目次 -INDEX-

  1. Medical DOCTOP
  2. 医科TOP
  3. コラム(医科)
  4. 「仕事終わりに飲みたくなる理由」は医学的に説明できる! ストレス・低血糖と飲酒欲求の関係を医師が解説

「仕事終わりに飲みたくなる理由」は医学的に説明できる! ストレス・低血糖と飲酒欲求の関係を医師が解説

 公開日:2026/01/16
「仕事終わりに飲みたくなる理由」をご存じですか? ストレス・低血糖と飲酒欲求の関係を医師が解説

「今日こそは休肝日」と決めたのに、夕方になるとお酒が急に飲みたくなることはありませんか? じつはお酒を急に飲みたくなる衝動は、あなたの意志が弱いからではありません。脳の仕組みや栄養不足が深く関係しています。そこで、「急な飲酒欲求の科学的な原因と、今すぐできる具体的な対処法」について「SUGAR」の佐藤先生に回答してもらいました。正しい知識で、我慢せずにお酒と付き合えるようになりましょう。

佐藤 将人

監修医師
佐藤 将人(SUGAR LLC)

プロフィールをもっと見る
「健康的に豊かに生きる」を理念に人的資本経営コンサルティングを手がける企業SUGAR代表医師。宮城県仙台市を拠点に、社員の心身のメンテナンスや企業の組織運営などの経営を支援する事業を展開。医学の知見を生かし肉体改造してシックスパックを達成したり、精神心理的知見からメタ認知的活動に従事。東北大学医学部医学科卒業、日本医師会認定産業医、中小企業診断士、労働衛生コンサルタント(保健衛生)臨床心理士、JSPO公認スポーツドクター、日本肝臓学会専門医、日本外科学会専門医、元仙台市食育推進会議委員、ヴィーガン。

飲酒欲求の正体とは?

飲酒欲求の正体とは?

編集部

夕方になると急にお酒が飲みたくなることがあります。これは意志が弱いからでしょうか?

佐藤 将人先生佐藤先生

意志の弱さが原因ではありません。急な飲酒欲求は、脳の「報酬系」という回路が引き起こす生理的な反応です。アルコールを摂取すると、脳内で「ドーパミン」という快楽物質が分泌されます。脳はこの快感を強く記憶しており、ストレスや疲れを感じた際に「手っ取り早く快感を得て不快を消したい」と判断します。その結果、あなたの意志とは無関係に、脳がアルコールを強く求める指令を出してしまうのです。これを「渇望(クレービング)」と呼びます(※1)。

編集部

ストレスが溜まると無性に飲みたくなるのはなぜですか?

佐藤 将人先生佐藤先生

ストレスホルモンである「コルチゾール」と、脳の防御反応が関係しています。強いストレスや不安を感じると、脳は緊急事態と判断し、リラックス効果のある物質を求めます。過去にお酒で嫌なことを忘れた経験があると、脳はその回路を優先的に使用しようとします。つまり、脳がストレスから自分を守るための鎮静剤として、お酒を要求している状態なのです(※2)。

編集部

毎日飲まないと気が済まないのは、依存症の始まりなのでしょうか?

佐藤 将人先生佐藤先生

習慣的な飲酒が続くと、脳の構造が変化して「耐性」がついている可能性があります。アルコールによる強い刺激を受け続けると、脳はバランスをとるためにドーパミンの受容体を減らしてしまいます。すると、お酒がない状態ではドーパミンがうまく働かず、楽しさを感じにくくなったり、不安感が強まったりします。「お酒を飲んで初めて普通の状態に戻れる」と感じる場合は、脳がガス欠を起こしているサインかもしれません。早めに休肝日を設けることが大切です(※3)。

お酒を飲みたくなる「トリガー」を知る

お酒を飲みたくなる「トリガー」を知る

編集部

夕方になると急に飲みたくなる理由を教えてください。

佐藤 将人先生佐藤先生

夕方の飲酒欲求は、脳のエネルギー不足(低血糖)が大きな要因の一つです。知っている人も多いかもしれませんが、お酒が飲みたくなるHALTという法則の一つでもあります。つまり、仕事終わりでお腹が空いているとき、血糖値が低下しています。すると、理性を司る脳の「前頭前野」へのエネルギー供給が不足し、衝動を抑えるブレーキが効きにくくなります(※4)。また、脳は「空腹」と「飲酒欲求」を混同しやすく、単にエネルギーを求めているだけなのに「お酒が飲みたい」と勘違いすることがあるとも言われています。まずは食事やおにぎりを一口食べてみると、嘘のように欲求が消えるかもしれないので、試してみてください。

編集部

「HALTの法則」とは何ですか?

佐藤 将人先生佐藤先生

飲酒欲求を引き起こす4つの代表的な状態の頭文字をとったものです(※5)。
● Hungry(空腹・渇き):お腹が空いていないか、喉が渇いていないか
● Angry(怒り):イライラしていないか
● Lonely(孤独):寂しさを感じていないか
● Tired(疲労):疲れていないか
 
自分が「飲みたくなる」瞬間を振り返り、これらに当てはまるか確認してみてください。本当の原因はお酒が欲しいのではなく、空腹や疲れを癒やしたいだけかもしれません。原因を特定できれば、お酒以外の解決策が見つかります。

編集部

特に理由がないのに飲みたくなることもあるのでしょうか?

佐藤 将人先生佐藤先生

それは「条件反射」による欲求の可能性があります(※6)。「帰宅してソファに座る」「お風呂上がり」「テレビの音」など、特定の行動や環境とお酒がセットになって脳に記憶されている状態です。「パブロフの犬」のように、条件が揃うと自動的に脳が飲酒モードに切り替わってしまいます。この場合は、帰宅直後の行動パターンを変えたり、座る場所を変えたりして、脳の条件反射を崩す工夫が有効です。

お酒を飲みたくなったときに今すぐできる対処法と予防策

お酒を飲みたくなったときに今すぐできる対処法と予防策

編集部

今夜、どうしても飲みたくなったときの即効性ある対処法を教えてください。

佐藤 将人先生佐藤先生

強炭酸水を飲むことや、一時的に気を逸らす行動がおすすめです。飲酒欲求のピークは、長くても15分から30分程度と言われています(※7)。この時間をやり過ごすために、喉への刺激が強い炭酸水を飲んで脳を騙してみてください。レモンを搾るとより効果的です。また、「飲みたい」と感じたらすぐに歯を磨く、入浴する、散歩に出るなど、物理的に行動を変えることで脳のスイッチを切り替えることもおすすめです。

編集部

お酒を減らすために、普段からできることはありますか?

佐藤 将人先生佐藤先生

ノンアルコール飲料の活用や、記録をつけることが効果的です(※8)。最近のノンアルコール飲料は非常に品質が高く、十分に満足感を得られるものが増えています。「あえて飲まない」という選択を楽しむつもりで、お気に入りの一本を探してみてください。また、カレンダーに飲んだ日と飲まなかった日を記録するだけでも、客観的に自分の習慣を把握でき、自然と酒量をコントロールしやすくなります。これを「レコーディング」と呼び、行動変容の第一歩となります。

編集部

自分ひとりでコントロールできない場合はどうすればよいですか?

佐藤 将人先生佐藤先生

生活に支障が出るほど欲求が強い場合は、専門機関への相談を検討してみてください。「やめたいのにやめられない」のは、意志の問題ではなく治療が必要な状態かもしれません(※9)。現在は、完全に断酒するだけでなく、お酒の量を減らす「減酒外来」という選択肢もあります。一人で抱え込まず、心療内科や精神科、または地域の保健所などに相談することが解決への近道です。早めの対処が、将来の健康を守ることにつながります。

編集部まとめ

自分の「飲みたくなるパターン」を理解しようお酒が急に飲みたくなる背景には、脳の報酬系やストレス、そして空腹や疲労といった身体的なサインが隠れています。重要なのは、その衝動を「意志の弱さ」のせいにせず、冷静に原因を分析することです。「HALTの法則」で自分の状態をチェックし、炭酸水や食事で脳を満足させる工夫を取り入れてみてください。まずは今日、飲みたくなった瞬間に「今、自分はお腹が空いているだけではないか?」と問いかけることから始めてみてください。

参考文献
※1:​​Volkow ND, Fowler JS, Wang GJ, Baler R, Telang F. Imaging dopamine's role in drug abuse and addiction. Neuropharmacology. 2009;56 Suppl 1(Suppl 1):3-8. doi:10.1016/j.neuropharm.2008.05.022
※2:Koob GF. Dynamics of neuronal circuits in addiction: reward, antireward, and emotional memory. Pharmacopsychiatry. 2009;42 Suppl 1(Suppl 1):S32-S41. doi:10.1055/s-0029-1216356
※3:Volkow ND, Wang GJ, Maynard L, et al. Effects of alcohol detoxification on dopamine D2 receptors in alcoholics: a preliminary study. Psychiatry Res. 2002;116(3):163-172. doi:10.1016/s0925-4927(02)00087-2
※4:Gailliot MT, Baumeister RF. The physiology of willpower: linking blood glucose to self-control. Pers Soc Psychol Rev. 2007;11(4):303-327. doi:10.1177/1088868307303030
※5:Gorski, Terence T. Passages through recovery: An action plan for preventing relapse. Simon and Schuster, 2009.
※6:Witkiewitz K, Bowen S, Douglas H, Hsu SH. Mindfulness-based relapse prevention for substance craving. Addict Behav. 2013;38(2):1563-1571. doi:10.1016/j.addbeh.2012.04.001
※7:Drummond DC. Theories of drug craving, ancient and modern. Addiction. 2001;96(1):33-46. doi:10.1046/j.1360-0443.2001.961333.x
※8:Enhancing Motivation for Change in Substance Use Disorder Treatment: Updated 2019 [Internet]. Rockville (MD): Substance Abuse and Mental Health Services Administration (US); 2019. (Treatment Improvement Protocol (TIP) Series, No. 35.) Chapter 3—Motivational Interviewing as a Counseling Style.
※9:厚生労働省「新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドラインに基づくアルコール依存症の診断・治療の手引き」(2018年)

この記事の監修医師