【闘病】「死んで楽になりたい」発達障害の公務員が『うつ病』で落ちた絶望

うつ病とは、気分の落ち込みが続いたり、意欲や喜びを持つことができなくなったりする精神的な病気です。不眠や頭痛、倦怠(けんたい)感など身体症状を伴うことも多いとされており、仕事や人間関係にも支障を来すことも多く見られます。最悪の場合、自分を傷つけてしまい生命の危機に関わることもあり、決して軽視することはできません。今回は、うつ病を経験した田中さん(仮称)に、病気と向き合う方法を語ってもらいました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2025年8月取材。

田中さん(仮称)
思い起こせば、予兆はいくらでもあった

編集部
うつ病を発症した経緯を教えてください。
田中さん
私はもともと生真面目、不器用、手抜きが下手といったうつ病になりやすい性格な上に、発達障害も抱えており、10代の頃からずっと、「人の何倍も努力をする方法」でハンディを補ってきました。しかし、20代後半に差し掛かった頃から、無理がきかなくなってきて、努力をすることがだんだんとつらくなってきたのです。それでも頑張らなきゃいけないと踏ん張り続けた結果、原因不明の不調が増えてきて、心身のバランスを崩すようになりました。
編集部
具体的にはどのような症状がありましたか?
田中さん
頭痛、不眠、食欲不振などです。もともと持っていた聴覚過敏が悪化し、それまでは平気だった職場のコピー機の印刷音がひどく苦痛に感じるようになりました。しまいには、スーパーの店内放送やBGMも苦痛になり、コンビニで購入した食事を頼るように。さらに、生理周期に伴う体調不良も悪化していきました。今思うと、これらの身体症状はうつ病の予兆だったなと思います。気持ちの面でもひどく落ち込むようになって、「生きていても仕方がない、死んで楽になりたい」と死を考える時間が増えていき、自ら命を絶った芸能人のニュースを読んだり、自殺の方法を調べたりしていましたね。
編集部
発達障害の特性について教えてください。
田中さん
私の場合、ADHD(注意欠如・多動症)およびASD(自閉スペクトラム症)の診断を受けています。じっとしているのが苦手でソワソワと落ち着かない、衝動的な言動をしやすい、暗黙のルールの理解が難しい、聞き逃しや聞き間違いが多い、疲れやすいなどの特徴があるみたいです。
編集部
うつ病の診断を受けたのはいつですか?
田中さん
2023年の夏、30歳の時です。職場の近くのメンタルクリニックで診断されました。
編集部
うつ病と診断された時の心境を教えてください。
田中さん
正直、受け入れるのに心理的な抵抗がありました。昔から「明るい人柄」だと周囲から言ってもらえることが多く、それが自分のアイデンティティにもなっていましたから。うつ病という病名を聞き、自尊心が傷つけられているような感覚がありましたね。
休職、そしてリワークへ

編集部
うつ病が発覚してからも、仕事を続けられたのでしょうか?
田中さん
はい。発症当時は官公庁に勤務していて、体調が思わしくない日でも職場へ行っていました。でも数カ月後、ついに不調を隠しきれなくなってしまいました。デスクワーク中、突然血の気がサーっと引いて視界が真っ暗になり、座っていられなくなったのです。頭に血が回っていない感覚がなかなか抜けず、長椅子に横になって休ませてもらいました。初めての経験で驚きましたね。
編集部
職場での体調不良が休職のきっかけになったわけですね。
田中さん
それもありますが、大きなきっかけになったのは、以前から心身の不調を伝えていた友人の一言です。「頼むから休んでくれ。もう命令形で言う、『休め!』」って。その言葉を聞き、休職に踏み切りました。休職の申し出をする時は、ただでさえ人員削減で人手が足りないのに、さらに一人減ることになってしまってごめんなさい。皆さんの仕事の分担を増やすことになってしまって、本当にごめんなさい……と心苦しさでいっぱいでしたね。
編集部
休職中はどのように過ごしていましたか?
田中さん
休職して3~4カ月は家にこもっていました。一人暮らしで最低限の家事はしていたものの、それ以外の時間は、ほとんど横になっていましたね。感覚過敏のためか光を浴びるのが苦痛になって、昼間でもカーテンを閉めて過ごしていました。たまの気分転換といえばTwitter(現・X)を開き、うつ病を経験した人の投稿を眺めることくらい。同じ苦しみを経験し、乗り越えた人の言葉を読むことで、光を見出そうとしていました。家で静かに休む日々を送ることで徐々に心身が回復し、活動できる時間も増えていき、休職して5カ月目には主治医の勧めでリワークに通うようになれましたね。
編集部
リワークについて詳しく教えてください。
田中さん
リワークとは「return to work」の略称で、精神疾患を原因として休職している労働者に対して、社会復帰に向けた訓練を提供するプログラムのことを指します。実施されている機関は、精神科病院やメンタルクリニック、障害者職業センターなど。具体的には、軽作業を行ったり、再発予防のための指導を受けたりします。決まった時間に実施機関へ通うこと自体が、職場に通勤することを想定したトレーニングにもなっているそうです。
編集部
リワークの利点を挙げるとしたら、何でしょうか?
田中さん
リワークの最大の利点は、再発リスクを下げられることです。うつ病は再発しやすく、せっかく復職しても再び調子を崩し、再休職に至るケースが後を絶ちません。リワークに通うことで生活リズムを整えたり、セルフケアの力をつけたり、軽作業で仕事のウォーミングアップを図ったりすることで、再発リスクを減らすことができたと思っています。
編集部
軽作業とは、具体的にどのようなことをするのですか?
田中さん
実施機関によって異なりますが、私の通所していたリワークでは、ちょっとした封入作業やデータ入力をしていました。
編集部
リワークに通って良かったことを教えてください。
田中さん
個人的に一番良かったのは、看護師と定期的な面談をしてもらえることです。日常生活や仕事復帰への不安も看護師に話すことで頭が整理されていきました。公務員に復帰するか退職するか悩んだ時も、いろいろ相談に乗ってもらいました。また、定期的に自分の日常生活を伝える機会があることで、「生活の中でセルフケアをしっかりとしよう」とモチベーションを高めることができたと思います。
編集部
薬は処方されましたか?
田中さん
抗うつ剤と睡眠薬が処方されました。抗うつ剤の飲み始めの数日は、副作用の吐き気により固形物がほとんど食べられず、ゼリー飲料などでエネルギーを取っていました。睡眠薬には、「健忘」と呼ばれる記憶が飛んでしまう副作用がまれにあるといわれています。朝起きると、スマートフォンの待ち受け画像がいつの間にか変わっていたり、身に覚えのない青あざができていたり、下書きのままだったメールが送信されていたりと不可解な出来事が重なったことがありました。初めは困惑しましたが、医師の指示の下で服用しました。
編集部
服薬を続ける上で、気を付けていたことはありますか?
田中さん
発達障害の影響で物の管理が苦手な上に、忘れっぽいところがあるため、毎日忘れずに薬を飲むことですね。服薬忘れを防止する「週間投薬カレンダー」というウォールポケットが便利だと知人から教えてもらい、ネット通販で購入して部屋の目立つところに掛けました。また、「自己断薬は危険」と聞いたので、絶対にしないように心掛けていました。
編集部
休職中、不安に感じたことを教えてください。
田中さん
無事に社会復帰できるかが心配でしたね。不安になったときは、うつ病から社会復帰をした人のブログを読む、リワークの看護師に話を聞いてもらうなどして対処するようにしていました。
無理しない働き方にチェンジ

編集部
今はどのような生活を送っているのでしょうか?
田中さん
現在は、アルバイトで週3日ほど勤務しつつ、クラウドソーシングでちょっとした在宅の仕事をして暮らしています。フルタイムで週5日働いていた公務員時代に比べると、心身の負担が随分と減ったように感じています。頭痛や聴覚過敏といった身体症状もかなり軽減されました。
編集部
うつ病から回復できたポイントはありますか?
田中さん
生き方の方針そのものを転換したことです。以前の私は「一般的な人生のレール」から外れることを恐れていて、無理を重ねていました。うつ病を発症したのを機に自分と向き合い、ほどほどの力で生きていこうと考えられるようになりましたね。公務員を退職するのは大きな決断でしたが、今はアルバイトとして心身の負担が少なく暮らせているので、退職したことは後悔していません。
編集部
うつ病の治療において、後悔していることはありますか?
田中さん
一番の後悔は「もっと早く休めばよかった」です。いかに早く異変に気付き、いかに早くうつ病治療(適切な服薬、十分な休養)をスタートさせるかが大切です。治療が早ければ早いほど療養期間が短くて済みますし、再発リスクも低くなります。私の場合、不眠、感覚過敏の悪化、希死念慮(きしねんりょ)の出現、頭痛の頻発と、うつ病を疑う症状がこれだけそろっていたにもかかわらず、また人事事務の経験からメンタルヘルスに関する知識がそれなりにあったにもかかわらず、まだ大丈夫だと無理を重ね、なかなか休職に踏み切ることができませんでした。これは私が愚かだったこともありますし、うつ病特有の判断力の低下が招いた結果とも考えられます。
編集部
「うつ病かもしれない」と悩んでいる人にメッセージをお願いします。
田中さん
できるだけ早く受診してください。いかに早く治療をスタートさせるかが予後を握ります。「うつ病かもしれない」程度で病院に行くのをためらっている人もいるかもしれませんが、病気ではなかったらそれに越したことはないのです。悩む時間がもったいないので、とにかく早く医師に相談してほしいなと思います。
編集後記
うつ病は、誰もが経験する可能性のある身近な病気です。生涯で約15人に1人、直近の1年間だけでも約50人に1人が経験するといわれています。大切なのは、自分や周りの人がその症状に気付き、適切な支援を受けることです。苦しんでいる場合は、専門家に相談することをおすすめします。
本稿には特定の医薬品、医療機器についての記述がありますが、情報提供のみを目的としたものであり、医療上の助言や販売促進などを目的とするものではありません。
なお、メディカルドックでは病気の認知拡大や定期検診の重要性を伝えるため、闘病者の方の声を募集しております。皆さまからのご応募お待ちしております。

記事監修医師:
別府 拓紀(精神科医)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。





