「外傷性くも膜下出血」の症状・原因・後遺症はご存知ですか?医師が徹底解説!
外傷性くも膜下出血とは?Medical DOC監修医が外傷性くも膜下出血の症状・原因・後遺症・入院期間・寿命・生存率・治療法・リハビリ法なども解説します。
監修医師:
佐々木 弘光(医師)
目次 -INDEX-
「外傷性くも膜下出血」とは?
くも膜下出血というと、一般的には脳の血管にできた瘤(脳動脈瘤)が破裂することで生じる疾患を指します。しかし、この外傷性くも膜下出血とは、転落や転倒、交通事故などの外的な影響で頭部へ強い衝撃が加わったことで、脳を守る3層の膜のうちの「くも膜」という箇所に出血を生じる病気です。
外傷性くも膜下出血の代表的な症状
頭痛
外傷性くも膜下出血は、頭部への強い衝撃、特に回旋するような衝撃が加わることで生じます。そして出血で脳の圧力が高まり、頭痛や吐き気などの症状がみられます。さらに稀ですが、出血量が多いと脳血管攣縮という血管が収縮する状態になって詰まり、脳梗塞を生じる可能性もあります。しかし、一般的には脳動脈瘤の破裂によるくも膜下出血とは異なり、出血量は軽微です。従って、外傷性くも膜下出血のみでは、無症状から軽い頭痛ですむ場合が多いです。ただし直後は症状が軽くても、2-3日後に遅れて出血が拡大したり、他の脳内出血が出現したりする場合もあるので、緊急性は高い状態といえます。
合併症に伴う多彩な症状
外傷性くも膜下出血のみではなく、「軸索損傷」という細かな神経細胞の破壊が生じていたり、「硬膜下血腫」や「脳挫傷」といった局所性脳損傷と呼ばれる外傷が合併していたりする場合はさらに問題です。意識障害や手足の麻痺、痙攣、高次脳機能障害といった多彩な症状が出現します。従って、頭を強く打った後にぐったりしていたり、記憶が飛んでいたりする場合はより緊急性が高く、すぐに医療機関を受診しましょう。
外傷性くも膜下出血の主な原因
高齢者の転倒
日本国内の統計では、外傷性くも膜下出血に限らず、頭部外傷全体における傾向について、かつては交通事故などによる20歳代や60歳代の発症が多かったのですが、近年では交通事故の頻度が減り、高齢者の転倒や転落による頭部外傷が増加しています。そして高齢者の頭部外傷は、「けがをした直後は普段通りだったのに、数時間経過して急激に悪くなった」という特徴があります。従って特に60歳以上の方は、打撲直後に症状がなかった場合も、念のため脳神経外科や救急科の受診を検討しましょう。
若年者のスポーツ外傷
若年者の場合、スポーツによる頭部外傷の傾向が見られます。具体的にはボクシングや空手、柔道などの格闘技、アメフトやラグビーなどのコンタクトスポーツ、スノーボードなどのウィンタースポーツも挙げられます。また外傷性くも膜下出血などよりも脳震盪を起こす割合が高いとされています。従って、頭部外傷後にめまいや嘔吐、記憶障害といった症状を認める場合は、早めに脳神経外科や救急科を受診した方が良いでしょう。
外傷性くも膜下出血の後遺症
一般的に外傷性くも膜下出血のみでは、後遺症を残すことは少ないです。しかし他の頭部外傷が併発した場合、何らかの遅発性の症状や後遺症が出現する可能性があります。
麻痺や意識障害
硬膜下血腫や脳挫傷などの損傷部位に応じた手足の麻痺や感覚障害、視野障害、呂律困難、嚥下障害といった症状が後遺症となる可能性があります。そして重症度に応じて入院期間やリハビリ期間も長期化します。また損傷が広範囲におよぶと意識障害が遷延し、寝たきりになってしまう危険性もあります。
高次脳機能障害、性格変化、認知症など
頭部CTで出血が消失した後も、頭痛やめまい、光や音への過敏症、倦怠感、記憶力や集中力の低下、うつ、認知機能の低下といった症状が残る場合があります。また粗暴になるなどの性格変化や高次脳機能と呼ばれる認知や空間認識に関わる脳の複雑な処理ができなくなる場合もあります。これらは前頭葉や側頭葉などの理性や記憶を司る場所や頭頂葉などの脳機能を統合している場所が損傷することで生じます。
外傷性てんかん
脳の損傷部が火種となり、けいれんが出現する場合もあります。特に外傷後しばらくしてからのけいれんは、繰り返して外傷性てんかんという疾患につながる可能性があります。てんかん発作を抑えるために、抗てんかん薬の内服が必要になります。
その他の合併症
特に高齢者では、外傷後に数か月かけて脳を覆う硬膜という膜の下に徐々に血液がたまっていき、「慢性硬膜下血腫」という病気になることがあります。これは歩行障害や認知症、尿失禁などの症状を呈します。従って、頭を打って数か月してこれらの症状が出現する場合は、脳神経外科などを受診しましょう。なお、頭蓋骨に穴をあけて血腫を抜き出す穿頭術という手術を行うことで症状は消失します。
外傷性くも膜下出血の入院期間
軽度の場合
一般的に外傷性くも膜下出血のみであれば、手術は必要ありません。症状に変わりなく、繰り返しの検査で出血が拡大しなければ、安静と血圧管理を行い、数日から1週間程度で退院することが多いです。また出血の拡大を予防する点滴を行う場合もあります。
重症の場合
重症の場合は全身状態や併存する合併症、後遺症などによって経過はさまざまです。そして集中治療や手術といった急性期の治療を乗り越え、リハビリ期間なども含めると半年や1年以上といった長期入院を余儀なくされる場合もあります。
外傷性くも膜下出血の寿命・生存率
外傷性くも膜下出血のみの寿命や生存率についての具体的な調査はありませんが、頭部外傷全体の統計では、近年の医療技術の発達によって死亡率は低下しています。しかし一方で、遺症を残して寝たきりや社会復帰が困難となっている状態(転帰不良)の患者さんは増加しています。また60-70歳以上では高齢であるほど重症化しやすく、死亡や後遺症を残す確率が上がるとされています。従って、後遺症を軽減するリハビリは非常に重要です。
外傷性くも膜下出血の治療法
基本的には安静と血圧管理、時に出血の拡大を予防するような薬剤の点滴を行います。脳神経外科や救急科のある病院で治療します。また他の脳損傷や複数の外傷を伴う場合は頭部のMRIや造影CT、カテーテル検査といった精査を行う場合もあります。そして硬膜下血腫や脳挫傷などによって、脳ヘルニアという脳が圧迫される状態が生じていると非常に危険です。救命目的に血腫を除去したり、減圧と呼ばれる脳の圧力を逃がしたりするような手術を行います。
外傷性くも膜下出血の後遺症を軽減するリハビリ
リハビリを担当するのは「リハビリテーション科」という診療科で、医師や看護師のほかに理学療法士、作業療法士、言語療法士と呼ばれるリハビリに特化した役職の人も所属しています。そして救急科や脳神経外科と協力して入院治療を進めます。急性期の治療後、患者さんの状態が落ち着けば、本格的なリハビリが始まります。つまり入院初期は医療行為・治療のウェイトが高いのですが、徐々にリハビリのウェイトが大きくなっていくイメージです。またリハビリ治療に特化した「回復期リハビリ病院(病棟)」というものがあり、後遺症が中等度から重度の場合はそのような機能のある病院(病棟)に移動(転院・転棟)して、さらに集中的なリハビリを行います。期間については数か月から半年程度までおよぶ可能性もあり、その後も長期の福祉・介護施設やサービスの利用が必要となる場合もあります。
運動麻痺などに対するリハビリ
運動麻痺を残した場合、平行棒・階段などの歩行訓練や手先を使った作業訓練を行います。また歩行を補助する装具や杖などを使用することもあります。嚥下障害がある場合は、食べ物が肺や気管に入って窒息したり誤嚥性肺炎と呼ばれる感染を引き起こしたりする恐れがあるので、食事を柔らかくするなど工夫をして、飲み込み訓練を行います。家族は自宅や職場の階段や段差など歩行に障害となる環境がないか、またトイレやお風呂の環境なども確認しておきましょう。そして本人がどの程度、家族や周囲の人の助けを借りて日常生活を送れるのか、リハビリの先生と確認しておきましょう。その他、障害者認定や介護認定の申請も重要です。認定が下りれば、利用できるサービスが広がります。尚、手続きには数か月かかる可能性もあるので、医師と相談しておきましょう。
高次脳機能障害に対するリハビリ
高次脳機能障害は見た目ではわかりづらく、障害を本人や周囲の人が理解することが重要です。例えば記憶障害がある場合、メモや手帳などを利用したり、家族や職場の人が繰り返し教えてあげたり、といったことです。また空間認識や注意力が低下している場合は、認識しやすい位置に物を置いたり、作業を1つにして簡略化したり、といったことも大切です。いずれにせよ作業療法や言語療法というリハビリを通じて、代わりの手段や方法を考える必要があります。そして性格変化やうつといった後遺症は、カウンセリングや精神科の受診が必要となることもありますので、お悩みの場合は医師に相談しましょう。
「外傷性くも膜下出血」についてよくある質問
ここまで外傷性くも膜下出血を紹介しました。ここでは「外傷性くも膜下出血」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
外傷性くも膜下出血の死亡率はどれくらいでしょうか?
佐々木 弘光医師
頭部外傷全体の統計では死亡率は低下しています。一方で、他の脳損傷を合併したことで後遺症を残し、社会復帰が困難になっている割合は増加しています。
外傷性くも膜下出血を発症すると、どのような合併症がありますか?
佐々木 弘光医師
硬膜下血腫や脳挫傷などの脳損傷を起こすと運動麻痺や呂律困難・嚥下障害、高次脳機能障害といった障害を残す可能性があります。また外傷性てんかんや、高齢者においては慢性硬膜下血腫と呼ばれる外傷から数か月経過して発症する疾患もあるため、注意が必要です。
高齢者が転倒すると外傷性くも膜下出血を発症することはありますか?
佐々木 弘光医師
あります。統計では65歳以上の高齢者の転倒や転落による頭部外傷は6割以上と半数を超えているとあり、近年、高齢者の頭部外傷は増加傾向です。また高齢者は直後に何もなくても、数時間経過して悪化することがあります。そして重症な頭部外傷のうち高齢者の頭部外傷の割合は25-30%あるという事実からも、重症化しやすいことがわかります。従って、高齢者が転倒して強く頭を打った場合は、明らかな症状がなくても、脳神経外科や救急科を受診されることをお勧めします。
編集部まとめ
ここまで外傷性くも膜下出血について解説してきました。外傷性くも膜下出血は頭部外傷で生じ、合併する脳損傷によっては多彩な症状を来たし、後遺症を残す危険性もあります。また社会復帰にはリハビリや周囲の環境が重要となります。そして原因としては、高齢者の転倒に「要注意」ですので、頭を強く打った場合は速やかに医療機関を受診するようにしましょう。
「外傷性くも膜下出血」と関連する病気
「外傷性くも膜下出血」と関連する病気は9個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
頭部外傷(頭のけが)では、上記のような疾患が考えられます。外傷性くも膜下出血のみではなく、いくつかの頭部外傷の疾患が併発した場合に、何らかの神経症状や後遺症が出現することがあります。
「外傷性くも膜下出血」と関連する症状
「外傷性くも膜下出血」と関連している、似ている症状は9個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 頭痛
- 嘔気、嘔吐
- めまい
- 痙攣、てんかん
- 意識障害
- 運動麻痺
- 感覚障害
- 呂律困難、嚥下障害
- 高次脳機能障害
頭を強く打撲した場合には、その後少なくとも1日以内は普段と異なる症状が出現しないか確認してください。おかしいなと思う場合には、病院を受診し検査を受けましょう。
参考文献
- 頭部外傷治療・管理のガイドライン第4版