【体験談】「便意はあるのに出ない」 正体はステージ4の直腸がんだった
直腸がんは骨盤にある重要な神経の近くで発生するため、排便など人間の生活の質に大きく影響するがんの1つです。今回は直腸がんステージ4で肺に多発転移しつつも、手術や抗がん剤などで現在も闘っている沼田さんに、話を聞きました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2022年2月取材。
体験者プロフィール:
沼田 桃子
青森市在住、1958年生まれ。家族構成は夫と4人の息子。診断時の職業は司法書士。当時は青森県司法書士会会長を務めていた。がん告知の2年程前から時々出血を自覚。痔だと思って放置。後日、排便困難のため内視鏡検査を受けて病名発覚。サードオピニオンを受けた医師の元で手術や抗がん剤などの治療を受け、現在も副作用と戦いながら日常生活を送っている。
記事監修医師:
梅村 将成(医師)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
直腸がんステージ4の宣告を受ける
編集部
最初に病気に気づいたきっかけは?
沼田さん
2016年頃から、トイレで時々出血があり、最初は痔かなと思っていました。その後、便意があるのに出ない、という症状も出てきたので、近くの病院を受診しました。そこで大腸内視鏡検査を受けました。内視鏡を入れるとすぐに腫瘍がドンと張り出していて、それ以上内視鏡が入らなかったので、あっという間に検査終了でした。
編集部
その後、どのような説明をされましたか?
沼田さん
兄夫婦と共に説明を受けました。「ポリープがあり、がんかどうかは病理検査をしてないためわからないが、早く切った方がいいと思います。病院Aへの紹介状を書くので、2日後の月曜日に受診してください」と言われました。翌週は東京で重要な会議の予定が入っていたので、スケジュール帳を見ながら「その週は……」と言いかけた途端、医師から「すべて後回し。これが最優先」とビシッといい切られました。その迫力に「これはかなりまずいのだろうな」と思いました。
編集部
病院Aでは、どのような検査をされましたか?
沼田さん
血液検査、内視鏡検査、CT、レントゲン、超音波検査でした。これらを初診日に全ておこないました。検査の翌日、消化器内科医から「直腸がんのステージ4、肝臓に2か所転移、もう手術はできず、抗がん剤で延命しかできません」と言われました。
編集部
病気が確定した時、どのような心境でしたか?
沼田さん
どこか人ごとのような感じで「やっぱりがんか、転移まであって、面倒くさいなあ」と。もちろん、少しは泣きましたが、そんなにすぐ死ぬとは思えず、翌日には、保険の確認や見直しをしていました。
編集部
病気が判明した時、周囲の反応はどうでしたか?
沼田さん
告知時は夫と兄夫婦が一緒でした。夫は1週間で4kg痩せていましたね。兄夫婦もショックを受けていましたが、できる限り治療に協力すると言ってくれました。京都在住の長男とは電話で話しました。「お母さんの仕事のハードぶりと、自分達がかけてる苦労を思ったら、いつかはこうなるのではないかと思っていた」と言われました。東京在住の二男、三男、四男は、セカンドオピニオン先の東京で会い、がん関連の書籍を渡してくれたり、私を想って涙してくれたりしました。家族には心配をかけて申し訳ないと思っています。
編集部
仕事関係の方も驚かれたでしょうね。
沼田さん
これから入院、手術とどうなるのかわからず、当時は県司法書士会の会長をしていましたので、公務に支障が出るだろうと役員にはすぐ知らせました。皆、驚愕していました。任期途中だけど治療に専念した方がいい、という意見も出ました。それでも翌年5月の任期まで全うさせてほしい、責任を背負った方が頑張れる気がする、と継続をお願いしました。皆理解してくれて、色々と支えてもらいながら、なんとか任期を全うできてほっとしました。
編集部
医師からは、どのように治療を進めると説明されましたか?
沼田さん
セカンドオピニオンで受けた東京の病院Bの医師は、CTを見て「抗がん剤で小さくできれば手術の可能性はある。抗がん剤治療は全国どこでも同じですし、通院で青森から東京に通うのは大変なので、家族の支援を受けながら地元でやるのがいいでしょう」と話してくださいました。また「標準治療とは松竹梅でいうと松、今できる最高の治療です」とわかりやすく説明してくださいました。
手術は何度も受けることに
編集部
どこで治療を進めましたか?
沼田さん
結局、地元の病院Aで外科医のサードオピニオン(最初の受診は消化器内科)も受け「抗がん剤で小さくして手術可能」とのことだったので、その先生に従いすぐ抗がん剤治療を始めました。約1週間の入院でポートを留置し、抗がん剤の最初のクールを終え、針の抜き方などを指導されて退院しました。ここから約半年、合計13クールの抗がん剤治療をしました。
編集部
治療にはどのような薬を使いましたか?
沼田さん
2018年には、ベクティビックス、オキサリプラチン、レボホリナート、フルオロウラシルを使用しました。2021年から現在は、アバスチン、イリノテカン、レボホリナート、フルオロウラシルを使用しています。
編集部
入院中はどのような気持ちでしたか?
沼田さん
入院は遠足気分で、楽しむことができました。本を読んだり、DVDを見たりSNSを楽しんだり。全身麻酔もなぜか好きで、あのほんとに一瞬で意識を失うことが興味深かったです。ただ、術後の痛みや腸閉塞になった時の痛みはさすがに激しく、しんどかったですね。それでも看護師さんや同室の人との会話を楽しみながら過ごすことができました。
編集部
手術は何回受けられましたか?
沼田さん
手術は、6回受けていますが8箇所に処置をしています。ステント留置の内視鏡手術やポートの留置術を単独で受けたこともありましたし、主要切除と一緒にストーマ造設/閉鎖術を受けたこともありました。。抗がん剤が効き、がんが4分の1まで縮小したため、直腸と周囲のリンパ節切除をおこない、一時的にストーマを開設しました。その後、肝臓を一部切除してストーマを閉鎖しました。最大のリスクであった腹膜播種はありませんでした。ほかに右肺に3か所再発し、下葉全部と中葉一部を切除、その後、左肺に1か所再発して切除しました。一番嫌だったのは、鼻から入れる胃管でした。「麻酔してくれ~」と願うほど喉あたりの違和感や痛みが苦痛でした。
経過観察継続中も、仕事には復帰
編集部
治療による副作用はありましたか?
沼田さん
脱毛、皮膚の乾燥、色素沈着、下痢、手足のしびれがありました。手足のしびれは最初、ボタンが掛けられない、字がうまく書けない、物を持つと落としそうになるほどでした。次第に手は良くなり、今ではほぼ問題なく生活できていますが、依然として指先にはしびれは残っています。足の方はさらにひどく、感覚がにぶいので靴が脱げてもわからず、サンダルやスリッパはすぐ脱げてしまいます。常にしびれと拘束感があり、足は一向に良くなりません。2021年からは脱毛(ウイッグを使用)、口内炎、便秘があります。
編集部
医師や看護師など、医療関係者からの説明は十分でしたか?
沼田さん
医師や看護師からはちゃんと説明してもらったと思います。疑問や不安な点については質問もして、しっかりと答えてもらいました。医師にも個性がありそれぞれですが、今の主治医(外科)とは相性がよく信頼していて、いい関係です。看護師さん達も優しくていい人ばかりでした。医師はいつでもリスクを伝えなければならないのは分かりますが、可能性や希望があるなら、それもちゃんと伝えてほしいと思います。
編集部
治療開始後、生活・仕事それぞれにどのような変化がありましたか?
沼田さん
仕事は残業を控えるようになりましたが、フルタイムで続けています。周りがとても気遣ってくれるのが申し訳ないですが、良い体調を維持できています。やはり、ステージ4の印象が強く、ぐったり寝込んでいるイメージなのかと思います。
編集部
治療中の心の支えとなったものは、何でしたか?
沼田さん
仕事や公務などやるべきことがまだいっぱいある、という思い、そして子ども達のためにいつでも「おかえり」と言ってあげられるよう、今はまだ死ねない、という思いですね。やはり何よりも子どもが一番大事であると改めて感じました。
編集部
もし昔の自分に声をかけるとしたら、どんな助言をしますか?
沼田さん
ちゃんと定期的に健康診断に行きなさい。業務の多忙を理由に5年ほど健康診断をさぼりました。その結果、ステージ4にまでこじらせてしまったので、早期発見できていれば、大腸がんの生存率はより高いのに、と悔やまれます。
編集部
現在のがんの状況はいかがでしょうか?
沼田さん
まだ肺に3つ病変があります。2週間おきの抗がん剤の点滴を受けており、そのおかげでほとんど見えないほど小さくなっていますが、消えてはいません。3カ月おきのCTで経過観察しています。主に薬の副作用による口内炎が一番つらいですが、見た目は普通の人より元気で、仕事は休まず出ています。
編集部
今後について、医師からどのような説明がありましたか?
沼田さん
一度ステージ4になると、寛解まではずっと4で、下がることはないそうです。最初に肺転移した際は8mm程度の大きさと言われましたが、既に細胞レベルで全身に散らばっている可能性も高いからでしょうね。最初の告知から4年が過ぎましたが、三度目の再発からまだ1年ちょっとですので、まだ頑張ろうと思います。
編集部
大腸がんの実態を知らない方へ、一言お願いします。
沼田さん
がんは早期発見・早期治療が重要です。必要以上に怖れたり、誤解したりしている人も多いので、がんファイターの発信を参考にしてほしいと思います。ステージ4でもこんなに元気であれこれしている人もいることを知ってください。
編集部
上記のほかに伝えたいことなどがありましたらお願いします。
沼田さん
がんになったことを悲観してしまうのは当然だとは思いますが、必要以上に怖がったり、悲しんだりしなくてもいいのではないかと思います。生き続けられることを保証されている人は誰もいない訳ですから、がん患者だけが不幸ではないし、人生の崖っぷちということでもありません。ですから周囲の方にも「がんになってかわいそう」や、もしこの先死んでしまったとしても「がんに負けて亡くなった」とは思って欲しくないですね。我々がんファイターは、がんに負けて死ぬのではなく、がんと最後まで力の限り闘い抜いた勝者だと思っています。こんな辛い闘いをやり抜いた人達が、敗者であるわけがないですから。
編集部まとめ
病は気からと言いますが、「がんとの戦いは負けでもかわいそうでもない、みな勝者である」という前向きな考えが治療にも良い効果をもたらしているのではないかと思いました。