「大腸がん」と「遺伝」の関係をご存じですか? 家族に大腸がん罹患者がいる場合に注意すべきこととは

大腸がんは日本人にとって身近ながんの一つであり、家族に患者がいると発症リスクが2〜3倍に高まるといわれています。特に、一親等に既往がある場合や若年での発症歴がある場合には注意が必要です。しかし、日々の生活習慣や早めの検査によって、そのリスクを大きく下げることができるのをご存じでしょうか。今回は、生活習慣の影響や検査の適切なタイミング、大腸がん予防のための工夫について、池袋ふくろう消化器内科・内視鏡クリニック東京豊島院の柏木先生に解説していただきました。

監修医師:
柏木 宏幸(池袋ふくろう消化器内科・内視鏡クリニック 東京豊島院)
家族に大腸がん患者がいるとリスクはどのくらい上がる?

編集部
家族歴がある場合、大腸がんの発症リスクはどの程度高まるのでしょうか?
柏木先生
大腸がんの約30%には、遺伝的な要因が関与していると考えられています。特に、親や兄弟姉妹などの一親等に大腸がんの罹患者がいる場合、発症リスクは一般の方と比べて2~3倍に高まると報告されています。さらに、叔父・叔母・従兄弟などの親戚に既往歴がある場合でも、1.3~2倍程度のリスク上昇が見られます。なかでも、50歳未満で発症した大腸がんでは、家族歴の影響がより強く現れることが知られており、近親者に2人以上の既往がある場合には、さらにリスクが高まります。また、「家族性大腸がん症候群(FAP、リンチ症候群など)」といった遺伝性疾患が関与するケースでは、発症リスクが非常に高くなるため、こうした疾患が診断された場合には、早めに医療機関へ相談することが勧められます。
編集部
遺伝による要因と生活習慣による要因は、どのように影響するのか教えてください。
柏木先生
がんの発症には、遺伝的な要因と生活習慣の両方が関与しています。たとえば、がん抑制遺伝子に異常がある場合、生まれつきがんのリスクが高い状態にあります。しかし、そうした遺伝的な素因があっても、生活習慣によってリスクをさらに高めたり、逆に抑えたりすることが可能です。喫煙や過度な飲酒、偏った食事、運動不足、肥満などは、細胞に慢性的なダメージを与え、がんの発症を促す要因となります。つまり、遺伝的な背景がある人ほど生活習慣の改善がより重要になります。
編集部
大腸がんの家族歴がある人が、特に注意すべき年齢やタイミングはありますか?
柏木先生
大腸がん検診(便潜血検査)は、一般的に40歳からが対象です。これは、大腸がんの発症が40歳頃から増え始め、50歳以降にリスクがさらに高まることが背景にあります。しかし、家族歴がある方は、より早い段階からの注意が必要です。特に、親や兄弟姉妹が50歳未満で大腸がんを発症した方がいる場合には、診断された年齢より10歳早い時期からの大腸内視鏡検査が推奨されます。また、20代・30代での発症例も報告されており、過剰な飲酒・喫煙習慣がある方、肥満傾向のある方、便通異常や腹痛などの消化器症状がある方は40歳未満でも検査を検討してください。
大腸がんを防ぐために取り入れたい生活習慣

編集部
大腸がんのリスクを軽減するための具体的な食生活について教えてください。
柏木先生
食生活に関して、大腸がんのリスクとされるのは、赤身肉や加工肉の過剰摂取、高脂肪・高カロリー・低繊維の食事です。赤身肉やソーセージ・ベーコン・ハムなどの加工肉は、発がん性があるとの報告もあり、摂りすぎには注意が必要です。また、高脂肪・低繊維の食事は腸内環境を悪化させ、発がん性物質の生成を促す可能性があると考えられています。
編集部
では、どのようは食生活が良いのでしょうか?
柏木先生
以下のような食生活が一般的に推奨されています。
・赤身肉や加工肉は週に数回までに控える
・魚、大豆製品、鶏肉などの低脂肪でたんぱく質豊富な食材を積極的に取り入れる
・野菜、果物、全粒穀物、海藻、豆類、キノコ類など、食物繊維が豊富な食材を意識して摂る
・緑黄色野菜に含まれるビタミンA、C、βカロテンなどの抗酸化成分を活用する
・味噌、納豆、ヨーグルトなどの発酵食品で腸内環境を整える
編集部
運動や体重管理は、大腸がん予防にどのように役立つのでしょうか?
柏木先生
運動不足は腸の蠕動運動(ぜんどううんどう)を低下させ、便秘の原因になります。便秘が続くと、腸内に有害物質が長く留まりやすくなり、悪玉菌の増殖を促す環境が生まれ、大腸がんのリスクを高める要因となります。さらに、運動不足は生活習慣病や肥満のリスクにも直結し、肥満によって内臓脂肪が過剰になると、がん化を助長するホルモンが増加することが知られています。BMI(体格指数)が25を超えると、大腸がんのリスクが上昇し、BMIが高くなるほどそのリスクも高まる傾向があります。そのため、適切な体重の維持と日常的な運動習慣は、大腸がん予防において非常に重要です。たとえば、1日30~60分のウォーキングを継続することで、大腸がんのリスクを約24%低減できるという研究結果も報告されています。無理のない範囲で、日々の生活に運動を取り入れることが、予防への第一歩となります。
編集部
飲酒や喫煙が大腸がんのリスクに与える影響は、どの程度大きいのでしょうか?
柏木先生
飲酒や喫煙は、大腸がんの発症リスクを高めることが科学的に明らかになっています。特に飲酒については、1日あたりのアルコール摂取量が23g以上(日本酒で約1合)になると、リスクが上昇することが報告されています。摂取量が増えるほどリスクも高まり、非飲酒者と比べて約1.4倍から最大で3倍近くにまで上昇する可能性があります。喫煙に関しても、非喫煙者と比べて喫煙者の大腸がんリスクは約1.2~1.5倍高くなるとされており、喫煙本数や喫煙年数が多いほど、リスクはさらに増加します。
「家族歴あり」だからこそ早めに始めたい検査とセルフケア

編集部
大腸がんの家族歴がある人は、いつから検査や検診を受けるべきでしょうか?
柏木先生
ご家族が50歳未満で大腸がんを発症した場合には、診断された年齢より10歳若い時期から大腸内視鏡検査を開始することをおすすめします。これは、遺伝的なリスクを考慮した早期発見のための重要な指標です。該当しない場合でも、40歳を目安に一度内視鏡検査を受けておくと安心です。検査の間隔は、大腸ポリープの有無や切除した個数、病理結果などによって異なりますので、医師の判断に基づいて定期的な検査を継続することが大切です。
編集部
便潜血検査のメリットを簡単に教えてください。
柏木先生
大腸がんの早期発見には、便潜血検査と大腸内視鏡検査の両方が重要な役割を果たします。それぞれに特徴があるため、目的や状況に応じた使い分けが大切です。便潜血検査のメリットは、以下の点が挙げられます。
・自宅で簡便に実施できる
・検査費用が比較的安価
・非侵襲的で身体的負担が少ない
・食事制限が不要
・大腸がんの早期発見による死亡率低下が報告されている
これらの理由から、便潜血検査は大腸がん検診やスクリーニング検査として広く用いられており、定期的な実施が可能です。
編集部
便潜血検査のデメリットについてはいかがでしょうか?
柏木先生
便潜血検査のデメリットとしては、以下の通りです。
・病変があっても出血を伴わない場合は陰性となり、見逃す可能性がある
・痔などの良性疾患でも陽性となることがある
以上のような点がデメリットとして挙げられます。
編集部
大腸内視鏡検査のメリットについても教えてください。
柏木先生
大腸内視鏡検査のメリットとしては、これらの理由が挙げられます。
・大腸粘膜を直接観察でき、小さな病変やポリープも高精度に検出可能
・発見した病変をその場で生検・切除でき、予防的治療効果が高い
大腸の精密検査や治療として用いられる検査方法と言えます。
編集部
大腸内視鏡検査(大腸カメラ)のデメリットはどうでしょうか?
柏木先生
大腸内視鏡検査のデメリットとしては、以下の点が挙げられます。
・下剤や食事制限などの前処置が必要で、患者の負担が大きい
・穿孔や出血などの合併症リスクがわずかに存在する
・鎮静剤の使用や検査時間、医療資源・コストがかかる
・実施できる医療機関が限られている
総合的に、検討し定期的に検査を受けることが大腸がん予防や早期発見につながります。
編集部
家族歴のある人が、日常生活でできるセルフケアや注意点はありますか?
柏木先生
大腸がんは、生活習慣の改善によってリスクを大きく減らすことができる病気です。特に家族歴がある方にとって、日々のセルフケアは予防の鍵となります。その背景には「腸内環境」が深く関係しています。腸内環境が乱れると、大腸がんだけでなく、生活習慣病や認知症、うつ病など、さまざまな疾患のリスクが高まることが分かっています。今まで説明してきた食生活や運動のポイントを知っていただき、積み重ねることで健康な腸が育ち、大腸がんの予防につながります。家族歴がある方こそ、日々の暮らしの中でできる小さな工夫を大切にしていただけますと幸いです。
編集部まとめ
大腸がんは家族歴があるからといって防ぐことのできない病気ではありません。遺伝的な背景があっても、生活習慣や検査によって予防できる余地は十分にあると教えていただきました。食事や運動など、小さな工夫を積み重ね、適切なタイミングで検査を受けることが、ご自身やご家族の健康を守る第一歩です。本稿が読者の皆様にとって、大腸がん予防を前向きに考えるきっかけとなりましたら幸いです。




