「冷静さ」と「ベッドサイド」が生む信頼——急性期循環器医療の最前線で患者と家族に向き合う

東京都北区東十条に位置する「明理会中央総合病院」。かつて大和病院として1976年に開設されたこの病院は、2009年の新築移転を機に、急性期医療を中心とした地域の中核病院として発展を遂げてきた。
312床を擁し、24時間体制での救急医療から高度専門治療まで幅広い領域に対応。循環器内科、消化器内科・消化器外科、脳神経外科、整形外科など各科の専門治療を強化する一方で、予防から治療、リハビリテーションまで切れ目のない医療提供を実現している。
医療の質と安全性を追求しながら、それを実現するための多職種連携とチーム医療について、廣瀨院長に話を聞いた。
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監修医師:
廣瀨 瑞紀(医療法人財団明理会 明理会中央総合病院)
新東京病院循環器内科などでカテーテル治療を中心とした先進的な循環器診療に従事し、急性期治療および心血管インターベンション領域で研鑽を積む。2011年より明理会中央総合病院循環器内科部長、2022年より同院院長。
日本循環器学会循環器専門医・指導医、日本心血管インターベンション治療学会専門医、日本脈管学会専門医、日本内科学会総合内科専門医。地域に根ざした総合急性期医療の推進と、患者一人ひとりに寄り添うチーム医療の実践を重視している。
「命を救う場面を見た」——糖尿病医から循環器医への転身

編集部
急性期医療に進むことを決めた理由を教えてください。
廣瀨院長
そこで出会ったのが、4人の先輩医師でした。彼らは本当に、昼夜を問わず地域の患者さんのために全力で働いていた。プライベートもない状況で、患者さんを次々と救っている姿を見て、若かった私は「この先生たちと同じように頑張りたい」と強く思ったのです。
結局、糖尿病の医局に在籍しながらも循環器の道を志すようになり、研修後に大学に戻ったものの、途中で決断を変えて循環器科に移ってしまいました。
その後、千葉の新東京病院という、当時全国で心臓カテーテルの症例数が2、3番目に多い施設で約10年間の集中的な研修を受けました。そこで治療の自信をつけて、今の施設に来たという次第です。
「大声を出さない」——心停止の患者の前で貫く信念

編集部
「患者さんを救いたい」という思いや、先輩医師の存在など、様々な要因が後押しになったのですね。急変時の対応について、印象に残っているエピソードはありますか?
廣瀨院長
病院到着直後に心室細動となり心停止に至ったのですが、電気ショックと心臓マッサージを行いながらカテーテル室に運び、治療することで、一命を取り留めることができました。その場面をお子さんが全部見ていたのです。どうしても心臓マッサージをしながら移動するため、多くの人の目に触れてしまう。幸い患者さんは元気に退院されたのですが、5年後その患者さんがお子さんを連れて来院されました。
その際、息子さんが「あのとき先生たちの対応を見ていて、同じ世界で働きたいと思った」と話してくださり、実は医学部に合格したというのです。
嬉しい反面、正直に申し上げると運が良かったという部分もあります。もしあの対応がうまくいかなかったら、お子さんはトラウマになっていたかもしれない。もし患者さんを救うことができなければ、患者さんだけでなくご家族にも大変辛い思いをさせてしまうということを痛感しています。
編集部
患者さんだけでなく、そのご家族の運命も左右する職業が医師だと実感しますね。急変時に貫いている信念や、自らを支える言葉はありますか?
廣瀨院長
周りの人がアドレナリン全開で大声を出していると、スタッフは焦ってしまい、ついていけなくなります。だから私は決して大声を出さない。心の中では焦っているのですが、それを悟られないように落ち着いた対応を心がけます。当院のスタッフにも「大声を出さないように」と指導しています。
チーム医療の鍵は「平常時のシミュレーション」

編集部
患者さんの容態が急変する場面は何度もあったと思いますが、チーム医療において、瞬時の判断の難しさにどのように向き合っていますか?
廣瀨院長
当院では、患者さんが急変していない時点で「このような状況になったらどう対応するか」を繰り返しシミュレーションしています。堅い形式のカンファレンスだけでなく、カテーテル検査がない時間帯や、ちょっと時間が空いた瞬間に「あのときはどうだった?」「これだったらどうする?」という具合に、常に対話できる環境を作ることです。
また、過去の事例があれば、その後必ず全員で振り返り、話し合う。こうすることで、誰もが急変に対して心の準備ができるようになります。
廣瀨院長
幸い、うちのチームは温厚で話しやすい医師が多いこともあって、良い関係性が築けているように思います。看護師やその他のコメディカルスタッフが重要な指摘をすることもありますし、それを医師が真摯に受け止める、そういう信頼関係があります。
医療現場の深刻な課題、「ワークライフバランスの追求」の限界と必要性

編集部
活発な意見交換がやはり重要なのですね。それ以外に、急性期医療をより良くするための課題と取り組みがあれば、お聞かせください。
廣瀨院長
私も今年52歳、後輩の医師たちも40歳前後になってきてますが、夜勤明けの翌日も通常通り働くというこれまでの文化を、次の世代には引き継ぎたくないという思いがあります。
循環器の急性期医療を持続的に提供するには、この働き方を変えなければなりません。そのためには、医師をはじめスタッフの数を増やし、交代で休める体制を作る必要があります。理想的には倍の人数が必要です。経営の兼ね合いから、すぐに人員を倍増させることは難しいですが、徐々に交代できる体制を整えていきたいと考えています。
またこれは現在、社会全体で向き合うべき大きな課題だと感じています。根性で働いても、良い医療には繋がりません。むしろ、しっかり休んだ医師の方が、より質の高い医療を提供できるはずです。
「患者さんのベッドサイドに行くことの重要さ」——後進の医師へのメッセージ

編集部
これからの医療現場を担う、若い医師たちに伝えたいメッセージはありますか?
廣瀨院長
この習慣が大切だと私は確信しています。患者さんやご家族とのコミュニケーションをしっかり取ることで、信頼関係が生まれます。すると患者さんが何でも話してくれるようになり、状態の微かな変化にも早く気づけるのです。
看護師さんも患者さんを見守ってくれていますが、医師が頻繁にベッドサイドに行くことで、急変の前に異変をキャッチできる。さらに患者さんが本当に望んでいることも拾い上げられる。データや検査結果も重要ですが、実際の患者さんを見ることが最高の診断学です。
廣瀨院長
その一方で、AIやデータに頼って正しい治療はするけれど、患者さんとの関係をあまりとらない医師もいて、二極化しているように感じます。ぜひ、ベッドサイドに行くことの大切さを改めて考えてみて欲しいです。
私たちは常に「患者さんが望んでいることは何か」を聞き出す姿勢を大切にしています。エビデンスに基づいた医療は絶対に必要ですが、患者さんの希望も加味した上で治療方針を決める、一方通行ではない医療を心がけています。




