視力矯正に「眼内コンタクトレンズ」という選択肢―普及に向けた課題は

視力が低下したら、ほとんどの人は、まずは眼鏡やコンタクトレンズによる矯正を考えるでしょう。使い始めると、眼鏡は寒暖差で曇ったり作業の邪魔になったりすることがあります。コンタクトレンズは充血や異物感、乾燥感などが生じ、時には目のトラブルにつながることも。目の中にレンズを埋め込む「ICL」治療は、眼鏡のようなわずらわしさも、コンタクトレンズのような問題も生じない新たな視力矯正法で、今後の伸びが予測される治療です。2026年1月27日に開かれたメディアセミナー「2030年の近視治療:世界の潮流と日本における屈折矯正治療の未来」(スターサージカル株式会社主催)から、近視治療の過去と未来、ICL治療の普及に向けた課題などについて、2人の演者の講演を紹介します。

アイクリニック東京グループ 総院長。福井大学医学部医学科卒業後、東京医科歯科大学医学部眼科に入局。その後、医療法人ひかり会パーク病院眼科部長や東京医科大学医学部眼科客員講師を歴任後、2019年にサピアタワーアイクリニック東京の執刀責任者に就任。これまで5万件以上のレーシックなどのレーザー屈折矯正手術、1万5000件以上のICLなどの有水晶体眼内レンズ挿入術をおこなう。日本眼科手術学会の理事を務め、日本眼科学会認定専門医、ICLエキスパートインストラクターなどの資格を有する。

ウォーレン・ファウスト 氏
スターサージカル・カンパニー プレジデント/チーフオペレーティングオフィサー
MedTech業界における25年以上の経験を持ち、成長戦略、組織変革、患者アウトカム向上のためのイノベーション推進において高評価を得る。スターサージカルではグローバルの事業運営、製造、流通、カスタマーサービスを統括。業界団体や大学のアドバイザリーボードにも多く参画し、人材育成やコミュニティー活動にも積極的に取り組んでいる。
近視パンデミックの世界動向と各国における近視治療のトレンドについて
ウォーレン・ファウスト氏
近視は「エピデミック(まん延)」の状態にあります。子どもたちは家では常にスマートフォンを見ています。以前よりも屋内で過ごす時間が増えています。
近視有病率を予測した論文によると、2050年には世界人口の約半数が近視になるとされています。アジアでは2020年時点で半数を超えます。
近視は単なる視力矯正の問題ではなく、健康問題です。眼球が成長して(眼軸長:前後方向の長さが)伸びることで網膜剥離を引き起こしやすくなります。眼圧が高くなり緑内障や加齢黄斑変性などを引き起こす可能性があります。
現在、世界では近視の患者に何が行われているでしょうか。患者の約30%は全く治療を受けておらず眼科医療へのアクセスもありません。約半数が眼鏡を、10%程度がコンタクトレンズを使用しています。屈折矯正手術を受けているのは、世界中の患者の1%程度とされています。
患者が手術を受ける選択をした場合、かつてはレーシック(目の表面の角膜にレーザーを当ててごく薄く削ることで近視、遠視、乱視を矯正する手術)が選ばれていました。2010年から2024年にかけてレーシックは屈折矯正の主な治療法としては使われなくなる一方でICL「有水晶体眼内レンズ」治療は前年比20%増の成長を続けています。
患者がICL治療を選ぶ第一の理由は「安全性」が非常に重要だからです。取り外し可能なレンズによって「処置を元に戻せる可逆性」は、削った角膜組織は元には戻らないレーシックとは大きく異なります。また、ドライアイはレーシック手術によって悪化することがありますが、ICLによって誘発されることはありません。
ICLは約30年にわたって行われており、ここ10年はHole ICL*が主流になっています。
* Hole ICL :中央に極小のホールが空いているICLレンズ。房水循環(目の中の水の流れ)を妨げず白内障などの発症率を低下させる。
ICL先進国日本の実臨床から見る未来
北澤 世志博氏
最初に、屈折矯正手術の歴史についてお話しします。
屈折矯正手術は1939年、佐藤勉先生(順天堂医院 眼科初代教授)による「放射状角膜切開術」から始まりました。手術による近視治療はそのような昔から行われています。
一般的に知られている「レーシック」は、1980年代後半から1990年代に症例数が増えてきました。2000年にレーシックの前身となる「PRK(Photorefractive keratectomy :光線屈折角膜切除術)に用いられる屈折矯正用エキシマレーザー角膜手術装置が、2006年にはレーシック用のエキシマレーザー機器が厚生労働省の承認を得ました。
一方、「眼内コンタクトレンズ」とも呼ばれるICLは世界で最初の症例が1986年と、かなり以前から行われています。日本では2003年から臨床試験が行われ、2010年に厚労省の承認を得ました。ただ、初期には術後の合併症として白内障や緑内障が一定の割合で起きたこともあり、なかなか普及しませんでした。国内で2014年に承認されたHole ICLは、「房水」という目の中の水が流れる極小の穴をレンズに開けることで合併症のリスクを低減させることが期待でき、このレンズが現在は主流になっています。
自院の患者さんを2023~2024年に調べたところ、ICL治療を希望する患者さんの年齢層で一番多いのが30歳代、次が20歳代で、合わせると86%を占めます。術前の矯正方法では65.7%がコンタクトレンズ、26.3%が眼鏡を使用していました。
手術を希望する理由としては、
①仕事で眼鏡やコンタクトレンズは不便
②コンタクトレンズはケアが面倒
③老眼鏡を使用したくない
④災害などの際に裸眼で見えないと不安
⑤眼鏡やコンタクトレンズの使用は目が疲れる
――などが挙げられました。
ICL手術は自由診療で、国内では両眼で平均60万円ほど費用が掛かります。高いと思われるかもしれませんが、10~20年使い続けることを考えると使い捨てコンタクトレンズの購入を続けるのとほぼ同程度になります。
ICLを国内で普及させるために、まずは執刀医が手術を安全に行うことが重要です。同時に、一般の方に向けてメリット・デメリットやごくまれに起こる合併症なども含めて正しく理解していただく必要があると考えています。レーシックは眼科医であれば別途ライセンスは不要ですが、ICLは手術を行うための認定医制度を設けて安全性を高めるよう努めています。レーシックが衰退してしまった原因の一つに、眼科医であればだれでもできたため患者さんのセレクションが正しく行われず、結果的にドライアイや夜間の光のにじみなどの後遺症に対するフォローが受けられない「レーシック難民」が生じたことがあります。
ICLはその二の舞にならないよう、執刀医を正しく選択し、患者さんの適応を選び、正しい情報を流す――それが安全に、世界で普及させていく一つの要素だと思っています。
日本でのライセンス所持者は、2009年に始めたときは20~30人でしたが、2026年1月時点で400人を超えるまで増えています。
いま、世界で増えている近視治療は、単に視力の回復ではなく人生設計に大きく影響します。裸眼で過ごすことは、QOL(生活の質)・QOV(視覚の質)を高めます。正しい知識と適切な選択が患者さんの未来の視力を守るのです。
*本稿には特定の医薬品、医療機器についての記述がありますが、情報提供のみを目的としたものであり、医療上の助言や販売促進などを目的とするものではありません。




