星野真里、愛娘の「先天性ミオパチー」発覚。首がすわらない“違和感”と病との向き合い方

俳優の星野真里さんの長女・ふうかさんは、生後3〜4カ月で首がすわるはずが、5〜6カ月になっても全くその気配がありませんでした。個人差だからと言われ続けたものの、6カ月健診で告げられた「要観察」という現実。ふうかさんに告げられた診断は「先天性ミオパチー」でした。根本的な治療法はなく、対症療法とリハビリで成長を支えてきた日々。それでもふうかさんは「ジップラインに乗りたい」「メイクアップアーティストになりたい」と明るく夢を語ります。違和感に気づいたきっかけから確定診断まで、そして治療とケアについて伺いながら、先天性ミオパチーの初期症状、診断方法、症状の特徴について、神経筋疾患の専門医である三澤先生にわかりやすく解説していただきました。
※2025年12月取材。
>【写真あり】星野真里さんの長女“難病”発覚前の生後間もない様子

星野真里(俳優)
1981年7月27日、埼玉県生まれ。1995年、NHK「春よ、来い」で本格的に俳優活動を始める。同年TBSテレビ「3年B組金八先生」において坂本乙女役を好演、広く認知される。2001年日本テレビ「新・星の金貨」主演、同番組主題歌「ガラスの翼」でCDデビュー。2005年「さよならみどりちゃん」で映画初主演し、第27回ナント三大陸映画祭主演女優賞を受賞。現在では俳優業のほかにコメンテーター、番組司会、エッセイ執筆、ナレーションなど、幅広い分野にて足跡を残している。2015年7月、第1子女児を出産。

ふうか
2015年7月生まれ。10歳。先天性ミオパチーを患いながらも電動車椅子を乗りこなしたくましく生活している。2025年、24時間テレビに出演するなどメディアやSNSを通して多くの人々に日常生活や日々の挑戦を発信している。

三澤園子(日本神経学会認定専門医)
東京科学大学脳神経病態学分野(脳神経内科)教授。日本内科学会総合内科専門医・指導医。日本神経学会専門医・指導医。日本臨床神経生理学会専門医。日本神経免疫学会神経免疫診療認定医。千葉大学医学部卒業。千葉大学大学院医学研究院脳神経内科学准教授を経て、2025年5月から現職。
「首がすわらない」先天性ミオパチー診断までの漠然とした不安と難病の正体

三澤先生
ふうかさんが生まれてから最初に違和感に気づいたきっかけについて教えていただけますか?
星野さん
生後3〜4カ月くらいで首がすわるというのが一般的な知識としてなんとなく知っていました。しかし、5〜6カ月でも全くその気配がなく、体が全体的にとても柔らかいなという感覚はずっとありました。
三澤先生
その違和感について、周囲に相談することはありましたか?
星野さん
誰に話しても、「この時期の赤ちゃんは本当に個人差が大きいから」と言われることが多く、私自身もそうであってほしいという気持ちがあったので、心配にはなりましたが気にしすぎないようにしていました。しかし、6カ月健診のときに、「要観察」という紹介状をいただいて、近くの総合病院に行くことになりました。そのときに初めて、個人差では済まないのかな、何か病名があるのかなと、漠然とした不安を感じたことを覚えています。
三澤先生
先天性ミオパチーという病気は、筋肉の構造や機能を担当する遺伝子に通常とは異なる違いがあり、そのために力が入りにくいという症状が出ます。筋力低下が明らかになってくる年代により、親御さんが違和感に気づく症状が異なるのが特徴です。
星野さん
赤ちゃんの時期だと、どのような症状が出るのでしょうか?
三澤先生
赤ちゃんであれば、体が柔らかい、首がすわりにくいといった症状があります。また、母乳やミルクを飲む力が弱いことで見つかることもあります。もう少し成長してから気づかれる場合は、歩けるようになるのが遅い、転びやすい、疲れやすいといったことがきっかけになります。ふうかさんが確定診断を受けるまでの経過について教えていただけますか?
星野さん
6カ月健診の後、総合病院にかかることができて、初めて専門的な医療と繋がることができました。そこからさらに筋肉の専門医ということで別の病院を紹介していただき、その先生から初めて「先天性ミオパチーだろう」という病名を聞きました。確定診断をするためには筋生検という、全身麻酔で筋肉の一部を取る検査をしないと確定できないと言われました。1歳にも満たない小さな体ではとても負担なので、少し体が大きくなる2歳以降にその検査をすることになりました。
三澤先生
その診断を聞いたときのお気持ちは、いかがでしたか?
星野さん
根本的な治療薬が現状あるわけではないですし、病気が分かったからどうなるというわけでもないという気持ちでした。その気持ちは今でも変わりません。彼女がより過ごしやすく、私たちも一緒に過ごしやすい環境を整えていくことに考えがシフトしていって、その中でできることを探して取り組んできたという感じです。
三澤先生
小さなお子さんに「力が入りにくい」という症状がある場合、始めに大切なのは身体の診察です。診察によって、「力の入りにくい」原因が、脳、脊髄、末梢神経、筋肉のどのあたりにありそうかを突き止めます。筋肉に原因がありそうな場合には、血液検査や筋電図検査、MRI検査などをおこないます。なるべく負担の少ないものから進めていって、最終的に筋生検という形になるのですが、最近は遺伝子検査もかなり発達してきているので、筋生検の優先順位は下がりつつあります。
星野さん
この病気は、どのくらいの頻度で発症するのでしょうか?
三澤先生
現在は2.5万人から5万人に1人くらいの割合と言われています。しかし、医療にアクセスできない方もいらっしゃいますし、必ずしも専門医に行き着けなかったり、確定診断ができない施設だったりすることもあります。診断技術が発展し、病気の認知度も向上しつつあり、おそらくそれよりもう少し多くの患者さんが実際にはいらっしゃるのではないかと考えられています。
星野さん
病気のタイプにはどのようなものがあるのですか?
三澤先生
主な病型は5つほどあります。セントラルコア病、ネマリンミオパチー、中心核ミオパチーなどがよく知られています。病型によって症状の特徴があります。共通して問題になりやすいのは、呼吸筋や体幹筋の筋力低下や飲み込みづらさなどです。
星野さん
実は、同じ支援学級にいるほかのお子さんも先天性ミオパチーの可能性があるとのことなのですが、歩けますし、身の回りのこともできています。本当に症状の幅が広い病気なのだなと感じています。
三澤先生
病型ごとに症状の特徴があるほか、重症度にも個人差がある病気です。
星野さん
症状は成長とともに変化していくのでしょうか?
三澤先生
病型が変わることはありませんが、発達に伴って症状の出方や感じ方は違ってくる可能性があります。基本は力の入りにくさで、それに伴い問題になりやすいのは呼吸の問題、飲み込みの問題、背骨の問題です。ふうかさんの場合、これらをとてもきちんとケアされていらっしゃるようにみえます。実際にどのような治療やリハビリをおこなってこられたのでしょうか?
星野さん
先天性ミオパチーそのものに対する治療ではなく、筋力が弱いことに対してどうアプローチするかというリハビリを続けてきました。背骨が曲がった状態にある側弯症があるので、進行を止めるためにコルセットを作ったり、リハビリで体を動かしてもらったりという対症療法ですね。
三澤先生
先天性ミオパチーでは、現段階では病気そのものへの治療アプローチがまだ実現されていません。そのため、今ある症状をどのようにやわらげ、成長をサポートするかが大切になります。筋力の維持のためのリハビリや、飲み込みが難しい場合は食べやすいような工夫をします。体幹を支え側弯を予防したり、呼吸が弱い場合は呼吸器でサポートしたりもします。
医療的ケアで呼吸器がもたらした驚きの“効果”とふうかさんの広がる可能性
星野さん
特に重要なケアや注意すべきことはあるのでしょうか?
三澤先生
特に重要なのは呼吸のケアです。呼吸の問題は時には命に関わってしまうことがあります。必要に応じて人工呼吸器でのサポートを行います。感染症予防、特に肺炎にならないよう気をつけることも大切です。また、側弯をきちんとケアしないと呼吸しづらくなってしまうので、背骨のケア、姿勢のケアもとても重要です。
星野さん
呼吸機能が弱いことで、ちょっとした風邪でも入院を繰り返した時期もありました。現在は、元々夜間だけ人工呼吸器をつけていたところを日中もつけるようになりました。マイナスなイメージを持つ方が多いかもしれませんが、人工呼吸器をつけたからこそ、声も大きくなり、食べる量も増え、身長も伸び、体重も増えました。
三澤先生
医療的ケア児になってしまうことへの心理的ハードルや不安で、人工呼吸器をつけることを悩んでいるご家族もいらっしゃると思います。実際に経験されたお母さんの生きた言葉はとても価値があり、勇気をくれると思います。
星野さん
今まで本人が呼吸に使っていた栄養や力を、今はほかの部分に使えているのだなということを実感しています。親としては人工呼吸器に対して、複雑な想いがありますが、今の彼女にとって必要なものとして、少しずつ受け入れることができているのかなと思います。
三澤先生
星野さんのおっしゃる通り、呼吸をすることで体力を消耗していたところから、人工呼吸器を使用することで、ほかの部分にエネルギーを使うことができるといった例は多くあります。
星野さん
今は医学の進歩でいろいろなものがあるので、必要なものをうまく取り入れつつ、彼女が一番過ごしやすい環境を整えてあげることが親としてできることです。当たり前の親子関係をこれからも築いていけたらいいなと思っています。
三澤先生
ふうかさんがこれからやってみたいことや、今熱中していることがあれば教えてください。
ふうかさん
やってみたいことは、私のパパはキャンプが大好きで、いろいろなキャンプ場に行きます。その中には遊具があるところもあって、ジップラインに乗って地面に到着する超ハードなアスレチックがあって、それに乗ってみたいなって思っています。
星野さん
激しいことが好きで、車椅子も全力で押されると喜びます。本当はいろいろ挑戦させてあげたいですが、安全性の問題でできないことも多くあります。その中でできることを見つけて、スリルを味わいたいと思っているみたいです。
三澤先生
将来の夢はありますか?
ふうかさん
将来の夢は、コロコロ変わります。昔はデザイナーで、その次がパティシエ、漫画家、今はメイクアップアーティストです。普段からメイクが好きで、自分でやりますが、いつもママに直されて「これギャル過ぎ」とか「左右めちゃくちゃ変」とか言われます。
三澤先生
ふうかさんの前向きな姿勢も星野さんのお母さんとしての想いやお考えはとても素晴らしいですね。読者の方にもぜひ知っていただきたいことが大変多くありました。多くの方がより前向きになっていただけると嬉しいです。
編集後記
先天性ミオパチーは根本治療が確立されていない疾患ですが、早期に医療・福祉とつながることで、成長を支える環境を整えることが可能です。人工呼吸器の導入により成長の幅が広がったというふうかさんのエピソードは、マイナスなイメージをもたれがちな医療機器の前向きな可能性を教えてくれます。「メイクアップアーティストになりたい」「ジップラインに乗りたい」と夢を語る姿が、家族が大切にしてきた日常の強さを物語っていました。本稿が、同じ立場にあるご家族にとっても一歩を踏み出すきっかけとなりましたら幸いです。

