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脳転移・耐性化・副作用の課題に応えるROS1陽性肺がん新薬の実力とは

 公開日:2026/02/13
脳転移・耐性化・副作用の課題に応えるROS1陽性肺がん新薬の実力とは

肺がんの中でも希少な「ROS1(ロスワン)融合遺伝子陽性の非小細胞肺がん」に対する新薬「イブトロジー(一般名:タレトレクチニブ)」の発売を記念し、その有効性と安全性について専門家が解説するプレスセミナー(日本化薬株式会社主催)が、2025年11月20日に開催されました。
「一回ROS1阻害薬が効かなくなったら、腫瘍内科医として次の治療に困っていたが、タレトレクチニブが出たことで治療選択肢が増えた」と近畿大学医学部内科学教室腫瘍内科部門の林秀敏教授は語ります。
タレトレクチニブの臨床試験では、未治療患者に対して既存のROS1阻害薬を大きく上回る成績が示されただけでなく、既存薬が効かなくなった患者さんでも高い効果が認められています。前回の記事では、ROS1融合遺伝子陽性肺がんの発生メカニズムと、脳転移への効果・耐性化・副作用という三つの治療課題について解説しました。本稿では、林教授の講演をもとに、タレトレクチニブがこれらの課題をどの程度解決できたかなどについて解説します。

林 秀敏

監修医師
林 秀敏(近畿大学医学部)

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近畿大学医学部 内科学教室腫瘍内科部門 教授・グローバルリサーチアライアンスセンター長。大阪大学医学部医学科卒業後、住友病院総合診療科、倉敷中央病院呼吸器内科を経て近畿大学医学部附属病院腫瘍内科にて研鑽を積み、岸和田市民病院腫瘍内科部長などを歴任し現職に至る。大学院にて腫瘍学分野を専攻しがん診療と臨床研究に従事。専門は呼吸器腫瘍、原発不明がん、免疫チェックポイント阻害薬や分子標的治療薬の臨床応用とトランスレーショナルリサーチ。日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医、日本呼吸器学会専門医、がん治療認定医などの資格と学会役員歴。

タレトレクチニブの特徴

国産薬が海外を経て日本に戻る

タレトレクチニブは、もともと第一三共が創製した国産の分子標的治療薬です。2014年に米国で、その後日本で第I相試験が開始されましたが、2018年に戦略的な理由から米国のAnHeart Therapeutics(現Nuvation Bio)にライセンス供与されました。

その後、AnHeart社が中国国内と国際共同で2件の臨床試験を進め、2023年10月に日本化薬が日本での製造販売権を取得。2024年12月に中国、2025年6月に米国で承認を取得し、日本では2025年9月に承認、同年11月に薬価収載されました。

林教授は「本当は日本で作られた薬なんですけれども、一旦中国に行って日本に戻ってきました。よく日本に戻していただいたなと個人的には思う」と述べ、この薬剤が日本の患者さんに届くまでの経緯を振り返りました。日本化薬にとっては約20年ぶりの新薬の承認取得となります。

ROS1への選択性を高めた設計

タレトレクチニブの大きな特徴の一つが、ROS1への高い選択性です。

既存のROS1阻害薬では、ROS1だけでなく「TRK」という別のタンパク質も一緒に阻害してしまう問題がありました。林教授はこれを「林さん家の鍵を持って林さん家の玄関を開けようと思ったら、実は小林さん家の玄関も開いてしまう」と表現します。TRKは神経に多く発現しているため、これが原因でめまいや味覚障害といった副作用が起きていました。

タレトレクチニブは、ROS1への選択性がTRKの10~20倍に設計され、「そう簡単に小林さん家のドアが開かないようになっている」と林教授は説明します。この設計によって神経系の副作用が軽減されることが期待されています。

脳転移への高い効果

未治療で76.5%、既治療でも65.6%

ROS1融合遺伝子陽性肺がんは脳転移を起こしやすいにもかかわらず、従来の治療では脳への効果が限定的という課題がありました。タレトレクチニブは脳転移に対しても高い効果を示しています。臨床試験の統合解析では、脳転移がある患者さんに対する頭蓋内奏効率(脳の病変が縮小した割合)は、ROS1阻害薬未治療の患者さんで76.5%、既治療の患者さんでも65.6%という結果でした。

林教授は「他のROS1阻害薬で一回脳に対して効果を認めた後でまた効かなくなった、あるいはがんが強くなった状況に対してタレトレクチニブの有効性が高い割合で認められた」と、特に既治療患者さんへの効果を強調しました。

耐性化した患者にも有効

既治療患者の奏効率55.8%

分子標的治療薬の大きな課題である「耐性化」に対しても、タレトレクチニブは効果を示しています。

臨床試験では、クリゾチニブやエヌトレクチニブなど既存のROS1阻害薬を使用した後に効かなくなった患者さん(既治療患者)も対象に含まれました。統合解析の結果、既治療患者の奏効率は55.8%、無増悪生存期間の中央値は9.7カ月でした。

林教授は「一回ROS1阻害薬が効かなくなった患者さんは、ほかのROS1阻害薬がかなり効きづらくなる」という従来の状況を踏まえ、半分以上の患者さんで腫瘍縮小が得られたことの意義を説明しました。

G2032R変異にも効果を発揮

耐性化の原因として知られるROS1遺伝子変異の中で、最も多いのが「G2032R変異」です。この変異が起きると、従来のROS1阻害薬は効きにくくなっていました。

林教授は「例えば、ある日突然鍵穴の形が変わって、今までの鍵が刺さらなくなる」という例えで耐性化のメカニズムを説明し、タレトレクチニブについては「マスターキーみたいな形で、ROS1であればどんな形に出合っても鍵がきちんと開く」と表現しました。

実際に、G2032R変異を持つ患者さんでも61.5%で奏効が得られており、これもタレトレクチニブの有効性が高い理由の一つと考えられています。

副作用プロファイルの改善

めまいの頻度と程度が軽減

既存のROS1阻害薬で問題となっていた浮動性めまい(ふらふらする感覚)について、タレトレクチニブでは発生頻度・程度ともに改善がみられます。

統合解析では、浮動性めまいの発生率は21.3%で、ほとんどがグレード1~2(軽度~中等度)でした。既存薬のレポトレクチニブでは57.7%、エヌトレクチニブでも高頻度で報告されていたことと比較すると、大きな改善といえます。

林教授は「これまでのTRK阻害によってもたらされた副作用に関しては、かなり軽減されているように感じる」と、臨床での印象を述べました。

肝機能への注意と対処法

一方で、タレトレクチニブで注意が必要な副作用として肝機能障害があります。臨床試験では多くの患者さんで肝酵素の上昇が見られ、ASTの上昇を認めたのは71.9%、ALTの上昇を認めたのは67.6%でした。

ただし、日本化薬の鈴木瑠氏は「ほとんどが症状を伴わない、いわゆる不顕性の検査値の異常」であり、添付文書に従って減量や休薬を行えば、多くの場合マネジメントが可能と説明しました。

林教授も「これまでの経験では、副作用が強いという薬ではなかった」と述べています。ただし、肝不全が0.3%の患者さんで報告されているため、定期的な肝機能検査によるモニタリングが重要とされている。

臨床試験で示された有効性

未治療患者の無増悪生存期間は約4年

タレトレクチニブの承認は、主に中国で行われたTRUST-I試験(173人)と、日本を含む国際共同のTRUST-II試験(164人、うち日本人25人)という二つの第II相臨床試験の結果に基づいています。二つの試験を統合した解析(273人、うちアジア人83.9%)では、ROS1阻害薬未治療の患者さんで奏効率88.8%、無増悪生存期間の中央値は45.6カ月という結果でした。

林教授は「クリゾチニブや過去のエヌトレクチニブなどでは、1年半から2年というのが無増悪生存期間でしたので、数字だけでいうと2倍以上」と、既存薬との差を説明しました。

日本人患者でも高い効果

TRUST-II試験に参加した日本人患者さん25人でも有効性が評価され、未治療患者で85.7%、既治療患者で70.0%の奏効率が認められました。林教授は「非常に高い有効性が認められた」と評価し、実臨床でも日本人患者さんに同様の効果が期待できるとみています。

治療選択肢としての位置づけ

ガイドラインに早くも収載

タレトレクチニブは、日本肺癌学会の「肺癌診療ガイドライン 2025年版」にも収載されました。ROS1融合遺伝子陽性肺がんに対するROS1阻害薬として、既存のクリゾチニブ、エヌトレクチニブ、レポトレクチニブと並んで推奨されています(推奨の強さ1、エビデンスの強さC)。

現時点では、4種類の薬剤を直接比較した臨床試験がないため、同ガイドラインで4剤の優先順位は示されていません。しかし林教授は「有効性が高い上に副作用が軽減されている薬がある場合は、最初に使うのが一般的」と述べ、タレトレクチニブを第一選択として使用することは「リーズナブル」との見解を示しました。

「コンパニオン診断薬」について

タレトレクチニブを使用するには、事前にROS1融合遺伝子が陽性であることを遺伝子検査で確認する必要があります。国内で薬事承認を得ているコンパニオン診断薬(効果や安全性を高めるため、治療開始前に治療薬の対象者であるかを診断するための検査薬)は「AmoyDx肺癌マルチ遺伝子PCRパネル」です。他の遺伝子検査でROS1陽性と判明した場合でも、タレトレクチニブを使用するにはAmoyDxでの再検査が必要になる場合があります。林教授は再検査を行ってでもタレトレクチニブを使用する意義があるとの考えを示しました。

編集部まとめ

タレトレクチニブは、ROS1融合遺伝子陽性肺がんに対する4番目の治療薬として登場しました。未治療患者の奏効率88.8%、無増悪生存期間の中央値は45.6カ月と、既存薬を大きく上回る成績を示しています。さらに、既存薬が効かなくなった患者さんや脳転移がある患者さんにも高い効果が認められ、副作用も軽減されています。ROS1融合遺伝子陽性と診断された場合は、専門医にタレトレクチニブを含めた治療選択肢についてご相談ください。

関連情報
主催:日本化薬株式会社
イベント名:イブトロジー発売記念プレスセミナー
開催日 2025年11月20日

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