「乳がんの手術後」に気を付けたい日常生活の注意点とは?【医師監修】
乳がんの手術を終えたとき、一区切りついた気持ちになるのと同時に、これからの生活に不安を感じるかもしれません。
日常生活で注意しなければならないことは何かを具体的に知り、見通しを立てておくことで、心の準備をしましょう。
乳がんの手術後は医師の指示にしたがって治療をすすめながら、徐々に日常生活へ戻っていきます。
この記事を読んで注意すべきポイントをおさえることで、少しでも不安を減らして治療に取り組みましょう。
監修医師:
上 昌広(医師)
目次 -INDEX-
乳がんとは
乳がんとは、乳腺の組織にできるがんです。乳房は乳腺と脂肪組織でできており、乳腺は乳頭から放射状に広がっています。それぞれの乳腺はさらに小葉にわかれ、小葉は乳管でつながれた状態です。
乳がんの90%程は乳腺から、残りは小葉から発生します。乳がんは早期発見で90%が治療できるがんであり、早期発見・早期治療が大変重要です。乳がんは30代〜40代にかけて急増し、ピークは40代後半〜50代といわれます。
代表的な症状は乳房のしこりです。しこりは自分で触って気付く場合もありますが、検診で発見される場合もあるため2年に一度は検診を受けるよう心がけてください。
乳がんのしこり以外の症状には、乳頭や乳輪のただれ・乳房の皮膚や乳房のくぼみやひきつれ・左右の乳房の形が非対称・乳頭から分泌物が出るなどが挙げられます。
授乳中や乳腺症でも似たような症状が出る場合がありますが、自己判断はせず気になる症状があれば受診するようにしてください。
乳がんの手術後に気を付けたい日常生活での注意点
乳がんの手術を終えて日常生活に戻るとき、これまでのような生活を取り戻したいと感じる方は多いです。手術後に自分らしい生活へ戻るなかで、気をつけたいポイントがあります。
ここでは乳がんの手術後に日常生活へ戻る際の注意点を解説するので参考にしてください。
仕事復帰時期は体調・治療を考慮して決定する
仕事復帰時期は、手術の大きさ・仕事内容・術後の補助療法などによって異なります。手術の場合、事務作業であれば術後2週間程度、重労働の場合は術後4週間程度が仕事復帰の目安です。
手術後に化学療法へ進む場合でも、治療期間はおおよそ予測できるため主治医に確認しましょう。
治療中の妊娠は避ける
乳がんの手術後、抗がん剤による化学療法やホルモン療法に進む場合は、治療期間中の妊娠を避ける必要があります。妊娠初期は薬剤に敏感な時期であり、胎児が奇形となるリスクが増すなど胎児に影響を与える可能性が高いためです。
治療が終了すれば妊娠は可能ですが、妊娠のタイミングは主治医とよく相談することが大切です。
バランスのよい食事を心がける
乳がんの手術後は普段と同じ食事をして問題ありません。しかし、肥満は乳がんのリスクとなることがわかっています。再発や新たな乳がんのリスクを下げるために、バランスのよい食事を心がけるようにしましょう。
肥満はリンパ浮腫のリスクも高めます。リンパ浮腫は乳がんの手術後に生じやすい後遺症の一つであり、体重を減らして負担を減らすことで症状が改善しやすくなります。食事内容を工夫して、楽しく食事をしながらバランスのよい食事を心がけましょう。
規則正しい生活を心がける
規則正しい生活を心がけることで、手術後の体の回復を助けて体調を整えましょう。特に大切なのは睡眠と適度な運動です。早寝・早起きを心がけ、不眠が続くようであれば主治医に相談しましょう。
また、適度な運動も大切です。乳がんの治療中や治療後は体を動かす機会が減り、体力が落ちて体重が増える傾向があります。医師の指示にしたがって、筋力トレーニングやウォーキングなどの有酸素運動を行うようにしましょう。
下着は手術後の段階・回復状態に合わせて変える
乳がんの手術後は普段つけていた下着が合わないことがあります。手術後はワイヤーが入った下着や締め付けの強い下着をつけると、痛みやむくみを引き起こすことがあるため注意しましょう。
下着は手術後の状態に合わせて変え、ワイヤーの入っていないタイプや前開きタイプの下着を選ぶようにしてください。また、手術後に乳房の左右差が気になる方はパッドを入れて調節することもできます。
喫煙・過度なアルコール摂取は避ける
喫煙と過度なアルコール摂取は乳がんのリスクを高める可能性があるため避けましょう。
タバコには多くの発がん性物質が含まれ、喫煙している本人以外がタバコの煙にさらされる受動喫煙でもがんのリスクは高まります。
また、アルコールは1日1杯程度であれば問題ありませんが、飲みすぎには注意してください。
乳がんの乳房切除手術後に生じやすい後遺症
乳房切除手術の後に後遺症が出る方がいます。手術後は無理をせずしっかり体を休めて、痛みや腫れが続くときは主治医に相談することが大切です。ここでは乳がん手術後の後遺症を詳しく解説します。
リンパ浮腫
乳がんの手術でリンパ節を切除すると、リンパの流れが悪くなり腕や指が腫れることがあり、これをリンパ浮腫といいます。体重の増加や、リンパ液の流れが悪くなった場所に感染が起こるとリンパ浮腫が起こりやすくなるため注意してください。
手術後は体重管理をして、傷などの感染を避けるようにしましょう。手術後は腕に負担がかからないように、休憩しながら作業するよう意識してください。
乳房切除後疼痛症候群
乳がんの手術後の痛み・違和感・しびれなどは術後数ヵ月で改善するのが一般的です。しかし神経痛のようなキリキリとした痛みや鈍い痛みが数年経っても消えないことがあります。このような慢性的な痛みを乳房切除後疼痛症候群といい、原因は明らかになっていません。
徐々に軽減するケースがほとんどですが、痛みは我慢しすぎず、主治医に相談してください。
乳がんの手術後に行う再発予防のための術後治療
乳がんの治療は手術でがんを取り切ることが基本ですが、再発を予防する目的で手術後に薬物療法(ホルモン療法・化学療法)や放射線療法を行います。
ここでは乳がん手術後の薬物療法と放射線療法を詳しく解説していきます。
ホルモン療法・化学療法
ホルモン療法ではホルモン分泌を抑える薬を使用します。ホルモン療法は女性ホルモンにより増える性質を持つがんに効果があり、代表的な副作用にほてり・性器出血・気分の落ち込み・イライラするなどの症状があるため、投与後は注意しましょう。
また化学療法では、がん細胞が増えるのを抑えたり、がん細胞に対する免疫の働きを助ける薬を使用します。化学療法の副作用は、脱毛・神経障害によるしびれ・吐き気・骨髄抑制によるめまいや怠さが起こることがあるため注意してください。
手術後にがんの性質を調べて、これらの薬を併用する場合もあるでしょう。
放射線治療
放射線療法は部分切除で残った乳房や近くのリンパ節に5週間程かけて放射線を照射して、局所再発を予防します。
主な副作用に、照射部位の皮膚の赤み・かゆみ・ヒリヒリとした痛みを感じることがあります。照射部位を強く擦ったり冷やしすぎたりしないよう注意しましょう。
放射線療法後に咳や微熱が長く続くときは、放射線肺臓炎の可能性があります。症状が続くときは病院で受診し、放射線療法を受けていることを申告してください。
乳がんの手術後についてよくある質問
ここまで乳がんの手術後の注意点・後遺症・治療法などを紹介しました。ここでは「乳がんの手術後」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
乳がん手術後の安静期間はどのくらいですか?
上 昌広(医師)
乳がんの手術後は3日程度ベッド上で安静にします。手術の傷が引っ張られないような体勢や手術をした胸が圧迫されないような体勢を取ってもらいます。手術後の傷の状態や体調によって変わりますが、安静期間が終わったら少しずつ歩行やリハビリを開始します。
乳がん手術後の痛みはいつまで続きますか?
上 昌広(医師)
乳がん手術後の痛みは手術直後をピークとして、徐々に和らいでいきます。個人差はありますが、1週間程度で痛みが軽減されることが多いです。しかしなかには乳房切除後疼痛症候群となり、慢性的に痛みが続くケースもあります。痛みが続くようなら、我慢しすぎず主治医に相談してください。
編集部まとめ
乳がん手術後の日常生活の注意点・後遺症・治療法を解説しました。
乳がんの手術後はこれからの生活や治療に不安を抱く方がほとんどです。手術後の生活を具体的にイメージし、再発や後遺症に注意しながら、自分らしい生活を取り戻していきましょう。
この記事を通して、乳がんの手術を受けて日常生活に戻る際の不安を少しでも取り除くことができることを願っています。
乳がんと関連する病気
乳がんと関連する病気は3個程あります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する病気
- 乳腺症
- 線維腺腫
- 葉状腫瘍
乳腺症や線維腺腫はしこりができるため、乳がんと鑑別することが必要です。また葉状腫瘍は一般的な乳がんと腫瘍ができる部位が異なります。しかししこりができる点や悪性の場合に切除が必要な点は似ています。気になる症状があるときは医療機関を早めに受診するようにしてください。
乳がんと関連する症状
乳がんと関連している、似ている症状は4個程あります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 乳房のしこり
- 乳房のくぼみ
- 乳頭や乳輪のただれ
- 乳頭から分泌物が出る
乳がんに気付く代表的な症状が乳房のしこりです。早期発見のために、上記のような症状が見られた場合は早めの受診をおすすめします。