「乳がんのステージ」別の症状・余命・生存率はご存知ですか?医師が解説!
乳がんのステージとは?Medical DOC監修医が乳がんのステージ別の症状・余命・生存率や何科へ受診すべきかなどを解説します。気になる症状がある場合は迷わず病院を受診してください。
監修医師:
丸山 潤(医師)
【保有資格】
医師/医学博士/日本救急医学会救急科専門医/日本集中治療医学会集中治療専門医/DMAT隊員/日本航空医療学会認定指導者(ドクターヘリの指導者資格)/JATECインストラクター/ICLSインストラクター
目次 -INDEX-
「乳がん」とは?
乳がんとは、乳房を構成する組織に発生するがんのことです。多くは乳管から発生しますが、他の組織から発生することもあります。女性のがんの中では最も頻度が高いため罹患率も高く、昔と比較し徐々に増加傾向が見られています。身近に闘病中の方がいたり、「乳がん検診」「マンモグラフィ」というワードを聞いたりして馴染みのある方も多いのではないでしょうか。乳がんというと女性の病気のイメージが強いですが、実は稀ですが男性にも発生することのある病気です。
乳がんのステージ別の症状
乳がんの初期症状は乳房のしこりや乳房の外観の変化として気づかれることが多いです。ステージが進行していくと増大・転移をおこし、乳房以外の場所に症状が見られることもあります。ステージは乳房のしこりの大きさやリンパ節への転移、多臓器への転移の状況により分類され、ステージ0から4まであります。以下でステージ別の症状を解説します。
乳がん・ステージ0の症状
ステージ0は「非浸潤がん」と呼び、がんが乳管内にとどまっている状態でリンパ節や他臓器への転移もない段階です。乳がんの中では超早期の時期だと言えるでしょう。
外から乳房のしこりを触れることは稀で、ほとんど自覚症状のない時期のため、多くは乳がん検診などでマンモグラフィやエコー検査を受けた際に発見されます。
乳がん・ステージ1の症状
ステージ1は乳がんのしこりの大きさが2cm以下で転移が見られない、すなわち乳房内にがん細胞が治っていると考えられる状態です。胸に小さなしこりがあると自覚される方もいらっしゃるでしょう。
乳がん・ステージ2の症状
ステージ2とはしこりが5cm以下で腋窩リンパ節に転移はあるもののリンパ節が固定されていない状態、もしくはサイズによらずリンパ節転移・遠隔転移がない状態を指します。しこりが大きい場合は自分でも気がつくことが増えます。左右の乳房の差で気がつく方も多いようです。
乳がん・ステージ3の症状
ステージ3では腋窩リンパ節転移の固定もしくは内胸リンパ節や鎖骨下リンパ節への転移、しこりが胸壁に固定されている、皮膚の潰瘍など外観の変化を伴う、もしくはしこりのない炎症性乳がんの状態を指します。炎症性乳がんは乳がんの中では稀なタイプですが、他のタイプと比べ進行が早いことが特徴です。
がんが皮膚の外にまで成長したり潰瘍を形成したりすると、外観からも明らかに変化を感じるようになります。場合により悪臭や出血を伴うこともあります。
乳がん・ステージ4の症状
ステージ4はしこりの大きさやリンパ節の転移に関わらず、遠隔転移という他臓器への転移がある状態を指します。乳がんの転移しやすい臓器は肺、脳、骨、肝臓などです。
転移部位によって息のしづらさや頭痛、骨の痛みなどの症状が出てきます。
乳がんのステージ別の余命・生存率
がん患者について調査した生存率を同じ性別・年齢分布の日本人の期待生存率で割ったものを相対生存率といいます。下記の生存率とは、女性乳がんの相対生存率を示しています。
乳がん・ステージ0の余命・生存率
ステージ0の乳がんの相対5年生存率は100%、相対10年生存率も100%です。適切な治療を行えば、健常人の方と同様の余命があると考えて良いでしょう。しかし、乳がんの中にはがん細胞が非常に遅いスピードで増殖することもあり、5年以上経ってから再発することもあります。治療後も定期的な検診は必要でしょう。
基本的には手術で病変を取り除く治療を行います。追加の検査でがんの広がりが少なければ治療では乳房温存できる場合もありますが、必要があれば乳房全摘や放射線照射・薬物療法も行います。手術時の所見によっては術後にステージが変更になることもあります。
乳がん・ステージ1の余命・生存率
ステージ1の乳がんの相対5年生存率は99.8%、相対10年生存率は99.0%です。ステージ0と比較し腫瘍のサイズが大きくなるため、がん細胞が血流やリンパの流れにのって別の部位に流れる可能性が少し高くなります。
治療は主に手術療法によるがんの摘出・放射線照射が行われます。また、乳がんは早期から全身にがん細胞が流れやすいため、薬物療法を併用することが多いです。乳がんの遺伝子変異などのタイプによって薬物療法の選択は異なります。しこりのサイズによっては手術前に薬物療法を追加することもあります。再発率は5年間で約10%といわれ、定期的な検診が必要です。
乳がん・ステージ2の余命・生存率
ステージ2の乳がんの相対5年生存率は95.5%、相対10年生存率は90.7%です。ステージ1より更に腫瘍のサイズが大きいか、または近くのリンパ節への転移を認める状態です。再発率も5年間で約15%といわれ、治療後もより慎重な検診が必要です。
治療はステージ1と同様に、手術療法・放射線療法・薬物療法をがんのタイプによって組み合わせて行います。
治療期間は手術前の薬物治療が3ヶ月程度、手術時の入院は1週間から2週間程度、その後の薬剤治療が3ヶ月から6ヶ月程度が目安ですが、乳がんのタイプや治療経過によって治療の流れや期間が変わることがあります。
乳がん・ステージ3の余命・生存率
ステージ3の乳がんの相対5年生存率は80.7%、相対10年生存率は68.6%です。ステージ2と違って局所進行乳がんと言われ、がん細胞の浸潤がより広がっている状態です。
ステージ0,1,2と比較すると再発率は上がってしまうため完治までのハードルは高いですが、発見時は遠隔転移がない状態なので局所的ながん細胞の封じ込めが成功すれば再発なく過ごすことができるでしょう。
治療では基本的には術前の薬物療法を行ってから手術、放射線照射へ進むことがほとんどです。薬物療法は前述のように乳がんのタイプによって種類が選択されます。
乳がん・ステージ4の余命・生存率
ステージ4の乳がんの相対5年生存率は38.7%、相対10年生存率は19.4%です。ステージ4ではステージ3と異なり遠隔転移が起こっているため転移巣の進行具合によっても生存率は異なります。
ステージ4では転移が起こっている状態であるため、切除が負担になることも多く、基本は薬物療法で全身的な治療を行なっていきます。薬物療法は前述のように乳がんのタイプによって種類が選択されます。治療中は画像検査や腫瘍マーカーの値などを定期的に確認することで治療効果を判定し、効果が乏しい場合は他の種類の薬剤に変更します。
また、症状緩和のために転移巣に対して手術や放射線照射などの追加治療を行うこともあります。
「乳がんのステージ」についてよくある質問
ここまで乳がんのステージ別の症状や余命・生存率などを紹介しました。ここでは「乳がんのステージ」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
乳がんのステージ4と診断された場合、完治しますか?
丸山 潤(医師)
乳がんのステージ4とは乳房以外の他臓器に転移がある状態を指します。そのような場合、切除自体が負担になるため全身の薬物療法が行われることがほとんどでしょう。ただ、すでにがん細胞が乳房を超えて全身に流れてしまっている状態のため、完全に治癒してがん細胞を消すというのは容易ではありません。がん細胞の広がりを抑えながら徐々に徐々に勢いを弱めていくことが治療の目的となります。がん細胞の遺伝子タイプなどによっては薬物療法が奏功することもあり、画像検査や採血結果を見ながら治療を進めていきます。
編集部まとめ
乳がんは女性では罹患率の高いがんですが、決して生存率が低いがんではなく、正しい治療を受ければ健常人と同じくらいの余命を生きることも珍しくありません。早期に発見すればするほど治療の選択肢や生存率も高くなります。最近は自治体からの補助金が出る乳がん検診もありますので、定期的な検診が有用です。検診と併用して、日頃から自身でのセルフチェックも有用でしょう。
一方で、一度治癒しても長い時間が経ってから再発する可能性のあるがんでもあります。術後年数が経ってからもセルフチェックや定期検診を怠ることのないように気をつけましょう。
「乳がんのステージ」と関連する病気
「乳がんのステージ」と関連する病気は5個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
乳房の異常をきたす疾患として上記が挙げられます。特に妊娠中・授乳中は乳房のトラブルが起きやすい時期ですので気をつけましょう。疾患によっては乳頭からの分泌物が変化するものや高熱を伴うものもあります。
「乳がんのステージ」と関連する症状
「乳がんのステージ」と関連している、似ている症状は3個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 乳房のしこり
- 皮膚のひきつれ
- 乳頭からの分泌物
乳房のしこりの80-90%は良性と言われています。しかし、受診なしに良性と決めつけるのは危険です。専門医を受診し、しこりなど乳房の異常を感じる際は触診や画像検査などで正しい診断を受けましょう。
参考文献