「膵臓がんのスクリーニング検査が難しい理由」とは 見つけにくさの背景と最新研究を医師に聞く

「乳がんの乳房X線検査」「大腸がんの便潜血検査」など、ほかのがんでは比較的簡単で負担の少ない“スクリーニング検査”が確立されています。しかし、膵臓がんには現在のところ、そのような万人向けの簡便な検査法が存在しません。では、なぜ膵臓がんだけがスクリーニング検査が難しいのでしょうか。この記事では、膵臓がん検査が難しい理由と、新しい検査法の開発状況、そして患者さんが今からできることを、AIC八重洲クリニックの澤野先生に伺いました。

監修医師:
澤野 誠志(AIC八重洲クリニック)
なぜ膵臓がんに「簡単な検査」がないのか

編集部
乳がんや大腸がんにはスクリーニング検査があるのに、膵臓がんでは同じようにできないのはなぜでしょうか?
澤野先生
膵臓の場所と形態の特徴が大きな理由です。膵臓は胃の背後の奥深くにあり、比較的扁平で屈曲した形状で、通常の検査では小さな病変を見つけにくいのです。乳房X線検査のような「簡単で費用が安く正確」な検査がまだ存在しません。また、膵臓がんは血液検査をしても早い段階ではほとんど変化が出ません。さらに、全国民を対象に検査すると費用がかかりすぎる割に、膵臓がんの患者数はほかのがんより少ないため、コストと効果のバランスが悪いという問題もあります。
編集部
良い検査法に必要な条件とは何ですか?
澤野先生
良い検査の条件として、「簡単である」「費用が安い」「正確である」「多くの人が実施できる」ことが挙げられます。しかし、膵臓がんにおいては、早期診断される方が少ない現状から分かるように、簡単な検査法は存在しません。早期診断には、超音波検査とともに非造影MRI検査も必要であり、疑わしい病変があれば、造影CT検査や超音波内視鏡検査が必要です。
編集部
実際には、膵臓がんの検査はどのようにおこなわれているのですか?
澤野先生
全国民対象の検診はありません。代わりに、膵臓がんになりやすい人(家族に膵臓がん患者がいる、慢性膵炎である、など)に対して、医師の指導のもとで定期的な画像検査をおこなっています。一般の健康診断では膵臓がんの検査は実施されていません。これは、検査の難しさと費用の問題から判断されています。
開発中の新しい検査法と現在の課題

編集部
「リキッドバイオプシー」という新しい血液検査の話を聞いたのですが、膵臓がん診断に使えるようになるのでしょうか?
澤野先生
リキッドバイオプシーとは、血液の中からがん由来のDNA(遺伝情報)を拾い上げて解析する新しいタイプの検査方法です。簡単な血液検査でがんを早期に見つけられる可能性があり、期待されています。しかし、課題もあります。膵臓がんの初期段階では、血液中のがん由来のDNAの量がごく少なく、検出が難しいのです。また、現在の技術では精度がまだ完璧ではなく、臨床現場での実用化はまだ先になる見込みです。
編集部
「AIを使った診断」の研究もありますが、膵臓がん検査にどう役立つのでしょう?
澤野先生
AIを使ってCT画像やMRI画像を分析し、医師が見つけにくい早期の腫瘍やのう胞を検出する研究が進んでいます。AIは大量の画像から特徴的なパターンを学習できるため、診断精度を上げる可能性があります。しかし、AIが判定しても医師の確認が必須ですし、画像検査自体のコストが高いという問題は残ります。全国民対象のスクリーニングに使えるようになるにはまだ時間がかかるでしょう。
編集部
新しい検査法は実際に患者さんに提供されるのはいつ頃になる見込みですか?
澤野先生
複数の臨床試験(新しい検査法が本当に役立つか確認する研究)が進行中で、今後5年程度で結果が出てくるものもあるでしょう。ただし、試験が成功しても、その後に保険診療の承認、医療ガイドラインへの追加、医療現場への導入という段階を経る必要があります。全体的には10年やそれ以上の期間を要するかもしれません。
患者と医療現場が今からできることは

編集部
膵臓がんが心配な人は、今何をすべきか教えてください。
澤野先生
新しい検査法を待つべきではありません。今できる検査を、組み合わせて活用することが重要です。膵臓がんのリスクが高い人は、超音波検査やMRI、血液検査などを定期的に受けることが好ましいです。とくに心配な方は、単一の検査だけに頼るのではなく、複数の検査結果を組み合わせることで早期発見の可能性が高まります。また、家族歴や危険因子について医師に正確に伝えることが大切です。
編集部
臨床試験への参加という選択肢もあるのですね?
澤野先生
そうですね。臨床試験とは、新しい検査法や治療法が本当に役立つか確認する研究です。患者さんが参加することで、新しい検査の恩恵を受けられる可能性があり、同時に医学全体に貢献できます。参加には条件がありますが、医師の紹介が最も信頼できます。また、国内の「UMIN臨床試験登録システム」というウェブサイトで、自分の条件に合った試験を探すこともできます。
編集部
最後に読者へのメッセージをお願いします。
澤野先生
最も大切なのは「完璧な検査法を待つのではなく、今できる検査を定期的に受ける習慣をつけること」です。新しい検査法が登場しても、現在の検査より優れているだけで、完璧ではないかもしれません。膵臓がんのリスクが高い人は、1~2年ごとに医師の指導に従って検査を受けてください。複数の検査を継続することで、微細な変化を見つけやすくなります。完璧を目指すのではなく、「今できるベストを継続する」という姿勢が最も現実的で有効です。
編集部まとめ
膵臓がんは「見つけにくいがん」という医学的な特性がある一方、それでも早期発見の可能性を高める方法があります。新しい検査法の登場を期待しつつも、今できることを大切にする、それが最も重要なことであることが分かりました。完璧を求めるのではなく、継続的な検査こそが、膵臓がんと向き合う最善の方法のようです。
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