「◎◎できない」はうつ病のサイン? 自覚しにくい意外な初期症状と、心の回復を促すストレス対処法【医師解説】
脳内は「怒れる上司」? 更年期症状が起こる驚きのメカニズム
「最近、なんとなく気分が晴れない」「休日は一日中寝て終わってしまう」。そんな状態を、単なる「疲れ」や「性格のせい」だと思い込んでいませんか?
実は、うつ病の初期症状には、一見すると病気とは無関係に思えるような「意外な行動パターン」が存在します。責任感が強い人ほど自覚がないまま、ある日突然限界を迎えてしまうことも少なくありません。
今回は現役医師である舛森 悠先生に、医学的な視点から「うつ病の隠れた兆候」、脳内で起きている変化、そして心の器を広げるための対処法について詳しくお話を伺いました。自分や大切な人の小さな変化に気づき、最悪の事態を防ぐためのヒントとしてお役立てください。
※本記事は、2023年4月に『YouTube医療大学』チャンネルで配信された動画内容に基づき、動画配信者である舛森医師の監修を経て構成されています。

監修医師:
舛森 悠(YouTube医療大学)
脳内は「怒れる上司」? 更年期症状が起こる驚きのメカニズム

編集部
うつ病というと「一日中泣いている」「暗い部屋でふさぎ込んでいる」といった重篤なイメージを持ちがちですが、初期段階では本人も気づかないほど小さな変化から始まると伺いました。具体的にはどのような兆候があるのでしょうか。
舛森先生
そうですね。実は、診察していて非常に多いのが、「大丈夫だよ」が口癖になっているケースです。周りから「元気なさそうだけど大丈夫?」と聞かれて、「全然大丈夫だよ」と反射的に即答してしまう。一見、前向きに頑張っているように見えますが、実は初期の変化には本人よりも周囲の方が先に気づいていることが多いんです。
編集部
本人は自覚がないのに、周りが心配しているという状況ですね。なぜ自覚できないのでしょうか?
舛森先生
責任感が強く、「周りに迷惑をかけたくない」という思いが強い方ほど、無意識に自分の不調を認めることを避けて無理を重ねてしまいます(過剰適応)。自分を追い込んでしまう性格の方は、ストレスを溜め込みやすく、結果としてうつ病や適応障害を発症しやすい傾向があります。
「受動的な動画視聴」は思考停止のサイン?

編集部
性格的な要因も大きいのですね。他にも意外な兆候はありますか?
舛森先生
「受動的に動画ばかり視聴するようになる」 のも、見逃せない特徴です。勉強や情報収集のための能動的な視聴ではなく、エンタメ系やショート動画など、頭を使わなくても眺めていられるものに何時間も没頭し続けてしまう状態です。これは、意欲や気力を司る脳の機能が低下し、現実のストレスから逃れるために、受動的な刺激に依存してしまっているサインかもしれません。以前ほどほかのことに興味が湧かず、ただ同じような動画を延々と見てしまう。後で内容を聞いても「覚えていない」という場合は、脳がかなり疲弊している証拠です。
「お風呂が面倒」は怠けではなく脳の機能低下

編集部
脳が省エネモードになっているような状態でしょうか。
舛森先生
その通りです。さらに日常的な動作で言えば、「入浴がとにかく億劫になる」ことも重要な指標です。これは単なる怠けではありません。実は入浴という行為は、着替えを準備し、着ている服を脱ぎ、体を洗い、湯船に浸かり、髪を乾かす……といった多くの工程(シークエンス)を順序立ててこなす、非常に高度で複雑な作業です。うつ病で脳の前頭葉などの機能が低下すると、このように段取りが必要な行動(遂行機能)がうまく処理できなくなります。その結果、健康なときは当たり前にできていた入浴が、とてつもなく高い壁のように感じられるようになるのです。
話し方の変化や「休日に動けない」に隠された脳の深刻なSOS

編集部
外見や行動だけでなく、コミュニケーションの変化にも特徴が現れるのでしょうか。
舛森先生
はい。話し方が変わってしまう方も多いですね。言葉がスムーズに出てこなくなったり、呂律(ろれつ)が回らなくなったりします。 これは、思考のスピードが落ちてしまう「精神運動制止」という状態や、逆に常に何かに追われているような「焦燥感」から来る症状です。 睡眠不足が重なると、脳のパフォーマンスはお酒に酔っているのと同程度まで低下するという報告もあり、それが覇気のない話し方につながることもあります。
編集部
仕事中に「要点をまとめて」などと注意されて、余計に焦ってしまう方も多そうです。
舛森先生
まさにそうです。「前はもっとうまく話せたのに」と自分を責めてしまい、さらに症状が悪化する悪循環に陥りやすいですね。また、「休日に何もできなくなる」というのも、深刻なサインです。平日は気を張って(アドレナリンなどを出して)なんとか仕事に行けても、週末になるとエネルギー切れを起こし、泥のように眠って終わってしまう。これは「平日の疲れが限界まで来ている」という体からのSOSなんです。
編集部
休日にリフレッシュできないと、次の週も疲れを持ち越してしまいますね。
舛森先生
体からのSOSを放置すると遅刻や早退が増え、最悪の場合は朝起き上がれず仕事にも行けなくなります。「最近付き合いが悪くなった」と言われるのを気にするより、まずは「休養こそが治療」だと捉え、勇気を持って休むことが重要です。
また、心の症状よりも先に、めまい、動悸、頭痛、手足のしびれ といった全身の不調が強く出ることもあります。この状態を「仮面うつ病」といいます。内科で検査しても「異常なし」と言われた場合は、メンタルヘルスの不調を疑ってみる視点も大切です。
「コーピング」で心を守る

編集部
「危ないかも」と感じたとき、どのように対処すればよいのでしょうか。
舛森先生
まずは「コーピング(ストレス対処法)」の手札を持つことです。ストレスを感じたとき、暴飲暴食やお酒に逃げるのは一時的な気晴らしになるかもしれません。しかし根本的な解決にはならず、体調悪化のリスクもあります。自分にとって心地よく、健康的な対処法をリスト化しておくことが大切です。
編集部
リスト化、ですか。その場で思いついた方法ではダメなのでしょうか?
舛森先生
心が疲弊しきってしまうと、脳は「何をすれば楽になれるか」という発想すらできなくなります。判断力が落ちてしまうんですね。だからこそ、元気なうちに、スマホのメモ帳などでいいので、「近所を散歩する」「好きなコーヒーを飲む」「推しの音楽を聴く」といった、想像するだけで少しウキウキするリストを作っておく。いざという時にそのメモを見返すことが、ストレスの器を溢れさせないためのブレーキになります。
うつ病のセルフチェック―受診の目安となる「2つの質問」

編集部
自分の状態を客観的に判断するための、具体的な指標はありますか?
舛森先生
臨床現場でもスクリーニング(選別)に使われる「2質問法」というものがあります。この1カ月間で、以下の2つの質問に対して「よくある」と感じるか考えてみてください。
【うつ病スクリーニング:2つの質問】
・気分が落ち込んでしまったり、憂うつな気持ちになることがよくありましたか?
・物事を心から楽しめなかったり、興味が湧かないということがよくありましたか?
編集部
もし、どちらかに当てはまった場合はどうすべきでしょうか。
舛森先生
その場合は、さらに以下の7つの症状がないかチェックしてください。
・食欲の減退(または体重の減少)
・睡眠障害(寝付けない、途中で目が覚める、早朝に覚める)
・動作が遅くなる、またはそわそわして落ち着かない
・強い疲労感、気力の低下
・自分を価値のない人間だと感じる(無価値感・罪責感)
・思考力や集中力の低下(新聞やテレビの内容が頭に入らない)
・「この世から消えてしまいたい」と考えてしまう(希死念慮)
最初の2つの質問のどちらかに該当し、かつ上記の7つのうち合計4つ以上の症状が2週間以上続いている場合は、うつ病の可能性が考えられます。一人で抱え込まず、心療内科や精神科の受診を検討してください。
今不安を感じている方へ、医師からのメッセージ

編集部
最後に、今この記事を読んで不安を感じている方や、周囲に心配な人がいる方へメッセージをお願いします。
舛森先生
最もお伝えしたいのは、うつ病は「心の弱さ」や「甘え」ではなく、れっきとした「脳の病気」であるということです。
胃腸炎になったら胃腸を休めるために食事を控えるように、脳が病気になったときは、しっかりと脳を休ませることが唯一かつ最大の治療になります。私は、うつ病や適応障害を「心のアレルギー反応」だと考えています。例えば、果物アレルギーの人を「果物に適応できない弱い人間」とは言いませんよね。それと同じで、今の環境やストレスが、たまたまあなたにとって「アレルギー(合わないもの)」だっただけ。あなたの人間性に問題があるわけでも、心が弱いわけでもありません。
「気の持ちようでなんとかなる」と無理をせず、まずはしっかりと休養をとってください。頼れる人がいない場合は、専門の医療機関や相談窓口を利用するのも立派な解決策です。一歩踏み出す勇気が、あなた自身を守ることにつながります。




