「CKD」を知っていますか? 放置すると循環器疾患や認知症リスクも―3月12日は世界腎臓デー

毎年3月第2木曜日は「世界腎臓デー」とされ、2026年は3月12日に世界各地で腎臓病の早期診断、早期治療の重要性を啓発する取り組みが行われます。それに先立つ3月5日に東京都内で行われたメディア向け啓発セミナー「潜在患者2000万人の新たな国民病『慢性腎臓病(CKD)』」(日本ベーリンガーインゲルハイム主催)から、透析患者の生の声と、CKDの啓発に取り組む医師による早期診断・早期介入の意義や治療環境の変化などの解説をまとめました。
目次 -INDEX-
病気を理解し、向き合うことの重要性
全国腎臓病協議会 専務理事の宮本陽子さんが行った講演「慢性腎臓病患者の経験・実態~患者としての『リアルな声』とQOLへの影響」から、患者さんが抱える苦悩やCKDと診断されたときに必要な意識と行動などを再構成して紹介します。
良い治療が病気に向き合い社会に戻る力に
全国腎臓病協議会は、透析患者を中心とする腎臓病患者の組織で、約5万人の会員数を有します。腎疾患に関する啓発活動、患者・家族への情報提供、通院介護支援事業、就労事業、医療・療法・就労・こころの相談事業などを行っています。
私は大量出血に起因する虚血性腎不全になり、治療のかいなく透析導入になりました。透析はどの医療機関で受けても同じだろうと思われるかもしれませんが、実際にはスタッフのレベルなど施設ごとの医療格差に悩みました。2度目に転院した病院で信頼できるスタッフに恵まれ、良い治療を受けられたことで、病気に向き合い社会に戻る力をもらいました。
透析導入になった患者さんは、とても大きな衝撃を受けたり、孤独感を味わったり、現実逃避をしたり、仕事が続けられるのかという大きな不安を抱いたりします。透析患者が一度仕事を辞めてしまうと再就職が難しいため、患者会が介入して相談を受けたり企業に出向いたりすることもあります。患者会の介入には、他人と話して気持ちを共有することで楽になることもあるという利点も挙げられます。
- CKDと診断されたら
- しっかりと病気を理解する
- 諦めないで治す工夫する
- 進行抑制に努める
- 主治医から患者会などにつないでもらう
- 管理栄養士の指導を受ける
――といったことが重要です。
しっかりと病気を理解し、これ以上進行しないよう現状にとどまる努力をする患者さんがいる一方で、「自分だけは大丈夫」などと勝手な理解をする人もいます。透析導入や網膜症など手遅れの状態にならないよう、しっかり病気と向き合っていただきたいと思います。
CKDを取り巻く課題と治療環境の変化
次に、「慢性腎臓病(CKD)を取り巻く課題と治療環境の変化 ~認知度の低さと早期診断・介入の重要性~」をテーマに行われた日本腎臓病協会
理事長/川崎医科大学高齢者医療センター病院長の柏原直樹先生の講演から、CKDとはどのような病気でどう治療するか、啓発活動の重要性などについて再構成して紹介します。
CKDは何が怖い?
ヒトの体で一番重い成分は水で、体重の約60%を占めます。この割合はとても正確に保たれ、年齢にかかわらず変わりません。その調節が腎臓の役割です。腎臓が病気になると体内水分割合の調節ができなくなり、命にかかわる状態になります。
CKDとは、実は病名ではなく「腎機能を表すGFRという指標が60未満、あるいは検尿で異常がある状態」を指す言葉です。GFRを日常的に確認するには、血液中のクレアチニン(血液中の老廃物の一つ。通常は腎臓でろ過され、ほとんどが尿で排出される)を測定して計算できるeGFR(推算糸球体濾過量)を使っています。会社に勤めている人などは労働安全衛生法で年に1度、健康診断を受けなければならないと定められています。これまでクレアチニンの測定は必須ではありませんでしたが、2027年度から40歳以上で必須とされる見込みとなりました。
CKDは進行すると透析を始めなければならなくなるだけでなく、腎機能の低下した状態が続くと心筋梗塞や脳梗塞、認知症のリスクが高まることがわかりました。そうなる前に腎機能の低下を見つけたいということでCKDという概念が生まれました。
CKDの人は、日本全国で約2000万人いると推定されています。年齢とともに発症者は増え、働いて、働いて、働いたあと退職して家族とゆっくりできると思ったとたんに腎臓が悪くなり、透析が必要になった――という事例をたくさん見てきました。そうしたことを避けたいと考えています。
透析患者数が減少に転じた理由
CKDの増加に伴い透析患者数は増える一方だと考えられていたものの、2021年から減少に転じました。これに先立ち2018年に、厚労省に設置された腎疾患対策検討会という会議で、2028年までに新規透析導入患者を10%以上減少させるという目標が設定されました。目標達成できなければ日本の保険医療体制が維持できなくなるという非常に強い危機感が背景にあったのですが、私は不可能に近い数字だと思っていました。
減少に転じることができた要因の一つには草の根的に全国でボトムアップによる啓発活動を行ったことがあります。それに加えて、腎臓病の進行を抑制する薬が生まれてきたことなどさまざまな要因の効果によって、新しく透析を始める患者さんが減り始めたのです。
とはいえ、「メタボ(メタボリックシンドローム)」や「ロコモ(ロコモティブシンドローム)」のような一般化した言葉に比べて、CKDは認知度が低く浸透してもいません。私たちがお伝えしたいのは、腎臓病は自覚症状がなく検査をしなければわからない一方、簡単な検査で見つけられるので早期に見つけて対策を立てたいということです。かつて腎臓病は治療が難しかったため、「早く見つけるといいことがあるんですか」と問われたら答えに窮していました。しかし近年、腎臓病は治療の可能性が広がりました。先ほどお話しした重症化を抑制するだけではなく、難病・希少疾患に含まれる腎臓病に対しても多くの薬ができつつあります。早く見つければ、一生透析にならずにすむかもしれないし、場合によっては回復することも期待できます。そのためにもCKDという概念を広めて検尿やクレアチニン検査を推進し、早期発見につなげたいと思っています。
また健康診断の結果で異常値に対する感度を高め、行動変容につなげるよう啓発が必要だと考えます。さまざまな数値の中から尿のタンパクが陽性、あるいは65歳以下でeGFRが60未満であれば必ず医療機関に行っていただきたいと思います。
偏在解決に向けた新システム「協力医」を全国展開
腎臓専門医とかかりつけ医をつなぐもう一つのシステムとして2026年から「協力医」という制度を設けます。現在、腎臓専門医は全国に約6600人いますが偏在していて、県内の医学部に腎臓内科がない地域の腎臓専門医は非常に少なくなります。そのような地域では、同じ病気でも良質な医療が受けられない可能性が出てきます。専門医を補填するために、かかりつけの先生で腎臓病に関心や知識がある方に協力医として一部の診療を肩代わりしていただくもので、2026年4月から全国展開します。
腎臓病の新薬を正しく使えるのは腎臓専門医です。これから同専門医はCKD全体ではなく腎臓難病にもっとフォーカスしなければなりません。安全にCKD全体を治療できるような薬が複数出てきたこともあり、CKDのかなりの部分は、かかりつけ医と協力医に診てもらうことができる環境になってきました。
学会は学術研究の高みを目指すのが主なミッションです。しかし、山と同じで、より高くしようとすれば裾野を広げる必要があり、そのための組織として、私が日本腎臓学会の理事長を務めていた2018年に、日本腎臓病協会を設立しました。なぜこのような組織が必要なのでしょうか。腎臓病にかかわる団体としてこのような協会、学会、患者会、企業などがあります。しかし、それぞれが違う方向を向いていては力が結集できません。そのため、同じプラットフォームで同じ景色を見ることによって初めて日本の腎臓病診療は前進するという仮説のもとに、同組織を作りました。
実際に活動に従事してわかったのは、霞が関(中央官庁)や虎ノ門(文部科学省)で何か指示を出しても日本は1mmも動かず、世の中は変わらないということです。それぞれの地域で文化も伝統も、食生活も考え方も、医療資源の余力も違います。それぞれの地域で自分たちの地域のことをよく知っている人が動かなければ国は動かないのです。活動を10年続けたら、実際に結果が出て透析の患者さんが減ってきました。私たちの仮説は間違っていなかったのです。
ぺこばの2人が早期発見・早期受診呼びかけ
日本ベーリンガーインゲルハイムは、世界腎臓デーに合わせて疾患啓発キャンペーンを展開しています。お笑いコンビ、ぺこばの2人による音声コンテンツ「黙ってられない! 腎臓の新常識」をSpotify、Podcastなどで公開し、CKDの早期発見・早期受診を呼びかけます。




