グレート義太夫「糖尿病」に絶望。“夏バテ”の勘違いが招いた終わらない壮絶闘病

テレビの字幕が読めなくなり、喉の渇きに悩まされ、体重が30kgも減少。それでも病気だとは思わなかったと語るのは、お笑い芸人のグレート義太夫さん。36歳の時、自宅で突然倒れて救急搬送され、血液検査で判明した血糖値は630mg/dL。正常値の3倍以上という驚異的な数値でした。「まさか自分が」と思っていた義太夫さんですが、糖尿病は初期段階では自覚症状がほとんどなく、気づいた時にはすでに進行していることも少なくありません。壮絶な闘病を経ながらも舞台や講演活動を続ける義太夫さんに、発症当時の状況や治療の実際について伺うとともに、日本糖尿病学会認定専門医の水林竜一先生の解説を交え、糖尿病の早期発見と予防の重要性をお伝えします。
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グレート義太夫(お笑い芸人)
1958年 東京都出身。1983年にビートたけし氏に弟子入り。「オレたちひょうきん族」をはじめ、たけし軍団としてバラエティ番組で活躍。また、ミュージシャンとしても活躍した。1995年 糖尿病の診断を受け、やがて糖尿病性腎症を発症。 2007年透析治療を開始。現在は、透析治療を受けながら芸能活動を続けている。

水林竜一(日本糖尿病学会認定専門医)
日本糖尿病学会認定専門医、日本内科学会認定総合内科専門医。 国立富山医科薬科大学医学部(現・富山大学医学部)卒業、名古屋大学第三内科に入局、愛知厚生連海南病院内科、名古屋大学医学部附属病院第三内科、市立四日市病院内分泌内科。現在は医療法人糖クリ四日市糖尿病クリニック理事長。糖尿病患者に寄り添った診療に励んでいる。

水林先生
現在の体調はいかがでしょうか?
義太夫さん
週3回のペースで、1回4時間の人工透析を受けています。以前は1回5時間でした。
水林先生
透析時間が短くなったのですね。何かきっかけがあったのですか?
義太夫さん
はい。昨年8月に心筋梗塞で倒れて入院したことをきっかけに食生活を見直したところ、透析時間が1時間短くなりました。そのおかげで体調は比較的安定していて、舞台や講演活動も続けられています。
水林先生
食生活の改善が透析時間の短縮につながったのは素晴らしいことですね。糖尿病が発覚した当時のことを教えていただけますか?
義太夫さん
父も糖尿病で亡くなっているのですが、自分の異変に最初に気づいたのは視力の低下です。テレビの字幕が読めなくなって、おかしいなと思いました。喉がとても渇いて水分をたくさん飲むと、当然トイレも近くなっていました。当時は全て夏バテのせいだと思っていました。
水林先生
夏バテだと思われたのですね。その後はどのような経過でしたか?
義太夫さん
ある日、自宅で突然倒れてしまい救急車で病院に運ばれたのですが、ちょうど土曜日で検査ができなかったので、点滴だけ打たれて再度受診することになりました。そこで、血液検査をしたら血糖値が630mg/dLもあり、医師からも「こんな数値で普通に私と話している状態じゃないですよ」と言われました。
水林先生
血糖値630mg/dLというのは、正常値の3倍以上です。健康な人の食後血糖値は200mg/dL未満ですので、いかに高い数値だったかがわかります。体重の変化などはありましたか?
義太夫さん
ありました。何も運動していないし普通に食事しているのに、30kgほど痩せました。その時点でおかしいと思わなければいけなかったのですが、病気に関する知識が全くなかったので、気づくのが遅れてしまいました。
水林先生
急激な体重減少は糖尿病が進行して現れる症状です。血糖値が高い状態が続くと、体が糖をエネルギーとして利用できず、代わりに筋肉や脂肪を分解してしまうため、体重が減少します。
義太夫さん
そうなのですね。改めて糖尿病について教えて頂けますか?
水林先生
糖尿病は大きく分けて1型と2型、そのほかの糖尿病に分類されます。日本人の場合、約9割が2型糖尿病です。1型糖尿病は膵臓が働かなくなり、インスリンがほとんど分泌されない病態です。一方、2型糖尿病は膵臓は働いているものの、インスリンの分泌量が少ない、あるいはインスリンの効きが悪いという病態で、生活習慣や遺伝的要因が関係しています。
義太夫さん
私は診断された時、医師から「糖尿病の一番の原因は遺伝です」と言われ、父も糖尿病だったので「これはもう仕方ないな」と諦めた部分もありました。
水林先生
確かに遺伝的要因は重要です。ご家族に糖尿病の方がいる場合、発症リスクは高くなります。全体の5〜10%は遺伝性が強い糖尿病とされています。ただし、遺伝だけではなく、生活習慣も大きく影響します。両方の要素が組み合わさって発症すると考えてください。
義太夫さん
糖尿病になると、どのような症状が出るのでしょうか?
水林先生
糖尿病の特徴は、初期段階では自覚症状がほとんどないです。病院で糖尿病と診断される人の7〜8割は症状がありません。症状が出るのは血糖値がかなり高くなった時で、具体的には300〜400mg/dL以上になると、喉の渇き、頻尿、体重減少、疲れやすさなどが現れます。症状が出ている時点では、すでに糖尿病がかなり進行している状態であることが多いです。
義太夫さん
私も本当に疲れやすくなって、自宅からコンビニまで歩いて行けないほどでした。途中で休まないといけないほど体力が落ちていました。
水林先生
そのような極度の疲労感も、高血糖による典型的な症状です。ほかにも、足がつる、視力が低下するといった症状もあります。義太夫さんの場合は視力低下が最初のサインだったと考えられます。
義太夫さん
今考えると、目の異変に気づいた時に病院に行くべきでした。
水林先生
目の症状は糖尿病の合併症である糖尿病網膜症の初期症状だった可能性があります。高血糖が続くと、目の網膜にある細い血管がダメージを受け、視力低下を引き起こします。重要なことは、症状が無いからといって安心できないということです。初期症状で糖尿病を見つけようとするのではなく、定期的な健康診断で早期発見することが何より大切です。
義太夫さん
糖尿病になりやすい人の特徴はありますか?
水林先生
発症のきっかけとなるのは糖質の過剰摂取です。ペットボトル症候群やソフトドリンクケトーシスと呼ばれていますが、清涼飲料やエナジードリンクを1日に2〜3リットル飲むような習慣がある人は要注意です。
義太夫さん
ほかにも注意すべき人はいますか?
水林先生
白いご飯やうどんなど、糖質中心の食事をおかずなしで一気に食べる習慣も危険です。このような食生活が続くと、体重が増加し、運動もしにくくなり、糖尿病を発症しやすくなります。ご家族に糖尿病の方がいる場合や、肥満傾向がある場合、不規則な食生活をしている場合は、ぜひ積極的に健診を受けていただきたいと思います。
義太夫さん
私の場合、芸能界という特殊な環境も影響していたと思います。夜中に仕事が終わって、それから焼肉を食べに行くような生活でしたので、本当に体に悪い生活習慣だったと思います。
水林先生
深夜の食事、特に高カロリーで糖質や脂質が多いものを摂取する習慣は、糖尿病発症のリスクを高めます。夜遅い時間は運動量も減るため、血糖値も上がりやすくなります。
義太夫さん
糖尿病の診断は、どのような検査で行うのですか?
水林先生
診断するためには主に血液検査をおこないます。空腹時血糖値が126mg/dL以上、または随時血糖値、つまりいつ測っても200mg/dL以上であれば、糖尿病の可能性が高くなります。このような血糖値の所見を2回以上認めるか、1回であっても網膜症のような明らかな糖尿病の合併症を伴う時に、診断に至ります。
義太夫さん
ほかにも検査はあるのでしょうか?
水林先生
HbA1cという指標を測定します。これは過去1〜2ヵ月の平均的な血糖コントロール状態を示す数値で、直近の食事の影響を受けません。HbA1cが6.5%以上と上記血糖値を認めると糖尿病と診断されます。また、必要に応じて糖負荷試験という、ブドウ糖を飲んだ後の血糖値の変化を調べる検査も実施します。義太夫さんは入院して、どのような治療を受けましたか?
義太夫さん
2週間の教育入院では、病院で管理された食事療法とインスリン注射を始めました。注射は途中から自分で打つことになり、なぜかと聞くと「退院したら自分で打たなければいけないから」と言われ、退院しても終わりではないと知り、落ち込んだことを覚えています。
水林先生
インスリン療法は血糖値をコントロールし、合併症を予防するために非常に重要な治療です。
義太夫さん
今は理解していますが、当時は本当にショックでした。糖尿病の治療には、どのような方法があるのでしょうか?
水林先生
糖尿病の治療は食事療法、運動療法、薬物療法の3本柱が基本です。中でも重要なのは食事療法と運動療法です。薬物療法は、この2つの土台があってこそ効果を発揮します。食事と運動を疎かにして、薬だけで良くなることはまずありません。
義太夫さん
診断を受けたら、すぐに薬をもらえると思っている人も多いですよね。
水林先生
その通りです。多くの患者さんが「薬をください」とおっしゃいますが、薬はあくまで補助的なものです。食事と運動の改善なしに、薬だけで血糖値をコントロールしている人はほとんどいません。
義太夫さん
食事療法や運動療法を継続することが大変な人も多いと思うのですがいかがでしょうか?
水林先生
難しく考えすぎる必要はなく、カロリー計算を完璧にする必要もありませんし、毎日何キロも歩く必要もありません。食事に関しては、主食・主菜・副菜をバランス良く摂ること、食べる順番を工夫すること、運動は20〜30分程度のウォーキングなど、できる範囲で続けられることを実行していただければ十分です。
義太夫さん
私も最初は完璧に守らないといけないと思い込んでいました。しかし、できる範囲で継続することが大切だと実感しています。薬物療法についても教えていただけますか?
水林先生
薬物療法については、飲み薬と注射薬があり、種類も非常に多岐にわたります。血糖値が高いから注射になるというわけではなく、症状や体質に応じて最適な薬を選択します。
義太夫さん
注射だから重症というわけではないのですね。
水林先生
はい。重要なのは、HbA1cの数値が改善され、合併症の予防に繋げることです。不安なことや疑問があれば、遠慮せず医師に伝えて、率直なコミュニケーションを取ることが、より良い治療につながります。
義太夫さん
体調の変化を年齢のせい、疲れているだけと決めつけず、喉の渇きや、体重の減少、疲れやすさなど、ちょっとした変化に早く気づくことが、病気の予防や早期発見、早期治療につながるのですね。
水林先生
糖尿病は症状が出にくい病気だからこそ、定期的な健康診断が重要です。血糖値やHbA1cは簡単な血液検査で調べられます。早期に発見できれば、食事と運動だけでコントロールできる可能性もあります。
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編集後記
糖尿病は初期症状が乏しく、気づいた時には進行していることも少なくありません。だからこそ、日常の小さな変化を見逃さず、定期的な健診で早期発見につなげることが重要です。視力の低下や喉の渇き、体重の減少を「夏バテ」と思い込んでいた義太夫さんの経験は、その大切さを改めて教えてくれました。本稿が読者の皆様にとって、糖尿病の早期発見と予防を意識するきっかけとなりましたら幸いです。




