大腸がんの内視鏡治療や手術を受けると生活はどう変わる? どんな支障があるのか医師が解説

大腸がんの内視鏡治療、手術といってもそれぞれには様々な方法があります。早期に発見された場合、日帰りや短期間の入院で治療が可能ですが、進行度や腫瘍の状態によっては手術が必要になることもあるようです。それぞれの治療法にはどのような特徴があり、治療後の生活にはどのような影響があるのでしょうか? 池袋ふくろう消化器内科・内視鏡クリニック東京豊島院 院長の柏木宏幸先生に詳しく解説していただきました。

監修医師:
柏木 宏幸(池袋ふくろう消化器内科・内視鏡クリニック 東京豊島院)
目次 -INDEX-
大腸がんの内視鏡治療

編集部
大腸がんの内視鏡治療にはどのような方法がありますか?
柏木先生
ポリープや早期の大腸がんであれば内視鏡での治療が可能です。大腸腫瘍(ポリープ、がん)に対する内視鏡治療は①ポリペクトミー(内視鏡的ポリープ切除術)、②EMR(内視鏡的粘膜切除術)、③ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)があります。腫瘍というのは平坦な病変からキノコのような形をした病変まで様々です。大腸がんの内視鏡治療は安全かつ完全に腫瘍を切除できなくてはなりません。治療方法の選択は医師、施設によりますが、基本的には形態・大きさ・良悪性によって選択されます。
編集部
ポリペクトミー(内視鏡的ポリープ切除術)について詳しく教えてください。
柏木先生
ポリペクトミー(内視鏡的ポリープ切除術)は、電気を用いて焼灼(通電)をおこなう方法と、焼灼しない方法(コールドポリペクトミー)に分類されます。悪性を疑う場合には焼灼をおこなう治療が選択されます。治療の方法としては、スネアと呼ばれる輪っか状のワイヤーを使用してポリープの根本を絞って切除するか、鉗子(かんし)と呼ばれる器具で腫瘍をつかむ方法があります。大腸がんの場合には完全に切除するためにスネアを用いた治療がおこなわれます。
編集部
EMR(内視鏡的粘膜切除術)についてはいかがでしょうか?
柏木先生
EMR(内視鏡的粘膜切除術)は、ポリープの下に液体を注入して、切除したい部分を盛り上がらせてスネア(輪っか状のワイヤー)で切除する部分を引っかけて絞り、焼灼しながら切除する方法です。ポリペクトミーとの大きな違いはポリープの下に液体を注入することで、粘膜の深い層には電流が流れないため、腸に穴が開く腸穿孔(ちょうせんこう)のリスクが軽減できます。
編集部
最後にESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)についてお願いします。
柏木先生
ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)は、最も技術を要する治療法ですが、早期大腸がんを強く疑う場合に最も適した治療で、スネアでの治療が難しい場合に選択されます。切除する部分をマーキングし、EMRと同様に腫瘍の下に液体を注入して、腫瘍の粘膜の下(粘膜下層)を切除(剥離)します。電気メスで切除したい部分を判断しながら大きさを自由に切除できるため、大きな腫瘍や、スネアを引っかけにくい腫瘍、瘢痕を伴う腫瘍などに適しています。ESDは難しい技術であることから、熟練した内視鏡医がおこなうため治療できる施設は限られていますので、治療経験の多い施設での治療が勧められます。
編集部
それぞれの治療方法のメリットやデメリットを教えてください。
柏木先生
ポリペクトミーやEMRのメリットはESDに比べ短時間で治療が可能です。腫瘍のサイズが大きくないときに選択される治療であるため術後の合併症のリスクは少ない傾向にあります。そのため、日帰りや短期間の入院で治療が可能です。デメリットは大きい病変では選択されないこと、完全に切除しきれないリスクがあることです。ESDのメリットは、大きい腫瘍や切除が難しい病変でも一括で切除しやすい点にあります。デメリットは、出血や腸穿孔のリスクは高くなりますし、入院期間も長くなる傾向にあり、治療費用も高くなります。
大腸がんの手術療法

編集部
大腸がんの手術療法には、大きく分類するとどのような方法がありますか?
柏木先生
開腹手術、腹腔鏡手術、ロボット手術が挙げられます。現在、最も標準的におこなわれている方法は腹腔鏡手術です。開腹手術はお腹を十数cm切り開いておこなう方法です。腹腔鏡手術はお腹に数か所の穴を開けて、その穴から鉗子という器具と内視鏡を挿入して手術をおこないます。内視鏡によってお腹の中をテレビモニターに映しながら、鉗子を使って手術をおこないます。ロボット手術では腹腔鏡手術と同じように、お腹に数か所の穴をあけて、ダヴィンチというロボットについている4つのアームにそれぞれ1本の内視鏡と3本の鉗子を繋げて手術をおこないます。
編集部
それぞれの手術方法のメリットやデメリットを教えてください。
柏木先生
腹腔鏡手術やロボット手術は開腹手術に比べると、傷が小さいため術後の痛みは少なく、入院期間が短くなりやすいメリットがあります。しかし、腹腔鏡手術やロボット手術は難しく技術が必要なため、治療を受けられる病院が限られていることや、手術時間が長くなってしまうことがデメリットと言えます。開腹手術のメリットは手術時間が短時間になりやすいこと、お腹を大きく開き内部を見ることができるため病気の状態や周囲の臓器を確認しやすいこと、大きい腫瘍でも取り出すことができること、全身麻酔をできない場合に局所麻酔で手術をおこなうことができることが挙げられます。一方で、傷が大きくなるため、術後の痛みや感染症のリスク、傷の痕が目立ちやすいなどのデメリットがあります。
編集部
手術の方法はどのように選択されますか?
柏木先生
患者さんの状態や、治療を受ける病院や先生によって異なりますが、緊急で手術が必要な場合や心臓や肺の機能に問題がある場合には、腹腔鏡手術ができないこともあります。また、過去にお腹の治療や炎症、がんの浸潤による組織の癒着がある場合には開腹手術が勧められる場合があります。
手術後の日常生活を考える

編集部
食事や排便習慣にどのような変化が起こりますか?
柏木先生
多くの場合、内視鏡治療後の日常生活に変化はありません。手術の場合には、腸の蠕動(ぜんどう)運動が弱くなるため、下痢や頻回便、便秘などの排便習慣への変化が起こりやすくなります。手術後3カ月までの間は、腸閉塞を起こす可能性があるため、消化の悪い食品や、食物繊維の多い食品を摂りすぎないように注意が必要です。その期間は食事の量を少なくしたり、細かく刻んだりするなどの工夫や、ゆっくりとよく噛みながら食べる必要があります。
編集部
手術後、元の生活に戻るまでどれくらいの時間がかかりますか?
柏木先生
大腸がんの手術後は、通常1〜3カ月程度で手術前と同じような日常生活を送れるようになります。食事も徐々に戻していき、バランスの良い食事を心掛け、運動は軽い運動から始め、体を動かす習慣をつくることが大切です。腹筋を使う激しい運動は数カ月の間控える必要があります。
編集部
手術後、長期的に気をつけなければいけないことや日常生活のアドバイスはありますか?
柏木先生
長期的に最も大切なことは、主治医の指示に従い定期検査を受けることです。治療後は再発の可能性もあるため、必ず術後の外来や検査を案内されます。日常生活では腸閉塞のリスクを考えて、便秘になっていないかを意識する必要があります。腸閉塞予防や健康のためにも、食事に気を付けることや適度な運動をおこなうことが推奨されます。
編集部まとめ
大腸がんの治療方法について、内視鏡治療から手術に至るまで詳細に教えていただきました。治療後は、回復に向けた適切な対応として、食事や運動などの生活習慣を見直し、腸への負担を減らすことが大切です。また、定期的な検診を受けることで、再発のリスクを抑えることもできます。治療について少しでも情報を知っておくことで、より安心して治療に臨めるのではないでしょうか。本稿が、大腸がんの治療について考えるきっかけになれば幸いです。