「大腸がんの発症リスクが高い食事」をご存じですか? 大腸がんと赤身肉・加工肉の関連を医師に聞く

「肉はがんの原因になる」と聞いたことがあっても、どの程度からリスクになるのか分からない人も多いのではないでしょうか。特に赤身肉や加工肉は、大腸がんとの関連が国際的にも指摘されています。とはいえ、肉をすべて避ける必要はありません。最新の研究データや調理法の工夫をもとに、健康的に食事を楽しむ方法について、池袋ふくろう消化器内科・内視鏡クリニック東京豊島院 院長の柏木宏幸先生に詳しく解説していただきました。

監修医師:
柏木 宏幸(池袋ふくろう消化器内科・内視鏡クリニック 東京豊島院)
赤身肉や加工肉と大腸がんリスクの関係

編集部
赤身肉や加工肉の摂取は、実際に大腸がんのリスクを高めると考えられているのでしょうか?
柏木先生
海外の研究で赤身肉、加工肉の摂取は大腸がんのリスクを上げることが「確実」と判定されています。世界的に見て、日本は赤身肉・加工肉の摂取量が比較的低いため、大腸がんの発生に関して、日本人の平均的な摂取の範囲であれば赤肉や加工肉がリスクに与える影響はないか、あっても小さいと考えられています。
編集部
しかし、日本でも赤身肉・加工肉の摂取量は増えていますよね?
柏木先生
はい。食の欧米化に伴い、日本でも赤身肉・加工肉の摂取量は増加しています。実際に日本の大腸がんの発生リスクとの関連を検討した研究でも、女性において毎日赤身肉を80g以上食べるグループで大腸がんのリスクが高く、それ以下の摂取量ではリスク上昇はみられなかったというデータはでています。ただし、赤身肉にはたんぱく質やビタミンB、鉄、亜鉛など健康にとって有用な成分もたくさん含んでいることから、極端に量を制限する必要性はないと考えられます。
編集部
赤身肉や加工肉とは、具体的にどのような食材のことを言うのでしょうか?
柏木先生
赤身肉は牛肉、豚肉、羊肉(ラム、マトン)、馬肉、山羊肉など哺乳動物の肉とされています。鶏肉は白身肉であり、赤身肉とは異なります。加工肉は香りや保存性を高めるための加工をした肉とされ、具体的にはハム、ソーセージ、コンビーフ、ビーフジャーキー、塩味の切り干し肉、缶詰肉、脂肪注入加工肉(牛脂を肉に注入した加工肉)、成形肉(内臓肉などを加えて形状を整えたもの)などが挙げられます。
編集部
赤身肉や加工肉が大腸がんのリスクを上げる具体的な要因について教えてください。
柏木先生
赤身肉が大腸がんのリスクを上げる要因として、赤身肉に含まれる鉄分(ヘム鉄)とN-ニトロソ化合物(発がん性物質)が挙げられます。加工肉の場合、含まれている保存料(亜硝酸塩や硝酸塩)に発がん性物質の可能性があるとされています。その他、高温調理(焦げ)による発がん物質(ヘテロサイクリックアミン)が生成されることや、赤身肉・加工肉に含まれる動物性脂肪を消化・吸収する働きを持つ胆汁酸がリスク要因に挙げられます。
編集部
胆汁酸とはどういうものでしょうか?
柏木先生
胆汁酸は肝臓で作られ、胆管を経由して消化管内に分泌され、大腸で分解されて二次胆汁酸となります。この二次胆汁酸に発がん物質が含まれているため、胆汁酸が増えると、がん発生の可能性も高まりやすいといわれています。加工肉ではおいしくするために人工的な脂肪を肉の中に注入されているものもありますので、脂肪分が多く含まれることもあり、結果として大腸がんのリスクにつながります。
赤身肉や加工肉と上手く付きあうための方法

編集部
赤身肉や加工肉は、どのくらいの量を超えるとリスクが高まるとされていますか?
柏木先生
様々な研究結果があり、英国の報告では1日あたり加工肉25gを食べるごとに大腸がんリスクが20%上昇し、1日あたり赤身肉50gを食べるごとに19%上昇するとの報告があります。WHOの研究データでも加工肉50gで大腸がんリスクが18%上昇すると報告されています。世界がん研究基金(WCRF)と米国がん研究協会(AACR)により、赤肉は調理後の重量で週500g以内(1日あたりの平均摂取量が70g以下)、加工肉はできるだけ控えるようにと勧告されています。
編集部
調理方法や保存方法などで大腸がんリスクに変化はあるのでしょうか?
柏木先生
調理方法による大腸がんのリスクとしては、高温調理(焼きすぎや揚げすぎ)による発がん物質(ヘテロサイクリックアミン)の生成が挙げられます。直火で焼いたり、燻製したりする過程で煙に含まれる多環芳香族炭化水素が肉に付着し、発がん性があるとされています。茹でる・蒸すといった調理方法の方が焼く・揚げるなどの調理方法と比べ、大腸がんリスクは低減できると考えられます。
編集部
赤身肉や加工肉を完全に避けるのではなく、うまく付きあうためのコツはありますか?
柏木先生
赤身肉、加工肉を完全に避ける必要はないとされています。ただし過剰に摂取されている場合には、減らすことが勧められます。日本人の場合、週に2~3回、1回当たり100g程度の赤身肉の摂取が推奨されています。うまく付きあうコツとしては、赤肉の場合には焼いたり、揚げたりする調理法よりグリル、蒸す、茹でるなど脂肪分が流れる方法など、焦げない調理法が良いとされます。
編集部
ほかにもあれば教えてください。
柏木先生
シチューやカレーなどの料理においても、肉を少量として肉の一部を豆類に置き換えるなどの方法も挙げられます。また、野菜、果物、食物繊維を一緒に摂取していただくことも大切です。加工肉の中でもソーセージ、サラミ、パテ、ビーフバーガーなどは脂肪分が多く、塩分も多いため控えた方が望ましいですね。
食生活と大腸がんリスクの関係

編集部
その他、大腸がんのリスクになり得る食生活についても教えてください。
柏木先生
赤身肉・加工肉の過剰摂取以外には偏った食生活、高脂肪食、高カロリー食、食物繊維・野菜・果物の摂取不足が大腸がんのリスクとなりえる食生活として知られています。
編集部
食生活は、どの程度大腸がんのリスク因子となるのでしょうか?
柏木先生
食生活以上に喫煙や飲酒の方が、がん死亡率に関与しているとデータがでています。しかし、この20年で大腸がんによる死亡数は1.5倍に拡大していて、生活習慣の欧米化(高脂肪・低繊維食)が関与していると考えられています。穀類や豆類などの食物繊維や、野菜・果物の多摂取による大腸がんの予防効果は証明されています。食物繊維は胆汁酸と結合して一次胆汁酸から二次胆汁酸への変換を阻止することや、腸内の嫌気性菌の繁殖を抑制することで大腸がんのリスク軽減につながります。さらに食物繊維では、便の量が多くなることで大腸通過時間を短縮させ、腸内の発がん物質を希釈させることにより、大腸がんの発生を予防するとも考えられています。果物、野菜にはビタミンCやカロテノイド、葉酸、フラボノイド、ヨウ素などに含まれるがん抑制作用もあります。
編集部
大腸がんのリスクを下げるための食生活におけるアドバイスを教えてください。
柏木先生
大腸がんのリスクを下げるための食生活としてバランスのよい食生活、野菜、果物、食物繊維の摂取を心掛ける、赤身肉・加工肉の過剰な摂取は控え適量を心掛ける(加工肉の代わりに魚や鶏肉、大豆製品を選ぶ)、焼きすぎや揚げすぎを避け、茹でる・蒸すといった調理方法を選択するといったことが挙げられます。バランスの良い食生活として、ご飯やパンといった主食以外に加えてタンパク質(魚、鶏肉、大豆製品が良いとされています)、野菜や果物(ブロッコリー、キャベツ、玉ねぎ、りんごなど)、食物繊維(きのこ、海藻、豆など)を摂っていただくことがよいでしょう。
編集部
そのほか、最新の知見や情報をもとにアドバイスはありますか?
柏木先生
最近の報告では牛乳やヨーグルトのようなカルシウムを多く含む食品(チーズを除く)を摂取することが、大腸がんの発症リスク低下と関連していることや、コーヒーの成分に発がん抑制物質が多く存在することが明らかにされ、特に直腸がんの予防効果が報告されています。ビタミンDの摂取も大腸がんリスクを低下させることが分かっており、魚介類・キノコ類・卵に多く含まれていることから、摂取するとよいと思います。亜硝酸塩やリン酸塩を使用していない、または低減されている製品を選ぶこと、自然な保存方法が採用されている製品を選ぶことも推奨されます。
編集部まとめ
赤身肉や加工肉が大腸がんリスクに関係するという事実はありますが、それは“過剰摂取”や“偏った食生活”が重なった場合に結果として現れるとのことでした。適切な量と調理法を意識すれば、健康的に食生活を楽しむことは可能です。肉を用いた食事に関する正しい情報を知ることが重要かもしれません。日々の食事を見直すことで、大腸がん予防につながる行動は誰でも実践できます。本稿が読者の皆様にとって、食と健康のバランスを考えるきっかけになりましたら幸いです。