美容医療の道を選んだ理由と「ボトックス」との出会い ~前編~ これまでの松倉医師の歩み
美容医療と聞くと、まず「ボトックス」をメジャーな治療として思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。美容面だけではなく、肩こりや多汗症などにも効果があると聞きます。今回は「ボトックスのパイオニア」と言われる松倉医師に美容医療の道に進んだ理由やボトックスとの出会い、またボトックス注射の施術を受ける時のドクターやクリニックの選ぶ基準や患者側が心がけるべき点などについて詳しく話を伺いました。
監修医師:
松倉 知之(医療法人社団 松徳会 松倉クリニック表参道)
昭和63年 北里大学医学部卒業、北里大学形成外科勤務。
平成10年 松倉クリニック&メディカルスパ(現・松倉クリニック表参道)開業。
ボトックス、ブルーピール、レチノイン酸などを日本に導入したことで知られる。
「最初は興味がなかった」松倉医師が美容医療を志した理由
編集部
美容医療に進んだきっかけを教えてください。
松倉先生
私は大学では形成外科に入局しました。先輩から「まだ新しい研究領域の形成外科は、そのほかの研究し尽くされた分野と違い、自分達の成果がそのまま領域の発展につながる」という話を聞き、新たな可能性を感じたことがこの分野に進むきっかけでした。
美容に関して言えば、実は、最初からやりたかったわけではないんです。それどころか、「美容は医者がやることではない」と思っていたので、自分にとってはあまり興味もないジャンルだったんですけど……。
博士号論文のテーマが創傷治癒で、その研究の過程でドクターオバジのケミカルピーリングやニューダームシステム(レチノイン酸を使用した皮膚の代謝を正常化させる治療)に出会いました。その出会いこそが、結果的に美容医療に進むきっかけとなりました。ドクターオバジの治療は画期的で効果も素晴らしいものだったのですが、日本では未認可だったため、当時の大学では認めてもらえず、日本の医療にドクターオバジの治療を取り入れるには独立開業する以外ほかに道がなかったのです。
美容医療に欠かせない「ボトックス」との出会い
編集部
「ボトックス」のパイオニアになった理由とは?
松倉先生
ドクターオバジの研修を受けに渡米した際に知り合ったドクターから、ニューヨークでボトックスの学会を開催するからと誘われて参加し、その後、彼のクリニックでも研鑽を積みました。
顔のしわを取り除いたり、エラを目立たなくしたりすることができる「ボトックス」ですが、当時の研究ではまだまだ治験のデータも芳しいものではなく、周囲からも「まだ導入はやめた方がいいよ」と言われるような状況でした。私自身は、その頃から「ボトックス」の秘めた可能性を理解していましたが、日本ではまだまだ認可されていない状況が続いていて、もどかしさを感じることもありました。しかし、ちょうど帰国するタイミングで「マドンナがボトックスを使っている」ということが大々的に報じられて、そこからは急速に広まっていきましたね。日本ではボトックスが眼科領域で使えるようになっていましたが、美容目的では輸入が出来ない時期がしばらく続いていました。当時は、同じ成分が含まれているイギリスのディスポート社の製品を使って、施術を行っていました。
編集部
垣根の低い美容医療を広めたかった想いについて聞かせてください
松倉先生
当時の日本の美容は「美容外科」と「エステ」の2つしかない状況でした。ところが、前述の通り、海外に研修に行って、メスを使わずに結果を出せる新しい手法(ケミカルピーリングやレチノイン酸の治療、またボトックス、ヒアルロン酸など)があることを知りました。手術となると躊躇してしまっても、いつまでも若く美しくいたいという願望は多くの女性に共通するものでした。治療後にメイクをして帰れるような治療を導入することで、「美容医療」も若さと美しさを追求する選択肢になり得ると確信し、それを広めたいと思いました。
ただ、そのためには、認可されていない薬品を治療で使えるように厚生省(現厚生労働省)に膨大な書類を持って日参するなど、さまざまな困難も伴いました。今でこそヒアルロン酸もボトックスもポピュラーな治療になりましたが、当初は批判にも曝され、治療として定着するまでは決して平坦な道のりではありませんでした。
編集部
「ヒアルロン酸」との出会いや導入のきっかけについて教えてください。
松倉先生
当時、施術に多く使われていたのは豚のコラーゲンでしたが、動物性の物質でもあるので、注射をしたときにおよそ3%の方にアレルギー反応が出てしまったり、注射した部位が白くなってしまったりというようなトラブルもありました。最初は鼻の整形手術をする前のシミュレーションをするために、ヒアルロン酸を使い始めたんです。透明でコラーゲンよりも分子量が大きく硬さもあるので、これを使えば手術後の姿がイメージしやすくなるかと考えたんです。しかし意外なことに、ヒアルロン酸だけでも長い時間にわたって形が維持できることが分かったのです。そして、施術の取材をしてくださった記者が、このヒアルロン酸の注射に「プチ整形」という名前をつけてくださって、それが世の中に広まっていきました。その後は手術しなくても、ある程度の期間にわたって同じ形を維持できることがわかったので、ヒアルロン酸を別の分野にも応用するようになりました。とはいえ、美容のためにヒアルロン酸を使うことについては、さまざまな批判意見もありました。そんな中、VOCE(ヴォーチェ 講談社)の創刊号で、美容医療の特集が組まれました。当時はまだ美容医療といえば美容外科だけだったので、女性誌が美容医療の記事を掲載するのはタブーとされていましたが、そのような中でも私の取り組みに可能性を感じて紹介して下さいました。世の中に広めてくれたことに対しては、今でも本当に感謝していますね。
良い施術を受けるために
編集部
ドクターやクリニックを選ぶ基準についてアドバイスをお願いします。
松倉先生
ドクターやクリニックの選び方には、残念ながら明確な基準はありません。あえていうなら実際に話してみて、相性が良いと感じた医師でしょうか。責任逃れをしない医師を選ぶしかないと思います。人間の身体は個人差もあるので、「100%治る治療」というのは存在しません。それを医師と患者が理解しながら治療できる環境が、ベストではないかと思います。施術を担当する医師が、どこの箇所にどのような方法で注射を打つか、そして注射の効果がでやすく、トラブルを減らす方法がわかっているかというところに尽きるんです。アメリカで出会ったボトックスの権威と言われている医師の施術を見せてもらった時は、その丁寧さに本当に驚かされました。超音波を使って針が筋肉にあたっているかを確認しつつ、ひと針ずつ注射器を変えながら施術を行っていて、とにかく施術が丁寧でした。名医と言われている先生が真摯に患者に向き合っている様子を見て、丁寧な施術を行う大切さや、もし経験があったとしても安易な治療はすべきではないと痛感させられました。
編集部
良い施術を受けるために、患者が心がけるべきこととはなんですか?
松倉先生
医師と患者さんが、一緒に良い治療ができる環境を整えることだと思います。さまざまな医師の施術を受ける「ドクターショッピング」は、その時々の経過がわからないので医師としては避けてほしいと思います。患者さんの不安な気持ちはわかりますが、それでは「良い治 療」ができるとは到底思えません。医師としても、イメージがわかない治療はあまりやりたくないですしね。患者さんの希望に合う医院に出向いて、じっくりと治療に取り組んでいくしかないと思います。また、日本は整形して綺麗になった人に対しての批判も根強い国なので、美容に対する理解もあまり進んでいない部分もあると思います。ですが、そのような“逆風”がありながらも「プチ整形」の浸透によって、整形に対する垣根はだいぶ下がってきたように感じます。この数十年で、美容医療の機械にもさまざまな進化がありましたし、大胆な手術をせずともきちんと結果が残せるようになりました。そのことが、多くの人に支持されるようになった理由ではないかと感じています。
編集部まとめ
ボトックスやヒアルロン酸を使った美容整形は、手術よりも手軽にできるなどの理由から、今では多くの人々に利用されるようになりました。「プチ整形」とも言われているこれらの治療は自費診療によって行われますが、適切な施術を受けるためには医師との信頼関係を築きながら取り組める環境を整えることも大切です。費用や施術内容はクリニックごとに異なるので、治療を受けるクリニックに確認してみましょう。
医院情報
所在地 | 〒150-0001 東京都渋谷区神宮前4-11-6 表参道千代田ビル9F |
アクセス | 東京メトロ 表参道駅 A2出口 徒歩1分 |
診療科目 | 皮膚科・美容外科・形成外科・内科 |