「多発性骨髄腫の末期症状」はご存知ですか?ステージや治療法についても解説!
- 多発性骨髄腫の末期では、どのような症状があらわれるのでしょうか?本記事では、多発性骨髄腫の末期症状について、以下の点を中心にご紹介します。
- ・多発性骨髄腫のステージ
- ・多発性骨髄腫の末期症状
- ・多発性骨髄腫の緩和ケア
多発性骨髄腫の末期症状について理解するためにも、ご参考いただけますと幸いです。ぜひ最後までお読みください。
監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
目次 -INDEX-
多発性骨髄腫の概要と原因
多発性骨髄腫とは、骨髄にある抗体を作る細胞(プラズマ細胞)が異常に増殖し、骨や腎臓などに障害を起こす血液のがんです。日本では年間約3,000人が発症し、男性に多く見られます。原因は不明ですが、遺伝的な要因や環境的な要因が関与していると考えられています。
多発性骨髄腫は、症状が出る前に、骨髄に異常なプラズマ細胞が少量存在する状態(MGUS)や、異常なプラズマ細胞が増えているが症状は出ない状態(無症候性骨髄腫)を経て発症します。多発性骨髄腫は完治することは難しい病気ですが、近年の治療の進歩により、予後が改善されています。
多発性骨髄腫の種類
多発性骨髄腫には、いくつかの種類がありますが、どのように分類されるのでしょうか?また、種類によって症状や治療法は異なるのでしょうか?以下では、多発性骨髄腫の種類と特徴について解説します。
意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症(MGUS)
単クローン性ガンマグロブリン血症(MGUS)とは、血液中に正常でない抗体(Mタンパク質)が少量見つかる状態です。抗体は、B細胞や形質細胞という免疫細胞の一部が異常に増殖することで作られます。MGUSは、多発性骨髄腫の前段階と考えられていますが、必ずしもがんに進行するわけではありません。
MGUSの原因は不明ですが、加齢や遺伝的な要因が関係している可能性があります。MGUSは、通常、症状がなく、血液検査で偶然発見されます。
しかし、場合によっては、神経障害や骨粗しょう症などの合併症を引き起こすことがあります。MGUSは、治療の対象ではありませんが、定期的に血液検査や診察を受けて、多発性骨髄腫や他のリンパ系腫瘍への進展をチェックする必要があります。
無症候性骨髄腫(くすぶり型)
無症候性骨髄腫(くすぶり型)とは、多発性骨髄腫の前癌病態の1つで、血液や尿に異常な免疫グロブリン(M蛋白)が一定量以上見られるが、症状や臓器障害はない状態のことです。無症候性骨髄腫は、多発性骨髄腫に移行する可能性がありますが、確率は個人差が大きく、一概には言えません。
無症候性骨髄腫の患者は通常、治療を必要としませんが、定期的に血液検査や尿検査、骨髄検査などを実施し、病状の変化をチェックする必要があります。
症候性骨髄腫
症候性骨髄腫とは、多発性骨髄腫の一種で、異常な形質細胞が増えてM蛋白という異常なタンパク質を作り出すことで、体のさまざまな臓器に障害を引き起こす病気です。日本では、年間発症率が人口10万人あたり約3人であり、死亡者数も年間4,000人前後となっています。
症状は、高カルシウム血症、腎障害、貧血、骨病変などで、CRABという頭文字で表されます。症候性骨髄腫は、治療が必要な状態であり、多発性骨髄腫の患者のほとんどがこのタイプに分類されます。
多発性骨髄腫のステージ
ステージは病状の進行度を示し、治療の選択や予後の予測に重要な役割を果たします。多発性骨髄腫のステージはどのように決定され、治療戦略にどのように影響を与えるのでしょうか?以下では、多発性骨髄腫のステージ分けの基準について解説します。
病期Ⅰ
多発性骨髄腫のステージは、骨髄中の異常な形質細胞の割合や血液中のモノクローナルタンパク質の量などによって分類されます。病期Ⅰは、最も軽度なステージで、以下の条件をすべて満たす場合に診断されます。
・骨髄中の異常な形質細胞の割合が10%未満
・血清中のモノクローナルタンパク質の量が3g/dL未満
・尿中のモノクローナルタンパク質の量が4g/24h未満
・骨の破壊や腎障害などの臓器障害がない
病期Ⅰの多発性骨髄腫は、無症候性骨髄腫と呼ばれることもあります。無症候性骨髄腫は、症状がないか軽微なため、治療の必要がない場合が多いです。しかし、無症候性骨髄腫は、時間の経過とともに症状が出現し、症候性骨髄腫に移行する可能性があります。
病期Ⅱ
病期Ⅱは、病期Ⅰと病期Ⅲの中間にあたるステージで、以下のいずれかの条件を満たす場合に診断されます。
・血液中のモノクローナルタンパク質の量が、IgG型で3.5g/dL以上5.5g/dL未満、IgA型で2.0g/dL以上3.0g/dL未満、軽鎖型で10mg/dL以上20mg/dL未満
・骨の破壊が1箇所以上3箇所未満
・血清アルブミンの値が3.5g/dL以上
病期Ⅱの多発性骨髄腫の予後は、病期Ⅰよりも悪く、病期Ⅲよりも良いとされています。病期Ⅱの患者の中央生存期間は約4年です。病期Ⅱの治療は、化学療法やステロイド剤、骨吸収抑制剤などが用いられます。また、移植適応のある患者には、自家末梢血幹細胞移植がなされることもあります。
病期Ⅲ
病期Ⅲは、最も進行したステージで、以下の特徴があります。
・血液中のモノクローナルタンパク質の量が高く、IgG型では35g/L以上、IgA型では20g/L以上、軽鎖型では10g/L以上
・骨の破壊が多く、3か所以上の骨折や骨腫がある、または骨の破壊が50%以上に及ぶ
・貧血や腎障害などの合併症が重く、ヘモグロビン値が85g/L以下、血清クレアチニン値が177μmol/L以上、血清カルシウム値が2.65mmol/L以上
病期Ⅲの多発性骨髄腫は、治療に対する反応が悪く、予後が不良です。緩和ケアや骨の保護、感染症の予防などの対症療法が重要です。
多発性骨髄腫の末期症状
多発性骨髄腫が進行すると、末期には患者にどのような症状があらわれるのでしょうか?体内の異常な細胞の増殖が進む中、身体全体に影響が及ぶ可能性があります。この段階での症状は、個々の患者によって異なります。以下で詳しく解説していきます。
骨の痛み
多発性骨髄腫の末期症状の1つに、骨の痛みがあります。骨の痛みは、多発性骨髄腫の最も一般的な症状で、約70%の患者が経験するといわれています。骨の痛みの原因は、骨髄腫細胞が骨を侵食し、骨の構造や強度を低下させるためです。骨の痛みは、背骨や胸骨、肋骨、骨盤、腰椎、大腿骨などの長い骨に多く見られます。
骨の痛みは、安静時にも起こり、夜間に悪化することがあります。骨折や圧迫骨折の危険性を高めるだけでなく、生活の質を低下させることもあります。痛みを和らげるためには、骨髄腫の治療に加えて、鎮痛剤やビスフォスフォネートなどの骨吸収抑制剤、放射線療法などが用いられます。
貧血
多発性骨髄腫の末期の症状では、貧血もみられます。貧血とは、血液中の赤血球やヘモグロビンの量が正常より低くなることで、酸素の運搬能力が低下する状態です。多発性骨髄腫では、異常な形質細胞が増殖して正常な造血細胞を圧迫し、赤血球の生成が妨げられます。
また、腎障害や高カルシウム血症などの合併症も貧血の原因になります。
貧血の症状としては、倦怠感、息切れ、動悸、めまい、頭痛、耳鳴り、顔色の悪さなどがあります。貧血の程度によっては、失神や心不全を引き起こすこともあります。貧血の治療には、輸血やエリスロポエチンなどの薬剤が用いられます。貧血は、患者の生活の質を低下させる重要な問題です。
腎障害
多発性骨髄腫では、異常な抗体(Mタンパク質)が骨髄で大量に産生されます。このMタンパク質は、血液中を流れるときに、腎臓の細かい血管を詰まらせたり、腎臓の組織を傷つけたりします。結果、腎臓の機能が低下し、尿の量が減ったり、尿にたんぱく質や血液が混じったりします。また、腎臓が老廃物を排出できなくなると、血液中の尿素窒素やクレアチニンなどの値が上昇します。
上記の症状は、腎不全の兆候です。腎不全になると、全身のむくみや高血圧、貧血、食欲不振、吐き気、嘔吐などの症状があらわれます。腎障害は、多発性骨髄腫の予後に大きく影響します。腎障害の治療には、腎臓に負担をかけないように水分や塩分の摂取量を調節したり、腎臓の機能を改善する薬を服用し、人工透析をする必要があります。
高カルシウム血症
骨髄腫の進行に伴い、高カルシウム血症が生じます。これは、骨の破壊により血液中に過剰なカルシウムが放出される結果です。高カルシウム血症には、いくつかの特徴的な症状があります。例えば、骨からのカルシウム排泄により脱水が引き起こされ、口渇、尿量の減少、皮膚のしぼみ、低血圧などがあらわれます。
神経系にも影響が及び、倦怠感、眠気、意識障害、筋力低下、けいれん、昏睡などの症状があらわれます。また、消化器機能の低下により食欲不振、吐き気、嘔吐、便秘、腹痛が見られ、心臓の機能低下による心不全も生じる可能性があります。高カルシウム血症は深刻な合併症であり、治療には輸液や利尿剤、薬物療法が用いられます。
神経系障害
多発性骨髄腫の末期では、骨髄腫細胞が骨を侵食し、骨折や骨腫瘍の発生により神経が圧迫され、神経系障害が起こる可能性があります。特に背骨が侵されると、脊髄が圧迫され、下肢の麻痺や感覚異常、排尿障害などの症状があらわれます。
また、多発性骨髄腫では、血液中のカルシウム濃度が上昇することで、神経細胞の興奮性が亢進し、手足のしびれや筋肉のけいれんなどの症状があらわれることもあります。神経系障害の治療には、骨髄腫の根本的な治療に加えて、鎮痛剤や神経ブロック、放射線療法、手術などが実施されます。
心不全
多発性骨髄腫の末期には、心不全があらわれることがあります。心不全は、心臓のポンプ機能が低下し、全身への血液や酸素供給が不足する状態を指します。症状の原因は、多発性骨髄腫の異常な細胞が心臓に影響を与えることや、合併症による心臓への負担増加などが考えられます。
息切れ、むくみ、動悸、胸痛、疲労感などが心不全の典型的な症状です。診断は、心電図やエコー検査、血液検査などでなされ、治療は利尿剤や血圧降下薬などの薬物療法が一般的です。
感染症
多発性骨髄腫は、本来、免疫グロブリンを生産するべき形質細胞ががん化し、異常な増殖を起こす疾患です。これにより免疫機能が低下し、感染症に対する抵抗力が弱まります。特に、細菌感染症である肺炎や尿路感染症がよく見られます。ウイルス感染症や真菌感染症も発生しやすく、これらの感染症は多発性骨髄腫患者の主な死因となります。
感染症の予防には、定期的な血液や尿の検査、胸部のレントゲンなどが不可欠です。発熱や咳、排尿時の異常など感染症の症状が出た場合は、速やかに医師に相談する必要があります。治療には抗生物質、抗ウイルス薬、抗真菌薬などの薬物療法が実施され、場合によっては入院や点滴が必要となることもあります。
末期の多発性骨髄腫の治療
末期の多発性骨髄腫の治療は、病状の進行と患者の全体的な健康状態によります。主な治療法は、抗がん剤による化学療法、免疫調節薬、分子標的薬、そして抗体薬の組み合わせです。治療は、骨髄腫細胞をできるだけ減らすことを目指します。
また、病状が進行するにつれて、重大な合併症(骨折による骨髄圧迫や腎不全など)が起こる可能性があるため、骨髄腫に対する治療より、合併症の治療を先行させることもあります。治療の選択肢は近年広がっており、新規薬剤の登場により、治療法が進化しています。
「末期の多発性骨髄腫」についてよくある質問
ここまで末期の多発性骨髄腫の症状や治療を紹介しました。ここでは「末期の多発性骨髄腫」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
末期の多発性骨髄腫の予後について教えてください
甲斐沼 孟(医師)
多発性骨髄腫は、強い治療をすることで10年以上再発しないケースや、20年以上再発せずに生存している報告もあります。近年の治療の進歩により、5年生存率は約50%まで改善しています。予後に影響を与える要素として、年齢や染色体異常などがあります。
多発性骨髄腫の末期における予後は、患者ごとに異なります。これは病気の進行スピードや患者の一般的な健康状態に影響されます。通常、多発性骨髄腫は進行性で難治性の疾患であり、末期には合併症や症状が悪化する可能性があります。
医師は、患者の具体的な状態を考慮し、さまざまな治療アプローチやサポートを提案します。末期の多発性骨髄腫では、痛みや骨折、感染症などの合併症が予後に影響を与えることがあります.緩和ケアや生活の質の向上が重要な焦点となり、患者や家族との密なコミュニケーションが求められます。
末期の多発性骨髄腫の緩和ケアにはどのようなものがあるでしょうか?
甲斐沼 孟(医師)
末期の多発性骨髄腫の緩和ケアには、以下のようなものがあります。
痛みの緩和:骨病変や神経障害による痛みを軽減するために、医療用麻薬や非ステロイド性抗炎症薬、骨吸収抑制薬などを使用します。脊髄圧迫の場合は、放射線治療や手術が必要な場合もあります。
貧血や感染の対処:貧血による息切れや動悸を改善するために、輸血やエリスロポエチンなどを用いることがあります。感染を予防・治療するために、抗生物質や免疫グロブリンなどを使用します。
腎障害や高カルシウム血症の管理:腎障害によるむくみや尿量の減少を改善するために、輸液や利尿剤などを用いることがあります。高カルシウム血症による倦怠感や吐き気を軽減するために、輸液や骨吸収抑制薬などを使用します。
心理的・社会的な支援:病気の進行や治療の副作用による不安や心理的なストレスを軽減するために、心の専門家や緩和ケアチームと連携して相談やカウンセリングを実施します。また、生活や経済的な困難に対しても、社会福祉士やケアマネージャーなどの専門家と連携して支援を受けられます。
編集部まとめ
ここまで、多発性骨髄腫の末期症状についてお伝えしてきました。多発性骨髄腫の末期症状についての要点をまとめると、以下の通りです。
⚫︎まとめ
- ・多発性骨髄腫のステージ:骨髄中の腫瘍細胞の割合や血液中のモノクローナル免疫グロブリンの量などによって、病期Ⅰ、Ⅱ、Ⅲに分類される。病期が進むと予後が悪くなる。
- ・多発性骨髄腫の末期症状:骨の痛みや骨折、貧血、腎障害、高カルシウム血症、神経系障害、心不全、感染症などが起こり、生活の質が低下する。末期の症状は個人差が大きい。
- ・多発性骨髄腫の緩和ケア:症状や合併症の緩和、精神的な支援、社会的な支援などをする。緩和ケアは治療と並行して行われる。緩和ケアチームやホスピスなどの専門機関が利用できる。
「多発性骨髄腫」と関連する病気
「多発性骨髄腫」と関連する病気は個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
血液内科の病気
- 形質細胞腫
- マクログロブリン血症
多発性骨髄腫と同じような症状をおこす病気もこれほどあります。なかなか自己判断は難しいので、症状が続く場合はぜひ一度医療機関を受診してください。
「多発性骨髄腫」と関連する症状
「多発性骨髄腫」と関連している、似ている症状は7個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 貧血
- 骨痛
- 骨折
- 感染症
- 腎障害
- 高カルシウム血症
- 神経障害
これらの症状が当てはまる場合には、多発性骨髄腫などの異常の有無を確認するべく、早めに医療機関を受診しましょう。