「2030年に全疾患領域でリーダーへ」―J&J新社長が語る日本市場への期待と薬価制度の課題

「日本は医療イノベーションの恩恵を最大限に受けられる環境を再構築する機会がある」とリーガー社長は強調します。世界で急速に進む精密医療(個々の患者に最適化された治療)の時代に、日本が「取り残されてはならない」という強いメッセージが会見全体を通じて発信されました。
同社は今後5年間で20の新規モダリティ(新しい治療技術や手法)を世界市場に投入する計画を発表。日本では2025年に5製品を発売し、がんや免疫疾患などの領域で14の重要な治療法を導入。2028年には日本での事業が節目となる50周年を迎え、さらなる成長フェーズに入ります。
本稿では、リーガー社長が語った同社の事業戦略、注力する疾患領域、そして日本の薬価制度への具体的な提言について詳しくお伝えします。新薬開発の最前線で何が起きているのでしょうか、またそれが私たちの受ける医療にどのように影響するのでしょうか。
目次 -INDEX-

監修医師:
井上 祥(横浜市立大学共創イノベーションセンター特任准教授)
新社長の経歴と日本への思い
20年以上のグローバルキャリア
リーガー社長は、20年以上前にアメリカでMR(医薬情報担当者)としてジョンソン・エンド・ジョンソンでのキャリアをスタートしました。「今日、私たちのチーム一人ひとりがそうしているように、私は現場でお客様に奉仕することでこのビジネスを学びました。」と、自らの原点を振り返ります。
その後、マーケティングや商業部門でキャリアを積み、中国やシンガポールなどアジア市場での経験を重ねました。こうした経歴を通じて「異なる医療制度、異なる政策、異なる文化の中で、各国がどのように健康に投資し、イノベーションを人々に届けているかを学びました」と語ります。
日本との出会いと現職就任
2021年から日本で医療機器部門を担うメディカル・カンパニーの外科事業を統括。「ここで日本のユニークで素晴らしい文化、そして医療制度とそのメリットを知りました」とリーガー社長は述べます。
2025年6月、イノベイティブ・メディスン部門の代表取締役社長に就任。「アメリカとアジア市場、医薬品と医療機器のそれぞれにまたがるキャリアで培った幅広い経験とグローバルな視点を、日本の医療環境の発展に生かしたい」と抱負を語りました。
事業変革の全体像
50年の歴史と新たな革新サイクル
ジョンソン・エンド・ジョンソン イノベイティブ・メディスンは、2028年に日本での事業50周年を迎えます。「約15年前に市場に投入した製品を中心にビジネスを構築し、その後しばらくイノベーションの停滞期がありました」とリーガー社長は率直に認めます。しかし現在、同社は新たなイノベーションサイクルに入ったといいます。「特に治療が困難な領域において、新しい手法の導入を通じて新たな成功のサイクルに突入しています」と宣言しました。
ポートフォリオの劇的な変革
同社は事業の軸を、中枢神経系や皮膚疾患などの領域に強みを持った従来の製品群から、オンコロジー(がん領域)とイミュノロジー(免疫領域)へと大きくシフトしています。「2025年には五つの製品を発売し、重要な疾患に対して合計14の意義ある臨床レジメン(治療計画)を導入しました」とリーガー社長は説明します。
このイノベーションサイクルは2026年以降も継続する見込みです。「私たちは将来に興奮しています。フォーカスに興奮しています。そして事業の方向性に興奮しています」と、繰り返し「興奮」という言葉を使って意気込みを示しました。
注力する疾患領域
がん領域:多発性骨髄腫と固形がん
同社がオンコロジーとイミュノロジーに注力する理由について、「ブレークスルー・サイエンス(ある疾患に対する効果的な治療法や新しい薬剤についての科学的な進展)が起きている場所であり、かつ最も満たされていない医療ニーズが残されている領域だからです」とリーガー社長は理由を説明します。
多発性骨髄腫(血液のがんの一種)では、すでに市場で実績のあるダラツムマブに加え、テクリスタマブとトアルクエタマブという二つの新しいバイスペシフィック抗体(二重特異性抗体:がん細胞と免疫細胞の二つの標的に同時に結合して効果的にがん細胞を攻撃できる抗体医薬)を投入。「アンメットニーズが非常に高いため、多発性骨髄腫の領域で高い評価を得ています」と手応えを語ります。
固形がんでは、従来の前立腺がんに加え、肺がんとぼうこうがんに新たに参入しました。肺がん治療薬のアミバンタマブとラゼルチニブメシル酸塩水和物の併用は「腫瘍内科医から非常に好評です」と述べています。また、ぼうこうがん治療薬バルバーサは同社初のぼうこうがん領域への参入製品です。
免疫領域と希少疾患
免疫領域については「この分野には相当の歴史があります」とリーガー社長は述べ、炎症性腸疾患(IBD)と乾癬での画期的な進展に期待を示しました。また、希少疾患の領域でも既存事業の継続と新製品の導入を進めていく方針です。
今後登場する革新的治療法
リーガー社長は、今後1年以内に日本市場に投入予定の製品についても言及しました。特に注目されるのが、ぼうこうがん向けのデバイス・薬剤複合型の局所療法「ゲムシタビンぼうこう内システム TAR-200」と、乾癬に対する「経口ペプチド剤イコトロキンラ」です。
「デバイスと薬剤を組み合わせた局所療法であるTAR-200は、治療選択肢が極めて限られているぼうこうがん治療に変革をもたらす可能性が、そして、IL-23受容体を選択的に阻害する初の経口ペプチドであるイコトロキンラは、症状コントロールに加えて治療の利便性を飛躍的に高める可能性を秘めています」とリーガー社長は説明します。
日本の薬価制度への提言
イノベーションのスピードに追いつかない制度
リーガー社長は、日本の医薬品政策について踏み込んだ提言を行いました。「世界で医療イノベーションのペースが加速する中、日本は取り残されてはなりません」と警鐘を鳴らします。
具体的な問題として、新薬評価システムが新しい治療の価値を適切に評価できていないことを挙げました。「例えば、異なる細胞療法において遺伝子発現の違いから劇的な臨床効果の差が生じる可能性がありますが、現行システムでは評価に差がありません」と具体例を示して説明しました。
安定した薬価環境の必要性
リーガー社長は、新薬の初期薬価設定における価値に基づく評価と、特許期間中の安定した薬価の維持が必要だと主張します。「予測可能で安定した薬価環境があれば、日本のエコシステムにイノベーションを呼び込むことができます」と述べました。
医療は国家の「投資」
リーガー社長は医療を「コスト」ではなく「投資」として捉える視点の転換を提唱しました。「医療イノベーションは患者さんの治療成果を改善するだけでなく、波及効果を通じて日本経済を強化する可能性があります」と強調します。
精密医療や新しい治療手段を支援することで、医療制度の他の分野でコスト削減ができる可能性や、産業周辺での雇用創出、経済への好影響が期待できると説明しました。
2030年に向けた目標
全疾患領域でリーダーシップを
リーガー社長は、2030年に向けた明確な目標を示しました。「2030年までに、私たちが競争する全ての疾患領域でリーダーシップポジションを獲得することを目指します」と宣言。具体的には、多発性骨髄腫、肺がん、ぼうこうがん、炎症性腸疾患、乾癬、そしてすでに参入している希少疾患での首位を目指します。
2026年は「転換の年」
「2026年は私たちの組織にとって転換の年です」とリーガー社長は位置づけます。事業を再加速させ、コミュニティへの貢献を拡大し、2桁成長に向けて基盤を構築していく方針です。
質疑応答では、事業規模について問われ、具体的な数字への言及は避けながらも、「患者さんとコミュニティに次の成功サイクルを届ける準備ができている」と自信を見せました。
CAR-T細胞療法の日本導入に向けて
承認に向け対話を継続
質疑応答では、CAR-T細胞療法「シルタカブタゲン オートルユーセル」の日本での承認状況についても質問がありました。リーガー社長は「ジョンソン・エンド・ジョンソンでは、こうした革新的な治療を必要とする患者さんの緊急性を理解しています」と応えました。
他の市場では多くの患者を助けている実績があり、「この重要な細胞療法を日本の患者さんに届けるために、できる限りのことをしています」と述べ、承認に向けた対話を続けていることを明らかにしました。
業界全体での取り組み
PhRMA副委員長として
リーガー社長は、米国研究製薬工業協会(PhRMA)の副委員長にも就任したことを明らかにしました。「一社の声は一社の声ですが、業界全体の声は影響力が違います」と述べ、業界団体を通じた政策提言活動にも力を入れていく姿勢を示しました。
「PhRMAでは医師の皆さん、患者さんの声を政治家に伝える機会があります。一方日本では、そうした声が政治家に届きにくいことが多い。この聞かれていない声を届けることが重要です」と、多様なステークホルダーとの連携の必要性を強調しました。
編集部まとめ
ジョンソン・エンド・ジョンソン イノベイティブ・メディスンは、日本での事業50周年を控え、がん領域と免疫領域を中心とした大規模な事業変革を進めています。リーガー社長は、新しいモダリティによる革新的な医薬品や治療法を日本の患者さんに届けることに強い意欲を示すとともに、それを実現するための薬価制度の改革を訴えました。2026年を転換点として2030年の目標達成に向け、同社の動向に注目が集まります。
本記事は、2025年11月11日に開催されたジョンソン・エンド・ジョンソン イノベイティブ・メディスンによる記者会見の内容を基に、MedicalDOC編集部が一般読者向けに再編集・構成したものです。記者会見における発言内容は、文意を損なわない範囲で要約・編集しています。




