が制限されているため、これらの症状は起きてしまうのです。
予防策として食事の食べる量など、食生活において工夫をする必要があるでしょう。
逆流性食道炎
胃がんの手術によって、胃の入口である噴門の機能が低下して、胃の内容物が食道へ逆流することがあります。その後、胃のなかに胆汁・膵液などが溜まり、食道に逆流した際の刺激によって引き起こされるのが逆流性食道炎です。
逆流性食道炎には、蛋白分解酵素阻害薬の使用が推奨されています。
骨粗しょう症
胃切除によりカルシウムの吸収が悪くなることで骨密度が低下し、骨粗しょう症になってしまいます。
胃切除後すぐに起こるわけではないので、定期的に骨密度を測定しながら様子をみていきます。介入が必要となれば、薬物療法を導入することがあるでしょう。
貧血
胃切除後は鉄分やビタミンB12の食べ物からの吸収が低下してしまうことが報告されています。鉄分やビタミンB12はどちらも血球成分を生成するために必要な成分です。
これらの吸収が低下してしまうと、血球成分が減少し貧血になってしまうことが考えられます。そのため、胃切除後は鉄分やビタミンB12を補充するよう指導されることがあるでしょう。
胃を全摘した場合は、手術してから3~5年後にビタミンB12の注射をする必要もあります。
体重減少
胃切除後はダンピング症候群や下痢、ビタミンB12などの栄養素の吸収低下により体重減少が起こることがあります。
このような症状がある場合、消化に優しく栄養素が豊富に含まれている栄養補助食品を取り入れることがあります。
下痢
小腸に流れ込む食べ物の量が多くなってしまうことで、小腸の蠕動運動が激しくなり下痢の症状を呈することがあります。
ほかにも、胃酸分泌低下による腸内細菌の種類の変化など、胃切除後の下痢の要因はさまざまです。
胃がんの手術後の食生活の注意点
胃は食べ物を消化させるなど人間が効率よく栄養素を吸収するための重要な役割をもっています。しかし、胃を切除することによってその機能が低下しているため、手術する前と同じ食生活をしていると先程紹介したような症状が出現することになるでしょう。
そのため、手術後は食生活を見直す必要があり、ここでは手術後の食生活の工夫について紹介します。
少量ずつ食べる
胃切除後は胃が食べ物を滞留することができる量が制限されるため、少量ずつ食べる必要があります。胃内で溜めることができる量を超えてしまった場合、ダンピング症候群を呈する可能性があります。
数回に分けて食べる
胃切除後であっても、人間が1日に必要とする栄養の量は変わりません。しかし、胃切除後は一度の食事で食べる量が制限されているため、食事の回数を多くすることでまかなう必要があります。
1日の合計の食事回数は5~6回程度とされていますが、胃を切除した範囲によって変わってきます。手術後は医師からどの程度食事を摂取してよいかなど、注意点について聞いておくことが重要です。
よく噛んで食べる
よく噛んで食べることは消化管の消化の負担を軽くします。
手術後は胃の消化機能も低下しているため、よく噛んで食べることで胃の負担を軽くすることが大切です。こうすることで、消化不良の食べ物が小腸に流入することが防げるので、小腸の負担も軽くすることができます。
ゆっくり食べる
ゆっくり食べることは、よく噛んで食べることにもつながります。早食いをしてしまうと、咀嚼回数の低い食べ物が胃に入ってしまうことで胃の負担が大きくなってしまうでしょう。
手術後の緩和ケアとは?
手術後は手術の傷による痛みが予想されますが、強い鎮痛薬を使用することで痛みを緩和することが可能です。
手術による痛みは一時的なものであり、傷の炎症が次第に治まるにつれて鎮痛薬も不要になります。手術の傷が落ち着いてきたら、今後の食事の摂取の仕方などについて患者さんや患者さんのご家族に説明がされます。
手術後の生活などで精神的な不安などがあるようであれば医療者に相談することが大切です。
胃がんの手術後についてよくある質問
ここまで胃がんの手術後の症状や食事について紹介しました。ここでは「胃がんの手術後」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
手術後はいつ頃から入浴できますか?
中路 幸之助(医師)
手術後はお腹に管が入れられており、それらが抜けてからであれば入浴の許可がでます。お腹の管が抜けるのにおよそ7日間程度はかかるので、入浴できるまでに7日間はみておいた方がよいです。
手術後はどのくらいで仕事復帰できますか?
中路 幸之助(医師)
仕事復帰は退院後1ヵ月程度してからの方がよいでしょう。また、仕事で腹筋をよく使うような力仕事が多い場合は2~3ヵ月程度してからの方がよいです。復帰の目安は仕事内容にもよるので、早めに仕事に復帰したい場合は、デスクワークの多い部署にしてもらうなどの調整も必要になります。
編集部まとめ
今回は、胃がんの手術後に起こりうる症状や食生活について解説しました。
胃がんの手術では、胃を切除することで胃の機能を低下させてしまうので、これまでどおりの食事ではダンピング症候群などの症状を呈することがあります。
このような症状を出現させないように、食生活に工夫が必要です。また胃を切除したことで鉄分やビタミンB12など、食事から十分に摂取できないこともあります。
そのような場合は、栄養補助食品などに頼る必要があります。術後でも楽しく食事をとるために、食事に関する注意点について事前に医師から聞いておくことが大切です。
胃がんと関連する病気
「胃がん」と関連する病気は1個程あります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する病気
- ヘリコバクターピロリ菌の感染
ヘリコバクターピロリ菌に感染すると胃粘膜に生息し、胃酸の分泌を促してしまい萎縮性胃炎という状態になります。この萎縮性胃炎が胃がんの発生に関わっていると考えられており、ヘリコバクターピロリ菌に感染していることが判明したら早めに治療することが望ましいでしょう。
胃がんと関連する症状
「胃がん」と関連している、似ている症状は4個程あります。
各症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 嘔吐
- 吐血
- 食欲低下
- 体重減少
どれも胃がんに特徴的な症状ではなく、胃潰瘍などでも出現しうる症状になるため、発見が遅れてしまうこともあるでしょう。健康診断などで発見されることもあるので、異常所見があると通知があった場合は早めに医療機関に受診することが大切です。