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笑顔の裏でうつ病が進行している? 「微笑みうつ」の症状や注意すべき人の特徴を医師に聞く

 公開日:2025/09/21

人前では笑っていることができるのに「なぜか気分が晴れない」「疲れが抜けない」といった不調を抱えている方は多いのではないでしょうか? いわゆる「微笑みうつ」は、表面的には元気に見える一方で、内面では強いストレスにさらされ、突然心が折れてしまう危険が隠れている場合があります。自分では気づきにくく、周囲も見落としやすいため、早期の理解と対処が重要です。今回は、微笑みうつのメカニズムや注意すべき人の特徴について、精神科専門医の種市摂子先生に詳しく解説していただきました。

種市 摂子

監修医師
種市 摂子(Dr.Ridente株式会社 代表取締役)

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香川大学医学部、名古屋大学医学部大学院卒業。救急医療、脳神経外科診療、睡眠診療、精神科診療などを経て、予防医療を目的に、2008年より産業医サービス提供開始。これまでに、楽天株式会社をはじめ、IT企業、ベンチャー企業、IPOを目指す企業を中心に、650事業所以上を支援、ハラスメントゼロ・休職者ゼロのカスタマーサクセスにつなげている。日本精神神経学会専門医・指導医。Well-being向上委員会委員、日本スポーツ精神医学会会員、日本精神神経学会(精神保健に関する委員会委員)、健康経営アドバイザー、睡眠衛生コンサルタント、ストレングスファインダー認定コーチ、日本産業精神保健学会優秀賞、T-PEC優秀専門医。

微笑みうつとは? 特徴と背景を知る

微笑みうつとは? 特徴と背景を知る

編集部編集部

「微笑みうつ」とは、医学的にどのような状態を指すのでしょうか?

種市 摂子先生種市先生

微笑みうつとは、仕事の成果を出したり表面上は元気に見えたりするのに、内面でうつ状態にある人を指します。表面上は元気に見えても、脳内ではストレスホルモン(コルチゾール)が慢性的に高まっており、感情を調整する前頭前野の働きが低下しています。無理に頑張り続けることで心のサインを見逃し、突然深刻な抑うつ症状に至るリスクがあります。早期の気づきとケアが重要です。

編集部編集部

一般的なうつ病と比べて、どのような違いや特徴があるのか教えてください。

種市 摂子先生種市先生

一般的なうつ病は、意欲低下や疲労感が表に出やすいのに対し、微笑みうつは、表では頑張れることが特徴です。外からは元気に見え、仕事もこなしているため周囲が気づきにくく、本人も「自分は大丈夫」と思いがちです。しかし、脳内では慢性的ストレスにより神経伝達物質のバランスが崩れ、急激に心が折れるリスクがあります。隠れた危機として注意が必要です。

編集部編集部

微笑みうつは、現代の働く人に増えていると聞きます。どのような背景が考えられるのでしょうか?

種市 摂子先生種市先生

現代社会では「成果を出すこと」や「常に前向きであること」が強く求められます。そのため、疲れていても休まずに働き続けたり、本音を隠して笑顔で振る舞ったりする傾向が強まっています。脳科学的には、慢性的なプレッシャーでストレスホルモンが高止まりし、感情の調整や回復を担う前頭前野や報酬系の働きが弱まります。こうした背景が重なることで、外からは元気に見える「微笑みうつ」が増えているのです。

こんな自分に覚えがあるなら要注意! 微笑みうつの危うい思考・行動パターン

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編集部編集部

「微笑みうつ」の前兆やサインには、どのようなものがありますか?

種市 摂子先生種市先生

急に疲れが抜けなくなった」「楽しさを感じにくい」「眠りが浅くなる」などが前兆と言えます。脳ではストレスホルモンが慢性的に高まり、脳の扁桃体が過敏化し、感情のゆらぎが増します。集中力の低下や小さなミスの増加、人と会うのが億劫になるといった変化も見られます。表面的には仕事をこなしていても、内面ではエネルギーがすり減っている状態が続きます。

編集部編集部

「人に頼れない」「弱音を吐けない」と感じている人は、うつを抱えやすいのでしょうか?

種市 摂子先生種市先生

頼れない・弱音を吐けない人は、感情を抑圧しやすく、脳の扁桃体が過剰に働く一方で、前頭前野による感情調整が疲弊しやすくなります。ストレスを内にため込み続けると、脳内のセロトニンやドーパミンなどの神経伝達物質のバランスが崩れ、うつ状態になりやすくなります。適度な感情の共有は、脳の負担を軽減し、メンタルの保護因子となります。

編集部編集部

「いつも通りに見える人」の不調に周囲が気づくためには、どのような変化に注意すべきでしょうか?

種市 摂子先生種市先生

一見元気そうでも、小さな変化に注意することが重要です。たとえば、「口数が減る」「笑顔がぎこちない」「反応が遅くなる」「以前より疲れて見える」「予定を断るようになる」などですね。脳の疲労が進むと、表情や言動の微妙なズレが現れます。信頼関係のある人から「最近どう?」とさりげなく声をかけることで、内面の不調に気づきやすくなります。

微笑みうつにならないためのセルフケアとは

微笑みうつにならないためのセルフケアとは

編集部編集部

微笑みうつにならないために、自分を客観視するために有効な方法があれば教えてください。

種市 摂子先生種市先生

自分を客観視するには、日々の思考や感情を記録する習慣(ジャーナリング)が有効です。脳科学的には、書く行為によって前頭前野が活性化し、感情を冷静に整理できます。また、第三者視点で自分の行動や発言を振り返る、メタ認知の習慣も重要です。信頼できる他者に話すことも、自分の状態を鏡のように映す手段となり、無意識の頑張りすぎに気づく助けとなります。

編集部編集部

自分が「頑張りすぎかもしれない」と気づいたとき、まず何から始めるべきですか?

種市 摂子先生種市先生

まずは、「休む許可を自分に与えること」が第一歩です。脳は過剰なプレッシャー下では報酬系がうまく働かず、達成感や喜びを感じにくくなります。深呼吸や5分の休息など、小さな回復行動から始めることで、交感神経の緊張が緩み、副交感神経が優位になります。「休む=怠け」ではなく、「休む=脳のメンテナンス」と捉える視点が、再生のカギになります。

編集部編集部

医療機関や専門家に相談する目安やタイミングがあれば教えてください。

種市 摂子先生種市先生

「眠れない」「気分が沈む日が続く」「楽しさや意欲を感じない」「涙が出る」「体がだるくて動けない」といった症状が2週間以上続く場合は、医療機関への相談が推奨されます。脳内の神経伝達物質のバランスが崩れている可能性があり、早期介入が回復を早めます。また、自分でコントロールできない疲れや不安感がある場合も、専門家に話すことで客観的な支援が得られます。

編集部まとめ

「微笑みうつ」は、外からは元気に見えても、内面では慢性的なストレスで脳が疲弊している状態を指します。一般的なうつ病と異なり、仕事をこなし成果を出せるために周囲から気づかれにくく、本人も不調を自覚しにくいのが特徴です。背景には、成果主義や「常に前向きであること」を求められる現代社会のプレッシャーがあり、脳科学的にもストレスホルモンや神経伝達物質のバランスが崩れることで、突然深刻な症状に至るリスクがあるとされています。見えない危機を理解し、早期のケアが重要です。

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