【闘病】ただの運動不足が一転… 43歳看護師を突き落とした『難病』という地獄

看護師として忙しく働く中、40代に入って感じ始めた足の違和感――。のりこさん(仮称)は運動不足だと思い込んでいたものの、43歳に起きた小さな転倒をきっかけに状況が一変しました。大学病院で半年にわたる検査の末、彼女に突きつけられたのは、治療法のない難病「顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD)」という現実。そこからリハビリ、そして情報を求める闘病生活が始まりました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2025年9月取材。
体験者プロフィール:
のりこさん(仮称)
診断に至るまでの歩み。運動不足だと思い込んだ日常から受診まで

編集部
初めに、病院を受診しようと思ったきっかけを教えてください。
のりこさん
43歳のある日、出勤途中に小さな段差につまずいて転倒したことがきっかけです。40代に入り、ジャンプができない、階段の上りがつらいなど、足に違和感を覚えるようになりました。病気の可能性を疑って調べたこともありましたが、明確な症状が見つからず「運動不足のせいだろう」と自己判断していました。その最中に転倒してしまったのです。自力で立ち上がれず、通りがかりの人に助けられたことで「これはおかしい」と感じ、近くの診療所を受診しました。
編集部
診療所では、どのような診断を受けたのでしょうか?
のりこさん
診療所の医師からは「何で放っておいたの? おかしいでしょ?」と厳しい言葉をもらい、不安が一気に高まりました。その後、勤務先の病院の上司に相談し、神経内科の医師に診てもらうことになったのです。神経内科の医師には、「『脊髄性筋萎縮症』の疑いがある」と言われ、大学病院への紹介状が出されました。
編集部
大学病院では、どのような検査が行われたのでしょうか?
のりこさん
大学病院ではさらに詳しい検査が行われ、筋肉系の疾患の可能性があると説明されました。医師から、入院が必要になる筋生検か、採血のみで済む特定の疾患に絞った遺伝子検査かの選択肢を提示され、私は後者を選択。その結果、44歳の春に「顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー」と診断されました。
編集部
診断が下された時の心境について教えてください。
のりこさん
診断が確定した時は、治療法のない難病であることに大きなショックを受けました。また、遺伝子検査の結果を待つ半年間は、長く不安な時間でしたね。
編集部
自覚症状などはありましたか?
のりこさん
実は中学生の頃から、手を上げると肩甲骨が飛び出る「翼状肩甲」や、肩より高く手が上げられないといった症状がありました。近くの病院と大学病院を受診しても原因は不明のまま。当時は「風邪の菌が入ったのかも」と言われるだけで、診断も治療もされませんでしたね。肩甲骨を固定する手術も提案されましたが、九州の病院でしか行われておらず、傷跡が大きく残ることから断念。電気治療やリハビリに数年通ったものの、症状は改善せず、次第に通院もやめてしまって。右手を上げるのに支障はありましたが、日常生活には大きな問題がなかったため、何の治療もせずに過ごしていました。
HAL®導入と日常生活の変化、支え

編集部
顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーが治療法のない難病ということは、医師から直接説明を受けたのでしょうか?
のりこさん
はい。診断後、「治療法はない」と言われました。そんな中、同じ病気の患者が集まるオープンチャットで「HAL®(装着型サイボーグ)」の存在を知り、主治医に相談したのです。現在は2〜3カ月に1回、1クール9回のペースで通院しています。
編集部
HAL®とは、どのようなものでしょうか?
のりこさん
HAL®は、身体機能を改善・補助・拡張・再生することができる装着型サイボーグです。装置自体が勝手に動くのではなく、装着した人の「動かそうとする意思」を読み取り、その動作を力学的にサポートする役割を担います。HAL®のサポートを受けながら歩行訓練を繰り返すことで、HAL®を脱いだ状態でも、動作や歩行機能の改善が期待できるそうです。
編集部
闘病に向き合う上で支えになっているものを教えてください。
のりこさん
「居場所があること」が大きな支えです。病気を抱えていても、一人の人間として接してくれる職場の仲間に心救われています。今は患者さんへの直接的なケアは控え、管理者として後輩のフォロー業務がメインになっているものの、後輩が点滴挿入で困ったときは、自分が交代で対応することがあります。負担をかけているにもかかわらず、後輩から「主任がいてくれてよかった」と言ってもらえることがすごくうれしくて……。その言葉を聞くたびに、「ここにいていいのだ」と思えます。
今を大切にする生き方と医療への願い

編集部
過去の自分に声を掛けられるとしたら、どんなことを伝えたいですか?
のりこさん
「今のうちにしたいことをする。行きたいところに行くべき」です。バリアフリーが進んでいるとはいえ、健常者と同じようには過ごせない現実があるからこそ、「今を大切にしてほしい」と伝えたいですね。
編集部
現在の体調や生活の様子を教えてください。
のりこさん
HAL®を始めてからは、歩行能力の改善を実感しています。今は自力で歩行できますが、1年前の骨折を機に、転倒予防のため杖を使用するようにしました。まだしゃがむ・前屈するなどの動作が難しく、夫に家事を手伝ってもらいながら生活しています。最近は、趣味として始めたパン作りにはまっています。「次の休みにどんなパンを作ろうか」と考えたり、お裾分けしたパンを人に褒めてもらったりすることで充実した時間を過ごしています。
編集部
医療従事者への思いがあれば聞かせてください。
のりこさん
診断された際、神経筋疾患患者登録センター「Remudy」(患者会)や難病申請などの情報が得られず、自分で調べるしかありませんでした。患者会への登録が進めば、海外の治験に日本から参加できる可能性も広がります。国や病院が患者会へつなげる仕組みを整えてほしいと願っています。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
のりこさん
自分の体に目を向けて、少しでも「あれ?」と感じたら、迷わず受診してほしいですね。また、海外では顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーの治験薬がフェーズ3に入り、日本でも治験に参加できる可能性があります。今は治療法がない病気でも、未来の医学に希望を託しています。
編集後記
のりこさんの闘病体験は、病気の早期発見の重要性と、診断後の情報提供の必要性を示唆しています。「今を大切にすること」「居場所があることの大切さ」「情報アクセスの仕組みづくり」——。これらの言葉は、同じように悩む人々への力強いメッセージになるでしょう。彼女の声が、病を抱える多くの人に支えとなることを願っています。
本稿には特定の医薬品、医療機器についての記述がありますが、情報提供のみを目的としたものであり、医療上の助言や販売促進などを目的とするものではありません。
なお、メディカルドックでは病気の認知拡大や定期検診の重要性を伝えるため、闘病者の方の声を募集しております。皆さまからのご応募お待ちしております。

記事監修医師:
上田 雅道(あたまと内科のうえだクリニック)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。



