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「乳がんのステージ3」の症状・余命・生存率はご存知ですか?医師が徹底解説!

 公開日:2024/05/31
「乳がんのステージ3」の症状・余命・生存率はご存知ですか?医師が徹底解説!

Medical DOC監修医が乳がんのステージ3の症状や余命・生存率・治療法や何科へ受診すべきかなどを解説します。気になる症状がある場合は迷わず病院を受診してください。

山田 美紀

監修医師
山田 美紀(医師)

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慶應義塾大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、総合病院や大学病院にて形成外科、外科、乳腺外科の研鑽を積んできた。医学博士。日本外科学会 外科専門医、日本乳癌学会 乳腺認定医、検診マンモグラフィー読影認定医(A判定)の資格を有する。

「乳がん」とは?

乳がんとは乳房の組織に発生する悪性腫瘍です。乳腺は乳管と小葉からできており、乳がんの多くは乳管から発生します。乳がんが進行すると、がん細胞は周囲の組織に浸潤します。血管やリンパ管に浸潤すると、血液やリンパ液の流れに乗って他の臓器に転移します。

乳がんステージ3の症状

ステージ3は他の臓器への転移はありませんが、乳房のしこりが大きく、近くのリンパ節(脇の下・鎖骨・胸骨の横)に転移がある段階です。多くの患者さんで乳房のしこりなどの自覚症状があります。

乳房のしこり

ステージ3では乳房のしこりの範囲が広いため、しこりの症状に気が付くことが多いでしょう。乳房に動きの悪いしこりを自覚します。気が付いたら早めに乳腺科を受診しましょう。

乳房の変形

乳房の左右差、乳頭や皮膚のへこみ、皮膚の赤みがみられることがあります。また、ステージ3の一つである炎症性乳がんでは、しこりはないにもかかわらず乳房の広い範囲の赤みがあります。気が付いたら早めに乳腺科を受診しましょう。

乳房の痛み

早期の乳がんでは痛みを感じることはほとんどありません。ステージ3では乳がんが皮膚や胸壁に浸潤していることがあり、その場合は痛みを感じることがあります。痛み止めを使用し、可能な限り早めに乳腺科を受診しましょう。

しこりからの出血や浸出液

ステージ3ではがんが進行し、皮膚の表面にがんが露出することがあります。潰瘍を形成し、しこりからの出血、浸出液や悪臭などの症状があります。出血がある場合は、圧迫して止血を行います。症状がある場合はなるべく早めに乳腺科を受診しましょう。

脇の下の腫れ

ステージ3では脇の下、鎖骨、胸骨の横のリンパ節に転移がある場合があります。転移の程度によっては脇の下のリンパ節の腫れにご自身で気が付くこともあります。リンパ節が腫れる原因は乳がんだけではなく、感染症や悪性リンパ腫などさまざまな理由があります。症状がある場合は早めに医療機関を受診しましょう。

乳がんステージ3の余命・生存率

ステージ3はステージ2と比べてリンパ節転移があり、しこりの範囲も広がっている段階です。ステージ3は3a期、3b期、3c期に分類されます。3a期はしこりが5cmを超え、脇のリンパ節転移がある、もしくはしこりの大きさにかかわらず脇のリンパ節が固定されているか胸骨の横のリンパ節転移があります。3b期はしこりの大きさに関係なく、胸壁に固定されたり、皮膚のむくみや潰瘍があります。リンパ節転移がない場合や、脇か胸骨の横のリンパ節にのみ転移があります。3c期はしこりの状況にかかわらず、脇か鎖骨上にリンパ節転移がある、もしくは脇と胸骨の横にリンパ節転移があります。ステージ3の5年生存率は80.7%です。ステージ2の5年生存率95.5%と比べるとやや低くなりますが、完治を目指して治療します。検査は乳腺科で行います。まず、腫瘤や石灰化などをマンモグラフィで確認します。乳腺エコー検査や造影MRI検査を行い、確定診断のために針生検を行います。また、他の臓器に転移がないか確認するためにPET-CT検査などを行います。

乳がんステージ3の治療法

ステージ3は乳房のしこりが大きく、リンパ節転移がある状態です。特に3b期と3c期は局所進行乳がんと呼ばれます。手術が困難な場合もあるため、まず薬物治療で腫瘍を小さくしてから手術や放射線療法などの局所治療を行います。その後、再発予防のための薬物治療を行います。

化学療法(抗がん剤)

ステージ3ではまず化学療法(抗がん剤)を行います。乳腺科や腫瘍内科で通院で治療を行い、治療期間は手術前に4~6カ月程度です。全タイプの乳がんに効果がありますが、乳がんのタイプや患者さんの状態によって化学療法のメニューが異なります。代表的なものはアンスラサイクリン系抗がん剤とタキサン系抗がん剤です。トリプルネガティブ乳がんでは免疫チェックポイント阻害剤を併用し、手術後も継続して計1年間治療します。HER2(ハーツー)陽性乳がんの方には抗HER2療法を併用し、手術後も継続して計1年間治療します。ホルモン受容体陽性乳がんの方にはS-1(エスワン)という経口の抗がん剤を内分泌療法と併せて術後1年間使用することがあります。また、化学療法を行っても手術ができなかった場合は、薬物治療を適宜変更しながら治療を継続します。

抗HER2療法

乳がんの中でもHER2陽性乳がんの方には抗HER2療法がよく効きます。抗HER2薬であるトラスツズマブとペルツズマブはHER2タンパクにくっつきます。HER2タンパクの働きを抑え、がん細胞の増殖を抑える点滴の薬です。主にタキサン系抗がん剤と併せて使用します。乳腺科や腫瘍内科で、手術前に抗がん剤と併せて約4~6カ月間通院治療を行います。手術後は、抗HER2薬単独で計1年間治療を行います。手術前の化学療法後にがんが残っていた場合は、トラスツズマブエムタンシンという別の抗HER2薬に変更して治療を行います。手術ができなかった場合は、トラスツズマブデルクステカンという抗HER2薬も使用できます。

内分泌療法

乳がんの中でもホルモン受容体陽性乳がんに対して内分泌療法の効果があります。乳腺科で手術後の再発予防のために、5~10年間経口内分泌療法(アロマターゼ阻害剤、タモキシフェンなど)を使用します。閉経前の患者さんにはLH-RHアゴニストという注射も併用します。さらに再発リスクを下げるためにアベマシクリブという経口のCDK(シーディーケー)4/6阻害剤を2年間併せて使用します。またはS-1という経口の抗がん剤を1年間併せて使用します。化学療法を行っても手術ができなかった場合は、フルベストラントという筋肉注射の内分泌療法やmTOR阻害剤という分子標的薬も使用できます。すべて通院で治療を行います。

PARP阻害剤

BRCA1またはBRCA2遺伝子変異が確認された乳がんの場合は、経口PARP阻害剤であるオラパリブが使用できます。アンスラサイクリン、タキサン系抗がん剤を使用したことがあるHER2陰性乳がんで再発リスクの高い患者さんが使用できます。乳腺科や腫瘍内科で通院で治療を行います。手術後の再発予防としては、1年間使用します。

手術

薬物療法がよく効き、手術が可能な場合は乳腺外科で手術を行います。乳房部分切除術が可能な場合は、3日程度の入院で乳房部分切除術を行います。乳房部分切除術が難しい場合は、1~2週間の入院で乳房全切除術±乳房再建を行います。脇のリンパ節に対して、手術前の検査で転移がないと判断した場合はセンチネルリンパ節(乳房から最初にリンパ流を受けるリンパ節)生検を行います。転移が残存している場合は、腋窩リンパ節郭清をします。腋窩リンパ節郭清をした場合、腕が浮腫んでしまう上肢リンパ浮腫の予防が大切です。具体的には、手術の翌日から腕の挙上運動や肩関節運動などのリハビリを行います。

放射線療法

ステージ3はしこりが大きく、リンパ節に転移がある状態であり、局所再発リスクを減らすために手術後に放射線治療を行います。放射線科に約1か月の間通院し、胸壁(乳房部分切除の場合は温存した乳房)と周囲のリンパ節に放射線照射を行います。手術ができなかった場合も、出血や痛みなど局所のコントロールのために放射線治療を行うことがあります。

「乳がんのステージ3」についてよくある質問

ここまで乳がんのステージ3の症状や余命・生存率・治療法などを紹介しました。ここでは「乳がんのステージ3」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。

乳がんステージ3と診断された場合、全摘出するのでしょうか?

山田 美紀山田 美紀 医師

必ずしも乳房全切除術を行うわけではありません。乳がんステージ3と診断された場合は、まず抗がん剤などの薬物治療を行います。薬物治療がよく効いて、しこりが小さくなった場合は乳房部分切除術が可能となる場合があります

乳がんステージ3とステージ2の違いについて教えてください。

山田 美紀山田 美紀 医師

乳がんステージ3はステージ2と比べて、しこりの範囲が広く、リンパ節転移がある段階です。5年生存率はステージ2が95.5%であるのに対して、ステージ3では80.7%とやや低くなりますが、ステージ2と同様に完治を目指して治療を行います。ステージ2ではまず手術を行うことがありますが、ステージ3ではほとんどのケースで薬物治療から始めます。

編集部まとめ

乳がんのステージ3は他の臓器に転移はないものの、乳房や周囲のリンパ節に広くがんが進行した段階です。手術を行うために抗がん剤を含めた薬物治療から行います。再発リスクが高いため、手術後もしっかりと再発予防のための薬物治療や放射線治療を行い、完治を目指します。ステージ3ではしこりの痛みや出血などのQOLを低下させる症状が出現する場合があります。乳がんは早期発見、早期治療で完治できる病気なので、この段階になる前に早めに医療機関を受診しましょう。

「乳がんのステージ3」と関連する病気

「乳がんのステージ3」と関連する病気は3個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

乳腺科の病気

皮膚科の病気

  • 皮膚腫瘍(炎症性粉瘤など)

血液系の病気

ステージ3では乳房の皮膚の赤みや皮膚の表面にしこりが顔を出していることがあり、乳腺炎や炎症性粉瘤などの皮膚腫瘍と症状が似ている場合があります。また、脇のリンパ節が腫れる病気として悪性リンパ腫などもあります。症状がある場合は早めに医療機関を受診しましょう。

「乳がんのステージ3」と関連する症状

「乳がんのステージ3」と関連している、似ている症状は5個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

関連する症状

  • 乳房のしこり
  • 乳房の変形
  • 乳房の痛み
  • しこりからの出血や浸出液
  • 脇の下の腫れ

乳がんのステージ3は乳房や周囲のリンパ節にがんが広がっている状態であり、しこりだけではなく、乳房の変形、痛み、出血などがあり生活に影響がある場合があります。症状がある場合は、早めに医療機関を受診しましょう。

この記事の監修医師