【闘病】血尿は一度だけ… 『膀胱がん』の地獄。大人用おむつが手放せず、激痛にうずくまり耐えた絶望

たった一度の血尿が、がん発見の糸口に――。2022年の健康診断を機に、「膀胱(ぼうこう)がん」が発覚した中野さん。将来、子どもを持つ夢を守るため手術を決断しますが、術後には激痛と闘うBCG治療の「地獄」が待っていました。大人用おむつが手放せない過酷な日々をどう乗り越えたのか。中野さんが、パートナーとの絆と早期発見の重要性を語ります。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2025年7月取材。

中野 輝規
一度きりの血尿と、CTに映らない小さな影

編集部
膀胱がんが発覚した、きっかけについて教えてください。
中野さん
きっかけは、2022年11月の健康診断の尿検査で初めて血尿が出たことですね。血尿が出たのは後にも先にも、その一度きりでした。再検査になるのが面倒で、その検体を提出するか一瞬迷ったくらいでしたが、勇気を出して提出したことが全ての始まりです。
編集部
すぐに病名が特定されたのでしょうか?
中野さん
いいえ。CTやMRIを撮っても、何も異常はありませんでした。その後、医師の勧めで膀胱鏡検査を受けたところ、本当に小さな腫瘍が見つかったのです。実際に写真を見せてもらいましたが、素人目には腫瘍かどうかも分かりませんでした。その時点では、良性か悪性か判明せず「経過観察」と言われて……。正直、怖かったですね。膀胱がんのことは事前に調べて、最悪の場合、膀胱を全摘出する可能性もあると知っていて。手術は避けたかったので、ただ消えてくれることを願うしかありませんでした。
手術台へと向かわせた思いと、本当の地獄

編集部
悪性かどうか分からない中、手術に踏み切った決定的な理由は何だったのでしょうか?
中野さん
再婚を考えているパートナーとの子どもを持つことを諦めたくないという気持ちが決定打でしたね。経過観察で通院中、しばらく腫瘍に変化はありませんでした。だから、医師から「切除をしないと良性か悪性かの判断ができない」と説明され、「何度も検査に来ると負担になってしまうので手術しませんか?」と言われても、最初は手術ではなく検査を選んでいたのです。ただ、何度目かの検査時に腫瘍が少し大きくなっていることが判明し、先生から「腫瘍に変化があったのを目の当たりにしたのに手術をしない選択は無い」と再度手術を勧められました。それでも手術を悩みましたね。その後、膀胱がんについて徹底的に調べ、発見が遅れると膀胱を全摘出しなければならないケースが多いと知ったことで、私の考え方は変わりました。膀胱を全摘出するということは、生殖能力を失う可能性があるということです。子どもを持つことを諦めたくない……。そして男性としての尊厳も保ちたいという思いが、手術への決断を後押ししたのです。
編集部
「生殖能力を失うかもしれない」という恐怖を、パートナーに打ち明けることはできましたか?
中野さん
はい、全て打ち明けました。すると彼女は、「子どものことよりも、あなたの健康が一番大事」と言ってくれたのです。そして私は思いました。「この小さな段階で奇跡的にがんが見つかったのは、命の大切さを教えてくれるための気付きなのだ」と。「まだあなたは生きなさい」と神様に言われた気分でしたね。おそらく自分一人だったら、「悪性だと決まっていない」と先延ばしにして、治療すらしなかったかもしれません。彼女がいたからこそ、私は手術を決断できたのです。
編集部
手術を終え、「膀胱がん」であるという診断結果は、どのように伝えられたのですか?
中野さん
確定診断は、手術後に摘出した腫瘍の病理検査によって下されました。退院して2週間後に検査に行くと、先生から「悪性でした」とサラッと言われましたね。あまりにサラッと言われたので大きなショックは受けませんでした。「でも、もう完全に切除したから大丈夫ですよ」とも。この言葉を聞いた時、本当に手術をしてよかったと思いました。
編集部
そこから、手術後の「BCG治療」が始まるわけですね。
中野さん
はい。がんの再発を防ぐためのBCG治療は、想像を絶する苦しみの始まりでした。8月から11月にかけてほぼ毎週、膀胱に直接薬を注入するのですが、副作用がすさまじくて……。最初は何もなかったものの、治療を重ねるごとに副作用に苦しみ、重度の膀胱炎になってしまいました。何もしていないときでも陰部が激しく痛み、うずくまるしかない。膀胱が空になると痛みが出るのです。痛みを防ぐために水分を大量に摂取すると15分置きに猛烈な尿意が襲ってきました。夜中も関係ありません。おかげで治療期間は、ほとんど眠れませんでしたね。水分を取らないと痛みが出て、水分を取ると尿意が出る。だから何をしてもつらくて。外出時は、いつ来るか分からない尿意に備えて、大人用のおむつが手放せませんでした。
編集部
過酷な日々を、どのように乗り越えたのですか?
中野さん
やはり、パートナーの存在が全てでした。家が遠いにもかかわらず、献身的に家事を手伝いに来てくれたり、私のために毎日祈ってくれたりしました。パートナーがいなければ、きっと心が折れていたと思います。
後悔と教訓、未来へのメッセージ

編集部
膀胱がんという経験を振り返って、後悔していることはありますか?
中野さん
がん保険に入っていなかったことです。罹患後はしばらく保険に入れないので、入っておけば良かったと心から思いました。手術自体は高額ではありませんでしたが、万が一再発があった際にセーフティーネットがないという事実は、大きな不安としてのしかかっています。あとは闘病中、金額の負担以上に見えざるコストの負担が大きいように思います。
編集部
“見えざるコスト”について、具体的に教えていただけますか?
中野さん
「時間」と「心」ですね。経過観察のため、今も3カ月置きに検査をしていますが、そのために2回通院が必要です。1回目は尿の提出だけですぐ終わるものの、翌週の検査と結果報告の日は、待ち時間も含めて半日かかります。経営者として、この時間のロスは決して小さくありません。時間以上に重たいのが精神的な負担です。慣れたつもりでも、検査結果を聞くまでは「再発していないか」と、毎回心臓がドキドキします。数カ月置きに必ず訪れる不安と緊張。これもまた、目には見えない“大きなロス”なのかもしれません。
編集部
現在の体調はいかがですか?
中野さん
おかげさまで体調は万全です。ただ、治療が終わったわけではありません。先ほど話した通り、今は3カ月に一度、膀胱鏡の検査を続けています。この先、検査の間隔は6カ月に一度、1年に一度と延びていくようですが、完全に検査が終了するまでには5~10年はかかるといわれています。がんとの付き合いは、長い目で見ていく必要があると実感しています。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
中野さん
がんというものは、最初は小さくても徐々に大きくなるのだと改めて理解しました。だからこそ、がんは恐れる病気ではありません。大きくなる前であれば、治療の選択肢も広がります。また、予防と早期発見を心掛ければ、過度に恐れる必要はない病気だとも感じています。健康で長生きするために、皆さんも予防と早期発見をぜひ心掛けてほしいですね。
編集後記
「定期的な健康診断」がいかに重要であるか、中野さんの体験から分かると思います。もし彼が、一度きりの血尿を「気のせいだ」と無視し、「再検査が面倒だ」と病院から足を遠ざけていたら――。その結末は、おそらく全く違うものになっていたでしょう。自身の健康を過信せず、体の小さなサインに耳を傾けてみてください。
本稿には特定の医薬品、医療機器についての記述がありますが、情報提供のみを目的としたものであり、医療上の助言や販売促進などを目的とするものではありません。
なお、メディカルドックでは病気の認知拡大や定期検診の重要性を伝えるため、闘病者の方の声を募集しております。皆さまからのご応募お待ちしております。

記事監修医師:
石川 智啓
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。





