「前頭側頭型認知症」の症状・なりやすい人の特徴はご存知ですか?医師が徹底解説!
前頭側頭型認知症とは?Medical DOC監修医が前頭側頭型認知症の症状や特徴・末期症状・余命・生存率・原因・なりやすい人の特徴・治療法・予防法などを解説します。
監修医師:
村上 友太(東京予防クリニック)
脳神経外科専門医、脳卒中専門医、抗加齢医学専門医。日本認知症学会、日本内科学会などの各会員。
目次 -INDEX-
「前頭側頭型認知症」とは?
前頭側頭型認知症とは、主に初老期(50代~60代)に発症し、前頭葉と側頭葉を中心とした神経細胞の変性・脱落により、常識を欠くような異常な行動や無気力・無関心などの精神症状、言語障害などがみられる認知症です。
アルツハイマー病や加齢性認知症などとことなり、初期には記憶障害があまりないことが多く、また動作のぎこちなさ(パーキンソニズム)や筋力低下(運動ニューロン症状)など様々な症状がみられることもあります。
前頭側頭型認知症には、大きく分けて行動障害型前頭側頭型認知症、意味性認知症、非流暢性失語と3つの病型があり、病型ごとに症状が大きく異なります。記憶障害が主体となる一般的な認知症のイメージとは大きく異なった認知症で、症状によっては前頭側頭型認知症と認識されずに精神疾患を疑われて治療を受けることもあり、注意が必要です。
本記事では、前頭側頭型認知症がどのような病気かを解説いたします。
前頭側頭型認知症の代表的な症状や特徴
前頭側頭型認知症は行動障害型前頭側頭型認知症、意味性認知症、非流暢性失語と3つの病型がありますが、病型ごとに症状が大きく異なります。どのような症状がみられるかについて解説します。
社会的に不適切な行動、衝動的で無分別な行動
行動障害型前頭側頭型認知症では、礼儀やマナーを欠いた行動や常識はずれの行動をするようになります。本人の欲求に任せた行動をしがちで、公共の場で放尿をしたり、万引きや信号無視を繰り返したり、痴漢行為をしてしまったりと迷惑行為や軽犯罪を繰り返すことがあります。
本人は何が悪いかを理解できておらず、言葉などで行為を予防することは難しいため、このような症状を認めた場合には精神科を受診してください。問題行動がひどい場合には医療保護入院など精神科としての対応が必要となります。
無気力・無頓着・常同行動
行動障害型前頭側頭型認知症では周囲のことに関心がなくなり、無気力になったり、普段と異なる行動をしなくなったりします。また、人の感情なども意識しなくなり、円滑な交流や周りの人への配慮などができなくなります。
一方で日常的に行っている特定の行動に対してはこだわりが強くなり、特定の時間に特定のコースで散歩に出かけるなどの常同行動がみられるようになります。
食習慣の変化・異食症
行動障害型前頭側頭型認知症では、発症前と比べて食事の好みが変わったり、特定の食品にこだわったりするようになることがあります。また口寂しくなることが増え、食べ物でないものを口に入れたり、喫煙や飲酒が増えたり、過食となったりします。
進行性の言語障害
意味性認知症や非流暢性失語では進行性に言語障害がみられることが特徴です。
意味性認知症では単語の理解や物品呼称の障害が目立ち、特定の物に対して見ても聞いても何かを理解できない、団子などの特殊な読み方をする漢字が読めない(「だんし」などと読む)、既知の人物の顔がわからないなどの症状がみられます。
非流暢性失語では言葉がなかなか出ず、途切れ途切れな話し方となり、発話の内容も文の構成がくずれ、音韻にも誤りや歪みが出ることで、発話の内容を聞き取りづらくなります。
前頭側頭型認知症の末期症状
前頭側頭型認知症も末期になると、その他の認知症と同じく記憶障害が目立つようになり、嚥下機能低下を含めた様々な機能低下がみられるようになります。
認知機能低下
前頭側頭型認知症では初期には認知機能低下はあまり認めませんが、進行するにしたがって近時記憶障害や即時記憶障害などの記憶障害が目立つようになります。
怒りっぽくなる、活動性が低下する
もともと欲求に準じた衝動的な行動がみられる病気ですが、脳萎縮の進行に伴っての運動機能の低下や判断力の低下などで思った行動ができなくなる、周囲に行動を制限されるなどを背景として、いろいろな訴えが出てきたり、怒りっぽくなったりします。
さらに進行すると、食事などの生きていく上での基本的な欲求にも無頓着となり、食事なども拒否して寝て過ごすようになります。
嚥下障害
前頭側頭型認知症では前頭葉・側頭葉を中心に経時的に脳萎縮が進行します。脳萎縮の進行により、様々な運動機能、高次機能の障害がみられますが、末期の認知症では嚥下障害が大きな問題となります。
本人の食事意欲の低下に加えて、飲み込む動作自体がうまくできなくなること、低栄養により嚥下筋も弱くなることから、誤嚥をしやすくなり、時に誤嚥性肺炎を発症して命にかかわることがあります。
前頭側頭型認知症の余命・生存率
前頭側頭型認知症の発症後の平均寿命は行動障害型では約6-9年、意味性認知症では約12年と報告されています。進行した認知症では嚥下障害や意欲低下を背景に誤嚥性肺炎や食事の拒否などによる低栄養などで亡くなることが多いです。
前頭側頭型認知症の主な原因
前頭側頭型認知症では前頭葉や側頭葉に限局した神経細胞の脱落があり、神経細胞にTau蛋白やTDP-43、FUSなどの異常な蛋白質が蓄積していることがわかっておりますが、なぜこのような変化が起こるのかはわかっておりません。一部に遺伝子の関与があることは知られており、日本では家族歴のある例は珍しいのですが、欧米では30-50%に家族歴がみられます。
遺伝子の異常
前頭側頭型認知症に関連する遺伝子として、MAPT遺伝子、GRN遺伝子、C9orf72遺伝子、TARDBP遺伝子、FUS遺伝子など様々な遺伝子が報告されています。Tau蛋白をコードしているMAPT遺伝子の異常ではTau蛋白が、プログラニュリンをコードしているGRN遺伝子の変異ではTDP-43が蓄積しやすいなど、どの遺伝子が変異しているかによって発症年齢や疾患の特徴が異なります。
前頭側頭型認知症になりやすい人の特徴
前述のとおり前頭側頭型認知症は遺伝子の関与があることから、血縁者に前頭側頭型認知症の方がいる場合には発病するリスクが上がります
また、どのような機序で関与しているかは不明ですが、前頭側頭型認知症の方では健常者と比較して、糖尿病や高血圧の罹患率が高いこと、脳卒中の罹患歴のある割合が高いこと、肥満の方が多いこと、意識喪失を伴うような強い頭部外傷の経験のある方が多いことが報告されています。
家族歴のある人
本邦では稀にはなりますが、前頭側頭型認知症は遺伝子が関与しうる病気であることから、血縁者に前頭側頭型認知症の発症者がいる場合には発病する可能性があります。原因遺伝子によって発症しやすい年齢が異なるため、発症者の発病時期と同時期に類似した症状が出た場合には関連遺伝子の検査も検討しましょう。
生活習慣病のある人
肥満の方や糖尿病や高血圧のある方、脳卒中の罹患歴のある方は前頭側頭型認知症の発症する割合が高いといわれています。バランスの取れた食事、適度な運動を行い、肥満や生活習慣病にならないような生活習慣を目指しましょう。
頭部の強い打撲歴のある人
外傷性脳損傷や意識を失うような頭部外傷がある人で前頭側頭型認知症を発症しやすいと報告されています。交通事故などに注意し、ボクシングやラグビーなどの頭部を強打しうるスポーツは控えることが望ましいでしょう。
前頭側頭型認知症の治療法
前頭側頭型認知症は現時点で疾患特異的な治療法がなく、症状の進行を抑えることは困難です。治療には非薬物的な介入や症状に応じた対症療法が重要であり、介助者による協力が不可欠です。
適度な運動
ウォーキングなどの有酸素運動を行うことは精神的な安定化と認知機能の維持に役立ちます。また前頭側頭型認知症はパーキンソン症候群に含まれる一部の疾患や筋萎縮性側索硬化症と同様の病理変化のある疾患であり、進行すると運動機能の異常も出現します。運動機能の維持に関してもバランス訓練などを含めた理学療法は効果的です。
言語療法
言語療法やコミュニケーション補助具の使用は、進行性失語の症状のある方において会話の能力の維持に寄与します。また嚥下機能を維持するためにも有用です。
認知行動療法
問題行動に関しては、問題となる行動がどのようなときに起きるかなどをよく観察し、問題となる行動を開始する前に気をそらしたり、別の行為をさせたりすることで予防できる場合があります。前頭側頭型認知症では同じ行動を繰り返し行う(常同行動)場合がありますが、問題となる行動習慣を、他の行動習慣にきりかえることで介護負担が軽減することがあります。
前頭側頭型認知症の予防法
前頭側頭型認知症の予防方法は確立していません。肥満や生活習慣病のある方、脳卒中や外傷性脳損傷の既往のある方で発症する割合が多いことから、これらを予防することが予防につながる可能性はあります。
適度な運動やバランスのとれた食事を行う
適度な運動やバランスの取れた食事などで肥満や生活習慣病の予防を行うことで、前頭側頭型認知症の発症を予防できる可能性があります。また脳卒中や心筋梗塞を含むその他の病気の予防にもつながります。暴飲暴食を避ける、生活リズムを整えるなど、健康的な生活習慣を目指しましょう。
頭部外傷を避ける
交通ルールを順守する、バイクや自転車などに乗るときにはヘルメットを正しく装着する、頭部を強く強打しうるスポーツ(ボクシングやラグビーなど)を控えるなど、頭部に強い衝撃を受ける状況を作らないことで、発症を予防できる可能性があります。また、強い頭部打撲は前頭側頭型認知症に限らず、若年性認知症のリスクとなるため、注意しましょう。
「前頭側頭型認知症」についてよくある質問
ここまで前頭側頭型認知症について紹介しました。ここでは「前頭側頭型認知症」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
前頭側頭型認知症を発症した場合、家族はどのようなサポートが必要ですか?
村上 友太(むらかみ ゆうた)医師
適切なサポートを行うためには、まずは前頭側頭型認知症という病気についての理解を深めることが重要です。特に、行動障害型前頭側頭型認知症では脱抑制や非社会的行動,常同行動,食行動異常などの問題行動がみられ、周囲の方とのトラブルも起こしやすいことから、介助者の負担はより大きなものとなります。介護保険などの社会サービスを利用しながら、病気を理解し、患者をよく観察することで患者の状態に応じた個別のサポートができることが望ましいです。
編集部まとめ
前頭側頭型認知症は50代~60代と比較的早期に発症する認知症の一つです。問題行動や常同行動などが目立つ行動障害型前頭側頭型認知症と進行性認知症に分類され、特に行動障害型前頭側頭型認知症では、軽犯罪を繰り返す、同じ動作を繰り返し行うことにこだわる、怒りっぽくなるなどの問題行動が目立つようになり、周囲から孤立してしまったり、介助者に多大なる負担がかかったりします。
予防法、治療法は確立しておらず、診断を受けた場合も対応に苦慮する病気ではありますが、病気への理解を深め、適切に社会サービスを利用しながらよりよい生活を目指しましょう。
「前頭側頭型認知症」と関連する病気
「前頭側頭型認知症」と関連する病気は8個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
頭部外傷の病気
- 脳震盪
- 外傷性脳挫傷
神経変性疾患の病気
- 筋萎縮性側索硬化症
- 進行性核上性麻痺
- 大脳基底核変性症
- パーキンソン病
- 嗜銀顆粒性認知症
- アルツハイマー型認知症
行動障害型前頭側頭型認知症では、問題行動が目立つようになり介助者に大きな負担がかかります。1人で悩まずに早めに専門家へ相談することをお勧めします。
「前頭側頭型認知症」と関連する症状
「前頭側頭型認知症」と関連している、似ている症状は6個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 非社会的な行動をする
- 我慢ができない
- 同じ行動を繰り返す
- うまく話せない
- おかしなものを好んで口に入れる
- 痴漢や窃盗などの軽犯罪をしてしまう
これらの症状が見られる場合には、早めの医療機関への受診をお勧めします。